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「お前が僕に付き合うことなかったんだよ」

 鉄塔の上、二人きり。
 鉄の足場の上に腰掛けて、兄は足をブラブラさせながら俺を見上げた。これから始まろうとする祭りの開催を待っている。
 異能の王座決定戦。
 この国の最強を決める祭りだ。
 参加を決めた兄に、俺も当然付いてきた。

「お前は異能力なんて、本当は興味ないだろ?」
「でもせっかく持ってるし」

 風が強くて髪がたなびいて鬱陶しい。こんな髪、切ってしまおうかといつも思うけど兄が「綺麗だ」って言ったのがちらついてできない。後ろにくくって流した。

「にいちゃんは、俺が守るよ」

 戦う準備をしながら言うと、兄は笑って飄々と答えた。

「お前より僕の方が強いよ」 

 そうだね。
 でも強くても、家の外に出た兄はひどく生き苦しそうだ。
 異能持ちで普通の人間と見た目が違う人間はたくさんいる。でもその中でも兄の姿は、普通過ぎた。あまりにも普通の子供過ぎるから、事情を知らない周りはみんな兄を子供扱いする。それを一つ一つ「本当は違う」と解説なんてしない。子供のふりをして生きる兄は、外の世界で生きるのが億劫そうだった。
 だから、羨ましそうに鉄塔から街並みを眺める兄が、異能の王になればいいと思う。その存在をみんなが認めるように。
 でもそれ以上に、負けてしまえばいいとも思う。

「俺はさ、逃げるとき用の係だよ」
「予備兵力ってこと?」
「そう」

 負けるとき用の係。
 いざというとき、兄が死なないようにする係。
 だって、兄が負けて"最強"じゃなくなったら、もしかしたら――

「……にいちゃん、ちゅーしてよ」

 そのとき、まだ俺がそばにいてもいいかな。
 不安になって兄に甘えたら「今ぁ?」と聞き返された。言い方は拒否してるけど顔は嫌そうじゃない。兄の隣に移動してしゃがんだ。「ん」と顔を突き出す。

「お前ほんとに甘えただなあ」
「ふふ」

 俺が膝を折っても兄の座高の方が低い。兄は座ったまま伸びをして、ぷちゅ、と唇を合わせた。
 俺は兄の恋人なのか弟なのかよく分からない。でもこうやって年下らしく振る舞うと兄が満更でもなさそうにするから、どっちでもいい。

「……始まった」

 遠くの爆発音に兄の目の色が変わる。
 立ち上がり、俺に手を差し伸べた。

「行こう」

 兄越しに空を見れば、天窓を見上げていた頃よりずっと空が近い。あの頃のように手を引っ張られて立ち上がった。一緒に鉄塔から飛び降りた。
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