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第一部
32 仕上げ
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直樹が部屋を出て行ったあと緋紗も起きだしてすぐ支度をした。
朝はいつも気恥ずかしい。
冷たい水で顔を洗い、気合を入れ厨房へ向かった。
厨房ではもうコンソメスープのいい匂いがしていて熱気で暖かかった。
「おはようございます」
「おはよう」
エプロンをつけて厨房を見回り、調理に使った道具類を片付け、和夫と直樹の邪魔にならないように整頓をした。
「おはよー緋紗ちゃん」
「小夜子さん、おはようございます」
「今日も元気ね」
小夜子はあくびをしながらにっこり笑った。
緋紗はお湯を沸かしてみんなのお茶の用意をし、直樹が朝食を並べたのでみんなで座って食べた。
小夜子が今日の予定を話し出す。
「えっと。今日は家族三人が一組、女性三名一組、カップル二組以上。で明日やっと冬季休業です」
やれやれと言うように小夜子はお茶を啜った。
和夫が、「緋紗ちゃんは明後日帰るんだったな。今日一日頑張ってくれ。皿も頼むな」と、緋紗に手を合わせた。
「あ、いえ。頑張ります」
緋紗は緊張して頭を下げた。
「そっか。早いわね。もう帰っちゃうのね。残念だわあ」
「明日の午前にはお客が引けてしまうから午後からのんびり温泉でも入ったらいい。夜はゆっくりディナーにしよう」
「せっかく来たんだし仕事ばっかりじゃかわいそうよね」
和夫と小夜子が口々に言う。
「ありがとうございます」
――温泉楽しみ。
「直君もゆっくりしていいわよ」
小夜子が挑戦的な目つきで言う。
「そうしますよ」
直樹も応戦した。
「客室は僕が片付けるから緋紗は皿を仕上げてやって」
――直樹さんばっかりに仕事してもらってるなあ。
少し申し訳ない気がしたが皿の様子も気になったのでアトリエに向かった。
気温は低いが空気が乾燥しているので結構乾いている。――削りごろだ。
全部の皿の乾き具合を調べて並べ直す。
何にでも頃合いというのがあってそれを逃すと難しかったり失敗したりするのだ。
道具類の中からカンナを探してクルクル回る皿を削る。
ぽってりしたラインが少しシャープなラインを見せ始めるが、ロクロで挽いた柔らかい雰囲気を壊してはいけない。
ギャップがあるのも面白いがちぐはぐにならないように気を付ける。
使うのは勿論、表のロクロされた面だが、作り手の力量は高台に出てくるのだ。
削った底の厚みを確認しながら無駄なものをそいでいく。
削って形を作るのではなく、その土の中にあった形を発掘する気持ちで緋紗は仕上げた。
違う粘土を使うのは何年かぶりだったがうまくできたように思う。――和夫さんにサイン入れてもらっておかなきゃ。
固く乾いてしまう前に和夫を呼びに行った。
朝はいつも気恥ずかしい。
冷たい水で顔を洗い、気合を入れ厨房へ向かった。
厨房ではもうコンソメスープのいい匂いがしていて熱気で暖かかった。
「おはようございます」
「おはよう」
エプロンをつけて厨房を見回り、調理に使った道具類を片付け、和夫と直樹の邪魔にならないように整頓をした。
「おはよー緋紗ちゃん」
「小夜子さん、おはようございます」
「今日も元気ね」
小夜子はあくびをしながらにっこり笑った。
緋紗はお湯を沸かしてみんなのお茶の用意をし、直樹が朝食を並べたのでみんなで座って食べた。
小夜子が今日の予定を話し出す。
「えっと。今日は家族三人が一組、女性三名一組、カップル二組以上。で明日やっと冬季休業です」
やれやれと言うように小夜子はお茶を啜った。
和夫が、「緋紗ちゃんは明後日帰るんだったな。今日一日頑張ってくれ。皿も頼むな」と、緋紗に手を合わせた。
「あ、いえ。頑張ります」
緋紗は緊張して頭を下げた。
「そっか。早いわね。もう帰っちゃうのね。残念だわあ」
「明日の午前にはお客が引けてしまうから午後からのんびり温泉でも入ったらいい。夜はゆっくりディナーにしよう」
「せっかく来たんだし仕事ばっかりじゃかわいそうよね」
和夫と小夜子が口々に言う。
「ありがとうございます」
――温泉楽しみ。
「直君もゆっくりしていいわよ」
小夜子が挑戦的な目つきで言う。
「そうしますよ」
直樹も応戦した。
「客室は僕が片付けるから緋紗は皿を仕上げてやって」
――直樹さんばっかりに仕事してもらってるなあ。
少し申し訳ない気がしたが皿の様子も気になったのでアトリエに向かった。
気温は低いが空気が乾燥しているので結構乾いている。――削りごろだ。
全部の皿の乾き具合を調べて並べ直す。
何にでも頃合いというのがあってそれを逃すと難しかったり失敗したりするのだ。
道具類の中からカンナを探してクルクル回る皿を削る。
ぽってりしたラインが少しシャープなラインを見せ始めるが、ロクロで挽いた柔らかい雰囲気を壊してはいけない。
ギャップがあるのも面白いがちぐはぐにならないように気を付ける。
使うのは勿論、表のロクロされた面だが、作り手の力量は高台に出てくるのだ。
削った底の厚みを確認しながら無駄なものをそいでいく。
削って形を作るのではなく、その土の中にあった形を発掘する気持ちで緋紗は仕上げた。
違う粘土を使うのは何年かぶりだったがうまくできたように思う。――和夫さんにサイン入れてもらっておかなきゃ。
固く乾いてしまう前に和夫を呼びに行った。
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