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イエローシャドウ 井上黄雅(いのうえ こうが)編

5 戦隊ごっこ

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 婚活パーティでカップルとなった女性と早速ランチの約束をする。希望を聞くと赤斗の店『イタリアントマト』がいいというので、黄雅は一応予約の電話をかけた。



「こんにちは。黄雅です」

「あら! 黄雅ちゃん、こんにちは」



電話に出たのは赤斗の母親のあつ子だ。朗らかで明るい声は赤斗に感じがよく似ている。



「明日ってランチの予約できますか? 二人なんですけど」

「うふふっ。聞いたわよ~。デートね!?」

「ええ、まあ」

「奥の方の席用意しとくわね。料理はどうする?」

「うーん。明日見て考えます」

「そうね! それがいいわね!」

「ははっ、おばさんご機嫌ですね。いつもだけど」

「あらっ、そうかしら。まあ赤斗に良い恋人も出来たし、お店もいい感じだからちょっとおばさん、浮かれちゃってるかも」

「そっか。赤斗も嬉しそうにしてるもんね」

「うふふっ。いよいよ黄雅ちゃんの番ね! どんな女の子連れてくるのかおばさん、楽しみだわ!」

「あんまり期待しないで。まだ初デートだから」

「うん、そうね。とにかく明日はがんばってね」

「ありがとう。赤斗にもよろしく伝えてください」

「うんうん。またね」



電話を切り、ふぅっと黄雅はため息をつく。



「おばさん上機嫌だなあ。俺も頑張るか」



とりあえず、デートはランチをして公園で休んだら最寄りの駅に送る。黒彦から初デートは昼間、2時間くらいで済ませるよう指示されている。



「婚活もなかなかマニュアルがあるものだなー」



性格的に穏やかな黄雅は白亜のように、『なんでだよ?』などと反応も反発もせず受け入れる。それでも久しぶりのデートに心が浮かれてはいた。







 スマートに食事を終えて、黄雅は彼女と公園のベンチに腰掛ける。初デートには心地よい緊張感がある。



「萌香さん、イタリアントマトはどうでした?」

「ええ。流行りのお店だけあっていい感じでしたね。美味しかったし」

「よかった」



のんびりしている雰囲気と好き嫌いがあまりなく、名前もよく似ているので黄雅は桃香を思い出す。この公園で初めて桃香と出会ったのだなあと噴水を眺めた。



そこへ「ムッキムキ怪人だぞー!」と声が聞こえた。



「え? ムッキムキ怪人?」



更に「シャドウファイブ登場!」と声が上がる。



「やだあ。かわいいー」



萌香の視線の先には、赤、青、黄、緑、ピンクのシャツを着た小学生が並んでいて、対峙しているのは大人のジャンバーを着た怪人役の子供だった。



「戦隊ごっこかあ」



シャドウファイブとムッキムキ怪人の戦いの行方を見守る。子供たちはおもちゃの武器を片手に、パンチを繰り広げたり蹴りを放ったりとなかなか見ごたえのある動きをする。一人戦いには参加しない子供がいる。ピンクだ。手にポンポンを持って応援しているようだ。やがてムッキムキ怪人役の子供が「参ったー!」というと、戦いは終わりを告げる。



「みんなはみんなのために!」



万歳しながら子供たちは叫んでいた。しばらく話し合ったのち、子供たちは満足そうに公園を出て行った。黄雅はもう活動をしないシャドウファイブが忘れられることなく、子供たちに演じられていることが嬉しかった。 



「かわいいですねー」

「だね」

「あたしはシャドウファイブには会ったことないけど、友達が中身相当イケメンだよーって言ってました」

「そうなんだね。でもマスクしてたら実際わかんないよね」

「ですねえ。でも町の平和はシャドウファイブのおかげですから」



嬉しい気持ちが沸いている黄雅に萌香は続ける。その言葉は今までの明るい気持ちを暗く沈ませる。



「でもピンクシャドウだけはイマイチですよねー。さっきのピンク役の子もそうだけど。何もしなくてチヤホヤされている感じ?」

「そう? 応援頑張ってたし、ピンクもちゃんと戦ってるんじゃないのかなあ」

「どうかなあー。他のシャドウファイブが強いんだし、たぶんピンクってお飾りですよ」

「萌香さんがもしピンクシャドウにならない?って誘われたらどうする?」

「えー、あたしですかあ。そうだなあ。メンバーがほんとにイケメンだったら入るかな。くすっ」

「そっかあ」



「そうだ。実はあたし婚活の唯一譲れない条件があるんです」

「そうなの?」

「絶対顔がかっこよくないとヤなんです」

「か、顔なんだ。なんか珍しいね」

「そうかもしれないですね。みんな年収気にしてるし。でもほら生まれてくる子供のこと考えたら、あたしは顔だと思ってます!」



自信満々に萌香は顔が一番の理由を主張する。説明はあまり頭に入って来ず、自分が婚活で顔で選ばれたのかと、不思議な気持ちでいた。今までの恋の相手から、そういう選ばれ方をされてきた事は否定しない。ただ多少残念な気持ちになる。



「黄雅さんみたいなとびきりのイケメンに出会えるなんて、やっぱり商店街の企画婚活って評判通りでしたね」

「あ、ありがとう」



黒彦の婚活企画が評価が高い様なので、そこは少し嬉しい。しかしどう会話をすればよいのか困惑はじめたとき「あ、もうこんな時間!」と萌香はベンチから立ち上がる。



「忙しかった?」

「これからお友達たちと女子会なんですよー」

「そっか。じゃあ駅まで送るよ」

「ありがとうございまーす」



並んで歩く二人を道行く人がチラチラ盗み見ている。主に女性が黄雅を見ているのだ。機嫌よく手を振り去って行く萌香に、手を振り返し黄雅は足取り重く踵を返した。



 帰り道また公園を通りががると、ベンチで足を組み頭を抱えている女性がいた。



「いいんー、じゃない菜々子さんっ」

「あ、黄雅くんじゃない。どうしたの? こんなとこで」

「それはこっちの台詞でもあるよ。俺はデートで彼女を送った帰り」

「あら、奇遇ね。私も同じよ」

「その割になんかあれだね。頭でも痛いの?」

「いやー、それがねえ……」



気安い黄雅に菜々子は婚活相手の事を話し始める。



「彼ってば、ちょっと考えが古いというか決めつけっていうか。結婚したら家庭に入って欲しいって言うのよ」

「ふんふん」

「まあそれはそれでいいと思うわよ? それが望みの人がいるからね。でもさあ。ちょっと感じ悪いのよねえ。さっきここで戦隊ごっこしてた子供たちがいたんだけど」



黄雅はまるでデジャブかなと思った。

話を聞いていると男はピンクシャドウを相当けなしたようだ。



「紅一点なんてふしだらですって。理想は男が1人で女が複数だなんていうのよ? それってハーレムじゃない?」

「そ、そうだね」

「ハーレムは男の夢ってのは理解できるけど逆ハーの何が悪いのよ。ねえ?」

「うん。お互いが納得してたら別にいいかな」



もしも桃香が黒彦を選ばず、逆ハーレムのような状況だったらどうだろうかと考える。黄雅はそれでも、彼女と他のメンバーに不満がなければ受け入れているだろう。



「ああ、誤解しないでね。私は逆ハー望んでるんじゃないから」



きりっとした表情を見せる菜々子に、やっと黄雅は明るい笑顔を見せた。



「黄雅くんもなんか暗いわね。デートで気合入れすぎ? いや、あなたが気合入れるって見たことなかったわね」

「はははっ。久しぶりだったから緊張しただけ。菜々子さんに会って緊張も解けたよ」

「なによ。まあ、私もそうだわね」



和んだところで黄雅は思い出したように『もみの木接骨院』の話をした。



「ああ、黒彦くんのとなりに見たことあるおじいさんが居たと思った」

「なかなか評判いいよ。疲れたら緑丸に電気治療してもらうといいよ」

「へえー。緑丸くんが継いでるのねえ」

「おじいさんも現役だけど」

「ああ、あのクールなおじいさんね」

「え? クール?」

「うん。学生時代よく膝見てもらってたけど渋いおじいさんだったわね」

「渋かったの?」

「? そうよ?」



2人の高橋朱雀に対するイメージが違い過ぎて別人の話をしているようだった。



「今度の行ってみるわ。じゃ、またね」

「うん、またね」



菜々子と会ってリラックスした黄雅は今度は足取り軽く帰宅した。
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