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アクエリアスの女 変革の章

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 次の日、写真集を購入しそびれたことに気づき唸っていると扉をたたく音が聞こえた。今日は来客がない予定だが何か荷物でも届いたのだろうかと扉を開けた。

「君……」
「トモです。こんにちは」
「一人?」

コクリと頷くトモをとりあえず家にあげた。外は雪こそ降ってはいないがこの冬一番の冷え込みだろう。紺のダッフルコートを着、ウールの細身のパンツにブーツを履いているが吐く息は白い。

「そこのストーブに当たって。今コーヒーでもいれるよ」
「ありがとうございます」

淡々としているし素っ気ない様子だがきちんとした態度には好感が持てた。

「どうしたの?わか、出射さんは知ってるの?」
「いえ。あなたに興味があった来ただけです。緋月さんは若菜さんの元カレでしょう?」

胸がチクリとするが正直に答えた。

「うん。そうだね」
「今でも好きですか?」
「……そりゃ、そうだね」
「よりを戻そうとは思ってないんですよね?」
「戻したくても無理だね」

尋問なのか質問なのか。トモはどういう意図で聞いてくるのかわからない。

「緋月さんは占い師なんですよね。自分の事を観てほしいんです。いろんなことを」

話題が若菜からトモにいきなり移行する。

「まあ、今日は予定がないからいいよ。ホロスコープ作成するからから生年月日教えてもらえるかな」

リビングからトモを鑑定ルームに案内しパソコンで彼女の星の出生図を作成し眺めた。彼女の特徴はやはりみずがめ座で多くの星々と影響し合っている。しかし一般的に言う良い配置とは言えず幼年期から相当の困難を強いられている様子だ。

「黒甕さん、だったね」
「トモ……で、いいです」
「ん。トモ。君は子供のころから相当辛い思いをしてきてるようだけど……家族との関係はどうなのかな」
「親とは特になんの関係もありません」
「そう。その……ネグレクトやもしくは虐待なんか受けたりしてないか?」

ふっと微笑しながらトモは答える。

「親は……そうできたら良かったんでしょうけど、そんなことすらできなかった」

謎めいた言い回しに困惑を覚えながら引き続きホロスコープを眺める。恋愛に関することを読み解いていると先ほど若菜の事を持ち出した理由がわかり始めてきた。

「君は同性愛者なの?」

言い辛いのだろうか。押し黙って考えている。

「若菜が好きなのか……」
「若菜さんは僕の全てです」
「そうか」

納得がいったので僕は少しすっきりして話した。

「僕は君たちの関係に立ち入ることはないから心配しなくていいよ。ただ若菜は偏見がないほうだけど女性を愛する傾向はちょっと薄そうだな」

「もう告白してるんです。僕が男か女かそんなことは関係なくて、若菜さんはあなたが忘れられないんだ」
「時間の問題だよ」
「僕の問題はあなたを超えることが出来るかということ。心だけじゃなくて身体も」
「急がなくてもいいんじゃないかな。君はまだ若いし若菜の過去に固執することはないんだよ」
「普通ならこんなに焦らないかもしれない。でも僕は……はやくあなたを克服したい。いや、征服したい。身体だけでも」
「君はセックスをどう考えてる?」
「エネルギーの交換と移動」

僕と寝て若菜のエッセンスを全て奪おうとしているのだろうか。そんなことは無意味だと諭してもそれこそ意味がないだろうか。

「若菜とはまだ寝ていないの?」
「うん。あなたを知って克服したら彼女を抱くよ」

トモは真摯な眼差しを向ける。視線が物質化したら射貫かれそうだ。拒んでも事態は収拾しないだろう。八木寛美とのカーマスートラを思い出す。――伝統と継承か。

「わかった。君に渡してしまおう。ベッドルームにおいで」

大人しく静かにトモは寝室についてきた。カーテンを引き薄暗くしてからベッドに腰かけトモに横に座る様に促した。

「経験はあるの?」
「男の人とはないよ」

どうやら完全に同性愛者のようだ。それなのに男の僕と身体を重ねようと思うには相当の決心があるのだろう。

「僕に好きにさせてくれないかな、あなたのこと」

彼女の真剣な表情に僕は了承せざる負えなかった。また彼女が納得すれば問題は早期解決するのだろうとも思っていた。

「いいよ。君がいいと思うまで」

僕は眼鏡をサイドボードに置き、軽く衣服を緩めベッドに横たわった。彼女はダッフルコートを脱ぎハイネックのニットも脱ぎ捨てた。下着はつけていない。暗がりに白い肌がぼんやり浮かび上がる。女性にしては肩幅は広めでしっかりしたデコルテだ。胸はかろうじてふくらみがあるのだろうか?眼鏡を外してしまったのではっきり見えないがほとんど平らに見える。

ボトムはそのままにし横たわる僕の上に身を乗り出してきた。僕のシャツのボタンを外しスラックスもおろし、更にはボクサーショーツも剥ぎ取り全裸にした。彼女は『タチ』なのだろう。男が女にするように僕を扱う。目を閉じて抗わずされるがまにトモの愛撫を受ける。首筋から肩、胸から乳首まで優しくなぞる様に彼女の指先と舌が這う。まだ力のないペニスをそっと両掌で包み揉みしだく。

「やっぱり男の人のって大きんだね」

相変わらず謎めいた言い回しに引っかかりながら彼女の手付きがやけに慣れている様子に矛盾を感じながら複雑な思いが生じていた。

「うっ」

段々硬度を増していく肉棒を自然にしごかれ思わずうめいた。

「気持ちいいの?」
「あ、ああ。君は男とは経験がないと言う割に器用だな」

ふっと謎の微笑を浮かべトモは大きくなった僕のペニスを見て満足げだ。

「ローション使わせて」

コートのポケットから潤滑ゼリーを取り出した。

「そんなに無理しなくても……」

と、言いかけた僕に「あなたが辛いといけないから」と言いながらトモはボトムを脱いだ。
困惑している僕の視界にさらに追い打ちをかけるものが目に入る。

「そ、それは……」
「僕は半陰陽なんだ」

小ぶりだがトモにはペニスが付いている。やっと全てに合点がいった。

「そうだったのか」
「生まれたときはここまで発達してなかったし、卵巣があるから女だよ。でも僕は好きになるのは女の人ばっかりだった。今まで好きになった女の人はレズビアンの人がほとんどだったけどやっぱりコレが嫌いな人が多くてさ。興味本位で抱かせてはくれるけど……、僕の外見ばかりがみんな気になるみたいだ」

トモは自分の中ではこの状態に折り合いがついているらしく苦痛を感じるほど思い悩むことはなかったようだ。諦めなのか達観なのか。まだ二十歳のトモは若くもあり老いた隠者のようでもある。

「若菜さんは僕を全部持ってるって言ってくれた人なんだ。それまでは自分の事をどっちでもなくてどっちにもなれない不完全な奴だって思ってた」

若菜らしい偏見のない率直なモノの見方や考察は、哲学的でもあるし深い愛ゆえに受容にも思える。

「天使は無性なんだ。悪魔は両性具有。君は天使で悪魔だね。全てを持ってるんだ」

トモを眺めると両方の性があっても違和感なく自然でなおかつ美しかった。

「ありがとう。若菜さんがあなたを好きな気持ちがよくわかる。僕も心が女ならあなたを好きになるかもしれない。でも」

トモはローションを片手に僕の上に馬乗りになり蓋を開け自身のペニスに垂らした。――まさか。
不安と恐れが僕を襲う。逃れようと身体をずらしたがトモが強い力で手首を押さえつける。
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