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五年後、珠子はリヤカーを引っ張り、花や木の苗を売って歩いていた。
畑を半分つぶし、実のなる樹木を育てている。
しかし家の周りには銀木犀を植えていた。
あの日、実家の裏山の小屋から、鎌を持って銀木犀の生えている場所へ行き、その枝を何本か切ってきた。
それを挿し木にして植えたのだ。
ひざ丈ぐらいだった銀木犀は珠子の背丈ほどに伸び、今年やっと花を咲かせそうな雰囲気だ。
「そろそろ銀木犀の香りを楽しめるかしら?」
茂る葉を優しく撫でながら、珠子は香りを想像する。
実際に花が咲かなくとも、目を閉じれば一樹の顔と共に香りを思い出せた。
ないはずの香りを吸い込んで、いつも通り町へ苗を売りに行くことにする。
「キヨさん、精が出るわねえ」
「ええ。そろそろ涼しくなったし出掛けやすいですよ」
キヨと入れ替わったことに近所の者たちも案外関心がない様で、化粧っ気のない珠子はもう『キヨ』として通っている。
秋風が吹き始めたので久しぶりに珠子は遠出をしてみることにした。
リヤカーにはミカンとゆずの苗木を乗せ、水を張った桶には挿し木用の銀木犀の枝を何本か入れてある。(これはおまけ)
小さな挿し木を愛しそうに眺めて、珠子はそっとリヤカーを引っ張った。
洋食屋からカフェーに代わった場所は、今ではもう洋品店になっており、明るい色のワンピースが並べられている。
若い女学生たちが賑やかに指を差しながらワンピースを眺めているが、今の珠子にはもう着飾りたい欲求も欲しい物もなかった。
それでも彼女たちの若さに眩しさを感じ微笑ましく見つめる。
畑を半分つぶし、実のなる樹木を育てている。
しかし家の周りには銀木犀を植えていた。
あの日、実家の裏山の小屋から、鎌を持って銀木犀の生えている場所へ行き、その枝を何本か切ってきた。
それを挿し木にして植えたのだ。
ひざ丈ぐらいだった銀木犀は珠子の背丈ほどに伸び、今年やっと花を咲かせそうな雰囲気だ。
「そろそろ銀木犀の香りを楽しめるかしら?」
茂る葉を優しく撫でながら、珠子は香りを想像する。
実際に花が咲かなくとも、目を閉じれば一樹の顔と共に香りを思い出せた。
ないはずの香りを吸い込んで、いつも通り町へ苗を売りに行くことにする。
「キヨさん、精が出るわねえ」
「ええ。そろそろ涼しくなったし出掛けやすいですよ」
キヨと入れ替わったことに近所の者たちも案外関心がない様で、化粧っ気のない珠子はもう『キヨ』として通っている。
秋風が吹き始めたので久しぶりに珠子は遠出をしてみることにした。
リヤカーにはミカンとゆずの苗木を乗せ、水を張った桶には挿し木用の銀木犀の枝を何本か入れてある。(これはおまけ)
小さな挿し木を愛しそうに眺めて、珠子はそっとリヤカーを引っ張った。
洋食屋からカフェーに代わった場所は、今ではもう洋品店になっており、明るい色のワンピースが並べられている。
若い女学生たちが賑やかに指を差しながらワンピースを眺めているが、今の珠子にはもう着飾りたい欲求も欲しい物もなかった。
それでも彼女たちの若さに眩しさを感じ微笑ましく見つめる。
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