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イエローシャドウ 井上黄雅(いのうえ こうが)編
4 結果
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帰宅した黒彦の表情を見ても、黄雅が上手くいったのかどうかわかりにくい。前回と前々回のように苦虫を噛み潰したような顔をしてはいないが、明るい表情でもない。
「どうでした? 今日は」
「んー。まあまあ」
「まあまあ……。黄雅さんは?」
「成立した」
「なんだ! よかったじゃないですか!」
「まあ、そうだな」
「どうしたんです? そんなに嬉しそうにないですねえ」
「うーん。ちょっと思惑が外れた」
「ああ、菜々子さんとくっつけたかったんですよね。違う人とカップルになりました?」
「そうだ。まあ二人とも成立したからいいか」
「そうですよ。それが目的だったんだもの」
「そうだな」
少し和んだ黒彦に、桃香は食卓へ着かせる。そして今日の婚活パーティの様子を聞いた。今回の成立は15組だった。高い成立率に桃香は驚く。
「すごいですねえ! いつも黒彦さんの企画の婚活パーティは成立率高い気がしますけど」
「うん。緑丸のじじいもびっくりしてた」
「縁結びの神社なんですか?」
「さあなあ」
「で、黄雅さんはどんな人とカップルになりました?」
ワクワクして聞いてくる桃香に、相手の雰囲気が桃香に似ていると言うのは、少し癪だと思い黒彦は言葉を濁す。
「んー、どうだっけかなあ。まあ、優しそうな感じかな」
「ふーん。なんかざっくりした感想ですねえ」
「人数が多かったしな」
「まあ、そのうち会えますね」
「そうだな」
黄雅の相手はふわっと軽いセミロングの明るい色の髪で、やはり柔らかいふんわりとした薄いピンクのワンピースを着ていた。強い印象は残っていないが、黄雅と並ぶと初々しい明るいカップルに見えて微笑ましい。
桃香が黄雅と並ぶとああいう雰囲気なのかと、黒彦は勝手に想像して嫉妬した。出会った頃からそうだったが、黒彦が思う桃香と、他の友人たちが思う桃香像が何だか違う気がする。
黒彦にしてみると彼女は結構はっきりものを言い、怒る。友人たちは彼女を穏やかでたおやかで忍耐強いと思っている節がある。
自分が桃香をきつい性格にしているのだろうかと、考えないでもない。
ベッドで無口になっている黒彦に、桃香は黄雅のことが気になっているのかと尋ねた。
「やっぱり菜々子さんがよかったんですか?」
「ん? いや、それはもういい」
「考え事ですか? なら邪魔しないですけど」
「ん、んん……」
「へんな黒彦さん」
ふふっと笑う桃香に黒彦は自信なさげに尋ねる。
「もし俺と婚活パーティで出会ってたらどうする?」
「え? 黒彦さんと婚活パーティで? うーん」
会場が『イタリアントマト』で、ワインとチーズを楽しむ婚活の場合を想像してみる。桃香はワインが特別好きというわけでないので、おそらくフルボディのところにはいない。黒彦は逆に濃厚なほうにいそうだ。たこ焼の場合どうだろう。黒彦は黙々と焼け具合などを観察している気がする。桃香は和気あいあいと焼いてしゃべって食べているだろう。今回の神社での婚活はまず、自己紹介のカードを見て、合わないと思ってしまいそうだ。
「なんか婚活じゃあ、黒彦さんのこと分からないまま終わってしまいそう」
「そうか……」
寂し気な表情をする黒彦が桃香には不思議だ。
「黒彦さんこそ、私なんか選ばないと思いますよー」
「なんでだ」
「だって、私は平凡だもん。今日みたいに25人も女性がいたら、まったく印象に残らないと思いますよ?」
「そんなことは……」
確かに強い印象を残す外見でも、押しの強い積極的な性格でもない桃香はすれ違う他人で終わるかもしれなかった。
「だから、本当は出会えなかった黒彦さんと、こうして出会えてすごくラッキーだって思ってます」
「ん、そうだな」
怪人騒動やらシャドウファイブの活動やら大変なことがあったが、過ぎてしまえば良い思い出だった。
「ちょっと過激な出会いでしたけどね」
「だからかな。普通の出会いでお前と会ってみたかった気がした」
「黒彦さん……」
桃香の身体の上で、彼女の髪を撫でつけながら黒彦はつぶやいた。自然に降りてくる彼に、桃香は目を閉じて口づけを受け取る。
そのまま無駄に言葉はなく、全身に黒彦の愛撫を受ける。快感に喘ぐ中、黒彦は黙々と観察と実行を続けている。やがて、じんわりと汗ばみ苦し気で嬉しそうな表情の黒彦が、自分の身体に雪崩れ込んでくるとき、えも言われぬ幸せを感じる。
汗を拭き、布団を軽く整えまどろむ中、桃香は黒彦とどんな出会い方をしても、こうやって彼の言葉や愛撫に身も心も溺れるんだろうと思った。そして今の平凡でささやかな毎日を大事にしていきたいと願っている。
「どうでした? 今日は」
「んー。まあまあ」
「まあまあ……。黄雅さんは?」
「成立した」
「なんだ! よかったじゃないですか!」
「まあ、そうだな」
「どうしたんです? そんなに嬉しそうにないですねえ」
「うーん。ちょっと思惑が外れた」
「ああ、菜々子さんとくっつけたかったんですよね。違う人とカップルになりました?」
「そうだ。まあ二人とも成立したからいいか」
「そうですよ。それが目的だったんだもの」
「そうだな」
少し和んだ黒彦に、桃香は食卓へ着かせる。そして今日の婚活パーティの様子を聞いた。今回の成立は15組だった。高い成立率に桃香は驚く。
「すごいですねえ! いつも黒彦さんの企画の婚活パーティは成立率高い気がしますけど」
「うん。緑丸のじじいもびっくりしてた」
「縁結びの神社なんですか?」
「さあなあ」
「で、黄雅さんはどんな人とカップルになりました?」
ワクワクして聞いてくる桃香に、相手の雰囲気が桃香に似ていると言うのは、少し癪だと思い黒彦は言葉を濁す。
「んー、どうだっけかなあ。まあ、優しそうな感じかな」
「ふーん。なんかざっくりした感想ですねえ」
「人数が多かったしな」
「まあ、そのうち会えますね」
「そうだな」
黄雅の相手はふわっと軽いセミロングの明るい色の髪で、やはり柔らかいふんわりとした薄いピンクのワンピースを着ていた。強い印象は残っていないが、黄雅と並ぶと初々しい明るいカップルに見えて微笑ましい。
桃香が黄雅と並ぶとああいう雰囲気なのかと、黒彦は勝手に想像して嫉妬した。出会った頃からそうだったが、黒彦が思う桃香と、他の友人たちが思う桃香像が何だか違う気がする。
黒彦にしてみると彼女は結構はっきりものを言い、怒る。友人たちは彼女を穏やかでたおやかで忍耐強いと思っている節がある。
自分が桃香をきつい性格にしているのだろうかと、考えないでもない。
ベッドで無口になっている黒彦に、桃香は黄雅のことが気になっているのかと尋ねた。
「やっぱり菜々子さんがよかったんですか?」
「ん? いや、それはもういい」
「考え事ですか? なら邪魔しないですけど」
「ん、んん……」
「へんな黒彦さん」
ふふっと笑う桃香に黒彦は自信なさげに尋ねる。
「もし俺と婚活パーティで出会ってたらどうする?」
「え? 黒彦さんと婚活パーティで? うーん」
会場が『イタリアントマト』で、ワインとチーズを楽しむ婚活の場合を想像してみる。桃香はワインが特別好きというわけでないので、おそらくフルボディのところにはいない。黒彦は逆に濃厚なほうにいそうだ。たこ焼の場合どうだろう。黒彦は黙々と焼け具合などを観察している気がする。桃香は和気あいあいと焼いてしゃべって食べているだろう。今回の神社での婚活はまず、自己紹介のカードを見て、合わないと思ってしまいそうだ。
「なんか婚活じゃあ、黒彦さんのこと分からないまま終わってしまいそう」
「そうか……」
寂し気な表情をする黒彦が桃香には不思議だ。
「黒彦さんこそ、私なんか選ばないと思いますよー」
「なんでだ」
「だって、私は平凡だもん。今日みたいに25人も女性がいたら、まったく印象に残らないと思いますよ?」
「そんなことは……」
確かに強い印象を残す外見でも、押しの強い積極的な性格でもない桃香はすれ違う他人で終わるかもしれなかった。
「だから、本当は出会えなかった黒彦さんと、こうして出会えてすごくラッキーだって思ってます」
「ん、そうだな」
怪人騒動やらシャドウファイブの活動やら大変なことがあったが、過ぎてしまえば良い思い出だった。
「ちょっと過激な出会いでしたけどね」
「だからかな。普通の出会いでお前と会ってみたかった気がした」
「黒彦さん……」
桃香の身体の上で、彼女の髪を撫でつけながら黒彦はつぶやいた。自然に降りてくる彼に、桃香は目を閉じて口づけを受け取る。
そのまま無駄に言葉はなく、全身に黒彦の愛撫を受ける。快感に喘ぐ中、黒彦は黙々と観察と実行を続けている。やがて、じんわりと汗ばみ苦し気で嬉しそうな表情の黒彦が、自分の身体に雪崩れ込んでくるとき、えも言われぬ幸せを感じる。
汗を拭き、布団を軽く整えまどろむ中、桃香は黒彦とどんな出会い方をしても、こうやって彼の言葉や愛撫に身も心も溺れるんだろうと思った。そして今の平凡でささやかな毎日を大事にしていきたいと願っている。
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