銀木犀の香る寝屋であなたと

はぎわら歓

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「何かいいことでもありました?この頃少し嬉しそうに見えますね」

「えっ?そ、そうかしら」

「夜中にもうなされることが減りましたし……」

「わ、私、何か変なこと言ってるかしら?」

 珠子は眉をひそめ心配そうに尋ねる。



「いえ……。たまに『かず、かず』とおっしゃるので何か夢の中で数えてらっしゃるんですかね」

「あ、そう、なのね。覚えていないからわからないわ」

 頬を染める珠子に、キヨはある予感が沸いた。



「もしかしてお好きな人がいらっしゃるのでは?」

「えっ……」

「そうなんですね」

「……。まだ……わからないの」

「とても親切にしてくれているし好きだとも言ってくれるけど……」

 珠子は複雑な表情をしながらも喜びが垣間見える。



「お好きになれないのですか?」

「そういうわけでもないのだけれど」



「文弘さまのことがお忘れになれないのでしょうか」

「えっ?文弘さん……。いいえ。そうではないの。いけないわね、私は。

夫のことをないがしろにしているわね……」

 珠子は亡き文弘にすまなそうな顔をしている。



「すみません。そんなつもりで言ったんじゃないんです。わたしはもし珠子さんが幸せになることなら応援したいと思って……」

「ごめんなさい。わかってるわ。ただ何となくまだ真っすぐにその方を見つめることにためらいが出てしまうの」



「そうですか。もしわたしに出来ることがあれば仰ってください。……とは言っても何も出来ないかもしれませんが……」

「いいえ、いいえ。ありがとう。今度からちゃんと相談するわ。聞いてくださるかしら」

「ええ、もちろんです」



 二人は今や親友であった。

共通の男に嫁ぎ、その息子を育て上げる。

没落から戦争を共に生き抜いてきた。

 言葉には出さないがお互いがいたからこそ生きてこれたのだと思っている。

キヨはいつか恩返しができるようにと願うばかりだった。
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