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190話 しっかりとお勉強するのでございます!

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【さてケル君、今日から私が教えますよ。光魔法と人間の言葉をね】


 私は朝ごはんを食べたケル君にそう言った。
 昨日、寝る前に光魔法と言葉、どちらを教えるかロモンちゃんに相談してみたところ、ケルならどちらもできると私と同意見だったわ。
 ケル君本人のやる気にもよるけどね。
 だから少し尋ねてみる。


【ヨロシク ナンダゾ! マダ スコシシカ リカイデキテいない カラ、ハヤク オボエタインダゾ!】
【やる気は充分みたいですね。ところで、言葉を集中して学習するか、光魔法も一緒に練習するか、どちらが宜しいですか?】


 これでもしケル君が言葉のみの方を選んだとしても、私はそれで構わない。もともとケル君が天才だから作った選択肢だしね。
 ケル君は尻尾をパタパタと振りながら、答えた。


【ウーン、ドッチモ デモ、イインダゾ!】
【大変ではないですか? どちらも、かなり難しいですよ】
【オイラ、ムラデ アイリス ガ マホウ ト オベンキョウ ヲ ドージシンコウ シテルノ ミタンダゾ! オイラモヤルゾ!】


 そっか、私達と並びたいケル君にとって、私たちがしていた…1日の間にいろんなジャンルのことを学んだり練習したりするのは普通のことなのかもしれない。
 


【わかりました、よろしいでしょう。では、その2つを今日からやりましょうね】
【うン!】


 ケル君に言葉を教えることになってからいくつか子供に言葉を教えるための本を買ってきている。
 ぶっちゃけ、この本の内容の難易度は、私の前世の記憶だと幼稚園くらいの子供がやるレベルなの。
 しかし、文字をよめるようにもなりたいケル君には、その教科書を通して文字も学んでもらうことにしてる。

 この世界は言語が統一されてるけど、とてつもなくボンヤリとした記憶が正しければ、前世にいた世界では外国語というものがあった。
 つまり、私がやろうとしてることは、外国語を学ぶための本をその外国語で読ませる……ということ。
 これなら難易度が格段に跳ね上がるんじゃないかしら。


【それじゃあ言葉の勉強から始めましょうか】
【ゾ! ヨロシクナンダゾ!】


 私は教科書、もといテキストの最初のページを開いた。
 それにしても、モノがないから人間ので教えるしかないけど、魔物専用の言葉を覚えさせるための本とかあっても面白いかもしれないわよね。
 そのうち実験的にそういうの作るのも悪くないかも。


「じゃあ、ぼくとロモンはデート行ってくるから」
「アイリスちゃん、任せたよ。お昼ご飯には帰ってくるからね。行ってきまーす!」


 ロモンちゃんとリンネちゃんは二人でお洋服などを買いにに行く。そろそろ寒くなってきたから冬物を買うんだとか。ついでに私のも見繕ってきてくれるらしい。
 
 仮にお父さんから呼び出しがあっても、私とケル君はこの部屋から二人が帰ってくるまで出ないから、3人揃えなくて駆けつけられなくなるなんて心配もないしね、


【この本を使いますよ】
【キョーカショ ッテ ヤツナンダゾ? デモ、オイラハ ジガ ヨメナイ……】
【言葉の理解と、字の理解、どちらも賄うために用意したものです。心配はいりませんよ】
【ソウナノカゾ!】


 私は1ページ目を開いた。書店で目を通した時は簡単なものだと思ってたのだけれど、やはりこうしてみると、ちょっと簡単すぎないかしらね? 
 ケル君ならあっという間に覚えてしまいそうな気さえしてくる。


【ではまず、言葉の基本から。言葉というのはだいたい、決まった記号を組み合わせて作られるのです。これがその表ですよ】
【アイリスニ マエニ オシエテモラッタ モノモ カイテアルゾ! コレハ ナンテ ヨムゾ?】
【それは『か』ですね。人が発音すれば__________】


◆◆◆


「アイリスちゃん、ケル、ただいま!」
「冬用のお洋服たくさん買ってきたよ! 喜んでくれるといいんだけど」


 ロモンちゃんとリンネちゃんが戻ってきたわね。
 時計を見たら12時だった。もうこんな時間が経ったんだ。テキストは7ページを開いている。


「どう? ケルの言葉の方は」
「そうですね、多分、というかやはり、この子は天才ですよ」
【……ゾ? ロモンとリンネは、イマ、オイラのナマエをヨンダノカゾ?】
「はい、そうですよ」
【はい? ……アイリス は コウテイ シタンゾネ?】


 教え始めてから3時間。10分程度の休憩を挟みながらもずっとやっていたけど、ケル君の飲み込みの早さは異常だった。私の特性の効果ももちろんかなり影響してるのは間違いないけれど、それでも。
 そう、簡単に言えば授業を聞いてるだけでいつもテストで満点取ってしまうような、そんな感じの子かな。


「ケルはどこまで理解できるの?」
「とりあえず基本の表は読めるように。言葉も『はい』『いいえ』など簡単なものや、ケル君自身の名前、私達三人の名前、ベスさんの名前は聞き取れるようになりました」
「さすがケル! はやいねぇ…!」
「下手したら1週間以内には念話からカタコトが抜けるかと」


 接続詞とか、ところどころ既にカタコトじゃない部分も増えてきた。どんどん吸収してくれるから教えがいもあるし。


【ゾ……モウスコシ オボエルゾ! アイリス、ツギ、ハヤク!】
【はいはい、お待ちくださいね】
「ふふ、じゃあボクがお昼ご飯作ろうかな。アイリスちゃんはそのままお勉強教えててよ。ロモンは見守ってて」
「すいません、ありがとうございます」
「お姉ちゃんありがとー」
【ゾ? リンネは、ごはんッテイッタゾ? ごはんデキルマデ、ベンキョースルゾ!】


 リンネちゃんがお昼ご飯を作ってくれている30分の間に、テキストは2ページ進んだ。
 これは全部で100ページ。この本の全てをやる頃にはケル君はもう簡単な言葉をマスターしているでしょう。
 
 昼食を食べ終わり、午後からは言葉の勉強と光魔法、どちらをするかケル君にきいた。


【ゾ……マホウ を スルゾ! オンナジ のを ズット ヤッテテモ ソノウチ アキチャイソウ ダゾ】
【分かりました。では、もう夜になるのも早くなってきたので4時間ほど外で魔法の練習をしましょう】


 ケル君の要望通りに魔法の練習をすることにした。いつもの森の中へ私達三人と一匹は移動する。
 ゴブリンとかも、既に寒さを感じて出てこなくなってきてるしちょうどいい。


【それじゃあ、お教えしましょう。……そういえば闇魔法の方はよろしいのですか?】
【あー、それはベツニイイゾ。オイラ、ヒカリマホウ ガ トクイナ マモノ に ナッタカラ、ユウセン シナクテ イイカナって】
【なるほど、悪くない選択です。では、やりましょうか】


 お手本に上級光魔法をどちらも見せるところから始める。上級火魔法も、上級雷魔法もそれぞれ両方ともを2、3日でマスターしたケル君はこれをどのくらいで習得するんだろう。
 光魔法は難しいからね。だとしても、やっぱりすぐ覚えちゃう気がする。
 私達に追いつきたいと言っているこの子が、どんどん猛スピードで近づいてくるのを最近毎日、ひしひしと感じるの。


【……どうしたノ? ヤラナイノカゾ?】
【え、ああ。すいません。ボケーっとしてしまいました。一通り魔法は見せましたよね?】
【うん!】
【じゃあ、つぎはゆっくりと魔法陣を作ってみせますので、一緒に作ってみるなり、じっくりと見て覚えるなりしてくださいね。……いきますよ!】


 
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