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第一部
19 ディナー
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次々にやってきた予約客により賑やかになってくる。
入浴したり、土産物をみたり、あちこちで賑わっていたがそろそろディナータイムだ。
小夜子が、「じゃ直君、そろそろお願いね。部屋の前に掛けてあるから」 と、言うと直樹は「わかりました」と、よく手を洗って厨房を出て行った。
「なにがあるんですか?」
緋紗が小夜子に訊ねたが、「待ってて。お楽しみ」と、言われるだけだった。
「もうその辺にかけて私たちも食事にしましょうよ」
食堂に客が揃ったところで和夫が料理の説明をしていた。
「ごゆっくりどうぞ」
挨拶を終えると料理を選ぶ客たちでたちまち賑やかになる。
最初の料理を取る第一波が終わるころピアノの演奏が流れてきた。ショパンのノクターンだ。――あれ?小夜子さんいるのになあ。
新鮮な水菜を食べながら不思議そうにしていると小夜子が指をさし、覗くように合図した。
食堂を覗くと直樹がタキシードを着てピアノを弾いている。
少しだけライトアップされて直樹が浮かび上がっている。
ジェルで少し髪を撫でつけているようでいつもより硬質なフォーマル感が出ている。
見惚れていると和夫が入ってきて、「あいつ何でもできて嫌味な奴だよなあ」と、笑って言った。
緋紗がぽかんとしているのを見て小夜子が「ピアノ聴くの初めて?なかなかうまいのよ。しかも今日は情感こもってていいじゃない。いつも渋々だけどね」と、説明した。
食べることも忘れて聴き入る。
次にカルメンのハバネラを弾き始めた。
小夜子が、「ちょっと~。何弾きだすのよ」と、少しびっくりして身体を乗り出すと和夫が制して、「まあまあ。よくわからんが弾きたいんだろ。」 と、なだめる。
――この前観たカルメンだ。一緒に観たわけじゃないけど。
小夜子には悪いが、少し嬉しく思った。
またショパンに戻ったらしい。
緋紗は音色にうっとりし、ちらっと見た直樹の姿にときめいた。
指先がとても滑らかで自分の肌を触れる繊細なタッチを思い出し火照ってきてしまう。――雨だれなのにな。
そろそろ演奏も終わりそうだ。時間的にラストの曲を弾き始める。――あっ。これ。
小夜子がまた、「なにこれ~」 と厨房で軽くわめく。
和夫も首をかしげて「これ何だったかな……」記憶をたどろうとしている。
ジャズのようだが実はゲームミュージックのジャズアレンジでクラッシック畑の小夜子は知らなかった。
「今日はなんかやりたい放題ねえ」
和夫も「いつもショパンしか弾かないのにな」と、あきれる小夜子に同意する。
その演奏も終わり直樹は立ち上がって客席に向かい一礼するとスタスタと階段を上がっていった。
パラパラと拍手が聴こえ、和夫が締めのあいさつに向かいディナータイムは終了する。
小夜子が、「お客様が引けたら片付けお願いね。まだゆっくりしてても大丈夫よ」そういって緑茶を差し出す。
「ありがとうございます」
二人で香りの高い緑茶を飲んだ。
着替えて戻ってきた直樹に小夜子が開口一番文句を言う。
「ちょっとー。選曲変えるなら言っておいてよー」
「すみません。僕の演奏はだれも聴いてないと思って」
「やーねえ。みんな聴いてるわよ。ところで最後のはなに?」
「なんでしたっけ?」
「まあ……いいわ。上手かったしね。去年より雰囲気すごくよかったわよ。じゃご飯にして」
複雑な表情で演奏を褒め小夜子はお茶を啜った。
直樹はとりあえず少しのびてしまったパスタをくるくるフォークに巻きつけて食べ始める。
小夜子とのやり取りが終わったので緋紗も感想を告げに行った。
「あの。素敵でした。カルメンも」
頬を赤らめている緋紗をみて直樹は微笑んだ。
「ありがとう」
「あの最後のもよかったです。ゲームのバトル曲ですよね」
「え。ひさ知ってるの?」
直樹がフォークを滑らせそうになったが落とさずにうまく元に戻した。
和夫がちょうど加わって、「ああ。あれかあ。俺もやった俺もやった」 と、興奮気味に話した。
「誰も気づかないと思ったんだけどな」
悪戯っぽい目で直樹は緋紗をみた。
小夜子が聞きつけて、「あれ、ゲームなの~?やーねー男って」すぐにぷぃっと食堂へ片付けに行った。
片付けが終わり九時を回る頃、和夫が、「そろそろあがっていいよ。ご苦労様」と、二人に言い小夜子にも、「もう休めよ」 と、肩に手を乗せた。
「ああ眠い。お風呂入って寝るわー。じゃみんなお疲れ様」
エプロンを脱ぎ捨てて部屋へ向かって行く。
「じゃお先です」
「お疲れさまでした」
「また明日よろしく頼むな」
「はーい」
二人で厨房をでて静かに階段を上り部屋に戻る。
「疲れた?」
「少しだけ」
肉体的な疲労よりも緊張感による疲れだろう。
「お風呂に入って寝よう。明日も早いからね。平気?」
「全然平気です」
二人で浴場に向かった。
「じゃまたあとで」
「はい」
入り口で二人は別れた。
入浴したり、土産物をみたり、あちこちで賑わっていたがそろそろディナータイムだ。
小夜子が、「じゃ直君、そろそろお願いね。部屋の前に掛けてあるから」 と、言うと直樹は「わかりました」と、よく手を洗って厨房を出て行った。
「なにがあるんですか?」
緋紗が小夜子に訊ねたが、「待ってて。お楽しみ」と、言われるだけだった。
「もうその辺にかけて私たちも食事にしましょうよ」
食堂に客が揃ったところで和夫が料理の説明をしていた。
「ごゆっくりどうぞ」
挨拶を終えると料理を選ぶ客たちでたちまち賑やかになる。
最初の料理を取る第一波が終わるころピアノの演奏が流れてきた。ショパンのノクターンだ。――あれ?小夜子さんいるのになあ。
新鮮な水菜を食べながら不思議そうにしていると小夜子が指をさし、覗くように合図した。
食堂を覗くと直樹がタキシードを着てピアノを弾いている。
少しだけライトアップされて直樹が浮かび上がっている。
ジェルで少し髪を撫でつけているようでいつもより硬質なフォーマル感が出ている。
見惚れていると和夫が入ってきて、「あいつ何でもできて嫌味な奴だよなあ」と、笑って言った。
緋紗がぽかんとしているのを見て小夜子が「ピアノ聴くの初めて?なかなかうまいのよ。しかも今日は情感こもってていいじゃない。いつも渋々だけどね」と、説明した。
食べることも忘れて聴き入る。
次にカルメンのハバネラを弾き始めた。
小夜子が、「ちょっと~。何弾きだすのよ」と、少しびっくりして身体を乗り出すと和夫が制して、「まあまあ。よくわからんが弾きたいんだろ。」 と、なだめる。
――この前観たカルメンだ。一緒に観たわけじゃないけど。
小夜子には悪いが、少し嬉しく思った。
またショパンに戻ったらしい。
緋紗は音色にうっとりし、ちらっと見た直樹の姿にときめいた。
指先がとても滑らかで自分の肌を触れる繊細なタッチを思い出し火照ってきてしまう。――雨だれなのにな。
そろそろ演奏も終わりそうだ。時間的にラストの曲を弾き始める。――あっ。これ。
小夜子がまた、「なにこれ~」 と厨房で軽くわめく。
和夫も首をかしげて「これ何だったかな……」記憶をたどろうとしている。
ジャズのようだが実はゲームミュージックのジャズアレンジでクラッシック畑の小夜子は知らなかった。
「今日はなんかやりたい放題ねえ」
和夫も「いつもショパンしか弾かないのにな」と、あきれる小夜子に同意する。
その演奏も終わり直樹は立ち上がって客席に向かい一礼するとスタスタと階段を上がっていった。
パラパラと拍手が聴こえ、和夫が締めのあいさつに向かいディナータイムは終了する。
小夜子が、「お客様が引けたら片付けお願いね。まだゆっくりしてても大丈夫よ」そういって緑茶を差し出す。
「ありがとうございます」
二人で香りの高い緑茶を飲んだ。
着替えて戻ってきた直樹に小夜子が開口一番文句を言う。
「ちょっとー。選曲変えるなら言っておいてよー」
「すみません。僕の演奏はだれも聴いてないと思って」
「やーねえ。みんな聴いてるわよ。ところで最後のはなに?」
「なんでしたっけ?」
「まあ……いいわ。上手かったしね。去年より雰囲気すごくよかったわよ。じゃご飯にして」
複雑な表情で演奏を褒め小夜子はお茶を啜った。
直樹はとりあえず少しのびてしまったパスタをくるくるフォークに巻きつけて食べ始める。
小夜子とのやり取りが終わったので緋紗も感想を告げに行った。
「あの。素敵でした。カルメンも」
頬を赤らめている緋紗をみて直樹は微笑んだ。
「ありがとう」
「あの最後のもよかったです。ゲームのバトル曲ですよね」
「え。ひさ知ってるの?」
直樹がフォークを滑らせそうになったが落とさずにうまく元に戻した。
和夫がちょうど加わって、「ああ。あれかあ。俺もやった俺もやった」 と、興奮気味に話した。
「誰も気づかないと思ったんだけどな」
悪戯っぽい目で直樹は緋紗をみた。
小夜子が聞きつけて、「あれ、ゲームなの~?やーねー男って」すぐにぷぃっと食堂へ片付けに行った。
片付けが終わり九時を回る頃、和夫が、「そろそろあがっていいよ。ご苦労様」と、二人に言い小夜子にも、「もう休めよ」 と、肩に手を乗せた。
「ああ眠い。お風呂入って寝るわー。じゃみんなお疲れ様」
エプロンを脱ぎ捨てて部屋へ向かって行く。
「じゃお先です」
「お疲れさまでした」
「また明日よろしく頼むな」
「はーい」
二人で厨房をでて静かに階段を上り部屋に戻る。
「疲れた?」
「少しだけ」
肉体的な疲労よりも緊張感による疲れだろう。
「お風呂に入って寝よう。明日も早いからね。平気?」
「全然平気です」
二人で浴場に向かった。
「じゃまたあとで」
「はい」
入り口で二人は別れた。
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