スカーレットオーク

はぎわら歓

文字の大きさ
上 下
62 / 140
第一部

62 営み

しおりを挟む
 静かな寝室で緋紗はぼんやりとベッドに腰かけて今までの営みを思い返してみた。
 過ぎ去った時間がこんなに愛しいなんて知らなかった。
 明日からどう過ごそうか。

 色褪せた見えにくい明日を想像していると、直樹も寝室に戻り静かに緋紗の隣に座って、「もう寝ようか」と、言った。
 「抱いてくれないんですか?」
 「抱けない」
  直樹は二人の未来がやってこないと思うと、離れがたくなる行為は避けたかった。
  緋紗は思い出が欲しかった。
 独りでいるための二人の思い出が。

 「じゃ。私が抱きます」
 力強く告げる。
 「だめだよ。緋紗。もっと辛くなる」
  たしなめる直樹を無視して緋紗は口づけする。
 何を言っても聞きそうにないので直樹は理性的にふるまうことにした。

  緋紗が直樹の服を脱がし裸にし直樹がいつも彼女にするように首筋から肩や胸を愛撫する。
できるだけ身体に意識をもっていかないように気を逸らせる努力をしたが、緋紗は直樹の少し大きくなった部分にキスをし始めた。
 「ん――」
  思わず声を漏らしてしまうと緋紗は稚拙だが大胆に吸い付いて舐めまわす。
 「だめだ」 
  直樹の起立したものを夢中で愛撫し続ける緋紗に釘付けになってしまう。
 直樹の無駄な抵抗も徒労に終わり、勃起してしまった。
 緋紗はそれを確認して直樹にまたがり、逞しい両肩をもって身体を沈めるのだが、うまく挿入できない。
まごつく緋紗に直樹は思わず手を添えて挿入を手伝うと、緋紗はとても嬉しそうに、微笑んでゆっくり身体を沈めて行った。

 「あ。ああっ」
  時間をかけて挿入する感覚を愉しんでいるようすに直樹もため息がこぼれてしまう。
すっかり彼自身が緋紗の中に納まり彼女はじっとして直樹を抱きしめた。
 「『ミスト』と抱き合ってるみたい」
  ネットゲームの『ミスト』と『スカーレット』が抱き合うとこういう形になる。
 「『スカーレット』」
  直樹も緋紗の名前を呼んだ。

  別種族の二人は共通貿易港で会ってもまた自国へ帰っていく。
そんなシチュエーションが今の二人にぴったりだ。
バーチャルな二人とリアルの二人が同時に抱き合うような不思議な感じがした。
お互いの頭も身体も心も全部つながるような感覚だ。
 緋紗はそんな倒錯と現実に自分の正直な欲望を募らせ、貪欲に直樹を貪る。
 「溶けて一つになってしまいたい」
  そうつぶやく緋紗の乳房に顔をうずめて目を閉じる。
 二人とも肉体の快感よりも繋がっていることを確認しあうように抱き合った。
お互いに触れていないところがないように、すべてを網羅するように。

  燃やせるものをすべて燃やし尽くした二人は消耗して体力を使い果たした。
 直樹の胸の上で緋紗は横たわり身動きせず、何も言わず静かに時間を過ごす。
 緋紗は薪が十分な酸素できれいに燃えて、柔らかい真っ白な灰が窯の中に吸い込まれるような安堵感を得て目を閉じた。


  駅のホームで二人は新幹線が来るのを待つ。
 朝から会話らしい会話を交わしていないがお互いの気持ちは十分伝わっていて言葉にする必要を感じなかった。
  先に上りの新幹線がやってきて、ざわめく人混みを乗せて去って行った。
 「そろそろ来るね」
 「そうですね」
  二人は何気なく見つめあい、いつの間にか口づけをしていた。
 新幹線がやってくる。
 緋紗は立ち上がった。
 直樹も立ち上がって荷物を渡す。

 「さよなら」と、『愛してる』の代わりに言って二人は別れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...