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18:配信復帰戦
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スキャンは建物内での戦闘が最も威力を発揮する。3階建てのボックス型の家に拠点を作り、屋上で詰めてくる敵を威嚇する。
「単スナ当てられると萎えるよなあ」
敵が見える度に俺がスナイパーライフルで狙撃してると暇なマキが喋った。近くの家から使えそうな物資を拾ってきては拠点にぽいぽい置いていたが、あらかたやり終えたらしい。
「あそこの岩裏102入ってるぞ」
「詰める?」
「嫌がらせ」
「性格わる~」
耐久戦だ。パルスに追われてじわじわ近づいてくる敵を少しずつ削る。移動しようと敵が顔を出す度に俺が狙撃していると、大きく近づいて来ようとしなくなった。来なくて正解だ。来たら猟犬が2匹待ち構えている。嫌がらせで回復キットを消費させつつ、ある程度の距離でアーマーが割れたら突撃して殲滅する。この3人だと一番ダメージが少ない戦法だ。
ただこれは1パーティを相手してるから出来ることで、敵が複数パーティになると数で押し切られる。パルスで狭いフィールド内に徐々に他パーティが集められている。チーターパーティの生存は確認済みだった。そろそろ来るはずだ。
今までとは別の人影が見えて、狙撃しようと遮蔽物から体を出した瞬間だった。
「ッ、ノック!」
「はあ!?」
遠距離から撃たれて一撃でダウンした。チーターのオートエイムだ。慌ててヤカモレさんが屋上の俺を起こしに来る。
「詰めてくるぞ!」
「やッッッばい、こいつ!」
拠点の外に出ていたマキが体力が半分削られた状態で逃げ帰ってきた。それも俺が見てた限り一撃だ。拠点内に集められた回復キットを何個か拾って下に降りる。扉に向かってスキャンしたが、手持ちミサイルが無理矢理投げ込まれた。
「っ、くそッ!」
初動失敗した。詰めてくるだろう敵が分かるように外に向かってスキャンしたつもりが、俺が屋上で倒れたせいで遅れ、少しズレる。もうすぐ近くに居て、ミサイルの爆風が止むと家の中に入ってくるだろう。
「スキャンは!?」
「あと20秒!」
連続スキャンは出来ない。クールタイム中に敵に入り込まれ、視界不良のまま戦うことになる。クソ、下手くそか! だからスキャンキャラは前線に居るんだろ! 得意のスナイパーライフルを使いたくて高所を取っちまった。入ってくる敵を追い出そうとサブマシンガンを入口に向かってぶっ放してるとマキが土煙の中を突っ込んでいった。撃たれるのも覚悟で正面突破して外に出る。
「レミ割った! 全員いる!」
キャラ名でアーマーを割ったことを報告する。パーティ全員外にいるってことは今マキは1対3だ。
「ナイス!」
ヤカモレさんも同じように外に出た。俺は最後まで入口から中に入ってこようとしている奴を相手し、連続してダメージを入れて離れたことを確認してから外に出る。
「やばい、こいつやばい!」
ヤカモレさんが叫んで家の壁に沿って一度身を隠し、すぐに走っていった。やばいと分かってても突っ込まないと、マキが3人相手している。ボックス型の家の周り、ヤカモレさんが一度隠れた角の向こう側で銃声が聞こえる。俺も体を出して見えた敵に銃弾を撃ちこんだ。
「やったやった、そいつやった!」
「ナイス!」
「やったでも、あーっ! レミは無理矢理殺した!」
角に隠れてマキとヤカモレさんのやりとりに味方のステータスを見る。無理矢理殺したと報告したマキはダウンしていた。俺の方に足音が詰めてきてる。もう一度体を出して、俺は俺で目の前の赤アーマーを割って殺した。
「1人やった! あと1人どこだ!?」
「帰っていってる!」
撃ち返された傷を回復しながら、ヤカモレさんの姿を目で追う。ヤカモレさんは形勢不利になって戻っていく敵を追いかけて、体力がごっそり削られていた。相手の得物はマークスマンライフルだ。さっき俺を一撃でダウンさせたやつ。チーター。
「絶対殺す」
「そいつは殺しといた方がいい!」
ダウンしてるマキが俺を煽る。
キャラの身長より高い物資補給ボックスの裏に隠れ、ヤカモレさんと一緒に2方向からチーターに向かって撃ち込む。撃ってる最中は体を出すからどっちか片方が必ず撃ち返されて回復キットをがんがん減らしていった。駄目だ、逃げられる。
「ごめん、一旦マキちゃん起こす!」
ヤカモレさんが戻っていった。俺も回復キットがもう無い。舌打ちして拠点に戻る。
「取り逃がした」
「おっけおっけ、ナイスナイス! おいおいどう料理してやっかなあ!」
起きた途端、興奮したマキがうるさく叫んだ。
「舐めやがって、あの野郎!」
マキがこういうテンションのときはゾーンみたいなものに入り込んでる時だ。調子が良いのか。詰めるべきか悩む。
チーターパーティは3人だったのが残り1人になり、ダウンした2人は確キル入れて拠点内に死体を転がした。蘇生は無理だろう。あとはチーターたった1人だが、残りチーム数の表示は4だ。あと2チームどこかにいる。目視出来ないか再度屋上に戻るとズダン、と重たい銃弾が飛んできた。
「マークスマン!」
距離を取ったチーターが変わらずこちらを狙い定めていた。慌てて遮蔽物に身を隠すと逆方向から更に銃撃が飛んでくる。こっちはチーターチームじゃない。
「別パいる、囲まれた」
「最悪じゃん!」
「人じゃないのどっち?」
「右」
ヤカモレさんの質問に答えながらマップのチーターが居る方に印をつける。パルスを背にして右側にチーター、左側に別パがいる。運が良いことにどちらの射線も通らない遮蔽物があって隠れられるが、建物から出られなくなった。くそ、敵同士でやり合ってくれりゃいいものを。
「何で俺等ばっかり狙われんの!? 絶対ぜっとさんがヘイト稼いだからじゃん!」
マキの言う通りだ。嫌がらせで恨みを買い過ぎた。2チーム協力して俺らを殺すつもりだ。ヤカモレさんが「まあ、乱戦になる前に単スナ処理しときたいからね」と俺らが集中して狙われる理由をフォローしてくれたが、それもつまりは俺が延々とスナイパーライフルで嫌がらせをしたせいだ。
「……責任取る」
俺が突破口を開かないと、どうしようもない。
「頼むよぜっとさん!」
「抜くとしたら人類の方?」
「どうかな、レミだ。頭ちいせぇ」
遮蔽物に体を極力隠した状態で左側の屋根上に居る女キャラを狙う。教会の鐘に隠れるレミが出てくる瞬間を狙い、鐘のすぐ横、恐らく頭らへんになるはずの場所に照準を合わせて待つ。スコープ越しに髪が見えた瞬間、撃った。ダンッと音はするがダメージ数が出ない。
「外した、小顔補正入ってる」
「そんなんあるの?」
無い。俺の適当な発言を聞き返すマキを無視する。もう一度だ。スコープを覗いてる間は他のことが出来なくなるからヤカモレさんが右のチーターを見張っててくれている。
「レミ小さくて可愛いからな~」なんてマキがうるさいのは俺が狙撃するのを待っているからだ。俺が撃った瞬間、こいつは出る。教会の鐘の1ミリ横、さっきの外し方から照準を調整してまたレミが出てくるのを待つ。今度は外さない。鼻先が見えた。引き金を引き、表示されたダメージを見てアーマーが割れた音を聞く。
「ノック」
こめかみに一発、一撃ダウンだ。
「詰めるよ!」
マキが勢い良く拠点から飛び出して教会に向かった。平地を走るマキは屋根上を陣取ってる敵パのいい的だが、ヤカモレさんがミサイルを撃って屋根上の敵を霧散させた。無重力能力を持つマキが一気に跳んで同じ屋根に上る。
「下逃げられた!」
逃げられても高所を取ってる分、有利だ。狙い撃てばいい。俺も追いかけようと平地に降りて向かうが、一緒に走るヤカモレさん目掛けて銃弾が飛ぶのが見えた。背中のジェットを噴射させ、前方に飛んで移動するヤカモレさんは当たっても掠める程度の小ダメージで済んだ。でも今の銃弾は。
マークスマンライフルに見えた。
「チーターこっち来てる!」
「来たか!」
漁夫を狙われた。俺らが体勢を崩して詰めたチームを横取りしようとチーターが駆けてくる。俺もチーターを狙うが、振り返って一発撃ち返された。俺は当然のように急所だ。回復しないと死ぬ。回復キットはこれで最後だ。
「屋根から降りるなよ!」
勝ちたいならキルポより高所を取るべきだ。俺の指示に飛び降りようとしていたマキが踏みとどまる。チーターはフルパの俺らからは顔を背け、マキが追いかけた敵チームに向かっていく。
俺らが詰めて取るはずだった別パがチーターに殺される。それを俺も屋根上に登ってスコープ越しに見た。何度もチーターに向かって当たらない狙撃を繰り返していたマキは、隣でADSの姿勢を崩さない俺を見て叫ぶ。
「ここから抜くの!? 強過ぎ!」
「まだ抜かねぇ」
チーターが別パ壊滅させた後に、チーターを抜く。
「えっ、待って、残り3チームなんだけど! チーター1人で2チーム壊滅させてんの!? いつの間に!?」
「強いな」
「これで最後なら俺ら詰めて良くない!?」
せっかく上取ってんのにやたらとマキが突っ込んで行きたがる。
教会からチーターが居る平地までは遮蔽物0、突っ込んで行ったら隠れる間もなく反撃されてこっちがダウンだ。
「全員で行ったらCも弾切れするだろ!」
「駄目だ」
脳筋のマキを繰り返し静止する。
俺ら全員でチーターをダウンまで削るより、俺ら全員がやられる方が早い。
「俺が一回遠めに勝負する」
俺がスナイパーライフルで削る。そうしたら玉砕覚悟でも勝負できる。俺はもう回復キットが無い。ここで撃ったら撃ち返されて、すぐ落ちるだろう。勝負は一発。当てるしか無い。チーターが別パを皆殺しにしてこちらを振り返り、マキとヤカモレさんが教会の下に降りた。
今だ。
引き金を引き、パリンとアーマーが割れた音が聞こえた。
「割った!」
すぐに撃ち返された。画面が白黒に反転して真っ赤に染まるのを見ながら報告した。
「ナイス!」
ヤカモレさんが先に飛び出して一直線にチーターに向かって行きながらサブマシンガンを連射させた。俺と合わせて216入る。瀕死だ。チーターは後ろに飛びながらマークスマンライフルを撃ってヤカモレさんをダウンさせる。
「マキちゃん!」
「あと一発!」
すぐ後ろに控えていたマキに俺とヤカモレさん、同時に叫んだ。
「おらあっ、ラストだ!」
マキがショットガンを一発放った。
瞬間、VICTORYの文字が画面中央にデンと表示される。
「おっしゃあああ、勝ったあ!」
勝った。マキの雄叫びを聞きながら体の力を抜く。「ナイス」と条件反射だけで言葉にした。――良かった。チーターに勝った。
「やったやった、勝ったよぜっとさん!」
「あそこで抜くの強過ぎぃ!」
最後の狙撃に関して褒められる。確かにあそこで当てなければ勝ってない。別パを攻撃するため動き回るチーターに当てられたのは運もあったと思う。
「やっぱぜっとさんだわ!」
今まで散々チーターにやられまくっていたマキが勝利の興奮で俺を称賛する。
「いけるよこれ、この3人で! マスター!!」
「……そうだな」
思わず顔が綻ぶ。久しぶりのチーム戦、何とか俺は2人を勝利に導けたようだ。だが、内容は良くない。
ラストバトル、俺がやったスキャンはほとんど役に立たなかった。チーターに勝ったのも力押しもいいとこだ。次また同じやり方で勝つのは無理だろう。やはり立ち回りを変えなければならない。2丁しか持てない武器の片方が今まで通りのスナイパーライフルでは、前線1.5列目では重過ぎる。もっと俺が前に出て勝負できるようにならなくては。
――練習しよう。スキャンも、近距離戦も。これから何人もチーターを相手にしてマスターを目指すなら、俺が変わらなきゃ駄目だ。
だから、寝る間も惜しんで練習した。
仕事の合間にコーチング動画を見て、帰ってから実践した。相変わらず考え無しに突っ込んで行くマキのサポートのために結局単スナも使い続けたかったから、近距離戦でも使えるようにエイムを見直した。今まで通りの狙撃と、スキャンマップの両方でカバー出来るようにした。
たかがゲームのために何やってんだとリアルじゃ思われたかもしれない。通勤途中、仕事の休憩時間、スマホでゲームの動画を延々と見ていた俺を周りはどう思っただろう。上司には苦笑いで「夢中だな」と声をかけられた。俺より上の世代にとってゲームは害悪な娯楽の1つで、大人がやるものじゃない。でも一緒にゲームしてるマキとヤカモレさん、配信を見てるリスナーは誰も俺の努力を笑わなかった。たかが子供みたいな俺の趣味を馬鹿にしなかった。
――それどころか、
「本当にぜっとさんのおかげ」
「俺ら無理だと思ったもん。ぜっとさんが来てくれないとさあ!」
こんな風に言われでもしたら。
「……あ~……くそ」
我慢出来なかった。
どんなに強気で言っててもイチかバチかだった。マスターに上がれるかどうかなんて。
泣いた。
「単スナ当てられると萎えるよなあ」
敵が見える度に俺がスナイパーライフルで狙撃してると暇なマキが喋った。近くの家から使えそうな物資を拾ってきては拠点にぽいぽい置いていたが、あらかたやり終えたらしい。
「あそこの岩裏102入ってるぞ」
「詰める?」
「嫌がらせ」
「性格わる~」
耐久戦だ。パルスに追われてじわじわ近づいてくる敵を少しずつ削る。移動しようと敵が顔を出す度に俺が狙撃していると、大きく近づいて来ようとしなくなった。来なくて正解だ。来たら猟犬が2匹待ち構えている。嫌がらせで回復キットを消費させつつ、ある程度の距離でアーマーが割れたら突撃して殲滅する。この3人だと一番ダメージが少ない戦法だ。
ただこれは1パーティを相手してるから出来ることで、敵が複数パーティになると数で押し切られる。パルスで狭いフィールド内に徐々に他パーティが集められている。チーターパーティの生存は確認済みだった。そろそろ来るはずだ。
今までとは別の人影が見えて、狙撃しようと遮蔽物から体を出した瞬間だった。
「ッ、ノック!」
「はあ!?」
遠距離から撃たれて一撃でダウンした。チーターのオートエイムだ。慌ててヤカモレさんが屋上の俺を起こしに来る。
「詰めてくるぞ!」
「やッッッばい、こいつ!」
拠点の外に出ていたマキが体力が半分削られた状態で逃げ帰ってきた。それも俺が見てた限り一撃だ。拠点内に集められた回復キットを何個か拾って下に降りる。扉に向かってスキャンしたが、手持ちミサイルが無理矢理投げ込まれた。
「っ、くそッ!」
初動失敗した。詰めてくるだろう敵が分かるように外に向かってスキャンしたつもりが、俺が屋上で倒れたせいで遅れ、少しズレる。もうすぐ近くに居て、ミサイルの爆風が止むと家の中に入ってくるだろう。
「スキャンは!?」
「あと20秒!」
連続スキャンは出来ない。クールタイム中に敵に入り込まれ、視界不良のまま戦うことになる。クソ、下手くそか! だからスキャンキャラは前線に居るんだろ! 得意のスナイパーライフルを使いたくて高所を取っちまった。入ってくる敵を追い出そうとサブマシンガンを入口に向かってぶっ放してるとマキが土煙の中を突っ込んでいった。撃たれるのも覚悟で正面突破して外に出る。
「レミ割った! 全員いる!」
キャラ名でアーマーを割ったことを報告する。パーティ全員外にいるってことは今マキは1対3だ。
「ナイス!」
ヤカモレさんも同じように外に出た。俺は最後まで入口から中に入ってこようとしている奴を相手し、連続してダメージを入れて離れたことを確認してから外に出る。
「やばい、こいつやばい!」
ヤカモレさんが叫んで家の壁に沿って一度身を隠し、すぐに走っていった。やばいと分かってても突っ込まないと、マキが3人相手している。ボックス型の家の周り、ヤカモレさんが一度隠れた角の向こう側で銃声が聞こえる。俺も体を出して見えた敵に銃弾を撃ちこんだ。
「やったやった、そいつやった!」
「ナイス!」
「やったでも、あーっ! レミは無理矢理殺した!」
角に隠れてマキとヤカモレさんのやりとりに味方のステータスを見る。無理矢理殺したと報告したマキはダウンしていた。俺の方に足音が詰めてきてる。もう一度体を出して、俺は俺で目の前の赤アーマーを割って殺した。
「1人やった! あと1人どこだ!?」
「帰っていってる!」
撃ち返された傷を回復しながら、ヤカモレさんの姿を目で追う。ヤカモレさんは形勢不利になって戻っていく敵を追いかけて、体力がごっそり削られていた。相手の得物はマークスマンライフルだ。さっき俺を一撃でダウンさせたやつ。チーター。
「絶対殺す」
「そいつは殺しといた方がいい!」
ダウンしてるマキが俺を煽る。
キャラの身長より高い物資補給ボックスの裏に隠れ、ヤカモレさんと一緒に2方向からチーターに向かって撃ち込む。撃ってる最中は体を出すからどっちか片方が必ず撃ち返されて回復キットをがんがん減らしていった。駄目だ、逃げられる。
「ごめん、一旦マキちゃん起こす!」
ヤカモレさんが戻っていった。俺も回復キットがもう無い。舌打ちして拠点に戻る。
「取り逃がした」
「おっけおっけ、ナイスナイス! おいおいどう料理してやっかなあ!」
起きた途端、興奮したマキがうるさく叫んだ。
「舐めやがって、あの野郎!」
マキがこういうテンションのときはゾーンみたいなものに入り込んでる時だ。調子が良いのか。詰めるべきか悩む。
チーターパーティは3人だったのが残り1人になり、ダウンした2人は確キル入れて拠点内に死体を転がした。蘇生は無理だろう。あとはチーターたった1人だが、残りチーム数の表示は4だ。あと2チームどこかにいる。目視出来ないか再度屋上に戻るとズダン、と重たい銃弾が飛んできた。
「マークスマン!」
距離を取ったチーターが変わらずこちらを狙い定めていた。慌てて遮蔽物に身を隠すと逆方向から更に銃撃が飛んでくる。こっちはチーターチームじゃない。
「別パいる、囲まれた」
「最悪じゃん!」
「人じゃないのどっち?」
「右」
ヤカモレさんの質問に答えながらマップのチーターが居る方に印をつける。パルスを背にして右側にチーター、左側に別パがいる。運が良いことにどちらの射線も通らない遮蔽物があって隠れられるが、建物から出られなくなった。くそ、敵同士でやり合ってくれりゃいいものを。
「何で俺等ばっかり狙われんの!? 絶対ぜっとさんがヘイト稼いだからじゃん!」
マキの言う通りだ。嫌がらせで恨みを買い過ぎた。2チーム協力して俺らを殺すつもりだ。ヤカモレさんが「まあ、乱戦になる前に単スナ処理しときたいからね」と俺らが集中して狙われる理由をフォローしてくれたが、それもつまりは俺が延々とスナイパーライフルで嫌がらせをしたせいだ。
「……責任取る」
俺が突破口を開かないと、どうしようもない。
「頼むよぜっとさん!」
「抜くとしたら人類の方?」
「どうかな、レミだ。頭ちいせぇ」
遮蔽物に体を極力隠した状態で左側の屋根上に居る女キャラを狙う。教会の鐘に隠れるレミが出てくる瞬間を狙い、鐘のすぐ横、恐らく頭らへんになるはずの場所に照準を合わせて待つ。スコープ越しに髪が見えた瞬間、撃った。ダンッと音はするがダメージ数が出ない。
「外した、小顔補正入ってる」
「そんなんあるの?」
無い。俺の適当な発言を聞き返すマキを無視する。もう一度だ。スコープを覗いてる間は他のことが出来なくなるからヤカモレさんが右のチーターを見張っててくれている。
「レミ小さくて可愛いからな~」なんてマキがうるさいのは俺が狙撃するのを待っているからだ。俺が撃った瞬間、こいつは出る。教会の鐘の1ミリ横、さっきの外し方から照準を調整してまたレミが出てくるのを待つ。今度は外さない。鼻先が見えた。引き金を引き、表示されたダメージを見てアーマーが割れた音を聞く。
「ノック」
こめかみに一発、一撃ダウンだ。
「詰めるよ!」
マキが勢い良く拠点から飛び出して教会に向かった。平地を走るマキは屋根上を陣取ってる敵パのいい的だが、ヤカモレさんがミサイルを撃って屋根上の敵を霧散させた。無重力能力を持つマキが一気に跳んで同じ屋根に上る。
「下逃げられた!」
逃げられても高所を取ってる分、有利だ。狙い撃てばいい。俺も追いかけようと平地に降りて向かうが、一緒に走るヤカモレさん目掛けて銃弾が飛ぶのが見えた。背中のジェットを噴射させ、前方に飛んで移動するヤカモレさんは当たっても掠める程度の小ダメージで済んだ。でも今の銃弾は。
マークスマンライフルに見えた。
「チーターこっち来てる!」
「来たか!」
漁夫を狙われた。俺らが体勢を崩して詰めたチームを横取りしようとチーターが駆けてくる。俺もチーターを狙うが、振り返って一発撃ち返された。俺は当然のように急所だ。回復しないと死ぬ。回復キットはこれで最後だ。
「屋根から降りるなよ!」
勝ちたいならキルポより高所を取るべきだ。俺の指示に飛び降りようとしていたマキが踏みとどまる。チーターはフルパの俺らからは顔を背け、マキが追いかけた敵チームに向かっていく。
俺らが詰めて取るはずだった別パがチーターに殺される。それを俺も屋根上に登ってスコープ越しに見た。何度もチーターに向かって当たらない狙撃を繰り返していたマキは、隣でADSの姿勢を崩さない俺を見て叫ぶ。
「ここから抜くの!? 強過ぎ!」
「まだ抜かねぇ」
チーターが別パ壊滅させた後に、チーターを抜く。
「えっ、待って、残り3チームなんだけど! チーター1人で2チーム壊滅させてんの!? いつの間に!?」
「強いな」
「これで最後なら俺ら詰めて良くない!?」
せっかく上取ってんのにやたらとマキが突っ込んで行きたがる。
教会からチーターが居る平地までは遮蔽物0、突っ込んで行ったら隠れる間もなく反撃されてこっちがダウンだ。
「全員で行ったらCも弾切れするだろ!」
「駄目だ」
脳筋のマキを繰り返し静止する。
俺ら全員でチーターをダウンまで削るより、俺ら全員がやられる方が早い。
「俺が一回遠めに勝負する」
俺がスナイパーライフルで削る。そうしたら玉砕覚悟でも勝負できる。俺はもう回復キットが無い。ここで撃ったら撃ち返されて、すぐ落ちるだろう。勝負は一発。当てるしか無い。チーターが別パを皆殺しにしてこちらを振り返り、マキとヤカモレさんが教会の下に降りた。
今だ。
引き金を引き、パリンとアーマーが割れた音が聞こえた。
「割った!」
すぐに撃ち返された。画面が白黒に反転して真っ赤に染まるのを見ながら報告した。
「ナイス!」
ヤカモレさんが先に飛び出して一直線にチーターに向かって行きながらサブマシンガンを連射させた。俺と合わせて216入る。瀕死だ。チーターは後ろに飛びながらマークスマンライフルを撃ってヤカモレさんをダウンさせる。
「マキちゃん!」
「あと一発!」
すぐ後ろに控えていたマキに俺とヤカモレさん、同時に叫んだ。
「おらあっ、ラストだ!」
マキがショットガンを一発放った。
瞬間、VICTORYの文字が画面中央にデンと表示される。
「おっしゃあああ、勝ったあ!」
勝った。マキの雄叫びを聞きながら体の力を抜く。「ナイス」と条件反射だけで言葉にした。――良かった。チーターに勝った。
「やったやった、勝ったよぜっとさん!」
「あそこで抜くの強過ぎぃ!」
最後の狙撃に関して褒められる。確かにあそこで当てなければ勝ってない。別パを攻撃するため動き回るチーターに当てられたのは運もあったと思う。
「やっぱぜっとさんだわ!」
今まで散々チーターにやられまくっていたマキが勝利の興奮で俺を称賛する。
「いけるよこれ、この3人で! マスター!!」
「……そうだな」
思わず顔が綻ぶ。久しぶりのチーム戦、何とか俺は2人を勝利に導けたようだ。だが、内容は良くない。
ラストバトル、俺がやったスキャンはほとんど役に立たなかった。チーターに勝ったのも力押しもいいとこだ。次また同じやり方で勝つのは無理だろう。やはり立ち回りを変えなければならない。2丁しか持てない武器の片方が今まで通りのスナイパーライフルでは、前線1.5列目では重過ぎる。もっと俺が前に出て勝負できるようにならなくては。
――練習しよう。スキャンも、近距離戦も。これから何人もチーターを相手にしてマスターを目指すなら、俺が変わらなきゃ駄目だ。
だから、寝る間も惜しんで練習した。
仕事の合間にコーチング動画を見て、帰ってから実践した。相変わらず考え無しに突っ込んで行くマキのサポートのために結局単スナも使い続けたかったから、近距離戦でも使えるようにエイムを見直した。今まで通りの狙撃と、スキャンマップの両方でカバー出来るようにした。
たかがゲームのために何やってんだとリアルじゃ思われたかもしれない。通勤途中、仕事の休憩時間、スマホでゲームの動画を延々と見ていた俺を周りはどう思っただろう。上司には苦笑いで「夢中だな」と声をかけられた。俺より上の世代にとってゲームは害悪な娯楽の1つで、大人がやるものじゃない。でも一緒にゲームしてるマキとヤカモレさん、配信を見てるリスナーは誰も俺の努力を笑わなかった。たかが子供みたいな俺の趣味を馬鹿にしなかった。
――それどころか、
「本当にぜっとさんのおかげ」
「俺ら無理だと思ったもん。ぜっとさんが来てくれないとさあ!」
こんな風に言われでもしたら。
「……あ~……くそ」
我慢出来なかった。
どんなに強気で言っててもイチかバチかだった。マスターに上がれるかどうかなんて。
泣いた。
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優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
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