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194話 ケル君のチャレンジでございます!

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「いくっスよ……やぁぁぁ!」


 気さくな感じの団員さんが小手調べに練習用の模擬刀を薙ぎ払うように振るう。
 ケル君はそれを後ろに飛び上がって回避した。
 

「やるっスね! ……じゃあここからが本番っス」


 きちんと剣を構え直した彼は、素早い剣さばきを披露し始めた。なるほど、たしかになかなかの腕前。
 リンネちゃんが参加したランクの剣術のトーナメントに居てもおかしくないくらいの実力はある。

 でもケル君はそれらを全て難なく回避し続けた。
 ロモンちゃんにしつけられ、私が知識を与え、リンネちゃんが戦いでの立ち回りや技を教えたと言うサラブレッド。
 このくらいやってのけるのかしらね。


「ちょっと、全然当たってないじゃない!」
「す、素早さが高すぎるんだよォ! 剣を振るう前にはかわされてるっス」


 あれ? 
 ケル君ってばそこまで素早さ高かったっけ?
 疑問に思ってもう一回ケル君を注意深く見てみたら、相手の剣の軌道をみて自分の間近にくる前にかわしていた。

 たしかにリンネちゃんが戦闘技術を教える傍、私も武術の心得的なもので犬にも応用できそうなのを抜粋して教えてたけど……ぶっつけ本番でやってのけるなんてね。
 

「くそぅ! 断裂斬!」
【ゾッ!】


 一応ルールは守って初歩的な剣技を団員さんはケル君にふるった。しかしケル君はダンジョンでやってみせたように魔法で空中に飛び上がり、それを回避。


「ええっ……!?」
【おっと……こんどはこっちの番だゾ! ファイ、ゴロゴ、シャイ!】


 そしてさらに空中で方向転換。
 ただ、足場も何もないところで飛び上がろうとして失敗しちゃったみたい。リンネちゃんとお父さんが使える空中を蹴る技術を試してみたかったのね。
 ともかくそれは失敗したけど方向転換だけは成功したからケルは3連で魔法を放つ。


「おおっとと……うわっ!」


 そのうち、ゴロゴとファイだけを剣で搔き消した彼だったが、シャイが胸当てにあたり軽く尻餅をついた。
 それを見逃さずにケル君は団員さん目の前にうまく着地し、首をカプリと甘噛みする。


【オイラの勝ちなんだゾ】
「ま、負けたっス……。お互い本気じゃなかったとはいえ……とほほ、一撃も当てられないとは」
【……実はそんなことないゾ。当たってたんだゾ……ほらココとココとココ、腫れてるゾ。毛で見難いけど】
「あっ…ほんとだ」


 うまく回避してたように見えて実はちゃんとはできてなかったのね。まあ、まだ体術も練習始めたばかりだし仕方ないか。それどころかここまでできたのがすごい。


【真剣だったらオイラが足を切られて負けてた可能性もあったんだゾ】
「で、でもあの魔法三連発…本当はもっと上の魔法が使えるんスよね? どこまで使えるんスか?」
【上級魔法までだゾ】
「そんなの来てたら剣を当てて消すなんてことできなかったっスよ……練習で良かったっス」


 お互いの実力を認め合うって素晴らしい。
 これが練習試合のあるべき姿って感じよね。それはそうとて、私は二人に回復魔法をかけた。


「ありがとうございまっス。いやあでも、たしかにこの子はCランクの実力はないと勝負にもならないっスね! さすがはノア団長の娘さんであり、トーナメントで優勝した、ロモンさんの仲魔っスよ」


 お、褒められてロモンちゃんは少し嬉しそうにしてる。しかし褒めた本人はその後なぜかキョロキョロと辺りを見渡し始めた。


「ところであのゴーレムは……?」
「え?」
「トーナメントの時の、銀と緑のゴーレムっスよ! そういえば娘さん達が来てから一回も見てないな…って。もしかして今は封書っスか?」
「え、あなた知らないの?」


 なんだ、私を探してるのか。
 さっきからちょくちょく会話に入ってくる女団員さんが、ありえないという顔で彼をみた。


「何が?」
「いや……もう全員知ってるって団長は……はあ、あんた人の話きかなかったりするもんね。そこに居るわよ」
「そこ……アイリスさんのことっスか? アイリスさんは僧侶っスよね? 他の魔法も使えるみたいだから賢者か」
「ばか、半魔半人よ」
「えーーっ!?」


 なんて新鮮な反応。
 まさかこの集団の中に私の本来の姿を知らない人が居たとは。話を聞いてなかったりきたなら仕方ないか。


「あはは、実はそうなんですよ、はい」
「だってどっからどうみても、俺らと同い年くらいの女性じゃ…」


 私はゴーレムの姿になる。
 団員の中には話だけ聞かされて、私が変身するところは実際に見たことない人が結構いたのか、それなりに驚かれた。
 そもそもを知らない彼はもはや腰を抜かしてるけど。
 そしてすぐに元の姿に戻る。


「と、まあこんな感じですね」


 ……ポケーッとした顔を浮かべてる人たちが多数。
 そうだ、いいことを思いついた。


「私も……お相手しましょうか?」
「え、マジすか? 半魔半人って相当実力のある魔物しかなれないんスよね? 勝てる気がしないんスけど」
「私も剣術、少しだけできるんです。だから私もやってみたくなっちゃって。剣ならいいですよね?」

 
 明らかに私の方が剣の技術は下だけどね。
 剣はね。


「まあ……いいっスけど」
「あ、じゃあはい! 次私やる!」


 女の団員さんが名乗り出て来た。
 先ほどまで相手をしてくれていた団員さんはちょっと疲れてたみたいで、とくに自分がこのままやるだとかいうことはなく譲り、下がった。


「もー、みんなどこに……何してるの?」
「あ、リンネさん! いえ、その、貴女のお仲魔とお手合わせを……」


 リンネちゃんが戻って来た。まだ立ち上る湯けむりと半乾きの髪がエロい。……じゃなくて。
 うーん、やはり剣を使う人ばっかだからリンネちゃんの方が注目集めるみたいね。


「そうなんだ! これからアイリスちゃんとするんですか? ……一つ忠告なんですけど」
「は、はい」
「剣は上手いけど、剣を専門に練習してきた皆さんほどではないです。……ただ、それ以外が本当に強いから気をつけて」


 そんな忠告したら、これから相手してくれる彼女が変に構えちゃうじゃないですかー!  
 でもリンネちゃんの言いたいことはわかる。


「姿はこの人間のままでいかせてもらいますよ。よろしいですね? 使用武器は片手剣です」
「は、はい! お願いします!」


◆◆◆


「……つ、強い……」
「なんなんスかね、あの身体の動き」
「わからないな……」


 この場にいる団員の3割を相手して、全員、魔法も使わずに勝つことができたわ! 
 最近全然運動してなくて、つい数日前にリンネちゃんの剣技練習に付き合ったきりだったから不安だったの。


「な、何回も転ばされて…」
「純白で綺麗な足……じゃなくてそれから繰り出される鋭い蹴り……」
「なるほど、これがリンネさんの言っていた、『剣術以外が強い』っスか」


 よかった、全然訛ってなかったみたいね。
 魔法ばっかり練習してたからこれからまた、ケル君に段々と対人技術を教えなきゃいけないのに、私自身の武術が劣化してたらはずかしいし。


【アイリスばっかりずるいゾ! オイラもたくさんの人と練習するんだゾ!】
「……というわけですので、このまま練習に参加してもよろしいですか?」
「シャワー浴びたばっかりだけど、ボクもやろうかな」
「ええ、ぜひお願いするっスよ!」
「じゃあ私は見学してるね」


 やはりこうやって身内以外と練習してみるのもなかなかいいものね。私とリンネちゃんは自分の実力の再確認を、ケル君は一戦するごとに実力を増してゆくことができた。
 ……お父さんが練習していいって言ったんだし、今のうちにこうやって高めとくのもありかもね。


 

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