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6 若い男
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副業を始めて五年で学資ローンを返済し終え、七年で預金額が二百万になった。
「もう二年は頑張らないと……」
通帳を眺めながら真琴は肩をもむ。目標金額は三百万円だ。二十代のうちに達成しておきたかった。ダブルワークと質素な生活は規則正しく行われ、特に平穏な毎日が続き、三島浩一郎に似た若い男のこともすっかり忘れたころ、店に、その若い男がやってきた。
がやがやと数人の中年の男たちの中に若い男が混じっていた。
「リカママー。うちの新人連れてきたやったぞー」
「あらあっ。嬉しいワ! うんとサービスしちゃうわね!」
リカは三オクターブ高い声を作って男たちに笑顔を見せる。ボックス席が埋まり賑やかになった。今夜は平日ということもあり、おそらくこの客たちくらいで終るだろう。スタッフを総動員、とはいえ真琴、アキ、ジュンの三人で接客を始める。
「こんなに若いこが来てくれるなんて初めてじゃない?」
「ほおーんと、ピッチピチねえ」
アキとジュンの若い男への食いつきっぷりに、周囲の男たちはいらだつこともなく同意する。
「だろう? アキちゃんが喜ぶと思ってさあー」
「いいのかなー? こんなとこ連れてきちゃってー」
「社会勉強だよー」
若い男は緊張しているらしく、ちらちらを周囲を見ながらおとなしく座っている。あまり酒が得意ではないらしく、薄いジントニックをすこしづつ口に運んでいた。
話し上手なアキとの会話を男たちは楽しみ、ノリの良くなってきた男の一人は、ホールでジュンと踊りだしている。
「こんなとこ平気?」
真琴はポツンとし始めた、若い男に話しかける。
「平気」
「そう。よかった」
「そっちは平気?」
彼がどういう意味でそう尋ねたのかわからなかったが真琴も「平気」と答えた。二人とも同じような口数の少なさだったが、逆にそれが居心地の良さにつながっていた。
一月ほどすると、若い男が一人で店にやってきた。
「あらっ! また来てくれたのね! 気に入ってくれたのかしらー。どうぞ、どうぞー」
大げさな立ち振る舞いと作った声でリカは男を招き入れる。
「誰がいいかなあー」
アキは二人の客と座っている。
「あの、マコさんが……」
「あらっあ。マコちゃんがいいのね。あなた、若いのに玄人好みだわね!」
真琴が席に呼ばれ、若い男に着くことになった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「飲み物は?」
「弱いやつならなんでも……」
「ノンアルコールにします?」
「いや。いちおうお酒で」
やはり酒には強くないようだが、素面でここにいるのは居たたまれない気持ちになるのだろうか。真琴は薄いジントニックを頼むことにした。
少しずつ会話をしていくうちに、彼はまだ大学四年生で、名前を知った。岩下葵と名乗ったのでやはり他人の空似らしく三島浩一郎とは関係がないようだ。前回はバイト先の社員たちに連れてこられたということだった。
「バイトって窓の清掃?」
「うん、そう」
「怖くない? 高いところ」
「なれたら平気。あのバイト、給料いいんだよね」
「そうなんだ」
特に盛り上がることもなく淡々と時間を共有する。真琴は三島浩一郎と過ごした時間を思い出し、なんだか懐かしい気分を感じていた。
二時間ほどすると男は席を立ち「帰ります」と会計を求めた。また来ると言って、約束通り次の週にやってきた。
「もう二年は頑張らないと……」
通帳を眺めながら真琴は肩をもむ。目標金額は三百万円だ。二十代のうちに達成しておきたかった。ダブルワークと質素な生活は規則正しく行われ、特に平穏な毎日が続き、三島浩一郎に似た若い男のこともすっかり忘れたころ、店に、その若い男がやってきた。
がやがやと数人の中年の男たちの中に若い男が混じっていた。
「リカママー。うちの新人連れてきたやったぞー」
「あらあっ。嬉しいワ! うんとサービスしちゃうわね!」
リカは三オクターブ高い声を作って男たちに笑顔を見せる。ボックス席が埋まり賑やかになった。今夜は平日ということもあり、おそらくこの客たちくらいで終るだろう。スタッフを総動員、とはいえ真琴、アキ、ジュンの三人で接客を始める。
「こんなに若いこが来てくれるなんて初めてじゃない?」
「ほおーんと、ピッチピチねえ」
アキとジュンの若い男への食いつきっぷりに、周囲の男たちはいらだつこともなく同意する。
「だろう? アキちゃんが喜ぶと思ってさあー」
「いいのかなー? こんなとこ連れてきちゃってー」
「社会勉強だよー」
若い男は緊張しているらしく、ちらちらを周囲を見ながらおとなしく座っている。あまり酒が得意ではないらしく、薄いジントニックをすこしづつ口に運んでいた。
話し上手なアキとの会話を男たちは楽しみ、ノリの良くなってきた男の一人は、ホールでジュンと踊りだしている。
「こんなとこ平気?」
真琴はポツンとし始めた、若い男に話しかける。
「平気」
「そう。よかった」
「そっちは平気?」
彼がどういう意味でそう尋ねたのかわからなかったが真琴も「平気」と答えた。二人とも同じような口数の少なさだったが、逆にそれが居心地の良さにつながっていた。
一月ほどすると、若い男が一人で店にやってきた。
「あらっ! また来てくれたのね! 気に入ってくれたのかしらー。どうぞ、どうぞー」
大げさな立ち振る舞いと作った声でリカは男を招き入れる。
「誰がいいかなあー」
アキは二人の客と座っている。
「あの、マコさんが……」
「あらっあ。マコちゃんがいいのね。あなた、若いのに玄人好みだわね!」
真琴が席に呼ばれ、若い男に着くことになった。
「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「飲み物は?」
「弱いやつならなんでも……」
「ノンアルコールにします?」
「いや。いちおうお酒で」
やはり酒には強くないようだが、素面でここにいるのは居たたまれない気持ちになるのだろうか。真琴は薄いジントニックを頼むことにした。
少しずつ会話をしていくうちに、彼はまだ大学四年生で、名前を知った。岩下葵と名乗ったのでやはり他人の空似らしく三島浩一郎とは関係がないようだ。前回はバイト先の社員たちに連れてこられたということだった。
「バイトって窓の清掃?」
「うん、そう」
「怖くない? 高いところ」
「なれたら平気。あのバイト、給料いいんだよね」
「そうなんだ」
特に盛り上がることもなく淡々と時間を共有する。真琴は三島浩一郎と過ごした時間を思い出し、なんだか懐かしい気分を感じていた。
二時間ほどすると男は席を立ち「帰ります」と会計を求めた。また来ると言って、約束通り次の週にやってきた。
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