34 / 127
34 星羅と京樹
しおりを挟む
双子同然に育ててきたので、彰浩と京湖は星羅の生い立ちについては何も触れずに来た。京樹が陳老師のもとに通うようになって突然「僕と晶鈴は顔が違うね」と言い始めた。
京樹は太極府で占星術を陳老師について学んでいる。自然と観察力と洞察力が幼いながらに身についてきているようだ。
星羅ももう陸慶明の妻、絹枝の学舎に通い勉学を始めているが、読み書きしている大勢の子弟の中のそばで落書きなどをしているだけだった。
彼の言う通り、兄妹のはずなのに星羅と京樹は明らかに容姿が違う。
朱京樹は両親の彰浩と京湖に良く似て、艶のある浅黒い肌と刻太い黒い髪、くっきりした彫の深い顔立ちをしている。鼻梁も高く唇も厚く大きい。
星羅の肌は白く、髪は艶やかな漆黒だが繊細な絹糸のようだ。丸く黒めがちな瞳は愛らしいが、額は広くりりしい眉をしている。小さな唇はふっくらとして淡い桃色だった。
都の気候は西国と違い、乾燥して寒い。京湖と彰浩も以前の衣装はすでにしまい込み、しっかりと織られた目の細かい漢服を着ている。随分とこの国になじんでいるが、やはり異国の民である。
隠すつもりはないが、もうそろそろ星羅の身の上について話さねばならないかと、京湖は決心し家族4人で話し合うことにする。
慎ましい夕食を終え、あたりを片付けたのち京湖は話があるとみんなに告げる。
「なあに? かあさま」
興味を持つ愛らしい瞳の星羅の頭を優しく撫でると、話すことがためらわれた。複雑な話は難しいかもしれないが、ある程度の事情は理解するだろう。
「星羅。実はあなたのお母さまは別の方なの……」
「え?」
唖然とする星羅と、なんとなくそんな気がしていたという表情をする京樹の顔を京湖は見比べ、真剣な表情の彰浩に視線を送った。
「とうさまは?」
星羅は、彰浩のほうを向いて尋ねる。
「とうさんも、ほかにいる……」
彰浩は残念そうに答えた。
「星羅のかあさまととうさま……」
迷子になったような心細い表情をする星羅を、京湖はすぐに抱き上げる。
「心配しないで。あなたのお母さまはちょっと遠くに御用時に行ってて、今私たちがあなたのとうさまとかあさまには違いないのよ」
「そうだ。星羅は私たちの大事な家族だよ」
彰浩も優しく言葉を続ける。
強い力で星羅は、京湖の身体を抱きしめ「ほんとね。かあさまととうさまと星羅と京樹は家族ね」と尋ねるようにつぶやいた。
「そうよ、ずっとそうよ。でもお顔が少し京樹と違うのは、星羅を産んだのは他のお母さまなの」
傷つけてはいないだろうかと京湖は心配しながら説明をする。しばらく黙って考えていた京樹が口を開く。
「そうか。星羅には父さまと母さまが2人ずついるんだ。僕と兄妹で、星羅は6人家族になるね」
「とうさまとかあさまが2人ずつ? 」
「そうさ。星羅、いいことだよ」
「うん! いいことね!」
京樹の言葉を聞いて、明るく答える星羅に、京湖と彰浩は少しホッとする。京湖たちの身の上は、また二人が成長してから話さねばならないと、とりあえず今を乗り切れたと胸をなでおろす。
わずか1刻ほど先に生まれただけなのに、京樹は母がいない星羅を兄として守らねばと幼い心で決意する。その決意はいつか、家族の情を越え一人の女性として星羅を見つめることとになるとは、まだ誰も気づいていなかった。
京樹は太極府で占星術を陳老師について学んでいる。自然と観察力と洞察力が幼いながらに身についてきているようだ。
星羅ももう陸慶明の妻、絹枝の学舎に通い勉学を始めているが、読み書きしている大勢の子弟の中のそばで落書きなどをしているだけだった。
彼の言う通り、兄妹のはずなのに星羅と京樹は明らかに容姿が違う。
朱京樹は両親の彰浩と京湖に良く似て、艶のある浅黒い肌と刻太い黒い髪、くっきりした彫の深い顔立ちをしている。鼻梁も高く唇も厚く大きい。
星羅の肌は白く、髪は艶やかな漆黒だが繊細な絹糸のようだ。丸く黒めがちな瞳は愛らしいが、額は広くりりしい眉をしている。小さな唇はふっくらとして淡い桃色だった。
都の気候は西国と違い、乾燥して寒い。京湖と彰浩も以前の衣装はすでにしまい込み、しっかりと織られた目の細かい漢服を着ている。随分とこの国になじんでいるが、やはり異国の民である。
隠すつもりはないが、もうそろそろ星羅の身の上について話さねばならないかと、京湖は決心し家族4人で話し合うことにする。
慎ましい夕食を終え、あたりを片付けたのち京湖は話があるとみんなに告げる。
「なあに? かあさま」
興味を持つ愛らしい瞳の星羅の頭を優しく撫でると、話すことがためらわれた。複雑な話は難しいかもしれないが、ある程度の事情は理解するだろう。
「星羅。実はあなたのお母さまは別の方なの……」
「え?」
唖然とする星羅と、なんとなくそんな気がしていたという表情をする京樹の顔を京湖は見比べ、真剣な表情の彰浩に視線を送った。
「とうさまは?」
星羅は、彰浩のほうを向いて尋ねる。
「とうさんも、ほかにいる……」
彰浩は残念そうに答えた。
「星羅のかあさまととうさま……」
迷子になったような心細い表情をする星羅を、京湖はすぐに抱き上げる。
「心配しないで。あなたのお母さまはちょっと遠くに御用時に行ってて、今私たちがあなたのとうさまとかあさまには違いないのよ」
「そうだ。星羅は私たちの大事な家族だよ」
彰浩も優しく言葉を続ける。
強い力で星羅は、京湖の身体を抱きしめ「ほんとね。かあさまととうさまと星羅と京樹は家族ね」と尋ねるようにつぶやいた。
「そうよ、ずっとそうよ。でもお顔が少し京樹と違うのは、星羅を産んだのは他のお母さまなの」
傷つけてはいないだろうかと京湖は心配しながら説明をする。しばらく黙って考えていた京樹が口を開く。
「そうか。星羅には父さまと母さまが2人ずついるんだ。僕と兄妹で、星羅は6人家族になるね」
「とうさまとかあさまが2人ずつ? 」
「そうさ。星羅、いいことだよ」
「うん! いいことね!」
京樹の言葉を聞いて、明るく答える星羅に、京湖と彰浩は少しホッとする。京湖たちの身の上は、また二人が成長してから話さねばならないと、とりあえず今を乗り切れたと胸をなでおろす。
わずか1刻ほど先に生まれただけなのに、京樹は母がいない星羅を兄として守らねばと幼い心で決意する。その決意はいつか、家族の情を越え一人の女性として星羅を見つめることとになるとは、まだ誰も気づいていなかった。
0
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
竜人族の末っ子皇女の珍☆道☆中
秋月一花
ファンタジー
とある国に、食べることが大好きな皇女がいた。
その皇女は竜人族の末っ子皇女として、とても可愛がられながら育ち、王宮で美味しい料理に舌鼓を打っていた。
そんなある日、父親である皇帝陛下がこう言った。
『そんなに食べることが好きなのなら、いろんな国を巡ってみてはどうだ?』
――と。
皇女は目を輝かせて、外の世界に旅をすることに決めた。
これは竜人族の末っ子皇女が旅をして、美味しいものを食べる物語である!
「姫さま……それはただの食べ歩きになるのでは」
「良いじゃろ、別に。さあ、今日も美味しいものを探しに行くぞ、リーズ!」
「……まぁ、楽しそうでなによりです、シュエさま」
……ついでに言えば、護衛の苦労談でもあるかもしれない?
※設定はふわっとしています。
※中華風~西洋風の国を旅します。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる