スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

40 ネットゲーム1

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 備前に帰ってきてから一か月が経ち、緋紗も直樹も特に連絡を取り合うでもなくそのまま時間だけが過ぎた。
 声が聴きたいと思うことがあったが、結局抱き合えないのであれば言葉は意味をなさないように思えていた。
それでも緋紗は毎週土曜日にインターネットゲームにログインして、直樹に会えることを願っていた。
このゲーム内では対立国家の別種族なので基本的に交流はでき辛い。
 一度でもゲーム内で会っていて友達登録機能を使っていれば会話も可能なのだが未だ会えていない。――そろそろ戦争かあ。今日はどうなのかなあ。
  とにかくログインしてみる。
 緋紗はカタカタとIDとパスワードを打ち込んだ。
  ローディング画面が流れ、『スカーレット』が登場する。

スカーレット:こん
FD:おっすおっす
 ピエロちゃん:こんー
 タコヤキ乙:ちーす
大河:こんー
 いつものギルドメンバーがいた。
 FD:戦争どうする?
スカーレット:いくいく
 ピエロちゃん:私も
 タコヤキ乙:ノ
大河:^^ノ
FD:じゃ突っ込みますか
 タコヤキ乙:kk
  自国の城からゲートで飛んで戦争ゾーンに突入する。

 大河:出遅れたんじゃね?誰もいないじゃん
FD:うーん
 ピエロちゃん:合流はやめて雑魚でもさがさない?
スカーレット:ちょっと見回ってくるよ
 スカーレットは盗賊という職業で姿を消して偵察することができダントツに素早く行動ができる。
  隠密行動に適した職業だ。

 FD:tr
スカーレット:向こうの丘の木の下に三人座ってるよ
大河:野良?
スカーレット:ここじゃギルド名までわかんないけどヒーラーで☆乙女☆って名前
ピエロちゃん:それ『アンダーフロンティア』のメンツじゃない?廃じゃんw
スカーレット:あとは戦士ぽいのと魔法使いかなあ
FD:奇襲ってみるか?
 大河:小人数襲うのもなあw
ピエロちゃん:廃ギルドだからいいでそ
FD:やるか
 タコヤキ乙:kk
  五人で固まって作戦を少し練る。

 FD:じゃヒーラーから落とすぞ
大河:k
タコヤキ乙:kk
ピエロちゃん:おk
スカーレット:k
  ピエロちゃんがヒーラーの☆乙女☆にヒットポイント・防御減少スキルを打って戦闘開始だ。
 FD:タゲ☆乙女☆
 相手パーティがスキルを打たれて気づき月姫が範囲の鈍足氷魔法を打ってくる。
☆乙女☆に殴り掛かっている大河のスピードが落ちてしまい連続で魔法を食らった。
 大河:いてえかてえ

 (あ。ミスト……)
  重装備で物々しい獣人の狂戦士が大剣を振りかざして向かってくる。
 FD:タゲ月姫
ピエロちゃん:ごめん
 大河の回復に努め、止まってヒールをしていたピエロちゃんがミストの餌食になった。
 相手パーティの防御とプレイスキルの高さに四苦八苦する。
ヒーラーの☆乙女☆が固すぎて魔法使いの月姫にターゲットを変える。
  聖戦士の大河と盗賊のスカーレットで月姫に攻撃を与える。
 月姫の装備も相当硬いが盗賊のダガーに耐性がなく倒れた。

 大河:gj
タコヤキ乙:gg 
  大河がミストの刃に打ち負けし撃沈する。
 聖戦士と狂戦士の相性は全く悪いものだ。
パーティに盾となる戦士が居なくなってしまった。
 大河:くそがあ
 FDが雷魔法で☆乙女☆の行動をマヒさせなんとか倒す。

スカーレット:g
  (ミストのみか)残りの味方はまだ三人いる。
 FD:ミスト
 ミストのみになり回復職もいないので楽勝だと思った瞬間ミストは紫の怪しい光を放った。
タコヤキ乙:やべえ。バーサクかよ
FD:無理

  ミストは敵味方関係なくクリティカルヒットを与えるスキルを発動させた。
 全身が薄ぼんやりと光ってパーティの中に轟音をまき散らし切りかかってくる。
 装備の薄いFDから倒される。
  (一か八か)
スカーレットも自分の一撃必殺のスキルを発動させた。
ただし自分の防御を攻撃力に変えるので防御力は薄い紙同然になる。
ミストの懐に素早い動きで入り込む。
 (よし、はいった)
 安堵もつかの間、わずかにダメージを与えきれない。
 (くー!)
  ミストの大剣が振りかぶりスカーレットは倒れた。
タコヤキ乙:ホーム
 ヒーラーのタコヤキ乙はスカーレットが倒されたのを確認して即座に町へ戻った。

 FD:おつかれ。三人でも無理かw
タコヤキ乙:もうちょいだったがな
 ピエロちゃん:『アンフロ』って廃だし課金だし装備全然ちがうよね
FD:レッドでいけるかと思ったけどなあ
 スカーレット:固すぎで痛すぎだったねw
 大河:一撃で半分削られたぞwなにあの大剣w
  大手ギルドの強さに改めて戦意を失った。しかも戦争は敵種族国家が勝ちそうだ。

 FD:どうする?防衛
 大河:フルボッコにされたしもういいやw
ピエロちゃん:だね
 スカーレット:疲れたし落ちるよ
 タコヤキ乙:俺もオチ
FD:じゃ解散オツ
 スカーレット:ノシ
大河:ノノ
 ピエロちゃん:おつー
 パーティは解散した。

  スカーレットは両国間共通の貿易港にきて武器を修理した。
 (はー。疲れた。あのミストって直樹さんなのかなあ)
ぼんやりと港町をうろついていると画面の右下にメッセージのアイコンが点滅する。
 (誰かな)
ギルドのメンバーならこの機能を使わない。
 開いてみるとミストからだった。

ミスト:hi
スカーレット:こんです
 ミスト:さっきはどうも
 スカーレット:こちらこそ
 なかなか核心に触れない。
スカーレット:とっても強いですね硬くてびっくりしましたw
ミスト:いえいえー最後の一撃でやばかったなあと思いました
 スカーレット:えーw
  (余裕のくせに)少しメッセージのやり取りが面白くなりしばらくこのまま続けることにした。
ミスト:今どこですか?
スカーレット:港のヒューマン側宿屋の裏です

 ミストが瞬間移動で飛んでくる。
これは友達登録をしていないとできない。
ミストがパーティチャットを申し込んできた。
ミスト:やっと会えたね
 (やっぱり直樹さんだったのか)

スカーレット:いつ友録したんですか?
ミスト:ん?さっき
 スカーレット:やっぱり余裕じゃないですかw
  戦闘中にほかの作業をすることなどスカーレットには考え付かなかった。
ミスト:ほとんど終わってからだよ
 スカーレット:まさか『アンフロ』にいるとは思いませんでした^^;
スカーレット:すごい廃じゃないですかw
ミスト:うーん今の仕事する前だったからたまたまねw
ミスト:緋紗は『猫衆会』か長いよねそこも
 スカーレット:あのw本名言わないでくださいw
ミスト:ああごめw
スカーレット:みんなレッドって呼びますけどねw
ミスト:そうなんだね

 ミストは立っているスカーレットの横で胡坐をかいている。
 頭からつま先までとげとげした黒い金属性の鎧で覆われていて、隙間から見える顔は灰色の狼だ。
 大剣はミストの半分ぐらいの大きさで刃渡りは長く、肉厚でギザギザののこぎりのような歯がついている。
  一方スカーレットは軽そうな革製の鎧で顔はマスクをするようにターバンで覆われている。
 両手には小さいがよく切れそうな鋭い剣先のダガーを持っている。
 (廃装備だなあ……。人狼ごっついし)
ゲームを始めたころはこの獣人が恐かった。
 何年かで見慣れたとはいえ間近で見ると圧迫感がすごい。

ミスト:僕の上に座らない?
スカーレット:え
 スカーレット:誰かに見られると恥ずかしくないですかw
ミスト:平気だよバグにみえるだろうし
 スカーレットが躊躇っていると
 ミスト:リアルだと引っ張って座らせられるのにねw
  と、言う。
そういわれるとスカーレットも弱いのでミストの胡坐の上に座った。
 画面の中なのに二人で抱き合って座っているようだ。

ミスト:触れないのが残念だけどね
 スカーレット:そうですね
 ミスト:盗賊だとは思わなかったよw
スカーレット:その姿はちょっと怖いですw
  (ドキドキする)

ミスト:ああ呼び出しだ。侵略するってさ。レッドは?
スカーレット:さっきフルボッコにされたのにそこまでマゾくないですw
ミスト:そかwじゃまた
 スカーレット:また
 ミストはすぐに飛んでいき、スカーレットはログアウトした。
 (はあー)緋紗はため息を大きくついて目をつぶった。


  緋紗はワインを冷蔵庫から出してきて備前焼きのグラスについだ。
さっきの直樹の姿を思い出す。
 直樹のことを知らなければあの獣人の狂戦士『ミスト』が本人と結びつきにくいが、今はあの姿に違和感がなかった。
 自分でも『スカーレット』は分身のようで本人のような錯覚を起こす。――ネットってすごいよね。

  『ミスト』はベッドの上の直樹のようだ。
 威圧的で好戦的で精力的な。
 緋紗は小さな小箱からスギのエッセンシャルオイルを取り出した。
コットンに少し落としてみると青っぽい森のさっぱりとしたようなしっとりとしたような香りがする。
さっきの抱き合ったような錯覚が緋紗を熱くしていた。――会いたい……。会って抱かれたい。
  ワインをぐっと飲むと直樹の『興奮したら自分でするんだよ?』という言葉を思い出してしまった。――ああ……。

  本来はリラクゼーションに効果があるのだろうが緋紗にはまったく逆効果だった。
 直樹自身がつけている香水ではないものの、木の香りは直樹を思い出させる。
さっきのキャラクター同士が抱き合ったところを目に浮かべる。
 枕元に置いたコットンから薄っすらと香りが広がってくる。
 緋紗はペンションでの直樹とのこと、さっきの抱き合ったことを交差させ回想した。
ワインのせいか戦闘のせいか、身体が火照ってくる。
 緋紗は直樹の言葉を呪文のように繰り返しながら指を下腹部へ滑らせ、ペンションでの彼の導きを思い出しながら自分で慰める。

 「うっうぅっ……」
  ――いっちゃった。
 顔がのぼせて熱くなる。
なんとなく身体はすっきりした緋紗だが、直樹に会いたい気持ちはなくならなかった。――なんか違う。
  同じ行為のはずなのに一人と直樹と一緒に――と、では快感の深さや満足度が違った。――会いたい。
スギの木の香りに包まれて、直樹のことを夢に見られるように祈りながら眠った。
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