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完結編
7 あなたがいない間に
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老い先短いと弱気な様子を見せていた緑丸の祖父、高橋朱雀だったが、スタアシックスの旅立ちの時、力強い態度を見せる。
「町のことは何も心配することはないぞ。わしらがちゃんと守ってみせるからの。ふぉーっふぉっふぉ」
「どうしたんだ、じいさん、やけに張りきってるな」
「俺たちが宇宙に行くって話してから、なんだか元気良くて……」
「また変なこと考えてんじゃないの?」
「いいじゃない。元気で」
「でも、しばらくお願いするよ。町と、そしてみんなを」
朱雀は胸を張って答える。
「どーんと任せておけ。お前たちはしっかり任務を果たすんじゃぞ」
「うん。じゃ、行ってくる」
「気をつけてな」
笑顔で手を振る朱雀にスタアシックスのメンバーは「あれって絶対変なこと考えてるよな」と囁き合った。彼らの予想通り朱雀は次世代ハーレム戦隊をいよいよ発動させる時が来たと、意気揚々としていたのだ。
太極拳の教室が終わった後、朱雀はたまに町を巡回しようと提案する。
「いいかもしれないですね。最近シャドウファイブはこの町にもういないって噂されてるし」
「確かにちょっといかつい感じの人が増えてきた気がします」
平和な町ではあるが、スタアシックスが旅立ってから心配な点も増えている。
「公園のカップルも減ってる気がするー」
女性たちは恋人の不在で寂しさもあり、気を紛らわせたかった。
「じゃあ、ローテーションで町を見守ることにしようかの」
「さんせーい」
「あ、衣装どうします?」
「普段着? カンフー服?」
「下にバトルスーツ着る?」
「あ、そうだ。名前考えなきゃー」
華やかな女性たちの戦隊が結成されることになった。朱雀は『新ハーレム戦隊3レンジャー』と名前を提案したが却下された。
「なんじゃなんじゃ。今の若い娘は年寄りの言うことを聞かんのう!」
孫の母親たちはすんなり朱雀の言う通り『ハーレム戦隊3ブルカーン』と名乗ってくれたのにとブツブツ言った。それでも交代で2人の女の子と町をうろうろする事は楽しみだ。ちょうど衣装は人数分、ピンクシャドウのバトルスーツがある。
「なんか全員一緒って制服みたいですね」
「そうだなあ。下に着るものとはいえなあ」
「ちょっとピンク戦隊ってなんだかね……」
「ベースはこれにしても、みんな一緒だと悪者の雑魚みたいですよねえ」
「デコるしかないかなー」
ということで、バトルスーツをみんなで盛っていくことにした。生地が特殊な繊維なので加工に困難を極めるが、洋服の下に着込んで邪魔にならない程度につけ足していった。
「えーっと名前とかどうします?」
「戦隊名?」
「それもそうだけど、自分たちの名前? レッドシャドウみたいな」
「キャラ名ってやつですかあー」
「あった方がいいわよね。名乗るとき本名じゃあねえ」
「でも何とか戦隊ってちょっと男臭いわね」
盛り上がる女性たちを眺めながら朱雀は満足している。
「ええのう! わしも若返るわい!」
こうして戦隊名は『魔法の乙女たち クリーミーキュア』となった。個人名はそれぞれ果物の名前が添えられ、桃香はスィーツピーチ、茉莉はスィーツチェリー、理沙はスィーツプラム、ミサキはスィーツペア、優奈はスィーツベリー、菜々子はスィーツレモンとなっており、朱雀もスィーツドリアンと名乗ることにした。衣装はスカートと小さなスカーフの色で区別できるようになっている。
恋人たちのいない毎日は寂しかったが、町を巡回し、空を見上げて彼女たちは日常の平和を守り続けていた。
菜々子は会社をやめて黄雅の店『レモントイズ』で働いている。黄雅の両親はあまりこの町におらず、世界のおもちゃを探し求めて放浪しているのだ。年に数回、各国の珍しいおもちゃを持ち帰る。
――両親も不在であるので、黄雅はしばらく店を閉めようかと思っていたが、菜々子が店番をすると言う。
「会社辞めちゃってもいいの?」
「うん。もう人に使われるのはやだって思ってたしさ」
「菜々子さんがいいなら店、任せるよ。困ったら休業しててもいいよ」
「ほんとに困ったらね。でも、こういうお店はちゃんとあった方がいいと思うのよ。子供たちにさ」
「ありがとう」
菜々子に任せれば安心だと、笑顔で黄雅は旅立った。
奥に座らせた黄雅人形に菜々子は話しかける。
「おはよ。黄雅くん、今日もいい一日だと良いわね」
「そうだね。きっと素敵な一日になるよ」
誰もいないと思い、菜々子はそっと黄雅人形に口づけする。そして、はあっとため息をついた。
「この人形、顔だけなのよねえー。まあ受け答えちゃんとしてくれるけど」
人形の下半身辺りに視線を落とす。
「伊集院ケン君とは違うのよねー。まあいいけど。黄雅くんは柔道着はあんまり似合わないかな」
恋人がいない期間の方が長く、寂しいと思ったことはなかったが今なぜか寂しい。
「一人で生きてきたつもりだったんだけどなー」
菜々子のつぶやきに黄雅人形が反応する。
「人って字はさあ。支え合ってるんだよ」
「ふっ。そうね……。さーて仕事仕事!」
うっかり涙をこぼしかけたが、上を向いておもちゃの整頓を始めるのだった。
他のメンバーたちも商店街で忙しく働いていた。寂しくなったら空を見上げる。きらっと輝く光を見つけると、あれはスタアシックスかもしれないとじっと見つめた。
『黒曜書店』にイサベルが訪れる。彼女はこの町を訪れて彼女たちの様子を見に来ていた。
「モモカ。お元気?」
「あ、イサベルさん、こんにちは」
「クロヒコたちは順調よ。とくに心配はないワ」
「そうですか。よかった」
宇宙にいる彼らと交信できるのは地球防衛軍の本部だけで、その安否をイサベルは伝えにきてるのだ。
「わざわざ、ありがとうございます。ここに来るの大変じゃないですか? メールとか電話とかでもいいですけど」
「フフフッ。大丈夫よ」
一般人には非公開の組織なので、桃香には詳しいことは全く伝えられていない。どこにあるのか、どうやってここまで来ているのか全く謎だった。
「みんな元気そうね。クロヒコに伝えておくワネ」
「お願いします」
「クロヒコ人形はどこ?」
「今は奥に。夕方になったら一緒に店番するんですけど」
黒彦がいると、少しだけ売り上げが下がるのだった。
「じゃあ、今日はコレデ失礼するわ」
「あ、あの。イサベルさん!」
「ナニかしら」
「イサベルさんてそのー、黒彦さんのこと、どう思ってるんですか?」
「ドウって?」
「えーっと、その……」
以前、イサベルは黒彦の恋人だとか結婚するとか、黒彦本人は否定するが、赤斗や白亜から聞かされていたので桃香は気になっていた。
「ウフフッ。研究仲間ヨ? それ以上でもそれ以下でもないワ」
「そうですか」
イサベルはウエーブした黒髪をさっとかき上げて「じゃ、またネ」と店を後にした。そんな彼女の後姿を見ながら、やはり黒彦の事を好きなのではないかと思っている。家の中に入ると、人形であるのに存在感の強い黒彦が椅子に腰かけている。人形の重さは5キロ程度なので、等身大で大きいが女性でも持ち運びが可能だ。
誰も見ていないと思い、桃香はそっと黒彦人形に口づけし「早く帰ってきて」と呟いた。
「もうすぐだ。待っていろ」
自信満々の口調で黒彦人形は答える。
「ねえ。イサベルさんの事、どう思っています?」
桃香は人形なのに緊張して尋ねる。
「イサベル? 研究者としてはなかなかだ。観察力が鋭いしな」
「へえ……」
ある程度の人工知能と黒彦の性格や記録などが投影されているようで、受け答えはまともだ。
「あの、恋愛感情はないんですか?」
「ない」
「そうですか」
黒彦本人ではないのに思わず嬉しく思ってしまう桃香だったが、多少虚しい気もする。
「馬鹿だなー、私……」
人形は独り言には答えない。夜は人形を抱いて眠っている。誰も人形の扱いについては触れないが、みんな桃香と同じように人形に口づけ、一緒に眠っている。この人形のおかげで随分と助かっているのは事実だ。
眠っている間、寝言で愛を囁き、その囁きに人形が愛の言葉を囁き返していることは皆知らない。
「町のことは何も心配することはないぞ。わしらがちゃんと守ってみせるからの。ふぉーっふぉっふぉ」
「どうしたんだ、じいさん、やけに張りきってるな」
「俺たちが宇宙に行くって話してから、なんだか元気良くて……」
「また変なこと考えてんじゃないの?」
「いいじゃない。元気で」
「でも、しばらくお願いするよ。町と、そしてみんなを」
朱雀は胸を張って答える。
「どーんと任せておけ。お前たちはしっかり任務を果たすんじゃぞ」
「うん。じゃ、行ってくる」
「気をつけてな」
笑顔で手を振る朱雀にスタアシックスのメンバーは「あれって絶対変なこと考えてるよな」と囁き合った。彼らの予想通り朱雀は次世代ハーレム戦隊をいよいよ発動させる時が来たと、意気揚々としていたのだ。
太極拳の教室が終わった後、朱雀はたまに町を巡回しようと提案する。
「いいかもしれないですね。最近シャドウファイブはこの町にもういないって噂されてるし」
「確かにちょっといかつい感じの人が増えてきた気がします」
平和な町ではあるが、スタアシックスが旅立ってから心配な点も増えている。
「公園のカップルも減ってる気がするー」
女性たちは恋人の不在で寂しさもあり、気を紛らわせたかった。
「じゃあ、ローテーションで町を見守ることにしようかの」
「さんせーい」
「あ、衣装どうします?」
「普段着? カンフー服?」
「下にバトルスーツ着る?」
「あ、そうだ。名前考えなきゃー」
華やかな女性たちの戦隊が結成されることになった。朱雀は『新ハーレム戦隊3レンジャー』と名前を提案したが却下された。
「なんじゃなんじゃ。今の若い娘は年寄りの言うことを聞かんのう!」
孫の母親たちはすんなり朱雀の言う通り『ハーレム戦隊3ブルカーン』と名乗ってくれたのにとブツブツ言った。それでも交代で2人の女の子と町をうろうろする事は楽しみだ。ちょうど衣装は人数分、ピンクシャドウのバトルスーツがある。
「なんか全員一緒って制服みたいですね」
「そうだなあ。下に着るものとはいえなあ」
「ちょっとピンク戦隊ってなんだかね……」
「ベースはこれにしても、みんな一緒だと悪者の雑魚みたいですよねえ」
「デコるしかないかなー」
ということで、バトルスーツをみんなで盛っていくことにした。生地が特殊な繊維なので加工に困難を極めるが、洋服の下に着込んで邪魔にならない程度につけ足していった。
「えーっと名前とかどうします?」
「戦隊名?」
「それもそうだけど、自分たちの名前? レッドシャドウみたいな」
「キャラ名ってやつですかあー」
「あった方がいいわよね。名乗るとき本名じゃあねえ」
「でも何とか戦隊ってちょっと男臭いわね」
盛り上がる女性たちを眺めながら朱雀は満足している。
「ええのう! わしも若返るわい!」
こうして戦隊名は『魔法の乙女たち クリーミーキュア』となった。個人名はそれぞれ果物の名前が添えられ、桃香はスィーツピーチ、茉莉はスィーツチェリー、理沙はスィーツプラム、ミサキはスィーツペア、優奈はスィーツベリー、菜々子はスィーツレモンとなっており、朱雀もスィーツドリアンと名乗ることにした。衣装はスカートと小さなスカーフの色で区別できるようになっている。
恋人たちのいない毎日は寂しかったが、町を巡回し、空を見上げて彼女たちは日常の平和を守り続けていた。
菜々子は会社をやめて黄雅の店『レモントイズ』で働いている。黄雅の両親はあまりこの町におらず、世界のおもちゃを探し求めて放浪しているのだ。年に数回、各国の珍しいおもちゃを持ち帰る。
――両親も不在であるので、黄雅はしばらく店を閉めようかと思っていたが、菜々子が店番をすると言う。
「会社辞めちゃってもいいの?」
「うん。もう人に使われるのはやだって思ってたしさ」
「菜々子さんがいいなら店、任せるよ。困ったら休業しててもいいよ」
「ほんとに困ったらね。でも、こういうお店はちゃんとあった方がいいと思うのよ。子供たちにさ」
「ありがとう」
菜々子に任せれば安心だと、笑顔で黄雅は旅立った。
奥に座らせた黄雅人形に菜々子は話しかける。
「おはよ。黄雅くん、今日もいい一日だと良いわね」
「そうだね。きっと素敵な一日になるよ」
誰もいないと思い、菜々子はそっと黄雅人形に口づけする。そして、はあっとため息をついた。
「この人形、顔だけなのよねえー。まあ受け答えちゃんとしてくれるけど」
人形の下半身辺りに視線を落とす。
「伊集院ケン君とは違うのよねー。まあいいけど。黄雅くんは柔道着はあんまり似合わないかな」
恋人がいない期間の方が長く、寂しいと思ったことはなかったが今なぜか寂しい。
「一人で生きてきたつもりだったんだけどなー」
菜々子のつぶやきに黄雅人形が反応する。
「人って字はさあ。支え合ってるんだよ」
「ふっ。そうね……。さーて仕事仕事!」
うっかり涙をこぼしかけたが、上を向いておもちゃの整頓を始めるのだった。
他のメンバーたちも商店街で忙しく働いていた。寂しくなったら空を見上げる。きらっと輝く光を見つけると、あれはスタアシックスかもしれないとじっと見つめた。
『黒曜書店』にイサベルが訪れる。彼女はこの町を訪れて彼女たちの様子を見に来ていた。
「モモカ。お元気?」
「あ、イサベルさん、こんにちは」
「クロヒコたちは順調よ。とくに心配はないワ」
「そうですか。よかった」
宇宙にいる彼らと交信できるのは地球防衛軍の本部だけで、その安否をイサベルは伝えにきてるのだ。
「わざわざ、ありがとうございます。ここに来るの大変じゃないですか? メールとか電話とかでもいいですけど」
「フフフッ。大丈夫よ」
一般人には非公開の組織なので、桃香には詳しいことは全く伝えられていない。どこにあるのか、どうやってここまで来ているのか全く謎だった。
「みんな元気そうね。クロヒコに伝えておくワネ」
「お願いします」
「クロヒコ人形はどこ?」
「今は奥に。夕方になったら一緒に店番するんですけど」
黒彦がいると、少しだけ売り上げが下がるのだった。
「じゃあ、今日はコレデ失礼するわ」
「あ、あの。イサベルさん!」
「ナニかしら」
「イサベルさんてそのー、黒彦さんのこと、どう思ってるんですか?」
「ドウって?」
「えーっと、その……」
以前、イサベルは黒彦の恋人だとか結婚するとか、黒彦本人は否定するが、赤斗や白亜から聞かされていたので桃香は気になっていた。
「ウフフッ。研究仲間ヨ? それ以上でもそれ以下でもないワ」
「そうですか」
イサベルはウエーブした黒髪をさっとかき上げて「じゃ、またネ」と店を後にした。そんな彼女の後姿を見ながら、やはり黒彦の事を好きなのではないかと思っている。家の中に入ると、人形であるのに存在感の強い黒彦が椅子に腰かけている。人形の重さは5キロ程度なので、等身大で大きいが女性でも持ち運びが可能だ。
誰も見ていないと思い、桃香はそっと黒彦人形に口づけし「早く帰ってきて」と呟いた。
「もうすぐだ。待っていろ」
自信満々の口調で黒彦人形は答える。
「ねえ。イサベルさんの事、どう思っています?」
桃香は人形なのに緊張して尋ねる。
「イサベル? 研究者としてはなかなかだ。観察力が鋭いしな」
「へえ……」
ある程度の人工知能と黒彦の性格や記録などが投影されているようで、受け答えはまともだ。
「あの、恋愛感情はないんですか?」
「ない」
「そうですか」
黒彦本人ではないのに思わず嬉しく思ってしまう桃香だったが、多少虚しい気もする。
「馬鹿だなー、私……」
人形は独り言には答えない。夜は人形を抱いて眠っている。誰も人形の扱いについては触れないが、みんな桃香と同じように人形に口づけ、一緒に眠っている。この人形のおかげで随分と助かっているのは事実だ。
眠っている間、寝言で愛を囁き、その囁きに人形が愛の言葉を囁き返していることは皆知らない。
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