銀木犀の香る寝屋であなたと

はぎわら歓

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 妾の件を承知してから一週間ほどでキヨがやってきた。

藤井家の離れに妾宅が用意され珠子とは顔を合わせることはなかった。



 文弘は最初しぶしぶ週に一度キヨのもとへ通ったが、いつの間にか頻度が上がり、珠子の一人寝が増えた。

そして週に一度珠子のもとへ帰ってくるようになってしまった。



 その時には夫婦の営みはない。

それまではキヨが来ても十日に一度は珠子を抱いたが、今では「疲れたから休むよ」といい眠るだけだ。

珠子も追及はせず、隣で静かに眠りについた。



 文弘の優しさや物腰の柔らかさに変化はなかったが、だんだんと珠子に向ける視線が減っている。

悲しくはなかったが疎外感があった。





 ある日キヨの姿を見かけた。

あどけない顔で丸っこく善良そうで、遠くから車で帰ってくる文弘を愛しそうに見つめている。

 彼女も毎日文弘を待つだけの日々を送っているが、珠子と違って退屈な様子は見えず、夢見るような心地で過ごしていそうだ。



 珠子のほうが歳が上とはいえ、二つ程度しか離れていないのに、初々しく溌剌としたキヨを眺めていると、自分がとても老いたような気がした。

(文弘さんとは愛し合ってるのかしら……)



 文弘も珠子といるよりも、キヨと会っている方が楽しいのではないかと思っている。

かつて父の浩一と葉子の逢引を仲間外れのように感じたときがあったが、一樹のおかげで卑屈にならずに済んだ。

しかし今はもう一樹の様な存在はない。

珠子は初めて孤独を感じた。
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