無垢で透明

はぎわら歓

文字の大きさ
上 下
6 / 11

6 若い男

しおりを挟む
 副業を始めて五年で学資ローンを返済し終え、七年で預金額が二百万になった。

「もう二年は頑張らないと……」

 通帳を眺めながら真琴は肩をもむ。目標金額は三百万円だ。二十代のうちに達成しておきたかった。ダブルワークと質素な生活は規則正しく行われ、特に平穏な毎日が続き、三島浩一郎に似た若い男のこともすっかり忘れたころ、店に、その若い男がやってきた。
 がやがやと数人の中年の男たちの中に若い男が混じっていた。

「リカママー。うちの新人連れてきたやったぞー」
「あらあっ。嬉しいワ! うんとサービスしちゃうわね!」

 リカは三オクターブ高い声を作って男たちに笑顔を見せる。ボックス席が埋まり賑やかになった。今夜は平日ということもあり、おそらくこの客たちくらいで終るだろう。スタッフを総動員、とはいえ真琴、アキ、ジュンの三人で接客を始める。

「こんなに若いこが来てくれるなんて初めてじゃない?」
「ほおーんと、ピッチピチねえ」

 アキとジュンの若い男への食いつきっぷりに、周囲の男たちはいらだつこともなく同意する。

「だろう? アキちゃんが喜ぶと思ってさあー」
「いいのかなー? こんなとこ連れてきちゃってー」
「社会勉強だよー」

 若い男は緊張しているらしく、ちらちらを周囲を見ながらおとなしく座っている。あまり酒が得意ではないらしく、薄いジントニックをすこしづつ口に運んでいた。
 話し上手なアキとの会話を男たちは楽しみ、ノリの良くなってきた男の一人は、ホールでジュンと踊りだしている。

「こんなとこ平気?」

 真琴はポツンとし始めた、若い男に話しかける。

「平気」
「そう。よかった」
「そっちは平気?」

 彼がどういう意味でそう尋ねたのかわからなかったが真琴も「平気」と答えた。二人とも同じような口数の少なさだったが、逆にそれが居心地の良さにつながっていた。

 一月ほどすると、若い男が一人で店にやってきた。

「あらっ! また来てくれたのね! 気に入ってくれたのかしらー。どうぞ、どうぞー」

 大げさな立ち振る舞いと作った声でリカは男を招き入れる。

「誰がいいかなあー」

 アキは二人の客と座っている。

「あの、マコさんが……」
「あらっあ。マコちゃんがいいのね。あなた、若いのに玄人好みだわね!」

 真琴が席に呼ばれ、若い男に着くことになった。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは」
「飲み物は?」
「弱いやつならなんでも……」
「ノンアルコールにします?」
「いや。いちおうお酒で」

 やはり酒には強くないようだが、素面でここにいるのは居たたまれない気持ちになるのだろうか。真琴は薄いジントニックを頼むことにした。
 少しずつ会話をしていくうちに、彼はまだ大学四年生で、名前を知った。岩下葵と名乗ったのでやはり他人の空似らしく三島浩一郎とは関係がないようだ。前回はバイト先の社員たちに連れてこられたということだった。

「バイトって窓の清掃?」
「うん、そう」
「怖くない? 高いところ」
「なれたら平気。あのバイト、給料いいんだよね」
「そうなんだ」

 特に盛り上がることもなく淡々と時間を共有する。真琴は三島浩一郎と過ごした時間を思い出し、なんだか懐かしい気分を感じていた。 
 二時間ほどすると男は席を立ち「帰ります」と会計を求めた。また来ると言って、約束通り次の週にやってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙男女じぇねれーしょん

ムラハチ
青春
 見知らぬ街でセーラー服を着るはめになったほぼニートのおじさんが、『乙男女《おつとめ》じぇねれーしょん』というアイドルグループに加入し、神戸を舞台に事件に巻き込まれながらトップアイドルを目指す青春群像劇! 怪しいおじさん達の周りで巻き起こる少女誘拐事件、そして消えた3億円の行方は……。 小説家になろうは現在休止中。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

徹夜でレポート間に合わせて寝落ちしたら……

紫藤百零
大衆娯楽
トイレに間に合いませんでしたorz 徹夜で書き上げたレポートを提出し、そのまま眠りについた澪理。目覚めた時には尿意が限界ギリギリに。少しでも動けば漏らしてしまう大ピンチ! 望む場所はすぐ側なのになかなか辿り着けないジレンマ。 刻一刻と高まる尿意と戦う澪理の結末はいかに。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...