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レッドシャドウ 田中赤斗(たなか せきと)編

2 初出勤

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 そろそろ店を開ける用意をしようと赤斗は厨房に入る。冷蔵庫の中身をチェックし今夜のメニューを黒板に書いた。

「そろそろ新作もなんか考えたいな」

 町が平和になったおかげで料理に集中できるようになったことが嬉しい反面、なんとなく退屈でもあった。
 元シャドウファイブのメンバーたちも同じような気がする。それでも明日また戦隊ごっこをするのは楽しみだった。

「黒彦のやつ。今度は何開発してくるかなあ」

今のところお決まりパターンになっている戦隊ごっこの内容は、化学戦隊シャドウファイブ対悪の帝王ブラックシャドウの戦いで、いつもピンクシャドウをブラックシャドウが連れ去るというものだ。

「あーあ。さらった後、いちゃついてるんだろうなあー」

孤独だった黒彦に付き合っている遊びだがそれなりに面白く、戦いも全員、武術としての太極拳を体得しているので白熱している。
そこへ化学兵器が投入されるのだ。勿論、環境にも人体にも影響のないものだ。

「あのネバネバの蜘蛛の巣ってやっかいだったよな。今度、俺もなんか開発しととくかな」

何かアイテムを考えようとしていて、赤斗はもっといい事を思いついた。明日提案してみようと思っているところへ「おはようございます!」と今日からスタッフとなる伊藤茉莉の声が聞こえた。

 裏口から厨房に入ってきた茉莉に着替えるところへ案内する。

「じゃ、このエプロンを着てくれるかな」
「はい! よろしくお願いします」
「荷物はそこね。用意出来たら厨房に来てね」
「はい!」

元気の良さに赤斗は笑ってまた厨房に戻った。

厨房は狭いが茉莉は案外身のこなしが良く、するすると料理を運ぶ。

「じゃ、これお願い」
「はい!」

ふっくらとした身体なのに素早く、てきぱき動く様子に、赤斗も健一もあつ子も感心した。最後の客が店を出ると、赤斗は店の灯りを落とし「お疲れ様」と茉莉に声を掛けた。

「はあ。お、お疲れさまです」
「茉莉ちゃん、おつかれさま」
「疲れたろう。さあ食事しなさい」

健一に食事と言われ、疲労の色が見えていた茉莉の目がきらっと光った。

「ふふっ。ちょっと遅い夕飯だけど食べようか」
「はい!」

赤斗はいつもの倍、パスタを茹でたっぷりのトマトソースをかけた。サラダもチーズを多めに入れておく。

「近所だったよね。家。あとで送っていくよ」
「いえいえ。もう怪人もいないし平気ですよ。一人で帰れます」
「ダメダメ。女の子一人じゃ怪人以外にも危ない人いるかもしれないのよ」
「うんうん。赤斗に送ってもらいなさい」
「そうですか。ありがとうございます」
「じゃ、食べて」
「はーい! いただきまーす!」

茉莉は美味しそうにどんどん食べる。

「足りなかったらまだ茹でるよ」
「いえ、大丈夫です。すみませんたくさん食べて」
「いいのよいいのよ。良く働いてくれたしお腹すくでしょ」
「若いうちはどんどん食べなさい」
「あ、ありがとうございます!」

茉莉はなんていい職場なんだろうと感動した。そして食欲が満たされ落ち着くと、あれっと目の前の赤斗を見上げる。

(イケメン……)

小麦色に焼けた健康的な肌にきりっとした眉。優しい黒目がちの輝いた瞳。ハーフかクオーターかと思わせる彫りの深さ。
やっと赤斗のイケメンぶりに気づいた茉莉は急に恥ずかしくなった。

(やだあ、すっごい食べちゃったあ……)

「気持ちいいね。皿が空っぽになるの見るのは」
「ええ、ほんと」
「しかし茉莉ちゃんは大きいねえ。身長何センチあるのかね?」
「えっと169、5センチです」
「ほう。なかなかだね」

高校時代に測った記録で、今の本当の身長は171センチだった。

「おまけに素早いし何かスポーツでもやってたの?」
「ええ、ずっとバスケットやってたんです」
「なるほどね。いい身のこなしだ。これからも頼むよ」
「はい!」

桃香を除く、今までのスタッフの中で茉莉が健一とあつ子に一番、好感度が高かった。赤斗も茉莉ならスタッフとして続けてもらえそうだと安堵する。


 商店街はこれから夜の街に変わり、ネオンがギラギラとけばけばしい色になる。派手なワンピースを着たギャルたちが勤務先へ向かっている。
並んで歩く二人をちらちら見る者もいる。
茉莉はこんな太った自分と一緒に歩く赤斗に申し訳なさを感じてしまう。

「あ、あのお。ほんと一人でも大丈夫ですよ。うちまで暗いところも狭い道もないですから」
「だめだよ。油断しちゃ。俺はね、店が終わった後、公園とか散歩するのが好きなんだ」
「へえ。そうですか」
「だから遠慮しないで」
「あ、そこがうちです」
「ん。じゃあよく休んでね。明後日からランチもよろしくね」
「はい! お疲れ様でした」

 爽やかな笑顔を見せる赤斗に茉莉は頬を染めて頭を下げた。

(こんな私と一緒に歩いてくれるなんて赤斗さんてカッコイイだけじゃなくて優しいんだ)

小さくなった赤斗を見届けると茉莉はウキウキと家に入った。


 茉莉を送り届けると「さてと、今夜はどうかな」と、赤斗は公園に向かう。ここは以前スライミー怪人が現れたところだ。怪人が出なくなると途端にカップルのメッカとなった。
茂みがガサガサなり、木の根元で人影が揺れている。

「おっ。今夜も盛んだな!」

赤斗は青姦を行っているカップルを夜な夜な見回っていた。

しかし紳士である彼は決して、その行為をのぞき見したりしない。
科学技術によりステルス機能のある装備を作ることも、赤外線コープでどんな暗闇の中でも昼間のように見ることが出来てもだ。

「夜に外って一番生き物として自然だよなあ」

赤斗にとって野外で行うセックスはとても自然な行為であると思うが、メンバーの誰一人理解を示さない。みんな狭い屋内で行うものだと思っているようだ。

「ふう。俺にもぴったりくる人が現れればな」

改めて黒彦が羨ましいと思う。ただ青姦がすきなカップルが大勢いることに赤斗は希望を見出す。

「他のやつらに比べたら俺の間口の方が広いはずだな、うんっ」

町の治安を守り、こうして安心して外で行為を続けられるよう赤斗はまた正義感を燃やしていた。そして昼間でも行為に良さそうな場所を、今度ハイキングでもしながら探そうと考えている。
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