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完結編

2 前半戦

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 第一試合は緑丸と赤斗の戦いだった。長身ですらりとした赤斗とがっちりした緑丸の戦いは見ごたえがあるが、最近ふくよかになりつつある赤斗の完敗だった。



「だめだなー。運動不足だよ」

「ここのところ平和だしな」



 倒れた赤斗に緑丸は手を差し伸べ起こす。2人は拍手で見送られ退場した。



「やっぱり、緑丸くんだわねえ」

「あら、息子応援してなかったの?」

「うーん。赤斗はちょっとおっとりしてるし格闘家向きじゃないからねえ。主人に似てきたわ」

「まあまあ、それでもやっぱりカッコイイじゃない」



 母親たちは口々に感想を言い合っていた。







 第二試合の桃香と黄雅はあっという間に勝負がつく。桃香はシールドを身につけ善戦したが、黄雅にマリオネットのように踊らさているだけのようで体力を消耗する。



「あー、もうだめー。降参ですー」

「ああ、もう終わりにしちゃう?」

「え、あ、えーっと、どうしよ」



 少し紅潮した黄雅に言われると桃香は迷ったが、これは舞踏会ではなく武闘会なのだと思い直し競技台を降りた。理沙はため息をついている桃香の肩に手を置き「残念だったな」と労をねぎらう。



「いえー、全然でしたよー」

「そんなことはないぞ。ただ黄雅は前に戦ったことがあったが(もったいない怪人)前より強くなっている気がするなあ」

「あー、そうなんですかあ。じゃあ余計無理だなあ」

「これが終わったらまた鍛錬しような!」

「はい! あ、次黒彦さんだ」

「私も次の次だ。身体を温めておくか」



 理沙はゆるゆると身体を動かし始め、桃香は自動シャワー室でこざっぱりとさせたあと、見学する方へと回った。





 第三試合は黒彦と青音だ。黒彦の積極的な攻撃に、青音は受け一辺倒だ。



「どうした青音、もっと攻めてこい!」

「フフッ」



 イライラしてきた黒彦は早く決めようと大ぶりな水面蹴りを放った。



「はあっ!」



 これを待っていたとばかりに、青音は素早く軸になっている黒彦の足を払う。



「ぐっ!」

「もらった!」



 バランスを崩した黒彦の胸に突きを入れようとした瞬間、ぼわっと空間が歪む感覚があった。



「はああっ!」

「む、ぐ、く……。発勁……か」

「まさか初戦で使う羽目になるとは……」

「参った」



 苦戦を強いられたが黒彦の勝ちで終わる。





 一回戦の最後である第四試合は理沙対白亜だ。シャドウファイブのピンクシャドウであった白亜はあまり戦闘が得意ではないとみられがちだが、実際は敵のスキを突くことが上手く、正統派の理沙も翻弄されてしまう。



「フフッ、理沙ちゃんってやっぱり性格がまっすぐだからな」



 挙動が読まれることに理沙は焦りを感じる。



「まさか。こんなに強敵とは」

「とは言うものの」



 負けることはないが勝ちに行くための技も乏しいため、白亜もそろそろネタが尽きてしまう。



「ここからどうするかなあ」



 一瞬考えたところに、理沙の蹴りが入り場外へ落ちてしまった。



「うわっ、あ、だめだったか」

「いい試合だった。ありがとう」

「どういたしまして」



 白亜はいたずらっぽい瞳を向け「じゃ見学にまわるよ」と、まるで何事もなかったかのように立ち去った。理沙は呼吸を整えながら、まだまだ強い者がいるのだと気を引き締め直した。



 負けた選手たちはそれぞれの恋人たちのところへ向かい、アドバイスやら激励をして席に着いた。母親たちも試合を楽しんでるようだ。



「あたし、ワクワクするわ!」

「これからが、ほんとうのジゴクよ!」



 再開まで少しの休憩時間があり、二回戦が開始する。シーンと鎮まった会場に、ミサキと緑丸が現れた。





 第五試合であるミサキと緑丸はすぐに勝負がつくと思われたが、あと一歩のところで緑丸がミサキを攻めきれずにいた。



「やっぱり緑丸くん優しいわねー」

「手加減してるのねえ」

「あら、でもミサキちゃんもなかなかの上達ぶりじゃない」



 柔軟性の高いミサキは攻める力は弱いが、柳のようなしなやかさで素早い動きを見せる。危ないっと思うとその都度、緑丸はためらっている様子だ。

 白亜は「効いてる効いてる」とほくそ笑んだ。ミサキが勝てるとは思わないが随分撹乱したのち、緑丸の勝利となった。

 身綺麗になったミサキが「負けちゃいました~」と白亜の元にやってきた。



「いやあー、よくやったよ。緑丸相手に」

「いえーあんなに効果的とは思わなかったです」

「あははっ。もう少し修行すれば倒せるかもよ?」

「いえいえーそれは無理ですって」



 戦いがおわり和んでいるミサキと白亜だが、その陰で緑丸は翻弄された自分に落ち込んでいた。



「まさか……。方言に弱かったなんて……」



 戦いの最中、技を決めようとする瞬間、もちろん寸止めであるがミサキが言葉を発していた。



「あかーん」「堪忍なぁ」「やめでぐれー」「おえまー」「やめとーせ」「しごうしちゃらんにゃーいけん!」



 終わった戦いに反省は残ったが、今度理沙に何か方言を話してもらおうと気を取り直し、次の戦いに備えた。





 第六試合では唯一、恋人同士の戦いになる。菜々子と黄雅だ。桃香は二人を見つめながらさっき戦った黄雅が、菜々子と並ぶとより凛々しく感じられた。



「なんだか黄雅さん、一段と素敵になった気がするなあ」



 優雅な王子様風だった黄雅が凛々しい騎士のように見える。しかし菜々子の様子が少しおかしい。



「あれ? なんか顔が赤いし、足元ふらついてる……」



 心配も束の間、試合が開始されてしまった。

 恋人を攻撃しにくいのか黄雅の動きがぎこちない。菜々子は平然としているが怪しい動きをしている。会場もその怪しい二人に騒めいたがしばらくすると理由がわかった。菜々子は飲酒しているのだ。



「酔拳か……」



 青音のつぶやきで赤斗も「委員長さすがだな。そうきたか」と感心して言う。



「酔拳ですか?」

「うん。飲めば飲むほど強くなるって。委員長にしか使えそうにないな」

「あれじゃあ。黄雅もやりにくいだろうな」



 菜々子と同級生だった彼らは納得しているが、桃香には飲酒して戦うことは大丈夫なのかと心配しながら戦いを見守った。

 追い詰めるような黄雅に対し、毅然としながらもふらふらする菜々子との勝負の行方は、なかなか見えなかったが黄雅の勝利で終わる。



「う、なんか気持ち悪くなってきちゃった」

「えー、大丈夫ー?」

「あー、もうギブ、ギブ!」

「あらー」

「みんな、あたしに――お水、頂戴!」



 黄雅に背中をさすられながら菜々子は青い顔で退場した。





 第七試合は黒彦と優奈の戦いだ。優奈は武器に長い棍棒を選んでいる。どうやら間合いを取って戦うつもりのようだ。

 間合いを取った試合運びで黒彦は苦戦を強いられている。



「はっ! やぁ! 」

「くっ、小癪な! 」



 黒彦が余裕だと思っていた戦いだったが、優奈の棍棒使いがやけにうまく、攻撃に転じることが出来ずにいた。

 桃香が感心して声を上げる。



「優奈ちゃん、あんなに棍棒うまいんだー」

「彼女は仕事柄、護身術にも長けていて特に距離をとって戦うのが上手いんだ」



 青音は会場を見ながら説明した。



「へえー」



 桃香は優奈の技にも感心したが、鋭いクールな青音の眼差しが優しいことにも気づいた。



「ああ、でもやっぱり黒彦だろう」



 さすがに長い時間戦ったおかげで優奈は疲労し、降参した。優奈の善戦に皆で拍手を送った。





 第八試合では茉莉と理沙の女性同士の対決だ。女性にはバトルスーツのほかにアイテムや武器の使用を認められている。何か使うのだろうかと皆が見守っていると、茉莉がいきなり理沙の周りを素早く回り始めた。



「むっ! 」



 気が付くと何人もの茉莉が理沙を取り囲んでいた。



「残像拳か!」

「そうでーす」「そうでーす」「そうでーす」



 理沙は左足を軸にピボットして茉莉に対峙する。



「やあっ!」



 鋭い手刀が茉莉に放たれたが、手ごたえはなく空を切る。



「むっ!」

「そっちは残像でーす「そっちは残像でーす」「そっちは残像でーす」

「ちぃっ」



 理沙は呼吸を整え「ここだぁ!」と掌を茉莉の胸にあてる。



「きゃっ!」



 軽く後ろに茉莉が下がったと同時に、他の影も消えた。



「降参でーす」

「うむっ。素晴らしいスピードだった」

「ありがとうございましたー」

「あとは攻撃も覚えないとな」

「はーい」



 スポーツマンの茉莉は黒彦のアイテムによって、スピードはあげられたが攻撃までは手が回らなかった。

  こうして午前中はあっという間に終わり、昼を挟んで準決勝となる。
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