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ジェミニの女 好奇心の章
1 双子座 双見 チセ(ふたみ ちせ) ライター
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占いスクールの講座を終えて馴染みのバーによりカウンターで一人飲んでいると隣にするっと女性が座った。
「せーんせっ。こんばんは。おひとりですかあ?」
「やあ。チセちゃん。講座帰りでね。一人だよ。君も?」
「ええ。さっきまで隣のパスタ屋さんの取材してたんですよ」
彼女の名前は双見チセ、二十五歳。僕が寄稿してるフリーペーパー『ミートゥー』の編集者だ。
「そうそう、せんせ。ここのところの週間星占い。なんか、すごくないですか?」
「ん?すごい?どういう意味かなあ」
「なんかあ、エロくないですかあ?」
チセは好奇心旺盛な丸い目をキラキラさせて僕を見入る。
「え。そうかなあ」
「そうですよお。今週の双子座の恋愛運のとこなんてアタシドキドキしちゃった」
「なんて書いたっけ」
「やだ、もうぉ。『意中の彼には小道具が有効。道具を使ってアプローチしましょう』とか」
「エロいかな。それ」
「エロエロですよお。せんせ、彼女でもできたとか?ここんとこカッコよくなってるし」
「いないって」
「へー。怪しんだー」
ここ何ヶ月かで二人の女性との絡みが鑑定内容に影響しているのだろうか。少し気を付けなければ。気を引き締めようと心掛けていると隣のチセはアルコールでより口が滑らかになりよく話しかけてくる。彼女のおしゃべりがウザったくないのは知性によるものだからだろうか。感情的にならないウィットに富んだ軽妙なトークは色々な知識や情報が混ざり聞くだけでも面白い。
彼女が手掛けるフリーペーパーはその能力が最大限に生かされているようで、面白い切り口と視点で市内ではかなり重宝されている。掲載された店はその月にとても人気のスポットとなる。
「そういえばこの前紹介されてた小料理屋行ってきたよ。こじんまりしてて味も良かったから通いそうだよ」
「ああ『カミノキ』ですね。なんかお母さんの味ですよねえ。安らぐっていうか。あのオーナーも理想的なお母さんって感じ」
「うん。チセちゃんはいい店見つけてくるね」
「うふ。ありがとうございます」
チセは褒められても屈託なく笑顔を見せる。
「でも、最近ちょっとマンネリで。転職考えてるんですよ」
「ああ、そうなの?合ってると思うけど」
「うーん。時々色々リセットしたくなるんです。仕事もカレシも」
そう言われてみると確かに飽きっぽい性格のようでここ三年で髪型も服装もコロコロ変わった気がする。綺麗に伸ばしていたロングヘアーはすっかりスポーティなショートヘアになっていてファッションもパンツスタイルだ。中性的な可愛らしさをもつチセにはよく似合っているが、こうも雰囲気を変えられると恋人はついていけないだろう。
「チセちゃんは会うたびに雰囲気変わって面白いね」
「そう言ってくれるのはせんせぇくらいかな。カレシは疲れるって。まあその前にアタシが飽きちゃうんだけど」
ペロッと小さな舌を出して彼女は茶目っ気のある笑顔を見せる。たわいもない話をしばらく楽しんだ。時計を見ると十一時前だ。いつの間にか二時間近くも過ごしていたらしい。この時間に僕は地元のウィスキーを飲んでいたがチセはビール、ワイン、サワーと強くはないが様々な種類を飲んでいたようだ。
「そろそろ帰るよ」
「あら、早いんですね」
「山にこもってると基本早寝早起きだからね。いつもならもうベッドだよ」
「健康的~。アタシはもう少しだけ飲んで帰ります。おやすみなさい」
「ん。ほどほどにね」
「はあーい」
勘定をし、僕よりも若いが物静かなマスターに「ごちそうさま」と告げ店を出た。タクシー乗り場まで十分ほど工場の煙でよく見えない空の中に星座を探しながら歩く。夜風に冬を感じ少し星を見えたころにタクシーが目に入った。
「せーんせっ。こんばんは。おひとりですかあ?」
「やあ。チセちゃん。講座帰りでね。一人だよ。君も?」
「ええ。さっきまで隣のパスタ屋さんの取材してたんですよ」
彼女の名前は双見チセ、二十五歳。僕が寄稿してるフリーペーパー『ミートゥー』の編集者だ。
「そうそう、せんせ。ここのところの週間星占い。なんか、すごくないですか?」
「ん?すごい?どういう意味かなあ」
「なんかあ、エロくないですかあ?」
チセは好奇心旺盛な丸い目をキラキラさせて僕を見入る。
「え。そうかなあ」
「そうですよお。今週の双子座の恋愛運のとこなんてアタシドキドキしちゃった」
「なんて書いたっけ」
「やだ、もうぉ。『意中の彼には小道具が有効。道具を使ってアプローチしましょう』とか」
「エロいかな。それ」
「エロエロですよお。せんせ、彼女でもできたとか?ここんとこカッコよくなってるし」
「いないって」
「へー。怪しんだー」
ここ何ヶ月かで二人の女性との絡みが鑑定内容に影響しているのだろうか。少し気を付けなければ。気を引き締めようと心掛けていると隣のチセはアルコールでより口が滑らかになりよく話しかけてくる。彼女のおしゃべりがウザったくないのは知性によるものだからだろうか。感情的にならないウィットに富んだ軽妙なトークは色々な知識や情報が混ざり聞くだけでも面白い。
彼女が手掛けるフリーペーパーはその能力が最大限に生かされているようで、面白い切り口と視点で市内ではかなり重宝されている。掲載された店はその月にとても人気のスポットとなる。
「そういえばこの前紹介されてた小料理屋行ってきたよ。こじんまりしてて味も良かったから通いそうだよ」
「ああ『カミノキ』ですね。なんかお母さんの味ですよねえ。安らぐっていうか。あのオーナーも理想的なお母さんって感じ」
「うん。チセちゃんはいい店見つけてくるね」
「うふ。ありがとうございます」
チセは褒められても屈託なく笑顔を見せる。
「でも、最近ちょっとマンネリで。転職考えてるんですよ」
「ああ、そうなの?合ってると思うけど」
「うーん。時々色々リセットしたくなるんです。仕事もカレシも」
そう言われてみると確かに飽きっぽい性格のようでここ三年で髪型も服装もコロコロ変わった気がする。綺麗に伸ばしていたロングヘアーはすっかりスポーティなショートヘアになっていてファッションもパンツスタイルだ。中性的な可愛らしさをもつチセにはよく似合っているが、こうも雰囲気を変えられると恋人はついていけないだろう。
「チセちゃんは会うたびに雰囲気変わって面白いね」
「そう言ってくれるのはせんせぇくらいかな。カレシは疲れるって。まあその前にアタシが飽きちゃうんだけど」
ペロッと小さな舌を出して彼女は茶目っ気のある笑顔を見せる。たわいもない話をしばらく楽しんだ。時計を見ると十一時前だ。いつの間にか二時間近くも過ごしていたらしい。この時間に僕は地元のウィスキーを飲んでいたがチセはビール、ワイン、サワーと強くはないが様々な種類を飲んでいたようだ。
「そろそろ帰るよ」
「あら、早いんですね」
「山にこもってると基本早寝早起きだからね。いつもならもうベッドだよ」
「健康的~。アタシはもう少しだけ飲んで帰ります。おやすみなさい」
「ん。ほどほどにね」
「はあーい」
勘定をし、僕よりも若いが物静かなマスターに「ごちそうさま」と告げ店を出た。タクシー乗り場まで十分ほど工場の煙でよく見えない空の中に星座を探しながら歩く。夜風に冬を感じ少し星を見えたころにタクシーが目に入った。
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