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今後の沢木屋と葉子について浩一の姉の正子から話を聞いてから珠子は藤井家に帰ることにした。
浩一と葉子の婚姻時に約束された通り、『沢木屋』は正子の息子、正夫が継ぎ、沢木家の屋敷もそのまま正夫が受け継ぐこととなる。
葉子はこのまま一生住んでもよいことになっているが浩一のいない沢木家で暮らす気など毛頭なく、しばらくしたら家を出ることになった。
他県で教職についている一樹と暮らすのだ。
財産らしいものは特に残されてはいないが、葉子も一樹も不満はなかった。
散々泣いた後、葉子は愛する人の思い出を心にしっかり残し、まだ元気だから働くと気丈に振舞う。
「お母さま、いってしまうの?」
「ごめんなさいね。もう、ここに居ても……」
「ううん。そうよね。私ももう、ここが家ではないから……」
「珠子さん、お身体にはくれぐれもお気をつけて。もう、お会いできることもそうそうないと思うけれど……」
「ええ……」
今生の別れの様な挨拶を交わす。
実母ではないが慕っていた葉子と別れるのは辛かった。
しかし皆を繋げていた浩一がなくなってしまった以上、再びもとの他人に戻るのだ。
「お兄さまにもお元気でとお伝えください」
「伝えます。珠子さん……」
葉子は珠子と一樹の縁も途切れてしまうことに哀惜の念を感じた。
「なあに?お母さま」
「いいえ。なんでも」
名残惜しく車を待たせながらも離れがたかった。
「もう、行かなくては」
「そう……ですか」
「さようなら、珠子さん。あたしは本当に幸せでした。あなたも幸せであるようにいつもお祈り申し上げます」
「お母さま……。さようなら」
葉子は車に乗り込み俯いた。
嗚咽が車のエンジンの音にかき消され煙があたりを曇らせる。
珠子は車が小さく見えなくなるまで見送り続けた。
浩一と葉子の婚姻時に約束された通り、『沢木屋』は正子の息子、正夫が継ぎ、沢木家の屋敷もそのまま正夫が受け継ぐこととなる。
葉子はこのまま一生住んでもよいことになっているが浩一のいない沢木家で暮らす気など毛頭なく、しばらくしたら家を出ることになった。
他県で教職についている一樹と暮らすのだ。
財産らしいものは特に残されてはいないが、葉子も一樹も不満はなかった。
散々泣いた後、葉子は愛する人の思い出を心にしっかり残し、まだ元気だから働くと気丈に振舞う。
「お母さま、いってしまうの?」
「ごめんなさいね。もう、ここに居ても……」
「ううん。そうよね。私ももう、ここが家ではないから……」
「珠子さん、お身体にはくれぐれもお気をつけて。もう、お会いできることもそうそうないと思うけれど……」
「ええ……」
今生の別れの様な挨拶を交わす。
実母ではないが慕っていた葉子と別れるのは辛かった。
しかし皆を繋げていた浩一がなくなってしまった以上、再びもとの他人に戻るのだ。
「お兄さまにもお元気でとお伝えください」
「伝えます。珠子さん……」
葉子は珠子と一樹の縁も途切れてしまうことに哀惜の念を感じた。
「なあに?お母さま」
「いいえ。なんでも」
名残惜しく車を待たせながらも離れがたかった。
「もう、行かなくては」
「そう……ですか」
「さようなら、珠子さん。あたしは本当に幸せでした。あなたも幸せであるようにいつもお祈り申し上げます」
「お母さま……。さようなら」
葉子は車に乗り込み俯いた。
嗚咽が車のエンジンの音にかき消され煙があたりを曇らせる。
珠子は車が小さく見えなくなるまで見送り続けた。
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