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イエローシャドウ 井上黄雅(いのうえ こうが)編

11 あなたの全て

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 今夜も健全なのか飲み友達なのか分からないデートが終了する。別れ際に菜々子は高橋朱雀のアドバイスを実行することにした。



「あのね、私、黄雅くんの事、全部知りたいと思ってるの。それと――私のことも全部知って欲しいの」

「菜々子さん……」



月明かりにぼんやりとノーブルな黄雅の顔が浮かんでいる。しんと静まりかえり風も止まり虫の音も聞こえない。まるで黄雅の返事を全てが待っているかのようだ。



「明後日休みだよね。じゃ明日の夜は菜々子さんの時間をもらうよ?」

「ええ。いいわ」

「じゃ、今夜はこれで」

「おやすみ」



ほっとして菜々子は黄雅に手を振り別れた。



 早めに仕事を切り上げて菜々子は『レモントイズ』に向かった。親子に穏やかに微笑む黄雅を遠くから見つめる。



「小学生の頃にはあんまり思わなかったけど……」



 異性として今頃意識し始めた菜々子は彼の体格の男らしさに気づく。



「菜々子さーん、おかえり」

「あ、た、ただいま」



意識し過ぎてぶっきら棒にあいさつする自分が子供っぽく感じられた。



「今日は早いんだね」

「あ、まあね」

「もうちょっと待ってて。食事いこうよ」

「ええ」



一晩一緒に過ごす夜になるはずだが、いつも通りの黄雅の様子に菜々子の緊張は解ける。しかし仕事帰りで着替えないままデートに突入なのかと思うと、これでいいのかとも思い始めた。

 帰って着替えようかと思ったが、帰ったところで似たようなスーツがあるだけだった。出張慣れしているのでコンパクトなビジネスバッグには一泊分の下着と洋服は用意されている。

 考えていると閉店時間になったようで黄雅が「おまたせ」と目の前にやってきた。



「赤斗んちでもいこっか。近いし」

「ええ、いいわ」



黄雅も『レモントイズ』の制服である黄色のトレーナのままだ。菜々子はいつも通りでいいかと立ち上がり彼の隣に並んだ。



『イタリアントマト』は混雑していたが待つことなく席に着くことが出来た。



「何飲む?」

「ん、じゃグラスワインで」

「デキャンタじゃなくていいの?」

「えーっと、いいわ」

「じゃあ俺も」



今日は飲み過ぎない方がいいだろうと菜々子は一杯だけにする。黄雅とグラスを鳴らし、ふっと見るとやはりこういうワイングラスは彼によく似合うと思った。



「黄雅くんはぐい呑みとかジョッキより、やっぱりワイングラスとかシャンパングラスとかの方が似合うわね」

「そう? 菜々子さんもそうだね」

「えー? そうかなあ」

「うん。キリッとして見えるよ」

「それはどうも」



褒められた気がしないが、深く突っ込まず食事を始める。



「安定の美味しさよね」

「うん。最近は茉莉ちゃんの影響もあって、もっと美味くなってるって評判だよー」

「へえ。そういえば昔より赤斗くん、丸くなった気がするわねえ」

「ははっ。ちょっと太ったってさ」



茉莉は赤斗のおかげでぐっと痩せたようだが、赤斗はどうやら幸せ太りらしい。いつか赤斗は彼の父親のように恰幅が良くなるんだろうと、菜々子は想像して笑んだ。

 食事に満足し、店を出るとすっかり夜の街に変わっていた。昼間とは違う活気があるが、道行く人々は穏やかな表情をしている。



「こっち帰ってきて正解だったかも。というか左遷されたんだけどさ」

「俺もそう思ってるよ」

「都会だと人は多いけど、殺伐としててみんな急いでるものね」

「ん」

「ああ、そうそう。シャドウファイブって舞踊戦隊がこの町を守ってるんですってね」

「舞踊、戦隊?」

「ええ。リーダーのレッドは陽気にサンバを踊るように銃を撃ち、ブルーはまるで日舞の扇子を使うような剣さばき。グリーンはまるで中国舞踊みたいでピンクはベリーダンサーのような腰つきですってねえ」

「そ、そんな風に見えるんだ……」

「一番イエローが優雅で、まるでワルツを踊るように敵に鞭をくれるって聞いたわ」

「うーん。それってどんな鞭使いなんだろう……」



他人から見ると色んな見え方があるのだと黄雅は改めて偏見を持ってはいけないと思った。



「ねえ。シャドウファイブって黄雅くんたちでしょ」

「えっ!?」

「だって他にそんな人たち居る?」

「よ、よくわかったね」

「わかるわよー。それくらい」



誰にも知られていないはずだが、菜々子には分っていたようで黄雅は驚くとともに安心感を得る。



「菜々子さんはなんでも分かるんだね」

「ほかに該当者いないだけよ。でもさすがね。町の平和を守っているなんて」

「ん。まあ色々あったしねえ」

「でも5人メンバーで、なんか一人余るわねえ」

「まあまあ、そこは適当で」

「そうね。ま、いっか」



細かく追及をしない菜々子に黄雅は改めて良かったと思う。もちろん、怪人騒動が黒彦の起こしたものだと知っても「大変だったわね」と言うだけだろう。



「じゃ、俺んちにまた行こう」

「え、ああ。いいわ」



2人でまたもと来た道を歩き、すでに閉まっている『レモントイズ』の店先に来ると「こっち」と黄雅が店の裏に案内する。

薄暗い店内の奥の床の扉を黄雅は開き、電気をつけた。



「地下室?」

「うん。今日の会場」



恐る恐る降りる菜々子の手を引き、階段を下りきる。



「へえ。広いのねえ」

「ここで色々やってるんだ」

「そうなんだー」

ぐるりとコンクリート打ちっぱなしの空間を菜々子は見渡す。角の方にドーム型のテントがある。

「あそこは何?」

「あれは今夜俺たちが過ごすところ」

「え?」



思わず菜々子が、黄雅の顔をみつめると、彼の端正な顔はいつもよりも真剣に見え緊張した。



「あ、っと、私、仕事帰りで汚れてるし、えーっと」

「大丈夫。ちゃんとシャワー室もあるから」



地下室ではスポーツもできる広さがある分、汗をかくこともあるので複数のシャワー室があるのだった。



「そう。それはよかったわ」

「こっちだよ」



テントの隣にシャワー室がある。



「じゃあ俺もシャワー浴びてくる」

「あ、うん」

「先に出たらそのテントの中、入ってて」

「わかったわ」



簡素なシャワー室だとばかり思っていると、足を踏み入れると大きな縦長のカプセルがあった。



「これに入るのかしら?」



裸体になり、ボタンを押してみるとシューっと音がして扉が開く。菜々子はそっと足を踏み入れる。するとまた扉が閉じた。



「えーっとお湯を出すのはどこなのかしら」



キョロキョロしていると四方八方から霧状のシャワーが身体中に降りかかる。しかもソープが混じっているようでカプセルの中は泡まみれになっている。



「なにこれ。全自動なの?」



泡立っているので菜々子はとりあえず、髪や肌を擦る。



「感心してる場合じゃないわよね」



ハッとして菜々子はデリケートゾーンも優しく洗い上げる。しばらくすると、また温水が噴霧され瞬く間に泡は流された。次に温風が吹き上がり、一気に身体は乾く。



「ふあー。なんかすごかったわね」



眼鏡をかけ肌を見るといつもよりツヤツヤしてしっとりしている。



「これこそ販売すれば大儲けじゃないの?」



設備に感心しながら洋服を入れたバスケットを見ると中身はなくなっている。



「げ、服がないわ。まさか洗濯されてるのかしら」



着替えの入ったバッグは、うっかり地下に降りる前に店内に置いてきてしまった。仕方なく菜々子はダッシュでテントに入った。

優しいクリーム色のテントの中は真綿のように柔らかく湿度も温度もちょうどよい。



「ふあふわしてるなあ」



少しだけ沈み込む柔らかいマットの上に菜々子はそっと横たわる。そこへやはり全裸の黄雅が入ってきた。



「おまたせ」

「え、いや、あの私も今来たとこ。服はどこかしら」

「ランドリーだよ。朝には出来上がっているから心配しないで」

「そういう心配はしてないんだけど……」



菜々子は眼鏡をかけただけで、お互いに一糸まとわぬ姿でいることに動揺してしまう。全自動シャワーの便利さに感心したが、タオルの一枚でもあった方が良かったと今は思う。



「菜々子さん、俺の事。知ってくれる?」

「え、ええ」



斜めに構え、自分の身体を見られないようにし、菜々子はちらちら黄雅を盗み見る。黄雅が菜々子のそばに来て彼女の両肩を持つ。

お互いの身体を向かい合わせにされた時、菜々子は目を閉じて黄雅の行為を待つ。



「目を開けて」

「え? 開けるの?」

「じゃあ、見てて」

「え……」



胡坐をかいた黄雅の立派な起立がいきなり菜々子の目に飛び込んできたように見えた。



「あ、あ、わ、わっ」

「ん。菜々子さんに見られてると、思うと、なんか早くイっちゃいそう――」



起立を黄雅はゆっくりと手で上下させ擦り上げる。



「ぜ、全部知るって、一体……」



何を見せられているのだろうと菜々子は頭が真っ白になった。状況の把握をしようと思うが今一つ頭が働かないのだ。しかし黄雅の手の動きと、彼の紅潮してくる嬉しそうで苦しそうな顔をじっと見てしまう。



「き、きもち、いいの?」

「う、ん。すご、く」



何を聞いているんだろうと思いながら、尋ねずにはいられなかった。



「あ、もう、駄目だ。な、菜々子さ、んっ、うっ、うっ、くっ――」



びゅっと菜々子の眼鏡に白濁液が掛かった。いつの間にか菜々子はものすごく近くで黄雅の自慰行為を見ていたのだ。



「ああ、ごめん。汚してしまって」



黄雅は優雅な手つきで菜々子の眼鏡をはずし、柔らかいウエットティッシュで拭きあげた。



「……」



どう反応していいのかわからない無言の菜々子に「どうだったかな俺」と黄雅は尋ねる。



「え、えっと、気持ちよさそうだったわね」

「うん、じゃあ今度は菜々子さんの番ね。眼鏡はこっちに置いておくかな」

「ええっ!? 私の番、って?」

「今度は菜々子さんの気持ちいいところ見せて」



少し汗ばみ紅潮した頬の黄雅からねだられて菜々子は困惑する。自慰行為をしたことはあるが人に見せたことはない。というか見せるものではない気がしている。



「全部知りたいんだ」



まさに背水の陣のような状況に菜々子は思考が停止する。しかし幼いころから優等生であった彼女は、誰かの期待に応えてしまうのだ。



「え、と。胸を揉んでみたらいいかしらね……」



真剣に見つめてくる黄雅にそれっぽいことを見せて何とかしようと、菜々子はとりあえず両胸を持ち揉んでみることにした。



「菜々子さんって結構着痩せするんだね」

「そ、そうでもないけど」

「そんな可愛らしい乳首なんだ」

「や、やだ、何言ってるの」



黄雅の言動に思わず胸を強く揉んでしまい、乳首をより突き出す形になってしまう。



「だめだな。見てると我慢できなくなる。舐めていい?」

「だ、だめよっ。見るだけなんでしょ?」

「えー」



いつの間にか最後まで任務の遂行をしなければと思い始めている菜々子だ。



「じゃ、乳首つまんで」

「こ、こうかしら、んんっ」

「くりくりねじってみて」



乳首を言われるままねじっていると下半身から抗えない欲望が湧いてくる。菜々子はそっと足の付け根に手を伸ばす。その一挙一動を黄雅は注意深く見守っている。



「もう少し脚開いて……」

「こう?」

「うん、綺麗だ。濡れて光ってる」

「だ、め、言わないで」



いつの間にかすっかり興奮してしまい、菜々子は自分で何をしているのか考えることはなく身体の快感を追求し始める。



「あ、き、きもち、いっ」

「その、尖ってるところ、ゆっくり擦ってみて」



指先で花芽を回転させながら擦っていると甘い疼きが身体を通り抜ける。



「あんっ、や、ゆ、指、とまん、ないっ!――ああんっ!」



ぶるるっと身体を震わせ絶頂を迎える菜々子に黄雅は荒い息で囁く。



「すごい、可愛かった……」

「こ、黄雅、くん……」



ゆっくりと黄雅の顔が近づいてきて菜々子の唇をそっと包み込む様に塞ぐ。ゆっくりと舌を絡めさせ蜜を交換し合うと甘い味がする。



「菜々子さん、俺、また、こんなになっちゃった」



菜々子の手をそっととり黄雅は熱く硬い起立を握らせる。



「あ、や、やだ」

「今度は菜々子さんと一緒に気持ち良くなりたい」

「う、うん」



すぐに挿入されると思ったが、黄雅は菜々子の耳の裏にキスをし、首筋に舌を這わせる。じれったい愛撫に菜々子は身体が疼き始める。



「も、もう、黄雅、くん……」

「もっとちゃんと知りたいんだ。菜々子さんの気持ちのいいところ」



一度達しているおかげで黄雅に余裕があった。

何度もキスをして指を絡め手を握り、やっと黄雅が菜々子の中に入ってくる。



「きゃあんっ」

「あー、すっごい気持ちいい……」



とろけてしまいそうな快感に菜々子は黄雅にしがみつく。



「あ、んっ、黄雅、くん、こんなに、逞しくなって、る」

「ん。もう男の子じゃないからね。ほらこんな事だってできるよ」

「ああんっ」



黄雅は軽々と菜々子の身体を持ち上げ、自分の身体の上に乗せ彼女の腰を持ち揺さぶる。下から突き上げられ菜々子はしがみつくしかなかった。



「こん、な、激しいと、テント壊れちゃう――」

「大丈夫だよ。これは特殊繊維で――」



このシェルター並みの強度を持つテントの説明は、もはや菜々子の耳には入っていなかった。







 気が付くと隣で寝息が聞こえている。はっと身体を起こすと昨晩のことが思い出され羞恥で顔が赤らむ。



「私が、まさか、あんなことしちゃうなんて」

「ん――おはよ」

「あ、お、おはよ」



目覚めたてなのに黄雅は絵に描いたように優雅な貴公子のようだ。菜々子の手の上にそっと手をのせ呟く。



「昨日は素敵だった……」

「ど、どうも……」



ロマンス映画のような状況だが菜々子は気のきいたセリフを思いつかなかった。



「最後まで見せてくれたのって菜々子さんだけだなー」

「え?」

「みんな途中でやめちゃうんだよねー」

「そ、そんな……」



やはり自慰行為を見せるのは一般的でないことがよくわかった。



「ありがとう。菜々子さんの事知れてすごく嬉しい」

「そりゃ、どうも」

「また、見せて?」

「――」



今度こそ断ってやろうと思うのだがキラッと光る笑顔を見せられると「お断りします!」とはさすがの菜々子でも言えないのであった。









黄雅編終わり
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