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ブルーシャドウ 山本青音(やまもと せいね)編
2 手ごたえ
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次の約束を交わしてから、青音は佐々木優奈を自宅付近まで送り届け帰宅した。
「ただいま」
ガラガラと引き戸を開けると、パタパタと母の桂子が出迎える。普段は和装で物静かなイメージだが、息子の婚活の事が気になってしょうがない様子だ。
「お帰りなさい。早かったのね。どうだった?」
「ん、まあまあかな」
「まあまあって言うのは?」
「一応次にまた会う約束をする人が出来たよ」
「まあ! 良かったわね! 白亜ちゃんと黄雅ちゃんはどうだったの?」
「あの二人はダメだったみたい」
「ええー? そうなの? おかしなこともあるものねえ」
「まあ俺の方もどうなるか分からないけど」
「それはそうね。でもまた頑張りなさい」
「ん。今日はもうお風呂に入って寝るよ」
「はい、お疲れ様。また話聞かせてねー」
納得した様子で桂子は部屋に戻っていった。その後ろ姿を見送りながら青音も人心地ついた。
のんびりヒノキの湯船につかりながら、優奈の外見と会話の内容を反芻する。
――『イタリアントマト』を出た後、少し酔いを醒まそうとカフェに入りソフトドリンクを頼む。チーズのおかげで膨満感だった。青音がダージリンを選ぶと、優奈もそれがいいと言うので二人で薫り高いストレートティーを愉しむ。
何でもいいですという受け身な態度ではなく、選ぶものが同じ好みのようで青音は少し親近感を持つ。
また婚活会場でもそうだったが、自分の事をアピールしてこなければ、青音に仕事や年収などの質問もない。
黒彦の話では婚活パーティはもっとアクティブなもので、ガツガツ行った方がいいとアドバイスされていた。黄雅と白亜はもちろんそのアドバイス通りに動かなかった結果が、カップル不成立であろう。
青音も同じようだったが、たまたまフィーリングのあう佐々木優奈のおかげでこうしてカップル成立となっている。
(やはり縁だろうか)
一部の人に言わせると偶然などはなく全て出来事は必然だという。とりあえず青音は成り行きに任せることにする。
「コーヒーは飲まないんですか?」
質問はささやかなことばかりだ。
「たまには飲むけど、紅茶の方がいいかな」
「同じです。眠い時にはコーヒー飲みますけどね」
一言二言話し、また一息つく。会話が弾まないという感じではないので居心地の悪さはなかった。
「アンティークショップの経営って、どんなことするんですか?」
「そうだね――」
青音が骨董品の鑑定をしたり、修理をしたりする話を聞かせると優奈は興味を示し、目を輝かせる。青音はてっきり、経営状況と年収を聞かれると思ったが、聞かれなかった。もちろん聞かれても困ることはないので答えるつもりはあるが、婚活パーティで女性が気にする年収など具体的な話にはならなかった。
「今度良かったら店にも遊びに来て」
「いいんですか? 次のおやすみに行っちゃおうかな」
「優奈さんの休みはいつ? 土日?」
「いえー、それが不定期で」
「ああ、そうなんだ。えっと確かサービス業って名札に書いてたよね」
「あ、はい。ファッション関係でシフトがあって、あの、今、人もいないから、ちょっと安定してなくて。時間もあんまり……」
「そう。僕は一応商店街の休みの日が休みだけど、店は忙しくなければ両親にも頼めるから君に合わせられると思う」
「えー! 嬉しい! いいんですかあ?」
「うん。逆にこまめに連絡を取るほうが苦手だから、ごめんね」
「あ、いいんですいいんです。私もマメじゃないので」
どうやら仕事が忙しい様で頻繁なデートは難しいようだ。しかも女性にしては珍しく、要件以外の連絡をあまりとらなくて良さそうなところは、青音にとってありがたかった。
「今度行きたいところある?」
「えーっととりあえずまたお食事でも」
「そうだね。食べることは大事だしね。どんな料理が好き?」
「んー。和洋中何でも食べますけど、新しい味を発掘するのが好きですよ。新しいお店とか」
「なるほど。保守的ではないみたいだね」
あまり外食をしない青音は、良さそうな飲食店を情報通の黒彦にでも尋ねようと思ったが、彼は桃香の手料理ばかり食べていると思い直し止めることにした。そして思い出したように尋ねる。
「料理とか家事は出来る?」
「ええ、一人暮らし長いので大丈夫ですよ」
家事には不安がなさそうなので、母親の桂子が嫌な顔をすることはないだろう。一応、婚活なので不安要素を取り除かねばと青音は生活をしていくことに重点を置く。ただ、青音も家事は一通りできるので相手が出来なくても困ることはなかった。
(うん。婚活ぽい質問だな)
優奈がそれっぽいことを聞いてこないが自分がそれらしいので妙に満足した。
それなりに充実した日だったと思い、青音は風呂から上がった。パジャマ代わりの浴衣を羽織り、涼みながらこれから何を知っていけばよいか考える。
(食の相性と――あとは身体の相性か)
精神性を重んじる青音にとって身体の相性そのものより、性癖が合って欲しいと願うのだった。
(飲んでくれるだろうか……。無理強いは良くないな)
紳士である彼は、自分の性癖を強いるつもりはない。願いが叶うようにとそのワンシーンを映像化しつつまどろんでいった。
「ただいま」
ガラガラと引き戸を開けると、パタパタと母の桂子が出迎える。普段は和装で物静かなイメージだが、息子の婚活の事が気になってしょうがない様子だ。
「お帰りなさい。早かったのね。どうだった?」
「ん、まあまあかな」
「まあまあって言うのは?」
「一応次にまた会う約束をする人が出来たよ」
「まあ! 良かったわね! 白亜ちゃんと黄雅ちゃんはどうだったの?」
「あの二人はダメだったみたい」
「ええー? そうなの? おかしなこともあるものねえ」
「まあ俺の方もどうなるか分からないけど」
「それはそうね。でもまた頑張りなさい」
「ん。今日はもうお風呂に入って寝るよ」
「はい、お疲れ様。また話聞かせてねー」
納得した様子で桂子は部屋に戻っていった。その後ろ姿を見送りながら青音も人心地ついた。
のんびりヒノキの湯船につかりながら、優奈の外見と会話の内容を反芻する。
――『イタリアントマト』を出た後、少し酔いを醒まそうとカフェに入りソフトドリンクを頼む。チーズのおかげで膨満感だった。青音がダージリンを選ぶと、優奈もそれがいいと言うので二人で薫り高いストレートティーを愉しむ。
何でもいいですという受け身な態度ではなく、選ぶものが同じ好みのようで青音は少し親近感を持つ。
また婚活会場でもそうだったが、自分の事をアピールしてこなければ、青音に仕事や年収などの質問もない。
黒彦の話では婚活パーティはもっとアクティブなもので、ガツガツ行った方がいいとアドバイスされていた。黄雅と白亜はもちろんそのアドバイス通りに動かなかった結果が、カップル不成立であろう。
青音も同じようだったが、たまたまフィーリングのあう佐々木優奈のおかげでこうしてカップル成立となっている。
(やはり縁だろうか)
一部の人に言わせると偶然などはなく全て出来事は必然だという。とりあえず青音は成り行きに任せることにする。
「コーヒーは飲まないんですか?」
質問はささやかなことばかりだ。
「たまには飲むけど、紅茶の方がいいかな」
「同じです。眠い時にはコーヒー飲みますけどね」
一言二言話し、また一息つく。会話が弾まないという感じではないので居心地の悪さはなかった。
「アンティークショップの経営って、どんなことするんですか?」
「そうだね――」
青音が骨董品の鑑定をしたり、修理をしたりする話を聞かせると優奈は興味を示し、目を輝かせる。青音はてっきり、経営状況と年収を聞かれると思ったが、聞かれなかった。もちろん聞かれても困ることはないので答えるつもりはあるが、婚活パーティで女性が気にする年収など具体的な話にはならなかった。
「今度良かったら店にも遊びに来て」
「いいんですか? 次のおやすみに行っちゃおうかな」
「優奈さんの休みはいつ? 土日?」
「いえー、それが不定期で」
「ああ、そうなんだ。えっと確かサービス業って名札に書いてたよね」
「あ、はい。ファッション関係でシフトがあって、あの、今、人もいないから、ちょっと安定してなくて。時間もあんまり……」
「そう。僕は一応商店街の休みの日が休みだけど、店は忙しくなければ両親にも頼めるから君に合わせられると思う」
「えー! 嬉しい! いいんですかあ?」
「うん。逆にこまめに連絡を取るほうが苦手だから、ごめんね」
「あ、いいんですいいんです。私もマメじゃないので」
どうやら仕事が忙しい様で頻繁なデートは難しいようだ。しかも女性にしては珍しく、要件以外の連絡をあまりとらなくて良さそうなところは、青音にとってありがたかった。
「今度行きたいところある?」
「えーっととりあえずまたお食事でも」
「そうだね。食べることは大事だしね。どんな料理が好き?」
「んー。和洋中何でも食べますけど、新しい味を発掘するのが好きですよ。新しいお店とか」
「なるほど。保守的ではないみたいだね」
あまり外食をしない青音は、良さそうな飲食店を情報通の黒彦にでも尋ねようと思ったが、彼は桃香の手料理ばかり食べていると思い直し止めることにした。そして思い出したように尋ねる。
「料理とか家事は出来る?」
「ええ、一人暮らし長いので大丈夫ですよ」
家事には不安がなさそうなので、母親の桂子が嫌な顔をすることはないだろう。一応、婚活なので不安要素を取り除かねばと青音は生活をしていくことに重点を置く。ただ、青音も家事は一通りできるので相手が出来なくても困ることはなかった。
(うん。婚活ぽい質問だな)
優奈がそれっぽいことを聞いてこないが自分がそれらしいので妙に満足した。
それなりに充実した日だったと思い、青音は風呂から上がった。パジャマ代わりの浴衣を羽織り、涼みながらこれから何を知っていけばよいか考える。
(食の相性と――あとは身体の相性か)
精神性を重んじる青音にとって身体の相性そのものより、性癖が合って欲しいと願うのだった。
(飲んでくれるだろうか……。無理強いは良くないな)
紳士である彼は、自分の性癖を強いるつもりはない。願いが叶うようにとそのワンシーンを映像化しつつまどろんでいった。
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