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完結編
21 愛の記憶
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『レモントイズ』の地下室に全員集合した。8時だ。赤斗が説明を始める。
「この真ん中のカプセルに黒彦が入る。そして周囲は俺たちと桃香ちゃん」
記憶は研究所の爆発から始まり、逆ハーレムナイトを経て、シャドウファイブたちに恋人が出来、スタアシックスとして宇宙船に乗り込むまでだ。
「俺たちの記憶を黒彦に移すから、実感は薄いかもしれない。でも6人分集まればなんとかなると思う」
説明を受け黒彦は懸念する。
「お前たちの記憶も減るんだろう? いいのか」
「ちょっと減るだけだってー。もう記憶も薄れて来ちゃってるしさー。気にすんなよ」
白亜が気楽に応える。
「そうだ。これまでの出来事を何となく覚えているだけで構わない」
青音と緑丸も頷く。
「あ、でも桃ちゃんの記憶はあまり減らさないようにするからね」
優雅な黄雅に桃香は安心する。
「膨大なメモリーだから、無理のないように時間をかけるよ。終わるのは明日の朝だな」
「ダウンロードに12時間くらいか」
「寝て起きたら終わるってやつ」
「体調悪いとかないか?」
「平気平気」
「大丈夫です」
「よし! 設定はしている。それぞれのところに乗り込んでくれ。今回は誰もいないからカプセルの蓋を閉める」
「わかった」
「入ったら壁のボタンを押してくれ。全員が押すと蓋が閉まり、移行が始まる」
「よし」
カプセルは記憶を移す間、何があっても大丈夫なようにシェルター並みの強度を誇る。このまま宇宙に飛び出せるくらいの性能を持っている。
全員カプセルに入り、ボタンを押すとシューっと目の前を透明な蓋が覆う。いよいよ6人の記憶が黒彦に移され始めた。
黒彦の経験は、彼から聞いた話によって、出来事の再現は容易だ。爆発があり、孤独に陥り、怪人を作り憂さを晴らそうとした。
その感情は体験した本人しか感じられないものであろうが、そこは幼いころからの仲間たちのつながりによって十分カバーできた。
黒彦の話から感じる孤独、悲しみ、やるせなさ、憤りはシャドウファイブたちの共感と連帯感、思いやりにより構築される。
カプセルの中で黒彦は涙を流していた。
「みんな……。俺を置いて、行ったのか……」
負の感情はやがて桃香によって癒され、温かいものに変わっていくことも、彼らに構築することが出来た。それは彼らの恋人たちの存在も大きい。黒彦がみんなにも自分の幸せな気持ちを感じてほしいと、世話を焼き婚活させたことがこの結果に結びついたのだ。思いやりに満ちた彼らは愛することを知り、更にそれを与えることが出来る存在になっている。
黒彦の表情が和らいでいく。桃香との関係の記憶が構築されているからだ。
「ピンク……俺だけの……」
心臓の鼓動も呼吸も深く長く静かになる。
「きっと帰る……」
いつの間にか夜は開けている。外ではもう明るい日差しが町を照らしているだろう。プシューブーンと音がしカプセルの扉が開いた。
「ふわー! よく寝た」
「うーん」
扉が開いてから皆、次々と起き出す。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよう」
桃香も身体を起こしみんなに挨拶した。
「黒彦は?」
皆で中心を見る。黒彦は横たわったままのようだ。
「どうしたのかしら?」
桃香はカプセルから出て黒彦の元へ駆け寄る。中を覗き込むと黒彦は起きていて、桃香をじっと見た。
「よかったあ。起きてたんですね!」
「ん。おはよう。――いや、ただいま」
黒彦は身体を起こし、桃香の身体を抱きしめる。
「あ、ああ。記憶が――私が、私が分かるんですか!?」
「もう大丈夫だ。ピンクで店員で、そして俺の、一番愛する恋人だ」
「――!」
桃香は目の前が涙で滲み、喜びで声も出なかった。
起き上がったシャドウファイブたちが次々に祝福する。
「よかったな!」
「もう心配かけるなよ」
「記憶をコピー取っておくほうがいいんじゃないのか?」
照れ臭そうに黒彦は「すまなかった」と謝る。
「いいよいいよ。俺たちの仲だしな」
カプセルからみんな出て身体を伸ばし始める。気持ちも身体も晴れ晴れとしている。
「じゃ、後は適当に解散」
「うん」
「また、みんなでなんかやろうぜ」
「あ、ありがとうございました!」
桃香は立ち上がりぐしゃぐしゃの泣き顔で頭を下げた。
「いいんだよ、桃ちゃん」
「黒彦、ピンクを泣かすんじゃないぞ」
「ああ」
「そうそう。もう寝坊すんなよ!」
「分かった。肝に銘じる」
笑顔でみんなは帰っていった。
静かな地下室で黒彦と桃香は肩を寄せ合い、黙って喜びを噛みしめていた。
「お腹減ってないですか?」
「少し減ったかな」
「ご飯作りますね」
「うん」
2人は立ち上がり、地下室から地上に上がった。眩しい日の光に目を細める。手をつなぎ、明るい商店街を見渡しながら二人は仲良く『黒曜書店』へと戻っていった。
「この真ん中のカプセルに黒彦が入る。そして周囲は俺たちと桃香ちゃん」
記憶は研究所の爆発から始まり、逆ハーレムナイトを経て、シャドウファイブたちに恋人が出来、スタアシックスとして宇宙船に乗り込むまでだ。
「俺たちの記憶を黒彦に移すから、実感は薄いかもしれない。でも6人分集まればなんとかなると思う」
説明を受け黒彦は懸念する。
「お前たちの記憶も減るんだろう? いいのか」
「ちょっと減るだけだってー。もう記憶も薄れて来ちゃってるしさー。気にすんなよ」
白亜が気楽に応える。
「そうだ。これまでの出来事を何となく覚えているだけで構わない」
青音と緑丸も頷く。
「あ、でも桃ちゃんの記憶はあまり減らさないようにするからね」
優雅な黄雅に桃香は安心する。
「膨大なメモリーだから、無理のないように時間をかけるよ。終わるのは明日の朝だな」
「ダウンロードに12時間くらいか」
「寝て起きたら終わるってやつ」
「体調悪いとかないか?」
「平気平気」
「大丈夫です」
「よし! 設定はしている。それぞれのところに乗り込んでくれ。今回は誰もいないからカプセルの蓋を閉める」
「わかった」
「入ったら壁のボタンを押してくれ。全員が押すと蓋が閉まり、移行が始まる」
「よし」
カプセルは記憶を移す間、何があっても大丈夫なようにシェルター並みの強度を誇る。このまま宇宙に飛び出せるくらいの性能を持っている。
全員カプセルに入り、ボタンを押すとシューっと目の前を透明な蓋が覆う。いよいよ6人の記憶が黒彦に移され始めた。
黒彦の経験は、彼から聞いた話によって、出来事の再現は容易だ。爆発があり、孤独に陥り、怪人を作り憂さを晴らそうとした。
その感情は体験した本人しか感じられないものであろうが、そこは幼いころからの仲間たちのつながりによって十分カバーできた。
黒彦の話から感じる孤独、悲しみ、やるせなさ、憤りはシャドウファイブたちの共感と連帯感、思いやりにより構築される。
カプセルの中で黒彦は涙を流していた。
「みんな……。俺を置いて、行ったのか……」
負の感情はやがて桃香によって癒され、温かいものに変わっていくことも、彼らに構築することが出来た。それは彼らの恋人たちの存在も大きい。黒彦がみんなにも自分の幸せな気持ちを感じてほしいと、世話を焼き婚活させたことがこの結果に結びついたのだ。思いやりに満ちた彼らは愛することを知り、更にそれを与えることが出来る存在になっている。
黒彦の表情が和らいでいく。桃香との関係の記憶が構築されているからだ。
「ピンク……俺だけの……」
心臓の鼓動も呼吸も深く長く静かになる。
「きっと帰る……」
いつの間にか夜は開けている。外ではもう明るい日差しが町を照らしているだろう。プシューブーンと音がしカプセルの扉が開いた。
「ふわー! よく寝た」
「うーん」
扉が開いてから皆、次々と起き出す。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよう」
桃香も身体を起こしみんなに挨拶した。
「黒彦は?」
皆で中心を見る。黒彦は横たわったままのようだ。
「どうしたのかしら?」
桃香はカプセルから出て黒彦の元へ駆け寄る。中を覗き込むと黒彦は起きていて、桃香をじっと見た。
「よかったあ。起きてたんですね!」
「ん。おはよう。――いや、ただいま」
黒彦は身体を起こし、桃香の身体を抱きしめる。
「あ、ああ。記憶が――私が、私が分かるんですか!?」
「もう大丈夫だ。ピンクで店員で、そして俺の、一番愛する恋人だ」
「――!」
桃香は目の前が涙で滲み、喜びで声も出なかった。
起き上がったシャドウファイブたちが次々に祝福する。
「よかったな!」
「もう心配かけるなよ」
「記憶をコピー取っておくほうがいいんじゃないのか?」
照れ臭そうに黒彦は「すまなかった」と謝る。
「いいよいいよ。俺たちの仲だしな」
カプセルからみんな出て身体を伸ばし始める。気持ちも身体も晴れ晴れとしている。
「じゃ、後は適当に解散」
「うん」
「また、みんなでなんかやろうぜ」
「あ、ありがとうございました!」
桃香は立ち上がりぐしゃぐしゃの泣き顔で頭を下げた。
「いいんだよ、桃ちゃん」
「黒彦、ピンクを泣かすんじゃないぞ」
「ああ」
「そうそう。もう寝坊すんなよ!」
「分かった。肝に銘じる」
笑顔でみんなは帰っていった。
静かな地下室で黒彦と桃香は肩を寄せ合い、黙って喜びを噛みしめていた。
「お腹減ってないですか?」
「少し減ったかな」
「ご飯作りますね」
「うん」
2人は立ち上がり、地下室から地上に上がった。眩しい日の光に目を細める。手をつなぎ、明るい商店街を見渡しながら二人は仲良く『黒曜書店』へと戻っていった。
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