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125 新時代

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 王の曹隆明も王位を退き、成人した徳樹に譲位する。健康に問題がなく、存命中に譲位した王は曹王朝の中でも、隆明唯一人だった。惜しむ声が多かったが立派に成人した徳樹を見ると誰もが納得した。

 星羅は、曹隆明も、前大軍師、郭嘉益のように育った後進が速やかにより才を発揮できるように譲ったのだと分かった。王の住まいであった銅雀台を徳樹に明け渡し、曹隆明は都の奥に屋敷を構える。新居に星羅は向かい、隆明一家の生活に不自由がないか確認に行く。臣下として星羅は隆明に拝謁する。

「面を上げよ」
「ありがとうございます」
「殿下。改めまして大軍師となりました朱星雷です」
「うむ。その名を使っておるのか」
「はい」
「ふふっ。そのように堅苦しくしなくてよい」
「あ、あのしかし」
「もう私は王ではない。これからは夫人とのんびり花を育てて過ごそうと思っておる」
「そうですか」
「星羅は何が好きなのかな?」
「え? 花、ですか」

 好きな花など星羅にはなかった。返答に困っている星羅に隆明は優しく笑んだ。

「ではこれからいろいろ植えるから、好きな花を見つけるといい」
「殿下、ありがとうございます」
「次来るときは、大軍師ではなく娘としてくるといい」
「殿下……」
「父でよい」
「父、うえ……」

 公に出来ない親子関係だがここで隆明を父と呼べるようになった。隣ではふっくっらと血色よく柔らかい表情の桃華が温かいまなざしで二人を見ていた。
 隆明と桃華の仲睦まじい様子を見ると、確かに母、胡晶鈴が『会う必要がない』というのは当然かもしれない。みんな前を向いて生きているのだと改めて実感した。

 徳樹の治世では大きな国難はなく十分に国力を蓄えることが出来た。近隣の諸国とも外交は穏やかで、交換留学生も盛んに行った結果、技術の向上が見られ、庶民の生活水準も上がる。地方の識字率もより高くなり、華夏国民はより自由に選択できるようになっていった。

 郭蒼樹は軍師省きっての名教官となり軍師を幾人も育てた。星羅は蒼樹のおかげでいつでも大軍師の引退ができると笑った。

「次の大軍師はあなたの弟の郭文立が候補になるわね」
「まあ問題ないだろう」
「軍師はあなたのおかげで豊富だけど、教官になれそうなものはいるの?」
「しまった……」
「わたしが引退しても、あなたが引退できないのではね」
「軍師ばかり育てて、教官を育てることにうっかりしていたな。早速取り掛かるとしよう」

 責任の強い蒼樹は自分の後進を育て上げてから引退する予定だ。二人は子を成さなかったが、軍師省の後進たちが2人の子供だった。
 星羅は引退したら、蒼樹と二人で自由にいろいろなところへ旅をしたいと夢を見ている。

 徳樹から数代後まで曹王朝は安定を誇ったが、やはり世界の時代の波にのまれていく。国の名も変わり、制度も変わり、王も消え、軍師も消えた。
 曹王朝は華夏国屈指の安定した王朝と名高く、星羅は幻の女軍師として伝説の中に名を残した。
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