スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

60 木々

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 ペンションの周りの森を歩く。
 夏は緑色が濃い。
 緋紗はスカーレットオークをみつけ幹を撫でていると直樹が、「また少し伸びたみたいだ」 と、見上た。
 「いつも見ても変わった葉っぱの形ですね。こんなのここで初めて見ました」
 「このスカーレットオークはアメリカ産なんだ。他にも外国の木があるよ。レッドオーク、ピンクオークとか。このペンションを建てたときに小夜子さんが変わった木を植えたいって言ってね。それでこのオークらへんを勧めたんだ」
 「へー。どおりで。外国っぽいですね」
 「うん。時間差で紅葉もできるし綺麗だよ。オークは丈夫だし病気も少ないしね。まあ。スカーレットが断トツに紅葉が綺麗だよ」
  直樹の説明は耳に心地よい。

 「こんな風に森の中って来たことがなかったですけど気持ちいいですね」
 「同じ種類の木が並んで生えてるのもいいけど、こういう雑木林もいいもんだね」
 「直樹さんのお仕事って素敵ですよね。緑があふれてるって大事なんだなあ。すごく落ち着きます」
  なぜか直樹は黙って微笑んでいる。
ゆっくり二人で歩いているとガサガサと音がして和夫が現れた。

 「おっす。早く来たな」
 「こんにちは」
 「ちぃーす」
 「緋紗ちゃんがひいてくれた皿、焼けてるから見る?この前は見れなかったろ」
 「見たいです」
 「やっと焼けたんですか」
 「いやー。窯がなかなかいっぱいにならなくてなあ」
 「そうですね。スカスカだと温度あがりませんからね」
 「緋紗ちゃん来るからって小夜子が早く焼けってうるさくてな」
  和夫は頭をかきながら話す。

  アトリエに入ると粉引きの皿が並べられていた。
 「あー。かわいいー」
  ぽってりとした白い皿は端のほうに化粧土を月の形に抜いた部分があり、まるで白い雲の中にグレーの月が浮かんでいるようなロマンティックな雰囲気に仕上がっている。
 「いいだろー」
 「へー。緋紗が作っただけのことはありますね」
 「わはは。それを言うなよ」
 「粉引きの雰囲気がいいんですよ」
  緋紗が皿を手に取って撫でた。
 「お?そうか?いやーでもやっぱプロは違うと思ったよ」
 「良い焼けでよかったです」
  緋紗も満足そうに皿を元に戻した。
 「来週あたりから使うよ。また今度何か頼んでいいかなあ」
 「高いですよ」
 「やだ。直樹さんたら」
 「おいおい。マネージャー厳しくしないでくれ」
  みんなで笑った。

  少し日も落ちて夕暮れに差し掛かってきた。
ペンションに入って緋紗は売店のスギのエッセンシャルオイルを手に取ると、小夜子が、「いらっしゃい。あら。今日は一段と素敵ね」と、目ざとくルビーのペンダントに目を止めた。
 「ありがとうございます」
  恥ずかし気な緋紗に小夜子はニヤリとして直樹をちらりと見るが素知らぬ顔だ。
 緋紗が、「これください」 と、オイルを差し出すと、「僕が払うよ」「あら。プレゼントするわよ。緋紗ちゃん」と、直樹と小夜子が張り合うように口々に言う。
 「いえ。ちゃんと買います。この前いただいたバイト代もまだありますし」
  小夜子はびっくりして、
 「え。いつの話?もう半年以上前よ。ストイックねえ」
  と、大げさに肩をすくめた。
 緋紗は赤面して紙袋に入れてもらったオイルを受け取った。
 緋紗は小夜子さんと違いますからね」
 「今は地味ですー。いー」
 小夜子は子供っぽい顔つきを見せる。

  緋紗は二人のやり取りが面白くてついつい笑ってしまった。
 緋紗にとっては年上の男性である直樹だが、兄がいるようだし、和夫と小夜子との関わり方を見ていると案外『弟キャラ』なのかもしれない。
いろんな直樹の姿が見られるのは嬉しいことだった。
 「お皿みた?すごくいい感じだわよね。使い勝手もすごく良さそうだし」
 「あんなに可愛らしくなって私も嬉しいです」
 「緋紗ちゃんは、ほんといい娘よねえ」
 小夜子が緋紗の頭を撫でると、直樹は、「勝手に触らないでください」と、緋紗を引き寄せた。
 「やーねー。緋紗ちゃん、よく考えた方がいいわよ?直君みたいな暴君相手にしてると大変だわよ」
 「和夫さんも大変ですよね」
 「まあっ!」
  喧嘩友達のようなやり取りだ。
 本当に仲が悪いわけではないが、好戦的な二人はお互いを相手にするとエキサイトするらしい。
 最初は見ていてハラハラしたが、今ではこれが二人の挨拶のなのだとわかったので安心してみていた。
 「じゃ。そろそろディナーにどうぞ」
 「行こうか」
  直樹が緋紗の手をとってエスコートした。
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