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セレナーデ(番外編) 

6 進路

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 優樹は高校三年生になり進路を決める段階に来た。
  この三年間ペンションで働きたいという気持ちは変わらなかったが、優樹なりにもっと真剣に考えた末、ホテルの専門学校に行くことにした。

 「この専門学校に行きたいんだけどダメかなあ」
  優樹はパンフレットを両親に差し出す。
 「本気なの?」
 「うん。俺、こういうところで働きたいんだ」
  ペンション『セレナーデ』に就職したいとは言ってなかった。
 優樹自身、専門学校を出てもすぐに『セレナーデ』で働かずに他所のホテルもしくは旅館で働いてみようと考えていたからだ。

 「お母さんはいいと思うよ。お父さんはどう?」
 「いいんじゃないかな。優樹はサービス業、合ってそうだしな」
 「良かった。ここなら家から通えるしさ」
  優樹はにっこりしてパンフレットを眺める。
  緋紗はいよいよ息子が自立の道をたどるのかと思うと感慨深いような寂しいような気がしていた。
 優樹をぼんやり見つめる緋紗の手を直樹がそっと握っていた。


  ゴールデンウィークがやってきてペンション『セレナーデ』も繁忙期を迎える。
  部活も休みなので優樹はまたバイトににやってきている。
いつもバイトばかりで一緒に遊んでくれないとぼやいていた彼女とは結局、進路の違いで別れていた。
 少し悲しかったが傷つくほどではなかった。

  ペンションの駐車場に差し掛かると見慣れない白いクーペが止まっている。
 (BMか?あ、和奏ねーちゃん)
 狭い車内で何やら男と揉めているのが見えた。
 男が和奏に覆いかぶさろうとするのを、はねのけているようだ。
 心配になり優樹は近寄って窓をノックした。

  和奏がドアを開けて勢いよく出てき、男に口早に言う。
 「ほんと、無理だから。ごめん」
 「わかったよ。もういいよ」
  男はムスッとして言い優樹を一瞥し車のエンジンをかけ、和奏がドアを閉めると男は勢いよく発進し去って行った。

 「また喧嘩かよ」
  優樹が尋ねると「喧嘩じゃない。別れたの」と和奏は静かに言った。
 優樹はまじまじと和奏を眺めるとオレンジのグロスが大きく唇からはみ出し、アイボリーのカットソーがズレ、サテン生地のピンクのブラジャーの肩ひもが見えた。
 綺麗な黒髪もくしゃっと乱れている。
ハッとし気まずいと思った優樹は目を逸らした。
そんな様子の優樹に和奏はさっと着衣の乱れを直し、髪を手で肩の後ろにたなびかせる。

 「ねーちゃんはいつも同じような眼鏡の男と付き合ってるな」
 「えっ。たまたまよ」
  ぎょっとしたように言う和奏に優樹はお構いなしで「うちのお父さんみたいな眼鏡ばっかり」と笑った。
 和奏はしばらく押し黙って優樹の足元を睨みつけていた。

 「余計なこと言わないの」
  不機嫌な和奏をこれ以上触発するとまずいなと思った優樹は「じゃ、またあとでね」と急いでペンションに向かって走った。


  寝る前に優樹は何気なくマスターベーションを始めた。
 (あ、やばい)
 放出する寸前に今日の和奏の乱れた姿を思い出してしまった。
 「ぅあっ、ああ……」
  妙な罪悪感と快感が優樹を襲う。
ため息をついて気まずい思いをしながら処理をした。
 (やべーな。ねーちゃんおかずにしちまったよ)
 初めて誰にも言えない秘密をもった優樹はなんだか大人になった自分を感じていた。

  次の日、和奏に会うと優樹は少し恥ずかしくて目を逸らした。
 和奏は挙動不審な優樹を(可笑しな奴)と思った程度で気にはしなかった。
  しかし優樹は段々と和奏を女として意識するようになっていた。


 「ねえ。お父さん。優樹が少し心配なの」
  読んでいる雑誌を閉じて直樹は緋紗の不安げな横顔を見た。
 「最近なんとなくだけど考え込んでる様子があるの。聞こうとすると先手打たれちゃって優樹から笑顔で話しかけてくるのよ。なにかすごく悩んでるんじゃないかって」
 「母親の勘?」
 「勘がいいほうじゃないんだけどね。ほんと、なんとなく。進路のことじゃなさそうだし」
 「大丈夫だよ。心配しなくても。あいつも考え込む方だろうけど、性格がねじれてはいないから」
 「悩みがあれば話してくれるかしら」
 「さあね。そこは期待しないほうがいいよ。言いたくないこともあるだろうからね」
  大きなため息をつく緋紗の肩を直樹は抱いて自分の身体に引き寄せた。
 「優樹ももう男になるんだよ」
  そう優しく言い口づけをした。
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