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晋の台頭
37 求法巡礼
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息子が良い妻を得たと安心し尚香は建初寺に参ると、庭先で康僧会がまばらな髪の痩せた男と話しているのが見えた。尚香に気づき、その男は手を合わせ、頭を下げるので、尚香もまた、慌てて同様にする。
「ああ、尚香様。ようこそ、ちょうどよいところに、この方は朱士行殿とおっしゃってこの中華で初めて出家なされた方なのです」
「初めまして。お噂はかねがね。この国はとても明るくてよいところですね」
「これはこれは。ありがとうございます」
康僧会は綺麗に髪も髭も剃っているが、朱士行は魏の洛陽からここまで旅してきたため、髪も伸び無精ひげも、服装も垢まみれで汚れている。それでも常人と違う目の輝きと鋭さは、尚香にさえも一目を置かせ、只者ではないと感じさせる。
「これからホータンに参り、経典を取ってこようと思っています」
「なんと! 敦煌よりも更に先ではありませんか」
「なんのなんの。仏の歩く道に比べわけはありません。そこへ参る前にこの建業で僧会殿にお会いしたかったのです」
亡き武帝、曹操の儒教への弾圧のあと、仏教は朝廷への影響が良くも悪くもなく受容されていたが、結局のところ儒教から完全に離れることが出来ない人々によってそれほど浸透はしていない。それに比べて、そもそも新しいものを受け入れやすい呉では仏教も盛んに広まっている。
「経典にどうも不備があるようなのです。それをどうにかしないと人々に教えることが難しいでしょう」
康僧会に比べ、朱士行はより禁欲的で探究者であるがため、少しの疑問も許せないらしい。康僧会も感心して毎日無事を祈ると約束していた。
ちょうどその時孫晧がやって来、三人にきちんと礼をする。その立派な様子に朱士行は「これはこれは立派なご子息ですな」と尚香に告げる。
「いや、いや、彼は兄の孫である」
「はあはあ、そうでしたか。この方はきっと天意を為すことが出来るでしょう」
これからの長旅に尚香は西涼まで見送ろうかと提案する。
「いえいえ、そんなお手を煩わせることなど」
遠慮する朱士行に孫晧がついて行きたいと言い始めた。
「私も一緒に行ってもよいですか? 船を使えばもっと早いでしょう?」
「うーん。たしかに呉の船は上るも下るも容易であるが、他国に間諜と思われてはかなわぬ。馬であるな」
「ああ、確かに」
「あ、あの。尚香様。拙僧にそのような見送りなど……」
「いやいや、時間を掛ければよいわけでもありますまい。せめて蜀付近まで」
「おばあ様大丈夫なのですか? お身体の方は」
「ん? 元宗よ。わたしはそなたより随分、馬にも旅にも慣れておる。黄忠よろしく、老いてますますというものだ。そなたこそ新妻を置いて長旅か?」
孫晧は孫休によって烏程侯に封じられており、宮廷を守る五官中郎将、滕牧の娘を娶っている。
「芳蘭は大人しい妻ですから、平気でしょう。旅の話を聞かせれば喜ぶはずです」
勝手に話を進める二人を眺めうーんと唸っている朱士行に康僧会は優しく「良いではありませんか」と肩に手をのせる。
「確かにこのお二人が、いれば旅は安心ですし、せっかくですから道中、仏の話でもなさるがよいでしょう」
「そうですな。これも仏のお導きでしょうか」
こうして朱士行を馬車に乗せ、二人は北西の雍州を目指す旅に出た。
「ああ、尚香様。ようこそ、ちょうどよいところに、この方は朱士行殿とおっしゃってこの中華で初めて出家なされた方なのです」
「初めまして。お噂はかねがね。この国はとても明るくてよいところですね」
「これはこれは。ありがとうございます」
康僧会は綺麗に髪も髭も剃っているが、朱士行は魏の洛陽からここまで旅してきたため、髪も伸び無精ひげも、服装も垢まみれで汚れている。それでも常人と違う目の輝きと鋭さは、尚香にさえも一目を置かせ、只者ではないと感じさせる。
「これからホータンに参り、経典を取ってこようと思っています」
「なんと! 敦煌よりも更に先ではありませんか」
「なんのなんの。仏の歩く道に比べわけはありません。そこへ参る前にこの建業で僧会殿にお会いしたかったのです」
亡き武帝、曹操の儒教への弾圧のあと、仏教は朝廷への影響が良くも悪くもなく受容されていたが、結局のところ儒教から完全に離れることが出来ない人々によってそれほど浸透はしていない。それに比べて、そもそも新しいものを受け入れやすい呉では仏教も盛んに広まっている。
「経典にどうも不備があるようなのです。それをどうにかしないと人々に教えることが難しいでしょう」
康僧会に比べ、朱士行はより禁欲的で探究者であるがため、少しの疑問も許せないらしい。康僧会も感心して毎日無事を祈ると約束していた。
ちょうどその時孫晧がやって来、三人にきちんと礼をする。その立派な様子に朱士行は「これはこれは立派なご子息ですな」と尚香に告げる。
「いや、いや、彼は兄の孫である」
「はあはあ、そうでしたか。この方はきっと天意を為すことが出来るでしょう」
これからの長旅に尚香は西涼まで見送ろうかと提案する。
「いえいえ、そんなお手を煩わせることなど」
遠慮する朱士行に孫晧がついて行きたいと言い始めた。
「私も一緒に行ってもよいですか? 船を使えばもっと早いでしょう?」
「うーん。たしかに呉の船は上るも下るも容易であるが、他国に間諜と思われてはかなわぬ。馬であるな」
「ああ、確かに」
「あ、あの。尚香様。拙僧にそのような見送りなど……」
「いやいや、時間を掛ければよいわけでもありますまい。せめて蜀付近まで」
「おばあ様大丈夫なのですか? お身体の方は」
「ん? 元宗よ。わたしはそなたより随分、馬にも旅にも慣れておる。黄忠よろしく、老いてますますというものだ。そなたこそ新妻を置いて長旅か?」
孫晧は孫休によって烏程侯に封じられており、宮廷を守る五官中郎将、滕牧の娘を娶っている。
「芳蘭は大人しい妻ですから、平気でしょう。旅の話を聞かせれば喜ぶはずです」
勝手に話を進める二人を眺めうーんと唸っている朱士行に康僧会は優しく「良いではありませんか」と肩に手をのせる。
「確かにこのお二人が、いれば旅は安心ですし、せっかくですから道中、仏の話でもなさるがよいでしょう」
「そうですな。これも仏のお導きでしょうか」
こうして朱士行を馬車に乗せ、二人は北西の雍州を目指す旅に出た。
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