スカーレットオーク

はぎわら歓

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セレナーデ(番外編) 

8 いつも一緒に

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 ふと子供の頃の記憶がよみがえる。
 二人はいつも一緒だった。
いつだったか直樹と緋紗が優樹と一緒に、和奏も動物園に連れて行ってくれたことがある。
 無邪気に動物を眺めて楽しんで、そして帰りに売店に寄った。
 「欲しいもの買ってあげるよ」と直樹に言われ、眺めていた立派な鬣のライオンのぬいぐるみを和奏は抱き上げた。
 嬉しくて抱きしめながらレジに向かっていると、後ろから優樹がメスのライオンのぬいぐるみを抱きながら「僕はこれ」と嬉しそうに近寄ってきて「結婚できるね、この子たち」と言った。



  優樹の唇が和奏の乳房にあたり舌先がゆっくり這った。
 「あっ……」
  思わず声を出してしまう。
 回想から現実に引き戻された。
 (身体が熱い)
 気が付くと和奏は息を荒げて呻き声を出していた。
 直樹を思いながら他の男に身を任せてきてしまっていた和奏は性行為であまり感じたことはなかった。
 苦痛でもなかったがなんでもない行為だと思っていた。
しかし優樹の丁寧で丹念な愛撫と倒錯で甘い疼きが身体の中から湧きあがる。

  優樹が潤っている和奏を確認して聞いた。
 「ねえ。最後までしてもいい?」
  我慢の限界のような表情なのにまだ確認をとろうとする優樹に愛しさが湧き、そしてパチンと和奏の中で何かが弾けた。

 「止められるの?」
 「今ならなんとか……」
 「やめないでいいよ。でも……」
 「でも、何?」
  和奏は息を整えて応えた。

 「眼鏡は外して。優樹のまま抱いて」
  優樹はにっこり笑って眼鏡をはずし、また和奏に口づけを始めた。
 「和奏……。和奏。」
  何度も和奏の名前を呼んでくる優樹の暖かくて柔らかく懐かしい声に反応して和奏も上りつめ始める。切なげな眼で優樹は和奏を見つめて身体を沈めた。

 「んん。ああ」
  優しく侵入してくる優樹を感じて和奏は声を上げた。
 (直樹おじさん、さよなら)
 和奏の中で幼い片思いが決別の時を迎える。
そして優樹の体温と息を感じ安堵する。

 「優樹……」
  喘ぎながら和奏も優樹の名前を呼んだ。
 自分の身体にもしみ込ませるように。
ゆっくりと動く優樹に応じながら溶けていきそうになる感覚に和奏は身をよじった。


 「ああ。もうだめだ。出ちゃいそう」
 「いいよ。出しても」
 「もっと和奏を気持ちよくしてやりたいんだ」
  苦悶しながら優樹は言う。
 「何度でも抱いてよ……」
  和奏の言葉に優樹はふっと緊張を解いて放出した。

  はあはあと息を荒げて優樹は和奏の身体の上に少しだけ体重を乗せて重なる。
 「もう一回してもいい?」
 「うん」
  二人は再度愛を交わした。恋人として。


  気が付くと朝だった。
 優樹ははっとして横を見ると和奏が静かな寝息を立てている。
 「好きだ」
  呟くと和奏が目を覚ました。
 「ん?おはよ」
  照れ臭そうにちらっと優樹を見て、横を向く和奏を後ろから抱き優樹は肩に口づけをした。
 「俺、きっとさ。和奏のために産まれたんだよ」
  優樹はしみじみと言った。

 「私はきっと優樹を待ってたんだね」
  振り向いて和奏は笑った。
  二人で抱き合うと子供の頃抱き合って眠ったことを思い出し幸せな気分になった。

 「どうしてこの感覚を忘れてたんだろう」
  優樹は首を傾げた。
 「うーん。もう一回思い出せるようにじゃないの」
  和奏の言葉に優樹はジグソーパズルの最後のピースをはめ込むように、ある疑問が解決した。
 「そうか。そうなんだね」
 「なによ」
 「ううん」

 (これがお父さんたちの再び得る半身ってやつなんだろな)
 優樹は絶対に和奏を手放さないと心に誓ってまた強く彼女を抱きしめた。
  そして耳元で歌った。
 「僕の想いを歌に乗せて 深い闇の中 あなたに届けさせよう この静かな林で 愛するあなた 一緒になろう」
  甘いテノールが和奏の耳をくすぐる。
 最後に聞いた歌声は優しいボーイソプラノだった。

 「セレナーデ?」
 「うん。高校んとき習った。もう朝だけど。ずっと和奏に歌ってやりたかったんだ」
 「嬉しい。全部歌ってよ」
 「うん。でもさ。後で俺に『アヴェマリア』弾いてくれよ。好きなんだ、あれ」
 「ん」

  朝の柔らかい光の中で幸せな恋人たちは『セレナーデ』の優しい調べが風に運ばれてくるのを感じている。
 (ママ。私も見つけたよ)
 和奏は小夜子からの贈り物を受け取る気持ちで喜びに満ち満ちていた。





 終
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