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レッドシャドウ 田中赤斗(たなか せきと)編
9 謝罪
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茉莉は『イタリアントマト』より先に『黒曜書店』に向かう。朝早くから書店は開いていて桃香が通りを掃いている。
「おはようございます!」
「あ、おはよう。茉莉ちゃん、早いのね」
「はい。あの、桃香さんに謝りたいことがあって……」
「謝りたいこと?」
「はい……」
「なんだろ? 立ち話もなんだし、とりあえず中に入りましょ」
「失礼します」
書店に入るのに『失礼します』と言われたのは初めてだなあと桃香は思った。
「そこで話しましょ」
「はい」
桃香に勧められレジの横の椅子に座る。
「で、どうして謝るの?」
「あの――私、桃香さんと赤斗さんの関係を疑ったんです」
「え? 赤斗さんと? どうして?」
桃香は以前、黒彦と出会う前にシャドウファイブのメンバーが素敵なので、赤斗にももちろん憧れていた。しかし今は全くその気はなく。疑われるような行為は何もしていないと自負がある。もし何かあれば一番に黒彦が出てくるはずだ。
「実は――」
公園で見た、桃香とレッドシャドウの衣装を着た黒彦の話をする。
「ええー!?」
まさかメンバーのローテーションがこんなところに弊害が出るとは桃香は夢にも思っていなかったので、どう思ったらいいのか分からなかった。
「ほんとにすみませんでした。桃香さんも、赤斗さんも、そんな人じゃないって知ってたのに。ほんと、私ってダメ人間ですよね……」
落ち込みを見せる茉莉に桃香はそうだといい事を思いつく。
「いいのいいの。気にしない気にしない。でもね。もう茉莉ちゃんすっかり痩せて素敵になったじゃない? そろそろ告白した方がいいんじゃないかなあ」
「え? こ、告白?」
「うん。町も平和だし、赤斗さんもそろそろ恋人欲しいんじゃないかなあ。彼ってモテるし、早くしないと」
「あ、あの、早くしても、その失敗したらその……」
「そんな弱気じゃダメ! 速攻よ! ラン&ガンよ!」
「? は、はあ」
そこへ奥から黒彦が現れる。
「ん? いらっしゃい」
「あ、おはようございます」
ぺこりと頭を下げる茉莉を一瞥し、黒彦は今月の新刊をチェックし始めた。
「ねえ、黒彦さん。赤斗さんに茉莉ちゃんが告白したら失敗すると思う?」
桃香が黒彦に尋ねると、茉莉は真っ赤になって「え、だ、だめですよぉ。言わないでください!」と顔を覆う。
「茉莉ちゃん、あのね。茉莉ちゃんが赤斗さんの事を好きだって知らないの、赤斗さんだけじゃないかなあ」
「えええー!?」
黒彦はニヤッと笑って「赤斗のやつはのんびりだからなあ」と呟いた。
「赤斗さん対策教えて」
「うーん。対策かあ。あいつは押しに弱いからな。恋人がいないときに告白したら多分大丈夫だ」
「え? それは本当ですか? もう何人も女の子たちアタックしてると思うんですけど」
「ああ、それははっきり告白してないだろう。思わせぶりじゃあ伝わらない」
桃香はシャドウファイブのメンバーは日本人と付き合ったことがないと昔、誰かに聞いた記憶があった。女性たちは積極的だったのだろうか。
「あの、黒彦さん、できたら男の人から言ってもらいたいものですよ」
「んー。言いたければ言うが、赤斗を待ってると人生が終わるぞ。あいつは人の気持ち優先で自分の感情に鈍いからな」
「そんなあ。じゃあ、告白して付き合ってもらえても、無理やりな感じですねえ」
茉莉はため息をつく。
「付き合っているうちに好きになるだろ。それじゃあ駄目なのか」
「えーっと。うーん」
どうしたらいいのか困ってきた茉莉に、桃香は明るく話しかける。
「ねえねえ。赤斗さんのどこが好き? どうして好きになったの?」
「それはですねえ。まずお食事がすっごく美味しくて。それで太った私とも一緒に歩いてくれたりとか。美味しいじゃなくて優しいとこですかね」
「うん、うん。赤斗さんて優しいわよね」
「優柔不断なだけだ」
「もう! 黒彦さん!」
「ふっ。まあ味覚が合うなら相性はいいはずだ。後はセックスだな」
「せ、せっく、す?」
「ああそうだ。食べ物とセックスが合えば普通にうまくいく」
「そ、そんな飛躍されても……」
ますます困惑する茉莉に桃香はまた提案をする。
「今度、茉莉ちゃんの手料理も食べてもらったらどう? 公園デートのときに」
「え、あ、ああ。見回りの時ですか」
「うんうん。そこで美味しいって言ってもらったら告白しちゃうとか」
「料理かあ」
「ほらほら、肉じゃが!」
2人が話しているそばを通り抜け、黒彦は奥に行き、また出てきた。
「これをやろう」
黒い液体の入った小瓶を黒彦は茉莉に渡す。
「これは?」
「特製の醤油だ」
「特製の醤油?」
「これを使うと、素材の味も全て引き出されるだろう。使うといい」
「そんなお醤油あるんですか? 私にもください」
「ああ、あとでな」
茉莉は瓶を振り、揺れるしょうゆを眺める。
「決めました。今までで一番最高の肉じゃがを作って食べてもらいます」
「うんうん! その意気よ!」
「ありがとうございました! 許してもらった上に、こんないいお醤油」
「気にするな」
「私、頑張ります!」
茉莉は元気を回復させ、店を出る。醤油を握りしめ、今度の休みに気合を入れて作ろうと決心した。
桃香は「茉莉ちゃん、美味しくできるといいですね」と和食の本のページをめくる。
「あれは本当はただの醤油だ」
「え? いい醤油じゃないんですか?」
「醤油にいいものが盛ってある」
「ま、まさか」
「フフフッ。心配なら見に行くか?」
「え、ど、どうしよう」
黒彦はどうやら茉莉に何か薬を渡したようだ。
「もちろん、あの娘が成功することを祈っている」
桃香の周りを赤斗にうろうろされたくない黒彦だ。シャドウファイブのメンバー全員にはやく恋人が出来てほしいと一番願っているのは案外黒彦なのだ。
「じゃあ、いい薬ってことですよね」
「もちろんだ」
「それなら、心配しないで成功の報告を待っています」
「そうか」
「で、何の薬なんですか?」
「気になるなら、後で試してやる。クックック」
「え……」
気にはなるが遠慮したい桃香だった。
「おはようございます!」
「あ、おはよう。茉莉ちゃん、早いのね」
「はい。あの、桃香さんに謝りたいことがあって……」
「謝りたいこと?」
「はい……」
「なんだろ? 立ち話もなんだし、とりあえず中に入りましょ」
「失礼します」
書店に入るのに『失礼します』と言われたのは初めてだなあと桃香は思った。
「そこで話しましょ」
「はい」
桃香に勧められレジの横の椅子に座る。
「で、どうして謝るの?」
「あの――私、桃香さんと赤斗さんの関係を疑ったんです」
「え? 赤斗さんと? どうして?」
桃香は以前、黒彦と出会う前にシャドウファイブのメンバーが素敵なので、赤斗にももちろん憧れていた。しかし今は全くその気はなく。疑われるような行為は何もしていないと自負がある。もし何かあれば一番に黒彦が出てくるはずだ。
「実は――」
公園で見た、桃香とレッドシャドウの衣装を着た黒彦の話をする。
「ええー!?」
まさかメンバーのローテーションがこんなところに弊害が出るとは桃香は夢にも思っていなかったので、どう思ったらいいのか分からなかった。
「ほんとにすみませんでした。桃香さんも、赤斗さんも、そんな人じゃないって知ってたのに。ほんと、私ってダメ人間ですよね……」
落ち込みを見せる茉莉に桃香はそうだといい事を思いつく。
「いいのいいの。気にしない気にしない。でもね。もう茉莉ちゃんすっかり痩せて素敵になったじゃない? そろそろ告白した方がいいんじゃないかなあ」
「え? こ、告白?」
「うん。町も平和だし、赤斗さんもそろそろ恋人欲しいんじゃないかなあ。彼ってモテるし、早くしないと」
「あ、あの、早くしても、その失敗したらその……」
「そんな弱気じゃダメ! 速攻よ! ラン&ガンよ!」
「? は、はあ」
そこへ奥から黒彦が現れる。
「ん? いらっしゃい」
「あ、おはようございます」
ぺこりと頭を下げる茉莉を一瞥し、黒彦は今月の新刊をチェックし始めた。
「ねえ、黒彦さん。赤斗さんに茉莉ちゃんが告白したら失敗すると思う?」
桃香が黒彦に尋ねると、茉莉は真っ赤になって「え、だ、だめですよぉ。言わないでください!」と顔を覆う。
「茉莉ちゃん、あのね。茉莉ちゃんが赤斗さんの事を好きだって知らないの、赤斗さんだけじゃないかなあ」
「えええー!?」
黒彦はニヤッと笑って「赤斗のやつはのんびりだからなあ」と呟いた。
「赤斗さん対策教えて」
「うーん。対策かあ。あいつは押しに弱いからな。恋人がいないときに告白したら多分大丈夫だ」
「え? それは本当ですか? もう何人も女の子たちアタックしてると思うんですけど」
「ああ、それははっきり告白してないだろう。思わせぶりじゃあ伝わらない」
桃香はシャドウファイブのメンバーは日本人と付き合ったことがないと昔、誰かに聞いた記憶があった。女性たちは積極的だったのだろうか。
「あの、黒彦さん、できたら男の人から言ってもらいたいものですよ」
「んー。言いたければ言うが、赤斗を待ってると人生が終わるぞ。あいつは人の気持ち優先で自分の感情に鈍いからな」
「そんなあ。じゃあ、告白して付き合ってもらえても、無理やりな感じですねえ」
茉莉はため息をつく。
「付き合っているうちに好きになるだろ。それじゃあ駄目なのか」
「えーっと。うーん」
どうしたらいいのか困ってきた茉莉に、桃香は明るく話しかける。
「ねえねえ。赤斗さんのどこが好き? どうして好きになったの?」
「それはですねえ。まずお食事がすっごく美味しくて。それで太った私とも一緒に歩いてくれたりとか。美味しいじゃなくて優しいとこですかね」
「うん、うん。赤斗さんて優しいわよね」
「優柔不断なだけだ」
「もう! 黒彦さん!」
「ふっ。まあ味覚が合うなら相性はいいはずだ。後はセックスだな」
「せ、せっく、す?」
「ああそうだ。食べ物とセックスが合えば普通にうまくいく」
「そ、そんな飛躍されても……」
ますます困惑する茉莉に桃香はまた提案をする。
「今度、茉莉ちゃんの手料理も食べてもらったらどう? 公園デートのときに」
「え、あ、ああ。見回りの時ですか」
「うんうん。そこで美味しいって言ってもらったら告白しちゃうとか」
「料理かあ」
「ほらほら、肉じゃが!」
2人が話しているそばを通り抜け、黒彦は奥に行き、また出てきた。
「これをやろう」
黒い液体の入った小瓶を黒彦は茉莉に渡す。
「これは?」
「特製の醤油だ」
「特製の醤油?」
「これを使うと、素材の味も全て引き出されるだろう。使うといい」
「そんなお醤油あるんですか? 私にもください」
「ああ、あとでな」
茉莉は瓶を振り、揺れるしょうゆを眺める。
「決めました。今までで一番最高の肉じゃがを作って食べてもらいます」
「うんうん! その意気よ!」
「ありがとうございました! 許してもらった上に、こんないいお醤油」
「気にするな」
「私、頑張ります!」
茉莉は元気を回復させ、店を出る。醤油を握りしめ、今度の休みに気合を入れて作ろうと決心した。
桃香は「茉莉ちゃん、美味しくできるといいですね」と和食の本のページをめくる。
「あれは本当はただの醤油だ」
「え? いい醤油じゃないんですか?」
「醤油にいいものが盛ってある」
「ま、まさか」
「フフフッ。心配なら見に行くか?」
「え、ど、どうしよう」
黒彦はどうやら茉莉に何か薬を渡したようだ。
「もちろん、あの娘が成功することを祈っている」
桃香の周りを赤斗にうろうろされたくない黒彦だ。シャドウファイブのメンバー全員にはやく恋人が出来てほしいと一番願っているのは案外黒彦なのだ。
「じゃあ、いい薬ってことですよね」
「もちろんだ」
「それなら、心配しないで成功の報告を待っています」
「そうか」
「で、何の薬なんですか?」
「気になるなら、後で試してやる。クックック」
「え……」
気にはなるが遠慮したい桃香だった。
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