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第一章 青き衣(ジャージ)をまといし者
かすかに いたむ みぎて
しおりを挟む「いいか? 友達や親、大切な人には今の言葉、絶対に言うんじゃないぞ!」
叩いたノエルの頬が、うっすらと赤く染まる。
ぽかんと呆けていた彼女の顔がくしゃりと歪むと、大粒の涙をこぼしながら、びゃーっと声を上げて泣きだした。
「あた、あたしはわるくないっ! ころさなければ、ころされるだけだ! おまえたちがこなければ、むらはへいわなのだ! でていけ! このむらから、もりからでていけ!」
口早にノエルは言うと、再び火のついたように勢い良く泣く。
「小娘が暴言を吐くのには理由があるようだな」
バルトの言葉をぼんやりと聞いていると、彼女を叩いてしまった右手にじんわりと痛みが広がった。
手を出してしまった罪悪感で胸すら痛んでくる。
「あー……叩いて悪かった。ごめん」
謝ったところですぐに泣きやむワケがない。
鼻を垂らして大きな声で泣いている。
「で、でも、人に殺すとか死ねとか、簡単に言って良い言葉じゃないからさ」
「びゃーっ!」
「あー、もう、どうしたもんかな」
「アルカが泣かせたんだぞ」
ニヤリと口元を歪めてバルトが笑い、ノエルの影に刺さった黒い針を抜き始める。
最初に手を出したのはオマエだぞと言いたかったが、責任転嫁してどうにかなるものではない。
「この村で、何が起こっているんだ?」
マズイ。
逃げなきゃならないのに、何で俺、首を突っ込もうとしちゃってるの。
「ぴぃやぁぁああ!」
あー、参ったなぁ。
「それには、私からお答えしましょう」
不意に、背後からしわがれた声が聞こえてきた。
この声、先程耳にした長老と呼ばれていた老人の声だ。
振り向くと、そこには一人の老人がたたずんでいた。
白くて立派な長い眉毛とヒゲが同化して、白い毛に覆われた新しい生き物のようだ。
「昨夜、物置部屋に入れられていた捕虜はお前さんかね?」
皺の深い、枯れ枝のような手が伸ばされる。
「えぐっ、オジジさま、ひぐっ、ボケるにはまだはやい」
ノエルはぐしゃぐしゃの泣き顔だが、ツッコミは忘れない。
将来、良いツッコミになれそうだ。
長老の震える指がさした先は俺ではなく彼女。
何ともベタなギャグである。
「おぉ、間違えた間違えた」
指で軽く眉毛を分けると、つぶらな青い瞳が覗いた。
「話には聞いておりましたが、見事な青ジャージですのぉ」
褒められているのかバカにされているのか反応に困る。
とりあえず、「えぇ、まあ」などと言葉を濁しておく。
「ようこそ、名も無き小さな村へ」
長老は白いローブに包まれた小さな体を更に折り曲げて頭を垂れた。
こうして見ていると肉まんか温泉まんじゅうのようだ。
食っても良いですか。
いや、正気を失っちゃマズイだろ。
「青ジャージ殿にはまず、この村の現状を見て頂くのが一番早いかと思われますのぉ」
そう言って、導くように長老が先に立って歩き出す。
俺とバルトは顔を見合わせると、彼の案内に従った。
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