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153話 時間稼ぎでございます!

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 私はほんの少し横にずれた。
 彼の剣は地面に当たるとそれをえぐり、小さなクレーターと広い亀裂が入ったの。
 私の右肩も切り崩されてしまった。まあ、無意味なんだけど。


「致命傷は避けるんだね。でも腕が消えてしまったね」
【ええ、そうですね】


 この盾剣はやはり斬るというより、ハンマーや槌を振り下ろしてる様な感じに近い。だから斬撃技を放っても、斬り口が綺麗にならぶにボロボロになるんだろうけれど。
 まあ、まさに破壊を体現したというか。
 どっちみち腕を切り取られてしまったのだからそんなのは関係ないわよね。
 ただ、斬撃より衝撃に耐性が低めなゴーレムとは相性が悪いってだけ。


「じゃ、もう一発」


 横薙ぎに振るわれた盾剣は私の横腹を捉える。
 これもあえて受けてしまおう。『無限に回復する』というカードは相手に伏せているわけだから、よい不意打ちのタネとなるでしょう。


【グッ…】
「……身体が半分になってしまったね。あっけない」


 本当に若干失望した感じでそう言われた。私はなんとかまだひっついている左手を掲げる。


【まだ……です……】
「いいね。もはや並の回復魔法じゃあ修復不可能だと思うけど、頑張りなよ。……次はその左腕がいいのかな?」


 グラブアは再び盾剣を、腕を切り取る様に横に打つ。
 私はそこで、先程から練っていた魔法を発動させたの。


【リスゴロゴラム】
「なっ!?」


 今わかっている限りでは、彼の一番の弱点の雷魔法。振り下ろすモーションの最中だった彼はろくに回避ふすることもできず、被弾。
 下半身と両腕を犠牲にする代わりにやっと大きな一撃を与えられたわ。…と言ってもここまでずっと演技の一環で苦労してるわけじゃないけど。


「ガアアアアアアッ」


 グラブアは被弾箇所を片手で抑えながら転げ回る。
 いくら強くてもこんな弱点あったらダメじゃない? 彼が苦しんでいる間に私は自分の身体を完治させた。


「ハァッ…ハァッ…よくもやってくれたね…やはり、その魔法が厄介…ぃ!?」
【どうかされましたか?】


 グラブアはまた、驚いた表情で私を見る。
 きいたきいた。HPも完全回復してるし、また同じ手順を繰り返してもいいかもしれない。


「なんで身体が治ってるんだ!? まさか、俺がさっきまで攻撃していたのは幻の類か?」
【さあ、それはどうでしょう。…リスゴロゴラム】


 再び一撃。
 最上級魔法は誓約はあれど、基本的に形状は自由。今度はより良くダメージを与えられる部位を探すために、グラブアを飲み込むほどの大きさの雷光戦を撃ってみた。
 さっきまでは槍状で鳩尾めがけて撃ってたけどね。


「っ…!!」


 体制を立て直した直後、それはリンネちゃんですら回避は難しいと思われる間。グラブアは盾剣を構えるのが精一杯で、結局のところは盾剣で防いだ箇所以外ははみ出し、被弾する。


「グゥ…アッガ!」


 しまった、結局どこがウィークポイントとやらか結局わからないじゃない。となると次は、小弾をたくさん作って、それを怪しいところに当ててこうかな…?


「フフッ…調子に乗らない方がいいよ、アイリスちゃん!」


 さすがに痛みに慣れてしまったのか、先ほどまでよりは怯んでいた時間が少ない。グラブアはこの2回とも、絶対に放さなかった盾剣による斬撃波を繰り出してきた。
 一方、私は作戦通りに最上級雷魔法をイメージする。
 左半身のほとんどが崩れ、消え去った。

 
「今度は…!?」


 私に攻撃できたのも束の間。雷撃第三弾が強姦魔を襲ったの。頭、心臓付近、鳩尾、股間、手足それぞれの関節に至るまで。雷の槍はそれぞれを正確に貫いた。
 さすが私。


「……ッッ」

 
 でも、さっきと反応があまり変わりない。それどころか本格的に痛みに慣れ始めてる様にも見える。
 ……弱点部位は別の場所にあるのかしら。


「ちょーしに乗ってるね、アイリスちゃん……。そして案の定、俺の一撃は届いてない…か」
【あなたもよく弱点属性の魔法を耐え続けてますね。私は確かにBランクの魔物ですが、今の三連撃ならばAランク上位の魔物は倒せてます。上手くいけばですが。……やはりSランク上位とてダメージは壮大なはず…】
「フフフフ、え? それ本気で言ってるの?」


 グラブアはゆらりと立ち上がった。
 なんだろう、何かしてくる予感がする。私は話が全て終わる前に雷撃を放った。しかし今度は盾剣の盾で完全に防がれてしまう。やっぱりアーティファクトの盾はすごい。
 いや、感心してる場合じゃない。
 これはまた、相手に攻撃させるチャンスを与えちゃったということね。
 

「話してる最中に攻撃しないでよ」
【そうでもしないと、貴方との差は埋められませんから】
「ああ、なるほど。そうか、そうだよね。そりゃ当然だ」


 また先ほどまでの余裕の表情を作りながら盾剣を構えなおした。あれだけ攻撃してるのに、やはりここまでピンピンしてるのはおかしい。 
 何か種でもあるのかしら。


「それで、どうしてこれだけ攻撃して俺がピンピンしてるか不思議かい?」
【………ええ。正直にいえば】


 サナトスファビドなら確実に退散くらいはしてそうなものだけど…。でもあれは毒が強力なのであって、ステータスは考えちゃいけないとかだったのかな。
 Sランクにもステータスが弱いけどスキルが異様に強いの、スキルにも目立ったものがないけどステータスが高すぎるの、どちらもいるからね。
 グラブアは後者なのかもしれない。これは骨が折れるね。
 

「何考えてるかはわからないけどさ、簡単な話、俺は魔法抵抗力が高いんだよ。……それに、雷魔法は弱点なんかじゃないよ」
【えっ?】


 いろいろと考えているところに、そう言い放たれた。
 今度は私の目が点になる。あれほどもがき苦しんでて雷魔法が弱点じゃない……?
 そんなのおかしいじゃない。


【なら、なんであんな苦しんで……】
「弱点じゃないけど嫌いなんだよ。ちょっとしたトラウマがあってね。…例えば女の子が虫の魔物を見て寒気がしたり、ひっつかれて悲鳴をあげたりするんだ。それと同じで…いい大人が情けない話だけど、こういうことなんだよね」


 つまり、トラウマがあるから嫌いで、さっきまでのはただ単に嫌だから唸り、嫌だから身悶えしていただけだ…と。本当にそうなのかしら。
 ってことは嫌がらせにしかならないの?
 嫌がらせに……。
 いえ、別に嫌がらせにしかならなかったとしても、普通に戦う上では十分じゃない。


【そうなんですか…】
「そういうこと。だからいくら雷魔法を撃っても無駄だよ」
【そうですね】
「それより、君のその攻撃しても無傷な種が知りたいんだけど……ま、教えてくれないよね」


 ただの嫌がらせ行為にしかならない雷魔法…ね。私はまたままだ撃つことにした。
 また魔法を唱える。


「だから、雷魔法は効かないって…ぉわ! …チッ」


 グラブアは雷球を大げさに避けた。
 まあ、避けれる様に撃ったんだけど。なるほど、反応を見る限り本当に嫌がってるみたいね。
 ふふふ。


「あ、アイリスちゃん? なにか悪いこと考えてるでしょ?」
【強姦より悪いことではないので悪しからず】
「いやぁな予感がするなぁ……」


 その予感は当たるわ。
 私はいつもの通りに、そう、魔法を同時に発動する準備をしたの。……無論、全部雷魔法なんだけどね。


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