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第一部
37 メイクアップ
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温泉からでて直樹は今夜のディナーの用意を始める。
と言っても今日は調理はせず、今、注文しておいた寿司を取りに和夫が町まで行っているので、グラスやら小皿やらを出すくらいだ。――なんか酒があったかな。
探るとワインと日本酒がある。
それぞれ小夜子と和夫のだ。――これでいいか。
ここにいる間アルコールを口にするのは今日くらいだ。
去年は仕事が終われば飲んでいたが、緋紗がいたのですっかり飲まずにすんでいて健康的だったと少し笑いながら今日までの事を思い返した。
ワインクーラーに氷を入れ、食器を適当に並べていると小夜子がやってきて「直君、今日もタキシード着てきてね。パーティなんだから」 と、言う。
「えー。別にラフな格好でよくないですか?」
「やーね。緋紗ちゃんだって綺麗にしてくるんだからね」
ふふんと小夜子は鼻を鳴らした。
「緋紗こそ何も持ってないと思いますけどね」
「ドレスあげたのよ。きっと素敵だと思うわよ」
「へー」
笑って直樹は続けた。
「小夜子さんみたいにばっちりじゃないからなあ」
そう言われてみると小夜子もそんな気がする。
「まあとにかくタキシード着てきてね。和夫だってドレスアップするんだから」
それだけ言うとバタバタと小夜子は去って行った。――言うこと聞かないとうるさいからな。
しょうがなく着替えに部屋に戻った。
緋紗は散歩をし、スカーレットオークの前に立ち、幹を撫で細い炎の様な葉っぱを一枚拾う。――記念にしようか。
軸をもってクルクル葉っぱを回していると小夜子がやってきた。
「緋紗ちゃん。そろそろ着替えてほしいんだけど。あなた、お化粧品とか持ってるの?」
「あ。持ってません」
「はあ。そうなのねえ。ドレスもって私の部屋に来てくれる?」
「はい。伺います」
小夜子は戻っていった。――女失格って思われちゃったかなあ……。
緋紗も急いで部屋に戻りドレスを持って小夜子のもとへ向かう。
茶色いドアのそばにはインターホンがついていて押すと、「どうぞー」と、声がしたので「失礼します」と、ドアを開けた。
するとニ畳くらいのスペースがあり、童話の魔法の部屋のようにピンク、水色、黄緑と色の違う三枚のドアがある。
和夫と小夜子の住まいは三部屋あって、それぞれの部屋が最初の茶色の扉を開けた左右にあり真ん中が寝室になっている。
ピンクのドアから小夜子が出てきた。
「こっちへどうぞ」
小夜子の私室に通された。
六畳くらいのスペースでピンクのベロア生地が張られた猫足の寝椅子と、同じような雰囲気の木製ドレッサーがあり、ここだけ高級感が漂っている。
緋紗が天井のアールヌーボー調のシャンデリアを眺めているとガウンを羽織った小夜子が、「ここに座って」と、すべすべした木でできた可愛らしい猫足のスツールを指さした。
言われるままに座ると小夜子は緋紗の眼鏡を取って顔に、ローションをコットンにしみ込ませて叩くように塗り、そしてパウダーをはたきだした。
緋紗は黙ってされるがままになっている。
「さすが。普段お化粧してないだけあって全然荒れてないわね」
引っ張られた瞼に筆でラインを引かれ目の周りは加工され重くなる。
最後に口紅を塗り終了したらしい。
「ふぅ。できた」
短時間だったが緋紗のするメイクがいかに雑かよくわかった。
「これぐらいはしなきゃだめよ?」
小夜子が鏡を見るように指示した。――うわ。なんか別人。
顔立ちが変わったわけではないが、大きくて丸い目がインパクトのある華やかなものになり、年相応の大人の女性といった雰囲気だ。
「すごいですね。私、化粧する習慣がないのでイマイチやり方がわからなくて……」
「習慣がないってすごいわよ」
「うーん。周りに女性がほとんどいなくて。居ても私と似たようなものです」
恥ずかしそうに言う緋紗に小夜子は肩をすくめて言った。
「まあそのままでも全然かわいいけどね。でもたまには直君にこれくらいのを見せておかないとね。きっとドキッとするわよ」
女性らしくなった顔を見て緋紗は少し希望を持った。
「あとは足元だけど……。まあそのルームシューズでいいか。じゃあ、食事に向かいましょう」
ガウンを取った小夜子はピンクベージュのドレスを着ていた。
上質な光沢が漆黒の巻いた髪にとても似合っていて可愛らしくしかもセクシーだ。
緋紗はため息をついた。
「ふふ。さあさ。行きましょ」
小夜子は嫣然と笑って緋紗の手を取った。
と言っても今日は調理はせず、今、注文しておいた寿司を取りに和夫が町まで行っているので、グラスやら小皿やらを出すくらいだ。――なんか酒があったかな。
探るとワインと日本酒がある。
それぞれ小夜子と和夫のだ。――これでいいか。
ここにいる間アルコールを口にするのは今日くらいだ。
去年は仕事が終われば飲んでいたが、緋紗がいたのですっかり飲まずにすんでいて健康的だったと少し笑いながら今日までの事を思い返した。
ワインクーラーに氷を入れ、食器を適当に並べていると小夜子がやってきて「直君、今日もタキシード着てきてね。パーティなんだから」 と、言う。
「えー。別にラフな格好でよくないですか?」
「やーね。緋紗ちゃんだって綺麗にしてくるんだからね」
ふふんと小夜子は鼻を鳴らした。
「緋紗こそ何も持ってないと思いますけどね」
「ドレスあげたのよ。きっと素敵だと思うわよ」
「へー」
笑って直樹は続けた。
「小夜子さんみたいにばっちりじゃないからなあ」
そう言われてみると小夜子もそんな気がする。
「まあとにかくタキシード着てきてね。和夫だってドレスアップするんだから」
それだけ言うとバタバタと小夜子は去って行った。――言うこと聞かないとうるさいからな。
しょうがなく着替えに部屋に戻った。
緋紗は散歩をし、スカーレットオークの前に立ち、幹を撫で細い炎の様な葉っぱを一枚拾う。――記念にしようか。
軸をもってクルクル葉っぱを回していると小夜子がやってきた。
「緋紗ちゃん。そろそろ着替えてほしいんだけど。あなた、お化粧品とか持ってるの?」
「あ。持ってません」
「はあ。そうなのねえ。ドレスもって私の部屋に来てくれる?」
「はい。伺います」
小夜子は戻っていった。――女失格って思われちゃったかなあ……。
緋紗も急いで部屋に戻りドレスを持って小夜子のもとへ向かう。
茶色いドアのそばにはインターホンがついていて押すと、「どうぞー」と、声がしたので「失礼します」と、ドアを開けた。
するとニ畳くらいのスペースがあり、童話の魔法の部屋のようにピンク、水色、黄緑と色の違う三枚のドアがある。
和夫と小夜子の住まいは三部屋あって、それぞれの部屋が最初の茶色の扉を開けた左右にあり真ん中が寝室になっている。
ピンクのドアから小夜子が出てきた。
「こっちへどうぞ」
小夜子の私室に通された。
六畳くらいのスペースでピンクのベロア生地が張られた猫足の寝椅子と、同じような雰囲気の木製ドレッサーがあり、ここだけ高級感が漂っている。
緋紗が天井のアールヌーボー調のシャンデリアを眺めているとガウンを羽織った小夜子が、「ここに座って」と、すべすべした木でできた可愛らしい猫足のスツールを指さした。
言われるままに座ると小夜子は緋紗の眼鏡を取って顔に、ローションをコットンにしみ込ませて叩くように塗り、そしてパウダーをはたきだした。
緋紗は黙ってされるがままになっている。
「さすが。普段お化粧してないだけあって全然荒れてないわね」
引っ張られた瞼に筆でラインを引かれ目の周りは加工され重くなる。
最後に口紅を塗り終了したらしい。
「ふぅ。できた」
短時間だったが緋紗のするメイクがいかに雑かよくわかった。
「これぐらいはしなきゃだめよ?」
小夜子が鏡を見るように指示した。――うわ。なんか別人。
顔立ちが変わったわけではないが、大きくて丸い目がインパクトのある華やかなものになり、年相応の大人の女性といった雰囲気だ。
「すごいですね。私、化粧する習慣がないのでイマイチやり方がわからなくて……」
「習慣がないってすごいわよ」
「うーん。周りに女性がほとんどいなくて。居ても私と似たようなものです」
恥ずかしそうに言う緋紗に小夜子は肩をすくめて言った。
「まあそのままでも全然かわいいけどね。でもたまには直君にこれくらいのを見せておかないとね。きっとドキッとするわよ」
女性らしくなった顔を見て緋紗は少し希望を持った。
「あとは足元だけど……。まあそのルームシューズでいいか。じゃあ、食事に向かいましょう」
ガウンを取った小夜子はピンクベージュのドレスを着ていた。
上質な光沢が漆黒の巻いた髪にとても似合っていて可愛らしくしかもセクシーだ。
緋紗はため息をついた。
「ふふ。さあさ。行きましょ」
小夜子は嫣然と笑って緋紗の手を取った。
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