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110 京樹の帰国
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華夏国民の1割が飢餓で死に、国庫もほぼ尽きかけたころ気候に温暖の兆しが見えた。まだ油断はできず、質素な生活が推奨されてはいるが国難の頂点からは抜け出たようだ。それと同時に太極府でずっと星を読んできた朱京樹は星が見えなくなった。
「華夏国での僕の役割は終わったようだ」
京樹は再三、西国の王にと使者がやってきていたが、返事を伸ばしていた。華夏国の行方と、妹の星羅が心配だったからだ。
その心配ももうなくなりそうだ。星羅から無理をしてない前向きな姿勢が感じられる。実母の胡晶鈴に会えたようで、心の憂いが減っているようだ。
兄として妹を支える必要性がなくなり、星も見えなくなり、華夏国でやるべきことは、もはやないかもしれない。
達観する京樹だが、太極府の陳賢路はたいそう残念がる。
「おぬしをわしの跡継ぎにさせたかったのじゃがなあ」
「異国民の僕にそこまで期待してくださって本当にありがとうございます」
「しょうがない。京樹は占術師ではなく、王になる運命だったのじゃな」
胡晶鈴に次ぐ逸材は京樹だった。陳賢路は心から残念だと思うが、こういう逸材がいないときは国家に不安がないときでもある。
「しばらく平和な御世が続くのかの」
2人はしばらく、夜空の星をただ、かがやく美しい星として眺めた。
西国から京樹のために正式な迎えがやってくる。西国の老臣の宰相と外交官は何十年かぶりの国賓であるが、飢饉を何とか乗り越えた華夏国にとって十分なもてなしは不可能だった。せいぜい地方の富豪の結婚式だ。大臣たちは恥ずかしさのあまり俯いている。
「申し訳ない。せっかくお越しいただいたのに満足にもてなすことが出来ぬ」
王の曹隆明の言葉に老臣は手を大きく振り額づく。
「王様、とんでもございません。このような立派なもてなし痛み入ります。西国とて同様です。飢饉でもないのに民は飢え……」
暗殺された王のバダサンプは市民から搾れるだけの税を搾り取っていた。国のことなどまるで考えず、おのれの欲望だけを満たし続け、忠言を進言する大臣たちを抹殺してきた。王位継承者もことごとく亡き者にされた。暗殺されなければ西国はバダサンプとともに消滅していき、隣国の領地になっていてもおかしくなかった。
「新しい王はきっと善政を布いてくれると思います」
そこへ西国の正装をした京樹がやってきた。スカイブルーの何層もあるドレープの軽やかな衣装は、金糸銀糸で刺繍がほどこされきらきら輝いている。普段から着慣れていた漢服よりも、やはり西国の衣装が良く似合う。彩度の高い青は京樹の聡明さを引き立たせ、ナイーブに見えた彼を逞しく感じさせる。
国賓を迎えるこの祝宴に、軍師として、また京樹の妹として星羅も末席を与えられている。初めて見る西国の正装をした京樹は華やかで素晴らしく美丈夫で、思わず見とれてしまった。
「京にいじゃないみたい」
西国の花と呼ばれた母、ラージハニを持つエキゾチックな西国の新王『ラカディラージャ』は、これから国民をその容姿だけでも魅了していくだろう。曹隆明に堂々と挨拶をしたのち、上座に座った京樹が、星羅を見つけ笑んだ時、初めて胸がドキリとした。
宴が終り、明日になれば京樹は旅立つ。外交官として西国を訪れることが出来るだろうが、そう簡単なことではない。ちょっと馬を走らせて、太極府に会いに行くのとはわけが違うのだ。星羅は出来るだけ京樹の姿を目に焼き付ける。華やかな西国の衣装の彼を見ながら、いつもの漢服の兄の姿も思い出していた。
早朝、星羅は最後に京樹の姿を一目見ようと、王族と郭家の後ろに控えていた。十分、兄妹として別れの会話を交わしてきたが、まだまだ言い足りない気がするし、寂しい。
金属が多く使われた豪華な馬車に乗り込む京樹をじっと見る。京樹は、星羅の視線に気付くとじっと星羅を見つめ目配せをした。
「さよなら、京にい……。お元気で、王様」
屈強な兵士に守られ、長い西国の隊列は都を後にした。帰国すれば、すぐに京樹は即位し国を安定させようと奮闘するだろう。バダサンプによって荒れた西国を立て直そうとする京樹はきっと大変な苦役を強いられるだろう。
一瞬、「王妃として西国に来ないか?」と言われたことを思い出す。京樹と一緒に国を立て直すことに尽力するほうが良かったのだろうかと考える。『次にまた求婚されたらお受けなさい』晶鈴の言葉を思い出すと美しい異国の王に抱かれることを想像してしまった。
「母上が変なことを言うから」
星羅は、見えなくなるまで京樹の乗った馬車を見送り続けた。
「華夏国での僕の役割は終わったようだ」
京樹は再三、西国の王にと使者がやってきていたが、返事を伸ばしていた。華夏国の行方と、妹の星羅が心配だったからだ。
その心配ももうなくなりそうだ。星羅から無理をしてない前向きな姿勢が感じられる。実母の胡晶鈴に会えたようで、心の憂いが減っているようだ。
兄として妹を支える必要性がなくなり、星も見えなくなり、華夏国でやるべきことは、もはやないかもしれない。
達観する京樹だが、太極府の陳賢路はたいそう残念がる。
「おぬしをわしの跡継ぎにさせたかったのじゃがなあ」
「異国民の僕にそこまで期待してくださって本当にありがとうございます」
「しょうがない。京樹は占術師ではなく、王になる運命だったのじゃな」
胡晶鈴に次ぐ逸材は京樹だった。陳賢路は心から残念だと思うが、こういう逸材がいないときは国家に不安がないときでもある。
「しばらく平和な御世が続くのかの」
2人はしばらく、夜空の星をただ、かがやく美しい星として眺めた。
西国から京樹のために正式な迎えがやってくる。西国の老臣の宰相と外交官は何十年かぶりの国賓であるが、飢饉を何とか乗り越えた華夏国にとって十分なもてなしは不可能だった。せいぜい地方の富豪の結婚式だ。大臣たちは恥ずかしさのあまり俯いている。
「申し訳ない。せっかくお越しいただいたのに満足にもてなすことが出来ぬ」
王の曹隆明の言葉に老臣は手を大きく振り額づく。
「王様、とんでもございません。このような立派なもてなし痛み入ります。西国とて同様です。飢饉でもないのに民は飢え……」
暗殺された王のバダサンプは市民から搾れるだけの税を搾り取っていた。国のことなどまるで考えず、おのれの欲望だけを満たし続け、忠言を進言する大臣たちを抹殺してきた。王位継承者もことごとく亡き者にされた。暗殺されなければ西国はバダサンプとともに消滅していき、隣国の領地になっていてもおかしくなかった。
「新しい王はきっと善政を布いてくれると思います」
そこへ西国の正装をした京樹がやってきた。スカイブルーの何層もあるドレープの軽やかな衣装は、金糸銀糸で刺繍がほどこされきらきら輝いている。普段から着慣れていた漢服よりも、やはり西国の衣装が良く似合う。彩度の高い青は京樹の聡明さを引き立たせ、ナイーブに見えた彼を逞しく感じさせる。
国賓を迎えるこの祝宴に、軍師として、また京樹の妹として星羅も末席を与えられている。初めて見る西国の正装をした京樹は華やかで素晴らしく美丈夫で、思わず見とれてしまった。
「京にいじゃないみたい」
西国の花と呼ばれた母、ラージハニを持つエキゾチックな西国の新王『ラカディラージャ』は、これから国民をその容姿だけでも魅了していくだろう。曹隆明に堂々と挨拶をしたのち、上座に座った京樹が、星羅を見つけ笑んだ時、初めて胸がドキリとした。
宴が終り、明日になれば京樹は旅立つ。外交官として西国を訪れることが出来るだろうが、そう簡単なことではない。ちょっと馬を走らせて、太極府に会いに行くのとはわけが違うのだ。星羅は出来るだけ京樹の姿を目に焼き付ける。華やかな西国の衣装の彼を見ながら、いつもの漢服の兄の姿も思い出していた。
早朝、星羅は最後に京樹の姿を一目見ようと、王族と郭家の後ろに控えていた。十分、兄妹として別れの会話を交わしてきたが、まだまだ言い足りない気がするし、寂しい。
金属が多く使われた豪華な馬車に乗り込む京樹をじっと見る。京樹は、星羅の視線に気付くとじっと星羅を見つめ目配せをした。
「さよなら、京にい……。お元気で、王様」
屈強な兵士に守られ、長い西国の隊列は都を後にした。帰国すれば、すぐに京樹は即位し国を安定させようと奮闘するだろう。バダサンプによって荒れた西国を立て直そうとする京樹はきっと大変な苦役を強いられるだろう。
一瞬、「王妃として西国に来ないか?」と言われたことを思い出す。京樹と一緒に国を立て直すことに尽力するほうが良かったのだろうかと考える。『次にまた求婚されたらお受けなさい』晶鈴の言葉を思い出すと美しい異国の王に抱かれることを想像してしまった。
「母上が変なことを言うから」
星羅は、見えなくなるまで京樹の乗った馬車を見送り続けた。
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