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別れの日。
誰も涙を見せることはなかった。
新しい旅立ちの日だからだ。
悲しい別れではない。
吉弘は「頑張ってきます」とあいさつをした。
キヨは「あなたの幸せをいつも祈っています」と言った。
珠子は「ありがとうございました」と礼をのべた。
生活に必要なものは藤井道弘のところにすべてあるということで、ほとんど手ぶらでキヨと吉弘は車に乗り込んだ。
車はすぐに発進し、煙を噴き上げ田舎道をあっという間に去っていく。
珠子は見えなくなるまで手を振って見送った。
(さようなら。私の家族)
これでよかったのだと自分を納得させる。
実の母子が別れるものではない。
珠子とキヨが入れ替わっていることを気づくものはいないであろう。
何か聞かれたら火災の時の怪我でよく覚えていないと言うようにキヨに伝えている。
吉弘も彼女を守り抜くだろう。
いびつな母子関係であった高子と文弘を偲ぶ。
二人は身分制度の犠牲者だ。
息子である吉弘が曲がらず、新しい社会制度へ目を向けてくれることを心から祈った。
薄暗い部屋で珠子はぼんやりと黄昏る。
「いい夢を見られたのよね……」
これまでの生活を恋しがる前に、涙が溢れそうになる前に、珠子は派手な水玉の赤いワンピースを着、濃いアイシャドーと真っ赤な口紅を塗り、カフェーへ出勤することにした。
誰も涙を見せることはなかった。
新しい旅立ちの日だからだ。
悲しい別れではない。
吉弘は「頑張ってきます」とあいさつをした。
キヨは「あなたの幸せをいつも祈っています」と言った。
珠子は「ありがとうございました」と礼をのべた。
生活に必要なものは藤井道弘のところにすべてあるということで、ほとんど手ぶらでキヨと吉弘は車に乗り込んだ。
車はすぐに発進し、煙を噴き上げ田舎道をあっという間に去っていく。
珠子は見えなくなるまで手を振って見送った。
(さようなら。私の家族)
これでよかったのだと自分を納得させる。
実の母子が別れるものではない。
珠子とキヨが入れ替わっていることを気づくものはいないであろう。
何か聞かれたら火災の時の怪我でよく覚えていないと言うようにキヨに伝えている。
吉弘も彼女を守り抜くだろう。
いびつな母子関係であった高子と文弘を偲ぶ。
二人は身分制度の犠牲者だ。
息子である吉弘が曲がらず、新しい社会制度へ目を向けてくれることを心から祈った。
薄暗い部屋で珠子はぼんやりと黄昏る。
「いい夢を見られたのよね……」
これまでの生活を恋しがる前に、涙が溢れそうになる前に、珠子は派手な水玉の赤いワンピースを着、濃いアイシャドーと真っ赤な口紅を塗り、カフェーへ出勤することにした。
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