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184話 上級魔法と唐突の呼び出しでございます!

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 この大きさ、この魔力…今私たちに向かって飛んできているのは『リファイム』。
 私は瞬時にゴーレムに変身し、そのリファイムを受けた。少しまともなダメージが入るけど、なんの問題もない。


【アイリス…! ゾ、ヨカッタゾ……】


 ケル君はホッとしたような言葉をあげると同時に、その場にへたり込んだ。
 

【……これはケル君が放ったのですか?】
【ソうダゾ。ユックリ ツクッテタラ カンセい シタンダゾ。 デモ 3ニン ノ ホウニ トンジャッタンダゾ。ゴメンナサいゾ】


 教えてからまだ10分経っていないはず。もう完成させたというのかしら。……本当にあそこで詰まってただけで、解きほぐしてあげれば簡単に完成させられたのね。
 

【ケルすごいっ! すごいよっ!】


 ロモンちゃんがケル君をぎゅっと抱きしめた。当たり前だけど大きくなってるから少し抱きしめずらそう。中型犬サイズだからできないことはないけど。


【デモ、マダ マホウ トシテ トうロク サレテ いナいンダゾ。 モウナンカイカ ヤルゾ】
【うんっ、うん! 頑張ろうね!】


 というわけでケル君の魔法の練習が再開された。次に魔法陣を作った時はさ不発。しかしさらにその次は成功した。
 それから10回ほど作成を試みていたんだけど、だいたい成功確率は二分の一かしらね。
 あともう一歩で完全に習得できそう。
 でも。


【ゾ……MPガ…ナクナリソウ…ダゾ】
【あちゃー】


 そりゃそうだ、忘れてた。
 魔法陣を作るだけでも、そして不発だったとしてもMPは消費される。だいたい成功した時の十分の一から二分の一くらい。
 さらにケル君は魔法の理解を早めるため、ずっと魔流の気をまとっているわけだから、当たり前よね。


「むーん、じゃあお昼ご飯食べて休憩しよっか」
「賛成! どこで食べる?」
「久しぶりにギルドなんてどうかな?」
「ギルドかぁ…じゃあそうしよっ!」


◆◆◆


「ぼくは…えーっと、ベーコンとチーズピザとキノコピザを1枚ずつください。飲み物はアイスティーで」
「私はシーフードピザとベジタブルピザ1枚ずつ。私も飲み物はアイスティーで」
「私はサンドイッチランチセットとアイスティーをお願いします。それと取り皿3枚に、犬の魔物用の餌肉2匹分ください」
「は、はい畏まりました」


 ……2人で食べること前提のピザを2枚ずつ頼むロモンちゃんとリンネちゃん。
 そしてケル君もMPを少しでも多く回復するためにガツガツ食べてほしいから、二匹分頼んだ。
 ギルドだからゴーレム用の石材や草食の魔物用の草など数多く取り揃えてるのが有難い。

 しばらくして頼んだものが全てきた。
 たった3人の女がこれだけのものを食べるのに注目…されたりはしない。さすがにみんな慣れ始めている。見た目によらず大食いだってことに。


「よお、双子ちゃんとアイリス。今日もいい食べっぷりだな」
「あ、ギルドマスター。ええ…でもお金がだいぶたまってるのでこのくらいの贅沢はできるんですよ」
「確かに3人は冒険者初めてまだ1年経ってないのにダンジョンクリアしたりしてるからな。今は…トカゲが沢山出るダンジョンか何かを攻略してるんだろ? あっちの店のやつからきいたぞ」


 冒険者の店とギルドは情報交換している。
 私たちがトカゲを最近たくさん売ったことはもう知られていたのね。


「そうなんです! この子の訓練も兼ねて探索してるんですよ!」
「ロモン、そいつぁ…また新種か?」
「はいっ!」


 得意げな顔でそう答えたロモンちゃん。魔物の新種を作るってのは魔物使いにとって名誉なことだからね。ドヤ顔してもいい。


「たしか、ノアの仲魔の息子のケルだったけか。黒毛じゃなくて白毛になってんな」
「火属性や雷属性みたいな光物の魔法を覚えさせたらこうなったんですよ」
「へぇ…んじゃあヘル(地獄)ドッグじゃなくて、ヘヴン(天国)ドッグだったりするのか?」
「すごい! 正解ですよ!」
「まじか」


 ギルマスってば何気に答えて当てちゃったよ。でもまあ、確かにケル君の見た目からその名前は推測しやすいと思う。
 ……って、もうロモンちゃんとリンネちゃんの前からピザが1枚ずつ消えてる。
 たしか、4枚頼んだピザをそれぞれ半分ずつ食べるんじゃなかったかしら。
 いったいいつやり取りして、いつ食べたのやら。


「ま、ダンジョン探索もいいが、クエストの方もやってくれよ。ランク上げもしなきゃな」
「そうだった、全然ランク上げしてないじゃん!」
「まあまあ、それは今抱えてるものが終わったらで良いじゃないですか」


 もう生活には絶対困らないし、なんなら一軒家だって土地ごと買えてしまう。武器だって勝手に再生し続けるし効果も上等だから下手したら一生買い換えなくていい。
 そしてまだ私たちは若いから焦る必要もない。

 ロモンちゃんはお母さんに、リンネちゃんはお父さんに辿り着くために頑張ればいいの。


「「それもそうだね」」
「そうか。そういや案外受けた仕事の数って少ないものな。ま、自分たちのやり方で頑張ってくれや」

 
 ギルドマスターはなぜか私の頭をポンポンと撫でてからガハハハと笑いながら後ろを向いて立ち去ろうとした。


「ん…?」


 その時、ギルドの扉が勢いよく開かれる。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 あまりの大きな音に、皆んな、その場に固まってそちらを見た。居たのは1人の息を切らした王国兵士。
 慌ててる様子なのは一目見たらわかるわね。
 何があったのかしら。
 そう考えていたら、彼、今度は叫びだしたの。


「あい…アイリス! アイリス殿は居ませんか!」
「え、私?」


 今度は私の方にみんなの視線が寄せれた。
 な、なな、何なんだろう。ちょっと流石の私も怖いんだけど。あ、兵隊さんと目があった。


「あ、居ましたねっ!」
「は、はいっ!」


 彼はその場にとどまり、叫び続ける。


「急用でございます! すぐに私についてくるようにお願いします! できればリンネ・ターコイズ様、ロモン・ターコイズ様のお二人にもご同行願いますよう」
「「はいっ!」」


 しかしご飯食べてる最中……あ、もうロモンちゃんとリンネちゃんは食べ終わってるのね。そうですか、ケル君もほとんど食べ終わってるし、私だけですか。

 ロモンちゃんはケル君に事情を話し、封書の中にしまい込んだ。
 間近にいるギルマスに直接飯の代金を支払い(ついでにできれば食べかけのサンドイッチは保存して残してもらえるように頼み)、私たち3人は兵士さんの元へ駆ける。


「何事ですか?」
「いえ、怪我人が多数出てしまう事案が起こり、回復の手が足りないのです! 中には並みの回復魔法では治らない者がいて……ああ、申し遅れました、お二人のお父様の騎士団の者です」
「となると、村を壊滅させたというのの調査で何かあったんですね?」
「はい。標的に不意打ちを食らってしまい、被害が出たので上に相談したところ、アイリス殿を呼べと通達が」
「なるほど、わかりました」


 そういう契約だもんね、仕方ない。
 まあこなしたらお金もらえるし、お父さんの率いる部隊だし助けに行かなければ。

 兵士さんは転移魔方陣をお父さん達がいる先まで展開できるようで、私たちは城下町より外に出て、彼の肩に捕まって瞬間移動した。

 
「ついてきていただき、誠に有難うございます」
「あ、あの、お父さんは…大丈夫なんですか?」
「怪我とかしてますか?」
「グライド騎士団長は無傷ですので、安心してください……それでは患者達の方にご案内します」


 私たちは常駐地に入った。テントが沢山張ってある。
 壁なしテントにはたくさんの包帯巻きにされてる人がいた。……これは全員治すのに骨が折れそうだ。



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