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第一部
3 岐路
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緋紗がさきにドアを開けて階段を降りようとした。
ずるっ。
階段から足を踏み外しそうになった瞬間、男が緋紗の腰に手を回す。
「あ、ありがとうございます」
すごくひやっとした後に目の前に男の顔があって更にドキリとした。
「大丈夫?」
「ええ。いつもペタンコの靴なのでちょっとミスっちゃいました」
言い訳が一層羞恥心を呼び起こす。
体勢を直して降りようとすると男が先に一段降り、
「どうぞ」
と、手を差し伸べる。
「あ、あの」
こんなリードのされ方は初めてでまた恥ずかしくなったが折角なので手を引いてもらうことにした。
「すみません」
――子供の階段を手伝ってるみたい。
自嘲気味に状況を考察した。
ラストの段になった時、
「もう平気です」
と緋紗は手をひっこめる。
「よかった」
男も安堵したようだ。
「岡山駅方面ですか?」
「うん。ほとんど目の前のホテルです。方向一緒ですよね」
「はい」
なんとなく歩き出して緋紗はさっき抱えられた腰が熱くなってくるのを感じた。
――もう一度この人の匂いが嗅ぎたい。
そう思った瞬間、身体の中から燻ってくるものを感じる。
理性が(早く帰ろう。帰って熱いシャワーでも浴びよう)と囁いた。
駅前の大きな交差点につく。――ここでお別れ。
オペラ会場からずっと男の香りに抱かれ、自分の欲求に気づいた緋紗は突っ立ってしまった。
男が、
「大丈夫?一人で帰れる?」
と、緋紗に優しく訊ねる。――迷子みたいな扱いをされた。
欲望がなんだか憤りに変わって理性を吹き飛ばし緋紗を正直に感情的にしてしまう。
「大丈夫です。もちろん一人で平気です!」
静かに見つめる男に続けて緋紗は言葉を発する。
「セックスしませんか?」
数秒の沈黙後、呆気にとられた表情ののち男は、ふうと息を吐き出してから言う。
「後悔しないの?今晩だけになるかもしれないよ?」
「しません」
今晩だけでよかった。
次のことなど何も考えておらず、今の欲望を燃やし尽くしたいだけだった。
レンズ越しに見える男の瞳が優しげな眼差しから一瞬鋭そうな獣のような光を帯びる。――狼みたい。
二人を取り巻く空気が変わるのを感じて緋紗は緊張する。
「ついておいで」
緋紗は自分から望んでおいて今更ながら膝が震えだした。
しかしついていく足は止まらず交差点を無視しホテルへ向かう。
理性の声はもう緋紗に届かない。
男がコンビニの前に立ち止まって、
「少し買い物しよう」
と、言った。
男についてコンビニに入りさっと小さなショーツとストッキングを手に取り、レジにそれだけ持って行こうとすると男がそれらをすっと取り上げた。
「一緒に払うよ」
「いえ、あの。自分で」
「いいから。さっき頑張ったからもう任せてくれていいよ」
緋紗は真っ赤になってうつむき横目で男がミネラルウォーターとコンドームを持っているのが見えた。――あ。なんか大人。
感心と安心で膝の震えが止まっていた。
「行こう」
ほとんど無言で三分ほど歩くとホテルに着いた。
「いらっしゃいませ」
フロントから事務的な声がかかる。
「遅くなりました。予約しておいた大友ですが一名追加できますか?」
「可能でございます。ご予約のままのお部屋でも二名様対応のダブルルームですので後ほどアメニティをお持ちいたしますし、本日カップルプランのダブルルームのお部屋が空いていますがいかがいたしましょう」
「じゃカップルプランへ変えてください」
「かしこまりました」
――オオトモさん。
大友が記帳をして鍵を渡される間、緋紗は少しでもちゃんとしている風体を装っていた。
事務的な様子にだんだん酔いも醒め落ち着いてくる。
「部屋へ行こうか」
エレベーターで上がり薄暗い通路の突き当りの部屋に到着すると、大友がカードキーを差し込み扉を開ける。
「どうぞ」
角部屋だからか、想像より広い。
緋紗はぼんやり靴を脱いであがる。
大友はバッグとさっき買ったものを小さなテーブルへ置き、ジャケットを脱いでハンガーにかけた。
ネクタイを緩めながら椅子に腰かけ、
「先にシャワーを使えばいいよ」
と、バスルームを指さす。
「じゃあお先に」
――もうやるだけ。
緋紗は眼鏡をはずし素早く服を脱ぎさっとバスルームに入り、少し熱めにしたお湯を浴びる。
本当は家でシャワーを浴びれば欲情は鎮火したかも知れない。
だけど今は熱いお湯に自分自身がまた火照ってくる。――どうしてこんな気分になるんだろう。
ボディーソープを多めに使って全身をくまなく洗う。
鏡で顔を見ると化粧はほとんどとれていてチークだけが残っているように頬が紅い。
髪も顔もざぶざぶ洗って最後にもう一度手を洗った。
すっきりしてバスローブを羽織って出ると大友はくつろいでスケジュール帳を眺めていた。
「やあ。さっぱりしたかな。僕も浴びてくるよ。ランドリーサービスを頼むけど君はどうする?」
「私はいいです。」
「そう。じゃくつろいでいて。」
――くつろぐ……。
とりあえずダブルベッドに腰かけた。
シャワーの音が少し聞こえて緋紗はこれからのことを思うと緊張と興奮で胸がいっぱいになる。
カチャと音がして同じバスローブを着た大友がでてきた。
緋紗の胸が高鳴る。
大友が隣に腰かけ緋紗の手を取り指先の匂いを嗅ごうとした。――あ。
思わず手を引く。
「いやだった?」
「いえ。あの。手は特に自信がなくて……」
肩を優しく抱かれてベッドに寝かされ、バスローブの紐を解かれる。
「あ、あのスミマセン。電気を暗くしてもらえますか」
半裸になってから緋紗は気が付いて頼んだ。
くすっと笑って大友は照明をぼんやり見える程度に落とし、そして緋紗の眼鏡をとった。
気づくとバスローブもすっかり脱がされてしまい、自分から頼んでここまで着いてきておきながら緋紗は手で上半身を固く守ってしまっている。
大友は無表情で彼女の両手首をつかみ万歳させるように上へ押し付けた。
「やめたい?」
静かに聞く。
「いいえ」
そう緋紗が答えると大友はバスローブの紐で彼女の両手首を縛ってしまった。
「プレゼントをもらったみたいだ。抱かせてもらうよ」
そして自分のバスローブの紐もほどいて脱いだ。
さっきのスーツ姿から想像できなかったが、大友の身体は筋肉がしっかりついていて、とても逞しかった。
眼鏡をはずされてぼんやりとした視界でも彼の逞しさがわかる。
また緋紗は欲望に熱くなってきた。
紅い頬から首筋、乳房まで軽くなぞられあえいだ。
そっと触れられただけなのにサーモメーターが急上昇する。
あえぎながら、
「はやく……」
と口走ってしまった。
大友はそんな緋紗をうつ伏せにし、背中に舌を這わせ、のけ反っている後ろから大きな手で乳房を揉みしだく。
更に下腹部から敏感なところへ指先が伸び、ほぐされ閉じた花弁を開かれる。
思わず動いてしまう腰を押さえつけられ、とうとう大友が入ってきた。
「ああっ……」
緋紗は強い刺激に目の前が真っ白になり、腰を固定されたままの一定のリズムにどんどん快感が増してくる。
「あうぅ、す、すごき、き、もち、いっ、あっ」
快感に身をゆだねてしまっている彼女の背後で、「くっ……」と、耐えるようなうめき声がかすかに聞こえる。
少し動きが緩やかになったかと思うと大友の手が緋紗の乳房をまた揉みしだき、もう片方の手が緋紗の敏感な花芯をリズミカルに摩擦する。
「ひっ」
声にならない声をあげて緋紗は達した。
大友は緋紗が達して収縮するのを感じながら激しく動く。
「う。くっ」
そして更に激しく奥に打ち付けるように動いた後、大友も達した。
弛緩した筋肉が背中に覆いかぶさるのを感じて緋紗は目を閉じた。
ずるっ。
階段から足を踏み外しそうになった瞬間、男が緋紗の腰に手を回す。
「あ、ありがとうございます」
すごくひやっとした後に目の前に男の顔があって更にドキリとした。
「大丈夫?」
「ええ。いつもペタンコの靴なのでちょっとミスっちゃいました」
言い訳が一層羞恥心を呼び起こす。
体勢を直して降りようとすると男が先に一段降り、
「どうぞ」
と、手を差し伸べる。
「あ、あの」
こんなリードのされ方は初めてでまた恥ずかしくなったが折角なので手を引いてもらうことにした。
「すみません」
――子供の階段を手伝ってるみたい。
自嘲気味に状況を考察した。
ラストの段になった時、
「もう平気です」
と緋紗は手をひっこめる。
「よかった」
男も安堵したようだ。
「岡山駅方面ですか?」
「うん。ほとんど目の前のホテルです。方向一緒ですよね」
「はい」
なんとなく歩き出して緋紗はさっき抱えられた腰が熱くなってくるのを感じた。
――もう一度この人の匂いが嗅ぎたい。
そう思った瞬間、身体の中から燻ってくるものを感じる。
理性が(早く帰ろう。帰って熱いシャワーでも浴びよう)と囁いた。
駅前の大きな交差点につく。――ここでお別れ。
オペラ会場からずっと男の香りに抱かれ、自分の欲求に気づいた緋紗は突っ立ってしまった。
男が、
「大丈夫?一人で帰れる?」
と、緋紗に優しく訊ねる。――迷子みたいな扱いをされた。
欲望がなんだか憤りに変わって理性を吹き飛ばし緋紗を正直に感情的にしてしまう。
「大丈夫です。もちろん一人で平気です!」
静かに見つめる男に続けて緋紗は言葉を発する。
「セックスしませんか?」
数秒の沈黙後、呆気にとられた表情ののち男は、ふうと息を吐き出してから言う。
「後悔しないの?今晩だけになるかもしれないよ?」
「しません」
今晩だけでよかった。
次のことなど何も考えておらず、今の欲望を燃やし尽くしたいだけだった。
レンズ越しに見える男の瞳が優しげな眼差しから一瞬鋭そうな獣のような光を帯びる。――狼みたい。
二人を取り巻く空気が変わるのを感じて緋紗は緊張する。
「ついておいで」
緋紗は自分から望んでおいて今更ながら膝が震えだした。
しかしついていく足は止まらず交差点を無視しホテルへ向かう。
理性の声はもう緋紗に届かない。
男がコンビニの前に立ち止まって、
「少し買い物しよう」
と、言った。
男についてコンビニに入りさっと小さなショーツとストッキングを手に取り、レジにそれだけ持って行こうとすると男がそれらをすっと取り上げた。
「一緒に払うよ」
「いえ、あの。自分で」
「いいから。さっき頑張ったからもう任せてくれていいよ」
緋紗は真っ赤になってうつむき横目で男がミネラルウォーターとコンドームを持っているのが見えた。――あ。なんか大人。
感心と安心で膝の震えが止まっていた。
「行こう」
ほとんど無言で三分ほど歩くとホテルに着いた。
「いらっしゃいませ」
フロントから事務的な声がかかる。
「遅くなりました。予約しておいた大友ですが一名追加できますか?」
「可能でございます。ご予約のままのお部屋でも二名様対応のダブルルームですので後ほどアメニティをお持ちいたしますし、本日カップルプランのダブルルームのお部屋が空いていますがいかがいたしましょう」
「じゃカップルプランへ変えてください」
「かしこまりました」
――オオトモさん。
大友が記帳をして鍵を渡される間、緋紗は少しでもちゃんとしている風体を装っていた。
事務的な様子にだんだん酔いも醒め落ち着いてくる。
「部屋へ行こうか」
エレベーターで上がり薄暗い通路の突き当りの部屋に到着すると、大友がカードキーを差し込み扉を開ける。
「どうぞ」
角部屋だからか、想像より広い。
緋紗はぼんやり靴を脱いであがる。
大友はバッグとさっき買ったものを小さなテーブルへ置き、ジャケットを脱いでハンガーにかけた。
ネクタイを緩めながら椅子に腰かけ、
「先にシャワーを使えばいいよ」
と、バスルームを指さす。
「じゃあお先に」
――もうやるだけ。
緋紗は眼鏡をはずし素早く服を脱ぎさっとバスルームに入り、少し熱めにしたお湯を浴びる。
本当は家でシャワーを浴びれば欲情は鎮火したかも知れない。
だけど今は熱いお湯に自分自身がまた火照ってくる。――どうしてこんな気分になるんだろう。
ボディーソープを多めに使って全身をくまなく洗う。
鏡で顔を見ると化粧はほとんどとれていてチークだけが残っているように頬が紅い。
髪も顔もざぶざぶ洗って最後にもう一度手を洗った。
すっきりしてバスローブを羽織って出ると大友はくつろいでスケジュール帳を眺めていた。
「やあ。さっぱりしたかな。僕も浴びてくるよ。ランドリーサービスを頼むけど君はどうする?」
「私はいいです。」
「そう。じゃくつろいでいて。」
――くつろぐ……。
とりあえずダブルベッドに腰かけた。
シャワーの音が少し聞こえて緋紗はこれからのことを思うと緊張と興奮で胸がいっぱいになる。
カチャと音がして同じバスローブを着た大友がでてきた。
緋紗の胸が高鳴る。
大友が隣に腰かけ緋紗の手を取り指先の匂いを嗅ごうとした。――あ。
思わず手を引く。
「いやだった?」
「いえ。あの。手は特に自信がなくて……」
肩を優しく抱かれてベッドに寝かされ、バスローブの紐を解かれる。
「あ、あのスミマセン。電気を暗くしてもらえますか」
半裸になってから緋紗は気が付いて頼んだ。
くすっと笑って大友は照明をぼんやり見える程度に落とし、そして緋紗の眼鏡をとった。
気づくとバスローブもすっかり脱がされてしまい、自分から頼んでここまで着いてきておきながら緋紗は手で上半身を固く守ってしまっている。
大友は無表情で彼女の両手首をつかみ万歳させるように上へ押し付けた。
「やめたい?」
静かに聞く。
「いいえ」
そう緋紗が答えると大友はバスローブの紐で彼女の両手首を縛ってしまった。
「プレゼントをもらったみたいだ。抱かせてもらうよ」
そして自分のバスローブの紐もほどいて脱いだ。
さっきのスーツ姿から想像できなかったが、大友の身体は筋肉がしっかりついていて、とても逞しかった。
眼鏡をはずされてぼんやりとした視界でも彼の逞しさがわかる。
また緋紗は欲望に熱くなってきた。
紅い頬から首筋、乳房まで軽くなぞられあえいだ。
そっと触れられただけなのにサーモメーターが急上昇する。
あえぎながら、
「はやく……」
と口走ってしまった。
大友はそんな緋紗をうつ伏せにし、背中に舌を這わせ、のけ反っている後ろから大きな手で乳房を揉みしだく。
更に下腹部から敏感なところへ指先が伸び、ほぐされ閉じた花弁を開かれる。
思わず動いてしまう腰を押さえつけられ、とうとう大友が入ってきた。
「ああっ……」
緋紗は強い刺激に目の前が真っ白になり、腰を固定されたままの一定のリズムにどんどん快感が増してくる。
「あうぅ、す、すごき、き、もち、いっ、あっ」
快感に身をゆだねてしまっている彼女の背後で、「くっ……」と、耐えるようなうめき声がかすかに聞こえる。
少し動きが緩やかになったかと思うと大友の手が緋紗の乳房をまた揉みしだき、もう片方の手が緋紗の敏感な花芯をリズミカルに摩擦する。
「ひっ」
声にならない声をあげて緋紗は達した。
大友は緋紗が達して収縮するのを感じながら激しく動く。
「う。くっ」
そして更に激しく奥に打ち付けるように動いた後、大友も達した。
弛緩した筋肉が背中に覆いかぶさるのを感じて緋紗は目を閉じた。
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