スカーレットオーク

はぎわら歓

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第一部

10 ラブホテル

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「ごちそうさまでした。あの、いつもすみません。こんなにごちそうしてもらうと申し訳ないです」
 「気にしなくていいよ。僕が誘ってるんだからね」
  ここで頑なになるものどうかなと思い緋紗はゆだねた。
 階段を降りるとき大友が手を差し出す。
せっかくなのでこれも応じた。

 少し歩いてから、「今日は泊まるところを決めていないんだ」大友の顔を見ると何の変哲もなく、「ラブホテルに行ってみようか」と、軽く言うので、「はい」と、返事をした。
 答えてから肉体関係が目的なら当たり前だろうラブホテルという選択に緋紗は軽く動揺し、ぼんやりしているとすでに大友はタクシーを止めている。

 「乗って」
  促されて乗り込む。
 大友は運転手に、「この辺で良さそうなラブホテルにお願いします」と、行き先を告げた。
 「地味め?派手な感じ?」
  カジュアルに聞いてくる運転手に「うーん。地味なほうで」と、普通に答える。
 「あいよー」

  緋紗は、落ち着いて普通のホテルにでも行くように会話する大友にドギマギする。
そもそも緋紗のほうが欲望を押し付けたような形なのに大友の慣れた態度が気になってしまうのだった。
 運転手がミラーでちらっと緋紗を見た。
 暗がりで下を向いている緋紗はなんだか色々と考えさせられてしまう。
 前に彼女はいないようなことを言っていたが、あちこちに自分のような存在があるのかもしれないとか。

もやもやしているうちに、「降りよう」 と手を引かれていた。
いつの間にか到着していたらしい。――ラブホらしい外観だなあ……。
 「地味なラブホってないよね」
  くすりと笑いながら緋紗を見た。
 緋紗も、「そうですよね」と、相槌をうったがまだもやもやしていた。

 入り口の前で、「あ、あの」さっき思いついた想像を聞こうと思ったがこんなところで話し合う気まずさに自分が堪えられなくて言葉を飲んだ。
 「やっぱりやめる?」
  大友に優しく聞かれ反動で、「いえ、いきます」と、なんだか軍人のような返事をしてしまった。
 今日は前と違ってあまりアルコールも入っていないせいか、ごちゃごちゃ考えてしまう。
 欲望が薄れてきているのかもしれない。――今日できっとわかると思う。
  緋紗はそこで納得して考えるのをやめた。

 「どこがいい?」
  部屋を選ぶパネルの前に来た。
 「うーん。こことか」
  少しだけピンクっぽい照明の部屋を指さす。
 白っぽいとビジネスホテルのようだし、派手なピンクや紫はどぎつ過ぎた。
 「じゃ、いこう」
  ボタンを押して部屋に向かった。
また少し緊張してくる。
 大友が先に歩き部屋の扉を開いた。

 「どうぞ」
  緋紗から部屋に入る。
パネルよりも可愛らしいピンクでいやらしい感じはなく少しかわいい女の子の部屋という感じだ。
ラブホらしくない気がしたが自分のそっけない部屋とはやはり違うと思ってキョロキョロ見回した。

 大友はやはり荷物をソファーの付近へ置いてジャケットを脱ぎハンガーにかけ、ネクタイを緩めている。
 前回のビジネスホテルでの態度と同じだ。――この人はどこにいても変わらないのかもしれない。

 「一緒にお風呂に入ろうか」
  安堵しているところへの一言だったのでびっくりした。
が、ボタンをはずしたシャツから大友の逞しい胸が覗かれた時には緋紗は欲望にとりつかれ始め、こくりとうなずいて一緒にバスルームに行った。

 「ああジャグジーだね」
 「ほんとだ。気持ちよさそう。バブルバスにもできるみたい。してもいいですか?」
 「どうぞ」
  緋紗はバブルバス用の入浴剤を入れて湯を張る。
 湯がたまるまで少し時間があるだろう。緋紗は思い切って聞いてみた。

 「あ、あの。聞いてもいいですか?」
 「答えられることなら」
 「彼女はいないんでしたよね」
 「うん」
 「でも遊ぶ女の人がいっぱいいるんですか?」
 「ううん。全然いないよ。なんで?」
 「慣れてるじゃないですか。なんか色々」
 「ああ」
  笑いながら大友は答えた。

 「ほとんど兄貴の受け売りでね。こういう時はこうしたらいいって若いころから教えられてきたんだ。兄貴は相当の遊び人だったからね。今は、もうまともだけど」
 「そうなんですか」
 「前にも言ったけど女性を抱いたのは恥ずかしながら五、六年ぶりだと思う。もう忘れるところだったよ」
――そんなに長く独りでいたからあんなに激しかったの?

  黙って聞いている緋紗に、「相手をしてくれるのはひさちゃんだけだよ。」と、付け加えた。
 少しだけ納得したような気もするし疑問が残る気もする。
しかし無意味な質問だったかもしれないなと思った。

 「入ろうよ」
  大友の誘いにハッとして自分の目的を思い出した。
 「先に入っててください」
  緋紗は少し躊躇って言った。
 「ん。じゃあ入っているよ」
  大友は素直に従う。――先に入って待った方がよかったんだろうか。

  一緒に服を脱いだり、裸になったり本来そういう部分から行為の共有があるのだろうが、なんだか躊躇われた。
シャワー音が聞こえる。――あ、入るのを待ってお風呂から見られるより今入ったほうがどさくさに紛れるかな。

  そう思いついて緋紗は眼鏡を取り急いで服を脱ぎバスルームに向かった。
ドアを開けると大友が立ってシャワーを使っていた。――わ。まっぱ。

  浴室は結構明るかった。
 入ってきた緋紗に気付いて笑いながら大友は緋紗の手を取り、「おいで」と、引っ張った。
 右手でなんとなく身体を隠して大友のそばに立つ。

 「風邪をひくといけないよ」
  優しく言われて素直にうなずいた。――眼鏡ない。
  大友の眼鏡が外されていることに少し安心し緋紗はシャンプーを手に取った。

 「洗ってあげよう」
  大友がバスチェアに腰かけさせられ髪を洗っている緋紗の身体に泡を塗り始める。
びっくりしたが両手がふさがっているのでなすすべもなくされるがままになった。
 首筋から背中にかけて撫でるように洗われる。
 乳房から腰にかけて同じように洗われ、緋紗は髪を流しながら大友のてのひらの感じを味わっていた。
 上半身が大きく繊細な手でまんべんなく撫でまわされ緋紗は気持ちよくてぼぅっとなってくる。

 「大友さんは洗った?」
  ぼんやりして緋紗は聞いた。
 「髪だけ」
 「じゃ私も洗ってあげる」

  緋紗もスポンジでボディーソープを泡立てた。
 立っている大友と交代して座らせ自分がされたのと同じように首筋から背中を洗う。
 前を向いて胸を洗い始めた。
 背中もそうだが胸も肩も腕も筋肉がきれいについていて、とても逞しくて素敵だ。

ドキドキしながら洗っていると大友が緋紗の足を下から洗っていて腰回りと尻に手が回されていた。
はっとすると敏感な部分に手が伸びてきていて優しくこすられているのだった。
 腰がガクガクし始めて思わずしゃがみこむ。

 「大丈夫?」 と言われ、「ええ……」と答えたが感じ始めてしまった。
 気づくと大友も感じているらしく泡の中で大きくなっている。
 緋紗は眼鏡がないのでぼんやりとしか見えないがそこに手を伸ばして、優しく撫でた。

 「ああ、まだだめだよ」
  大友に手を取られてしまい、少し残念な気分で手をひっこめた。
 「身体が冷えてしまう」

  泡をすっかり流し大友に手を引かれバブルバスにつかった。
 大友が後ろから緋紗を抱きかかえる感じで座る。
もう感じ始めている緋紗は泡を楽しむ余裕はなく、心臓は早鐘のように打っている。
それに気づいてか大友が緋紗の身体を愛撫始めた。

  後ろから腰に右手を回し左手で緋紗の乳房を丸く撫でる。
 首筋に唇を這わせ吸われるとため息が出てくる。
  まだ撫でられているだけなのに身体が中心から疼いてくるようだ。
 緋紗の腰に大友の硬くなったものがあたる。
そして大友の手が太ももを撫でさっきの続きのように緋紗の敏感な部分へと移ってきた。
 緋紗も後ろに手を回し大友の剛直を触り始める。

 後ろから、「ベッドに行こうか」 と、低いかすれたような声で囁かれ緋紗はうなずいた。
 大友が先に上がってバスタオルを持ってきたが、緋紗は地面がグラグラしているような気がしてしっかり立てなかった。
 「のぼせたかな」
  大友が緋紗にバスタオルを巻きつけてベッドへ運び、水を飲ませると彼女は身体を起こした。
 「大丈夫?のぼせた?」
 「いえ、大丈夫です。ちょっとぼーっとしただけです」
  単に気持ちよくなっただけと言うのは恥ずかしかった。

 「顔も赤いし少し休もうか」
  緋紗の髪を拭く大友の優しい態度に嬉しくなる反面、身体の逞しさや情事の激しさを思い返して興奮してくる。
 「もう大丈夫です」
 「そう。よかった」

  なんだか改まってしまって、ここから進むのが難しく感じた。緋紗がもじもじしていると、「キスしていい?」 と、訊ねられた。
 「どうぞ」

  いきなりで間抜けな答えをしてしまったことに気恥ずかしさを感じているところへ、大友が唇を重ねてきた。
とても優しい恋人のようなキス。
ゆっくり優しく唇を吸われる。
 大友はいったん唇を離して緋紗の腰を引き寄せベッドに寝かせた。
もう一度唇を重ねてくる。
 唇を吸われてうっとりしてきたところに大友の舌が忍び込み絡め合わせて吸われる。甘い蜜のような味がするキスに緋紗は夢中になってきた。
 緋紗も大友の唇を吸い舌を吸う。
これだけでもう全身快感に包まれていくようだ。


  大友は唇を離して緋紗の顔をみた。
 目が潤んでうっとりしているのがよくわかる。――感度のいい娘だな。
  これだけ高感度だと大友に男としての自信が漲ってくる。
しかも今回は少し余裕があるような気がする。――長い夜になるといい。

  キスをやめて緋紗の身体を愛撫始めた。
 細い首、丸い肩。小ぶりだけど柔らかくて形の良い乳房。
ほっそりした腰。
すんなりした手足。
メリハリはないが綺麗な流線型で中性的で背中だけ見ると少年のようだ。

  大友にこういった趣味はないのだが緋紗の感度のよさと身体つき、喘ぐ声が意外に可愛らしいので倒錯めいた気分になる。
なぜだかこんな状況に自分が『雄』だという実感がわくのだった。

 全身を愛撫して口づけする。
 特に意識しなかったが気が付くと儚そうな乳首が強く主張していたので口づけをしてリズミカルに吸い上げた。
そうすると緋紗の声もリズミカルにスタッカートで応える。――楽器のようだ。

  緋紗の手が大友の両肩を強くつかみ始めた。
 大友は下腹部に手を伸ばし緋紗の敏感な部分を確認する。――すごく濡れてる。
 苦悶している緋紗の顔を見るとあまり時間をかけるのも可哀想な気がしたが、もう少しそんな緋紗を見ていたい。

 大友は緋紗の身体の下のほうへ移動して繊細な箇所に到達した。
 可愛らしい花芽に口づけて吸い上げてみる。
 「あっ、くぅ」
  短い悲鳴のような声があがる。
 「やめっ……て」
  とも聞こえたがやめなかった。

なかなか強い力で足を閉じて抵抗し始めたので、大友は両足を屈曲させ開いて固めた。
 強い快感と羞恥心で泣きそうになっている。――かわいい……。
もっと鳴かせてしまいたくなり大友は固めた足も愛撫の手も緩めず続けた。
 少しスピードを増すと、小さく短く何か音を叫ぶのが聴こえ緋紗が達したのを感じ大友はやめた。
 半泣きで全身を震わせている。

  緋紗の顔のほうへもどり髪を撫でた。
 早い呼吸が少し穏やかになるのを待ってから緋紗の身体に覆いかぶさった。
そしてそのまま緋紗の中に侵入していく。
  緋紗は、「あはぁあうぅう」と、低くかすれた声をだし、力の入らない両腕を大友の背中にまわした。

 大友はゆっくりと動く。
 緋紗はもう目を閉じていて大友の動きに委ねてしまっているようだ。
  単調だが一定のリズムがまた緋紗の快感のメーターをあげていく。
ゆっくり穏やかに動いていたがだんだんと緋紗が締め付けてくる。――もうだめだ。
 少しずつスピードをあげて動くと、また緋紗の息遣いが激しくなってくる。
 息を止めてしまわないように口づけしながら激しく動いて大友も達した。


しばらくして大友が緋紗の身体から離れ素早く後始末をした。
 緋紗はまだ身体が甘く痺れているような感覚でぼんやりしながらそれを見ていた。
 大友が自分の処理をすると緋紗の身体もきれいに清拭する。
 「ありがとう」
なんとか言うと、「どういたしまして。」 と、微笑みながら大友は緋紗の頬を指の甲で撫でた。――きっと前もこうしてくれたんだろうな。
 前回は寝てしまって覚えていないがたぶんそうだろうと思った。

  欲望で結びついた関係のようだが大友の人柄や落ち着き、優しさなど内面にもなんだか惹かれていく気がしていた。
 前よりも色褪せるだろうと思っていた情事は別の形をとっている。
 最初の一夜が燃えるような火のような情事だとすると今夜は寄せては返す波のような、深い色をした海のような体験だった。――だめだ。はまりそう。

  心地よい疲労が緋紗を眠りにいざなった。
 目を閉じて緋紗は思う。――食べて、交わって、寝る。動物みたい……。
いつの間にか眠りに落ちた。


  大友はうつろな緋紗を撫でながら愛しさが湧いてくるのを感じた。――また会えるだろうか。
  行為に対してなのか身体なのか心なのかどの部分かわからないがここのまま離したくはないと思い始めている。
ウトウトし始めた緋紗を見てすぐ寝てしまうとくすりと笑った。
そして大友自身もそばに寄り添い肩を抱いて目を閉じた。
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