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2 少女時代
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小学生時代がオンラインゲームのおかげであっという間に終わり、星奈は中学に入学した。クラスメイトの半分は同じ小学校からの出身で大きく変わり映えはなかったが、自由な私服からブレザーの制服に代わると皆、とても大人っぽく見えた。特に星奈は身長が高めで、母の奈保子をすでに越している。まだまだあどけない顔つきではあるが母親と二人で歩く後ろ姿は大人二人に見えた。
部活動を考える時期がくるとバスケット部から「すぐレギュラーだよ」と声を掛けられたが星奈自身、スポーツが苦手ではないものの好戦的な性格ではないので断った。また試合などがあってもきっと家族が見に来てくれる余裕はないはずだと思い活動の盛んな運動部を避けた。実際には帰宅部でもよいと思っていたし、早く帰って『Knight Road』にログインして遊びたいくらいだった。しかし仲の良い月姫とミストが部活動には絶対した方がいいと言う。この一年の間に月姫とは家族よりも会話を交わしていた。出会ったときは女性だと思っていたが月姫は一つ年上の少年で二人の姉がいるらしい。たまに家族の愚痴を言い合うこともあった。キャラクターがウサギで女のせいか他のプレイヤーにも勘違いされることが多い。実際にもクラスメイトの男子と違い男臭さがなく優しくて中性的な印象なので女性と言われても違和感がない。心の中で星奈はこっそり『お姉ちゃん』だと思っている。ミストはあまり雑談をしないが月姫が絡んでいくと軽快で面白い。どうやら社会人のようだ。つかみどころのない人ではあるがプレイスキルが高く課金もしているようなのでゲーム内ではなかなか強い。オンラインゲームに接続することは星奈にとって友達に会いに行くことに近かった。
二人の好きなことをした方がいいと言う意見も取り入れ、消去法で考えた結果、週に三日活動する茶道部に入ることにした。これなら負担も少ないし美味しいお茶とお菓子もいただける。
家族に話すと反対する者は誰もいなかった。思った通り奈保子は自分にかかる負担が少ないことに安堵したようだ。修一は中学時代には水泳部に所属していた。喘息の改善のため幼いころからスイミングスクールに通い、その延長だったのだが、大会のたびの親の送迎、父母会、ママ友との付き合いに辟易していたようだ。そのことを大っぴらには話さないが奈保子は「女らしくていいわ」と星奈の選択を褒めた。兄の修一が「上手くなったら抹茶飲ませて」と言ってくれたので嬉しかった。父親の伸二はあまり関心がないようだが「三年間続けるんだぞ」と威厳をもって星奈に伝えた。
「星奈さんは道具の扱いが丁寧ねえ」
志野の茶碗を優しく茶巾で拭いていると茶道部の指導をしている池波静乃から声を掛けられた。
「あ、ありがとうございます」
星奈は恐縮して頭を下げた。
「ごくろうさま」
温和な声とほほ笑みを残して池波静乃はスッと音もなく部室を去っていった。
ほーっと息を吐いて緊張を解く星奈に同じく茶道部員の新田美優が軽く肩を叩く。
「おつかれっ。先生に褒められていいじゃん」
「ん。池波先生気配感じないからびっくりする」
「だねえー。なんか、忍者ぽい?」
「くのいちじゃない?」
「池波先生ってもう九十歳近いんだってさ」
「えっ。ほんと?せいぜい七十かと思ってた」
お茶の先生がいなくなり緊張が緩み星奈と美優は軽快になっていた。そこへ顧問の教師、岸谷京香がやってきて一喝する。
「こらっ、そこ。お話しするならもっと上品になさい」
星奈と美優は見合わせて「はーい」と返事をした。
茶道は全く経験がなかった星奈ではあるが他の部員も同様で気後れすることはなかった。感覚も似ているのだろうか、おっとりして競争意識も低く平和な部活動だった。指導に当たる池波静乃は高齢ではあるがいつも凛とした和服姿の背筋は美しかった。小柄で新入生よりも小さいのに存在感が大きく、彼女のオーラともいえる雰囲気は女子中学生でざわめいた茶室を一瞬にして静かな林のように変える。
「いい茶碗はね。見込みが深くて宇宙の様なのよ」
毎回なぞかけの様な不思議なことを教えられる。星奈も含め部員たちは教えを理解しているかと言えばおそらくしてはいない。お手前のやり方は覚えられても精神性まで理解するにはまだまだ先のことなのだろう。
それでも星奈は何か深淵なものに触れる気がして静乃の話を真剣に聞いた。自分の手の中の空っぽになった抹茶茶碗を見つめる。(ここに宇宙があるのかあ……。)
この町は海がない。県自体が海に接してないのだ。山に囲まれ少し狭い気がする。しかし星奈はインターネットの中に別の世界があり手のひらに宇宙があることを想い心が軽くなる気がした。
ネットゲームを始めて二年が経過したが正樹は器用にネットと現実世界を区別していて充実した毎日を送っている。
最近は同じクラスの女子から告白され付き合うことになり所謂『リア充』だ。それでも毎日『KR』に接続してゲームを楽しんでいる。
ギルドのメンバーはあれから入れ代わり立ち代わりで今は三十人ほどの大所帯になってきた。正樹は早くも古参と呼ばれる側になってきておりプレイスキルの高さやキャラクターの設定のためか人気が高かった。意識しているつもりはないが女と勘違いされているらしく男キャラから親切に扱われアイテムをもらうことや美味い狩りに誘ってもらうことも多かった。
今残っている初期ギルドメンバーは七人だ。ギルドマスターのKAZUは勿論のことミストと☆乙女☆もまだ残っている。さらにはミストと個人的な話もするようになっており、ネットでの友人とも言える存在になっていた。☆乙女☆もチャットや操作が上達していて、一緒にパーティを組むと素早く徹底した回復により安心して狩りができるようになっている。今がネットゲームの一番楽しい時かもしれない。
狩りの合間にミストと雑談をする。
月姫:そろそろ受験なんだよね
ミスト:心配?
月姫:ううん。ちゃんと行けるとこにいくつもり
ミスト:そか
ミスト:俺は転職考えてる
月姫:へーなにすんの?
ミスト:キコリw
月姫:なにそれw
ミスト:まああれだよ。好きな仕事しないとお金あっても辛いぞってこと
月姫:大人って大変だなw
ミスト:子供は子供で大変だけどなw
正樹はミストを兄のように感じていた。双子の姉達は過干渉でしつこく納得をしない人種だった。それに比べるとミストはちゃんと聞きたい答えをくれ、追及をしてこない。しかも知識も話題も豊富でネットで検索を掛けるよりもまずミストに聞こうと思うのだった。
月姫:さて何か狩りしに行くか
☆乙女☆:うん今日は一日できる^^
ミスト:俺はそろそろ落ちるよ
月姫:えー
☆乙女☆:;;
ミスト:ごめw午後からくるからwノ
ミストはログインしたばかりなのに話もそこそこにいきなりログアウトした。
☆乙女☆:忙しいのかな
月姫:いあwあれだよあれwレイアさんw
☆乙女☆:?
道具屋の前で新しくギルドに入ったヒーラーのレイアがうろうろしている。レイアは黒猫タイプで薄紫のローブをまとい孔雀の羽が散りばめられたような扇を持っている。ヒーラーと言うよりもダンサーのようだ。
レイアが近づいてきて話しかけてきた。
レイア:こん^^
月姫:こんです
☆乙女☆:こん^^
レイア:ミストさん落ちちゃった?
月姫:うん最近リア充みたいですよ
レイア:えーそうなのぉー
月姫:忙しくてあんまりインできないってさっき言って落ちました
レイア:あーあそうなんだーじゃ野良でもいってこよ
レイアは月姫と☆乙女☆には用がない様でさっさとメンバー募集をしている野良パーティに入っていった。
月姫:ミストはレイアから逃げてるんだよw
☆乙女☆:ああそうなんだー
ミストは狂戦士で前衛職だ。敵との戦いにおいては先頭を切って斬り込んでいく。課金によって装備が整っているせいもあるがプレイヤースキルが高く獣人国家の中でなかなか目立った存在になっていた。月姫も高いプレイヤースキルと容貌のおかげで一目置かれる存在である。『○○姫』という名前のキャラクターが何名かいるが通称『姫』と呼ばれるのは月姫のことだ。ただし中の人が男だと知らないものも多い。
つまりこの二人は『アンダーフロンティア』の二枚看板ともいえる。またこのギルドは解体するグループも多い中、メンバーの入れ替わりはあるものの最古の大手ギルドでもあるので入団希望者が一定数いる。そのうちヒーラーの女の大半はミストと狩りなり対人戦なりのパーティを組んでいくと終了したころには彼にべったりになる。ミストは単にゲームの都合上ヒーラーを守りながら戦っているだけなのだが、どうやらその行動は他の戦士たちと違い女性に勘違いを促す様だ。
☆乙女☆:ミストさんてもてるねえ
月姫:ps高いってのもあるけどさ
☆乙女☆:んープリに優しいよね
月姫:そりゃそうだよプリ死んだら終わりじゃんw
☆乙女☆:まあねえw
月姫:ミストは前衛だけど脳筋じゃないとこがいいよなw
☆乙女☆もレイアの気持ちがわからないでもなかった。ミストは好戦的であるのに冷静で落ち着いていた。ゲーム内のことも勿論よく知っているが月姫との雑談でもミストは博識さを嫌みなく感じさせる。☆乙女☆と月姫にとって兄のような存在で憧れるのは当たり前の大人の男性なのだ。レイアよりも☆乙女☆のほうが圧倒的にミストと親しいが☆乙女☆にはミストを宇宙の果ての星のような存在だと感じていた。
星奈が中学二年になると、また家庭の中に緊張感が生まれ始めた。兄の修一が大学を受験するためだ。修一の学力は難関高校の中でも安定していて、今の調子を崩さなければ希望する医学部への合格は間違いない、と言われているが、安心感があるわけではない。高校受験以上のプレッシャーを、母の奈保子が一番感じているようだ。
奈保子は修一が幼い時から病弱で、つきっきりになることも多く、専業主婦で家にずっといる。元々は銀行員で父の伸二とは職場結婚だ。修一が小学校に入学すると同時に、復帰を望んだが、結局かなわず集中力を修一に注ぐこととなった。完璧主義なところがあるので家事に手抜きはなく、本人も身綺麗だ。伸二や修一はこのこざっぱりとして清潔で快適な生活環境と綺麗な奈保子に全く不満はないだろう。放任気味で育った星奈にさえも不満はない。少しだけ、家族の輪の中から、片足がはみ出ているかもしれないと思う程度だ。修一の志望大学は県内にあり、おそらく家から通学する。医大生になり研修医になり――奈保子はサポートするつもりでいる。(いつまでこの生活が続くのだろう)星奈の素朴な疑問だ。物心ついたときから、ずっと同じ環境で同じ毎日を送っている気がする。星奈も来年、受験生だ。どこの高校に行くかはもう決めてある。そして変わることもなく変えられることもないだろう。感情が冷めていることも、何かを諦めているつもりもないが、自分には反抗期がなかったことに気が付いた。友人で同じ部活動仲間、新田美優は最近イライラすると言っていた。母親の言動にはむかつくし、父親の存在は不愉快らしい。
ベッドに寝ころんで薄いブルーのシーツの色を眺め、カーテンにも同じ色を認める。ブルーが好きな星奈はファブリックも洋服も小物の青や水色が多い。「あっ」と小さく短い声を出し、そういえば☆乙女☆をなぜピンクにしたのだろうかと考えた。もしかしたらあれが思春期唯一の葛藤と矛盾によるものだったのかもしれない。可愛くなりたかったのかもしれない。
星奈は丸顔で一重の丸い目が優しい印象を与えるが、すらっと背が高く可愛い女の子とは言い難い。頑張ることも恥ずかしくショートヘアだ。現実の星奈と違うコケティッシュな☆乙女☆はそれでも星奈自身なのだ。そのうちに兄の修一にも反抗期がないことに気づいた。彼は誰かに反抗するよりも、まず自分自身の克服に忙しかったのかもしれない。(お兄ちゃんがKRやるならどんなキャラにするだろう)修一が選ぶキャラクター、職業の選択を色々考察しているうちに眠りについていた。
月姫:こんー
☆乙女☆:こん^^
月姫:一人か
☆乙女☆:さっきまでミストさんいたけどね
月姫:そうか
月姫:ちょっと俺少しイン率下がるかも
☆乙女☆:えーミストさんもそんあこといってた
月姫:ああミストはなんか転職するとか言ってたな
☆乙女☆:そうなんだ
月姫:俺は受験w
☆乙女☆:姫勉強するんだw
月姫:いちおw
☆乙女☆:あたしは来年だ
月姫:じゃいち早く厨房おさらばw
☆乙女☆:w
ペアで狩りをする。
白い雪山がそびえる谷間で怪鳥ハーピー十沸きを範囲狩りするのだ。
月姫はばらばらとあちこちに飛び回るハーピーを一か所にまとめるべく、弱いが動きが鈍くなる持続魔法をかける。五匹ずつまとめあげ、その二組を一組にし強力な全体魔法を落とす。
始めたころはタイミングと距離を測ることが難しく、攻撃を受け瀕死になることもあり☆乙女☆は死なせまいと必死に回復魔法をかけていた。今ではかすり傷一つ追うことなくテンポの良い、レベリング的にも美味しい狩りができるようになっている。☆乙女☆は宝箱を拾うくらいしか作業がない。
☆乙女☆:うまいねえ
月姫:だろw
☆乙女☆:ミストさんもだけどみんなps高いね
月姫:乙女もなかなかだよw
☆乙女☆:かなあ
月姫:おうw真面目だしさw
☆乙女☆:死なせると気まずいからねw
月姫:この前ギルド入ったプリのアーシェなんか座ってるだけでしかもそのまま風呂行ってきますとか言い出したんだぞw
☆乙女☆:www
月姫:ムカついて城に戻してpt解除しといた
☆乙女☆:お疲れさまww
オンラインゲームは不特定多数の人といきなり話をしたり仲間になったり協力したりする不思議な世界だ。顔が見えない相手なのに言葉と行動で好き嫌いがはっきり分かれる。☆乙女☆は社交的ではないが誘われたら一緒に遊ぶしギルドメンバー以外で行われる寄せ集めのメンバーによる野良パーティーと呼ばれるものに参加することもある。職業的にヒーラーはパーティにとって必要不可欠なので誘われることが多いし頼りにされる。レベリングではモンスターと接近戦を行う戦士や格闘家と組むことが多く、遠隔射撃を行う魔法使いやアーチャーとはあまり関わらなかった。月姫の様な強くて上手な魔法使いが狩りでヒーラーを必要とすることはほぼなかった。それでも☆乙女☆が一人でいると経験値もドロップも良い、『美味しい狩り』に誘い出す。一人ではレベリングできない職業についてしまったが月姫のおかげで相当高いレベルになっていた。月姫がいなかったら、こんなに継続的にゲームをすることなどなかっただろう。現実でもいろいろ出会いはあるが彼との出会いはその中でもとても影響力のあるもののように感じる。
毛並みの良い銀白色のウサギは神秘的だ。(異世界だけど自分の世界だ)月姫の隣に並んだ少しばかり装備の整った☆乙女☆を眺めて人心地ついた。
高校受験も無事に終わり正樹は晴れて高校生となった。ごく普通に学校生活を送り、部活も引き続き水泳部に所属していた。特に目立った動きはないごく平凡な男子高校生として位置づけされていた。中学時代に付き合っていた彼女とは高校が違ってから顔を合わす機会も話す内容も乏しくなっていき別れた。まだ強い感情が伴った付き合いではなかったので悲しくはなかった。(いなきゃいないで困んないよな)
☆乙女☆:こん^^
月姫:こんちゃ
☆乙女☆:狩りいく?
月姫:いくいくいく
☆乙女☆は月姫に一番なついている。最初の頃のおどおどした雰囲気から明るく元気に楽しんでいる様子に正樹は安心していた。(ミストが兄貴ならこいつって妹って感じかな)現実では姉二人にやり込められる弟である正樹はこの三人の兄弟のような関係が好きだった。ただ☆乙女☆はミストに遠慮がちで月姫の後にくっついて恥じらっているような状況だった。ネット上にリアルを持ち込むことはないと割り切っている正樹だがミストと☆乙女☆は特別だ。
月姫:今年受験だっけ
☆乙女☆:うn
月姫:勉強してる?
☆乙女☆:ちゃんとやってるよw
月姫:そかw
☆乙女☆:親もあんまりうるさくないし
月姫:うちは姉貴がうるせーよw
☆乙女☆:うちの人はみんなお兄ちゃんに熱心だからさw
月姫;楽でいいじゃんw
☆乙女☆:ん
☆乙女☆はあまり家庭でかまってもらっていないのかもしれない。少し寂しそうな雰囲気もある。☆乙女☆がこのゲームを始めたのは兄のおさがりのパソコンをもらったときにお気に入りに残されていたアイコンが気になってクリックしたことがきっかけだったらしい。
この世界では☆乙女☆のような回復職は大事にされるし構ってもらえることも多い。元々引っ込み思案な性格のためか本人はあまりのめり込んだ様子はない。ただ自分がだれかに必要とされることは嬉しいことなのだろう。毎日短時間だがログインし続けている☆乙女☆の様子を見るとそう感じられた。
月姫:そろそろ飯だ
☆乙女:うちもそう
月姫:じゃまたなノ
☆乙女☆:^^ノ
部活動を考える時期がくるとバスケット部から「すぐレギュラーだよ」と声を掛けられたが星奈自身、スポーツが苦手ではないものの好戦的な性格ではないので断った。また試合などがあってもきっと家族が見に来てくれる余裕はないはずだと思い活動の盛んな運動部を避けた。実際には帰宅部でもよいと思っていたし、早く帰って『Knight Road』にログインして遊びたいくらいだった。しかし仲の良い月姫とミストが部活動には絶対した方がいいと言う。この一年の間に月姫とは家族よりも会話を交わしていた。出会ったときは女性だと思っていたが月姫は一つ年上の少年で二人の姉がいるらしい。たまに家族の愚痴を言い合うこともあった。キャラクターがウサギで女のせいか他のプレイヤーにも勘違いされることが多い。実際にもクラスメイトの男子と違い男臭さがなく優しくて中性的な印象なので女性と言われても違和感がない。心の中で星奈はこっそり『お姉ちゃん』だと思っている。ミストはあまり雑談をしないが月姫が絡んでいくと軽快で面白い。どうやら社会人のようだ。つかみどころのない人ではあるがプレイスキルが高く課金もしているようなのでゲーム内ではなかなか強い。オンラインゲームに接続することは星奈にとって友達に会いに行くことに近かった。
二人の好きなことをした方がいいと言う意見も取り入れ、消去法で考えた結果、週に三日活動する茶道部に入ることにした。これなら負担も少ないし美味しいお茶とお菓子もいただける。
家族に話すと反対する者は誰もいなかった。思った通り奈保子は自分にかかる負担が少ないことに安堵したようだ。修一は中学時代には水泳部に所属していた。喘息の改善のため幼いころからスイミングスクールに通い、その延長だったのだが、大会のたびの親の送迎、父母会、ママ友との付き合いに辟易していたようだ。そのことを大っぴらには話さないが奈保子は「女らしくていいわ」と星奈の選択を褒めた。兄の修一が「上手くなったら抹茶飲ませて」と言ってくれたので嬉しかった。父親の伸二はあまり関心がないようだが「三年間続けるんだぞ」と威厳をもって星奈に伝えた。
「星奈さんは道具の扱いが丁寧ねえ」
志野の茶碗を優しく茶巾で拭いていると茶道部の指導をしている池波静乃から声を掛けられた。
「あ、ありがとうございます」
星奈は恐縮して頭を下げた。
「ごくろうさま」
温和な声とほほ笑みを残して池波静乃はスッと音もなく部室を去っていった。
ほーっと息を吐いて緊張を解く星奈に同じく茶道部員の新田美優が軽く肩を叩く。
「おつかれっ。先生に褒められていいじゃん」
「ん。池波先生気配感じないからびっくりする」
「だねえー。なんか、忍者ぽい?」
「くのいちじゃない?」
「池波先生ってもう九十歳近いんだってさ」
「えっ。ほんと?せいぜい七十かと思ってた」
お茶の先生がいなくなり緊張が緩み星奈と美優は軽快になっていた。そこへ顧問の教師、岸谷京香がやってきて一喝する。
「こらっ、そこ。お話しするならもっと上品になさい」
星奈と美優は見合わせて「はーい」と返事をした。
茶道は全く経験がなかった星奈ではあるが他の部員も同様で気後れすることはなかった。感覚も似ているのだろうか、おっとりして競争意識も低く平和な部活動だった。指導に当たる池波静乃は高齢ではあるがいつも凛とした和服姿の背筋は美しかった。小柄で新入生よりも小さいのに存在感が大きく、彼女のオーラともいえる雰囲気は女子中学生でざわめいた茶室を一瞬にして静かな林のように変える。
「いい茶碗はね。見込みが深くて宇宙の様なのよ」
毎回なぞかけの様な不思議なことを教えられる。星奈も含め部員たちは教えを理解しているかと言えばおそらくしてはいない。お手前のやり方は覚えられても精神性まで理解するにはまだまだ先のことなのだろう。
それでも星奈は何か深淵なものに触れる気がして静乃の話を真剣に聞いた。自分の手の中の空っぽになった抹茶茶碗を見つめる。(ここに宇宙があるのかあ……。)
この町は海がない。県自体が海に接してないのだ。山に囲まれ少し狭い気がする。しかし星奈はインターネットの中に別の世界があり手のひらに宇宙があることを想い心が軽くなる気がした。
ネットゲームを始めて二年が経過したが正樹は器用にネットと現実世界を区別していて充実した毎日を送っている。
最近は同じクラスの女子から告白され付き合うことになり所謂『リア充』だ。それでも毎日『KR』に接続してゲームを楽しんでいる。
ギルドのメンバーはあれから入れ代わり立ち代わりで今は三十人ほどの大所帯になってきた。正樹は早くも古参と呼ばれる側になってきておりプレイスキルの高さやキャラクターの設定のためか人気が高かった。意識しているつもりはないが女と勘違いされているらしく男キャラから親切に扱われアイテムをもらうことや美味い狩りに誘ってもらうことも多かった。
今残っている初期ギルドメンバーは七人だ。ギルドマスターのKAZUは勿論のことミストと☆乙女☆もまだ残っている。さらにはミストと個人的な話もするようになっており、ネットでの友人とも言える存在になっていた。☆乙女☆もチャットや操作が上達していて、一緒にパーティを組むと素早く徹底した回復により安心して狩りができるようになっている。今がネットゲームの一番楽しい時かもしれない。
狩りの合間にミストと雑談をする。
月姫:そろそろ受験なんだよね
ミスト:心配?
月姫:ううん。ちゃんと行けるとこにいくつもり
ミスト:そか
ミスト:俺は転職考えてる
月姫:へーなにすんの?
ミスト:キコリw
月姫:なにそれw
ミスト:まああれだよ。好きな仕事しないとお金あっても辛いぞってこと
月姫:大人って大変だなw
ミスト:子供は子供で大変だけどなw
正樹はミストを兄のように感じていた。双子の姉達は過干渉でしつこく納得をしない人種だった。それに比べるとミストはちゃんと聞きたい答えをくれ、追及をしてこない。しかも知識も話題も豊富でネットで検索を掛けるよりもまずミストに聞こうと思うのだった。
月姫:さて何か狩りしに行くか
☆乙女☆:うん今日は一日できる^^
ミスト:俺はそろそろ落ちるよ
月姫:えー
☆乙女☆:;;
ミスト:ごめw午後からくるからwノ
ミストはログインしたばかりなのに話もそこそこにいきなりログアウトした。
☆乙女☆:忙しいのかな
月姫:いあwあれだよあれwレイアさんw
☆乙女☆:?
道具屋の前で新しくギルドに入ったヒーラーのレイアがうろうろしている。レイアは黒猫タイプで薄紫のローブをまとい孔雀の羽が散りばめられたような扇を持っている。ヒーラーと言うよりもダンサーのようだ。
レイアが近づいてきて話しかけてきた。
レイア:こん^^
月姫:こんです
☆乙女☆:こん^^
レイア:ミストさん落ちちゃった?
月姫:うん最近リア充みたいですよ
レイア:えーそうなのぉー
月姫:忙しくてあんまりインできないってさっき言って落ちました
レイア:あーあそうなんだーじゃ野良でもいってこよ
レイアは月姫と☆乙女☆には用がない様でさっさとメンバー募集をしている野良パーティに入っていった。
月姫:ミストはレイアから逃げてるんだよw
☆乙女☆:ああそうなんだー
ミストは狂戦士で前衛職だ。敵との戦いにおいては先頭を切って斬り込んでいく。課金によって装備が整っているせいもあるがプレイヤースキルが高く獣人国家の中でなかなか目立った存在になっていた。月姫も高いプレイヤースキルと容貌のおかげで一目置かれる存在である。『○○姫』という名前のキャラクターが何名かいるが通称『姫』と呼ばれるのは月姫のことだ。ただし中の人が男だと知らないものも多い。
つまりこの二人は『アンダーフロンティア』の二枚看板ともいえる。またこのギルドは解体するグループも多い中、メンバーの入れ替わりはあるものの最古の大手ギルドでもあるので入団希望者が一定数いる。そのうちヒーラーの女の大半はミストと狩りなり対人戦なりのパーティを組んでいくと終了したころには彼にべったりになる。ミストは単にゲームの都合上ヒーラーを守りながら戦っているだけなのだが、どうやらその行動は他の戦士たちと違い女性に勘違いを促す様だ。
☆乙女☆:ミストさんてもてるねえ
月姫:ps高いってのもあるけどさ
☆乙女☆:んープリに優しいよね
月姫:そりゃそうだよプリ死んだら終わりじゃんw
☆乙女☆:まあねえw
月姫:ミストは前衛だけど脳筋じゃないとこがいいよなw
☆乙女☆もレイアの気持ちがわからないでもなかった。ミストは好戦的であるのに冷静で落ち着いていた。ゲーム内のことも勿論よく知っているが月姫との雑談でもミストは博識さを嫌みなく感じさせる。☆乙女☆と月姫にとって兄のような存在で憧れるのは当たり前の大人の男性なのだ。レイアよりも☆乙女☆のほうが圧倒的にミストと親しいが☆乙女☆にはミストを宇宙の果ての星のような存在だと感じていた。
星奈が中学二年になると、また家庭の中に緊張感が生まれ始めた。兄の修一が大学を受験するためだ。修一の学力は難関高校の中でも安定していて、今の調子を崩さなければ希望する医学部への合格は間違いない、と言われているが、安心感があるわけではない。高校受験以上のプレッシャーを、母の奈保子が一番感じているようだ。
奈保子は修一が幼い時から病弱で、つきっきりになることも多く、専業主婦で家にずっといる。元々は銀行員で父の伸二とは職場結婚だ。修一が小学校に入学すると同時に、復帰を望んだが、結局かなわず集中力を修一に注ぐこととなった。完璧主義なところがあるので家事に手抜きはなく、本人も身綺麗だ。伸二や修一はこのこざっぱりとして清潔で快適な生活環境と綺麗な奈保子に全く不満はないだろう。放任気味で育った星奈にさえも不満はない。少しだけ、家族の輪の中から、片足がはみ出ているかもしれないと思う程度だ。修一の志望大学は県内にあり、おそらく家から通学する。医大生になり研修医になり――奈保子はサポートするつもりでいる。(いつまでこの生活が続くのだろう)星奈の素朴な疑問だ。物心ついたときから、ずっと同じ環境で同じ毎日を送っている気がする。星奈も来年、受験生だ。どこの高校に行くかはもう決めてある。そして変わることもなく変えられることもないだろう。感情が冷めていることも、何かを諦めているつもりもないが、自分には反抗期がなかったことに気が付いた。友人で同じ部活動仲間、新田美優は最近イライラすると言っていた。母親の言動にはむかつくし、父親の存在は不愉快らしい。
ベッドに寝ころんで薄いブルーのシーツの色を眺め、カーテンにも同じ色を認める。ブルーが好きな星奈はファブリックも洋服も小物の青や水色が多い。「あっ」と小さく短い声を出し、そういえば☆乙女☆をなぜピンクにしたのだろうかと考えた。もしかしたらあれが思春期唯一の葛藤と矛盾によるものだったのかもしれない。可愛くなりたかったのかもしれない。
星奈は丸顔で一重の丸い目が優しい印象を与えるが、すらっと背が高く可愛い女の子とは言い難い。頑張ることも恥ずかしくショートヘアだ。現実の星奈と違うコケティッシュな☆乙女☆はそれでも星奈自身なのだ。そのうちに兄の修一にも反抗期がないことに気づいた。彼は誰かに反抗するよりも、まず自分自身の克服に忙しかったのかもしれない。(お兄ちゃんがKRやるならどんなキャラにするだろう)修一が選ぶキャラクター、職業の選択を色々考察しているうちに眠りについていた。
月姫:こんー
☆乙女☆:こん^^
月姫:一人か
☆乙女☆:さっきまでミストさんいたけどね
月姫:そうか
月姫:ちょっと俺少しイン率下がるかも
☆乙女☆:えーミストさんもそんあこといってた
月姫:ああミストはなんか転職するとか言ってたな
☆乙女☆:そうなんだ
月姫:俺は受験w
☆乙女☆:姫勉強するんだw
月姫:いちおw
☆乙女☆:あたしは来年だ
月姫:じゃいち早く厨房おさらばw
☆乙女☆:w
ペアで狩りをする。
白い雪山がそびえる谷間で怪鳥ハーピー十沸きを範囲狩りするのだ。
月姫はばらばらとあちこちに飛び回るハーピーを一か所にまとめるべく、弱いが動きが鈍くなる持続魔法をかける。五匹ずつまとめあげ、その二組を一組にし強力な全体魔法を落とす。
始めたころはタイミングと距離を測ることが難しく、攻撃を受け瀕死になることもあり☆乙女☆は死なせまいと必死に回復魔法をかけていた。今ではかすり傷一つ追うことなくテンポの良い、レベリング的にも美味しい狩りができるようになっている。☆乙女☆は宝箱を拾うくらいしか作業がない。
☆乙女☆:うまいねえ
月姫:だろw
☆乙女☆:ミストさんもだけどみんなps高いね
月姫:乙女もなかなかだよw
☆乙女☆:かなあ
月姫:おうw真面目だしさw
☆乙女☆:死なせると気まずいからねw
月姫:この前ギルド入ったプリのアーシェなんか座ってるだけでしかもそのまま風呂行ってきますとか言い出したんだぞw
☆乙女☆:www
月姫:ムカついて城に戻してpt解除しといた
☆乙女☆:お疲れさまww
オンラインゲームは不特定多数の人といきなり話をしたり仲間になったり協力したりする不思議な世界だ。顔が見えない相手なのに言葉と行動で好き嫌いがはっきり分かれる。☆乙女☆は社交的ではないが誘われたら一緒に遊ぶしギルドメンバー以外で行われる寄せ集めのメンバーによる野良パーティーと呼ばれるものに参加することもある。職業的にヒーラーはパーティにとって必要不可欠なので誘われることが多いし頼りにされる。レベリングではモンスターと接近戦を行う戦士や格闘家と組むことが多く、遠隔射撃を行う魔法使いやアーチャーとはあまり関わらなかった。月姫の様な強くて上手な魔法使いが狩りでヒーラーを必要とすることはほぼなかった。それでも☆乙女☆が一人でいると経験値もドロップも良い、『美味しい狩り』に誘い出す。一人ではレベリングできない職業についてしまったが月姫のおかげで相当高いレベルになっていた。月姫がいなかったら、こんなに継続的にゲームをすることなどなかっただろう。現実でもいろいろ出会いはあるが彼との出会いはその中でもとても影響力のあるもののように感じる。
毛並みの良い銀白色のウサギは神秘的だ。(異世界だけど自分の世界だ)月姫の隣に並んだ少しばかり装備の整った☆乙女☆を眺めて人心地ついた。
高校受験も無事に終わり正樹は晴れて高校生となった。ごく普通に学校生活を送り、部活も引き続き水泳部に所属していた。特に目立った動きはないごく平凡な男子高校生として位置づけされていた。中学時代に付き合っていた彼女とは高校が違ってから顔を合わす機会も話す内容も乏しくなっていき別れた。まだ強い感情が伴った付き合いではなかったので悲しくはなかった。(いなきゃいないで困んないよな)
☆乙女☆:こん^^
月姫:こんちゃ
☆乙女☆:狩りいく?
月姫:いくいくいく
☆乙女☆は月姫に一番なついている。最初の頃のおどおどした雰囲気から明るく元気に楽しんでいる様子に正樹は安心していた。(ミストが兄貴ならこいつって妹って感じかな)現実では姉二人にやり込められる弟である正樹はこの三人の兄弟のような関係が好きだった。ただ☆乙女☆はミストに遠慮がちで月姫の後にくっついて恥じらっているような状況だった。ネット上にリアルを持ち込むことはないと割り切っている正樹だがミストと☆乙女☆は特別だ。
月姫:今年受験だっけ
☆乙女☆:うn
月姫:勉強してる?
☆乙女☆:ちゃんとやってるよw
月姫:そかw
☆乙女☆:親もあんまりうるさくないし
月姫:うちは姉貴がうるせーよw
☆乙女☆:うちの人はみんなお兄ちゃんに熱心だからさw
月姫;楽でいいじゃんw
☆乙女☆:ん
☆乙女☆はあまり家庭でかまってもらっていないのかもしれない。少し寂しそうな雰囲気もある。☆乙女☆がこのゲームを始めたのは兄のおさがりのパソコンをもらったときにお気に入りに残されていたアイコンが気になってクリックしたことがきっかけだったらしい。
この世界では☆乙女☆のような回復職は大事にされるし構ってもらえることも多い。元々引っ込み思案な性格のためか本人はあまりのめり込んだ様子はない。ただ自分がだれかに必要とされることは嬉しいことなのだろう。毎日短時間だがログインし続けている☆乙女☆の様子を見るとそう感じられた。
月姫:そろそろ飯だ
☆乙女:うちもそう
月姫:じゃまたなノ
☆乙女☆:^^ノ
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