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34 残されたもの

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 キヨは一命をとりとめたが無残なやけどの跡と失くしてしまった頭髪、そして身体に軽度のマヒが残った。

 幸いなことに吉弘は何事もなかったように無事だ。



 珠子は、ぼんやり送っていた生活から一気にすべての采配を行わなければならない状況に陥る。

一番古株の老いたメイドを伴い、藤井家の財政から社交に到るまで把握することから始まった。



 調べていくと男爵家とは名ばかりで特に財産はなく、財源はわずかな国からの支給、高子の実家と沢木家からの援助でなんとか爵位の返上を免れていたようだ。



 蓄えらしいものもあまりない。

正弘から文弘、高子の葬儀などで更に財政は傾いている。

そもそも商家の娘である珠子にとって爵位などに気を取られることはなかった。

また反対するものもなかったので大きな変革をもたらした。



 まず屋敷と土地を売り払い、まとまった金を作り、一番老いた行き場のないメイド以外の使用人を全てに給金を渡し解雇する。

そしてメイドとキヨ、吉弘を伴い少し辺鄙なところへ越した。



 高子亡き今、高子の実家に援助は求められまい。

沢木家にも求めることが難しそうだ。

とにかく生きねばと珠子は日々の糧を得ることに必死になっている。



 国からの援助もいつまであるか分からない。

もう時代は貴族廃止の方向に向かっている。

藤井邸は今やこの小さな平屋だ。

もはや何の体面も保つことが出来ない。



 社交でにぎわっていたはずだが、誰も手を差し伸べるものもなかった。

 一樹と葉子の顔が頭に浮かんだが打ち消し、老いたメイドにキヨと吉弘の世話を任せ、珠子は町へ仕事を探しに出かけた。
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