銀木犀の香る寝屋であなたと

はぎわら歓

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 藤井家が没落してしまった今、珠子が女主人としての責任を躍起となって果たそうとしてくれている。

ここまでしてもらって良いのだろうかと思う。

自分も吉弘も珠子には何の関係もない人間なのだ。

かつて勝手に恋敵のように思った自分を恥ずかしく思う。



 珠子の懐はとても深く、今ではすっかり彼女の信奉者だ。

それゆえ今の状況が心配でたまらない。

 ふとキヨは珠子の心の拠り所はどこにあるのだろうかと考えた。



 亡き文弘は行為のさなか、「かあさま」と恐らく高子のことを呼んでいた。

後でメイドたちの噂話によって高子と文弘の血は繋がっておらず、キヨのような妾に産ませた子だと知った。

それがどうして母親の名前を行為の最中に呼ぶようになったのかはわからない。

知りたいとも思わない。

ただ珠子にも心に想う人がいるのだろうかと、キヨは文弘と珠子が時折見せる、似たような眼差しを思い出していた。



「んんん、に、い、さ」

 汗ばんでうなされている珠子の額の汗をぬぐう。

(わたしの主人は珠子さま……)

 今後どうなろうと、どう決断されようとキヨは珠子に従う決心をした。
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