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136話 男性とお食事でございます…!!?

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「いやぁ、ここはいい店だね」


 彼はスパゲティとハーフピザを食べ、微笑みながらそう語りかけてくる。
 ちなみに私の前には紅茶とケーキが。
 これは彼が奢ってくれるらしい。

 今私達がいる店は前にロマンちゃん達が食材を食べつくしてしまった店だ。
 普通においしいからそれなりの頻度で来てるの。


「うん、やっぱりアイリスちゃんはいい顔をしている」
「…またそうやって」


 でもさっきから男性特有の、女性の胸を見たり脚の方をチラチラ見たりだとかを一切せず、話す時にはまっすぐ顔を見てくれている。
 不快さを全く感じない男性との食事はおじいさんとお父さんを除いてこの人が初めてだ。
 うーん……なんか今まで申し訳なかったような。
 勝手に貞操を狙ってるだのと決めつけるのはよくなかったわね。
 心の中で謝っておこう。


「うん、美味しかった。ごちそうさま」

 
 ハンカチで口を拭く。
 食事のマナーもしっかりしてたわ。


「ところでアイリスちゃんは今いくつなの? 俺は21なんだけど」
「えっ…ああ18ですよ」
「へぇ、18か。確かにそのくらいにみえるね」

 
 グラブアさんは残っていた紅茶をすすりながらそんな質問をしてくる。この人、21か…。見た目より若いな。24くらいだと思ってたのに。


「よし、じゃあ案内してもらおうかな」
「わかりましたよ」


 グラブアさんが自分の食事代と私のケーキ代を出してくれてからお店から出た。


「ん~! 流石に港町より人が多いね! 人が多いから店が多い!」
「ええ、良い武器屋や防具屋もたくさんありますよ」
「そっかぁ…まあ俺はもう盾剣を持ってるから良いんだけど」


 あの盾剣ねぇ、それで満足してるってことはやはりこの人は盾剣使いなんだろうな。あれってどう使うのかしらね。今は訊かないでおくけど…。


「ところでアイリスちゃんはあのイダテンの腕輪を使ってるの?」
「いえ、あれは私の仲間に渡しました。じつにあおつらえむきでしてね、そのために買ったんです。グラブアさんはあの盾剣を喉から手が出るほど欲しがってるように見えましたが、どうしてですか?」
「あの盾剣は元々うちの家系の家宝でね。先先代が無くしちゃったから探してたわけよ。そんなもん無くすなって話だよね」


 なるほど、家にまつわる家宝だから扱いも上手いし執着してたわけだ。納得いった。


「それは災難ですね」
「まったく。俺がたまたま宝物船見つけて、たまたまオークションで買えたから良いけど」


 案外この人も苦労してんだなぁ。
 行動はチャラいけど、家の物を大切にするという点は見た目通りの好青年だ。


「っと、ここが冒険者ギルドの一つか」


 私達が通っている冒険者ギルドについた。


「はい、ここは私が通っているところですね」
「へぇ…ランクは?」
「パーティでCですよ」
「そうなんだ。俺はBだよ」


 Bランク……私達より高い。
 あれかな、やっぱりあのカニみたいな盾剣を買い戻すために頑張ってきたのかな。


「隣の店は冒険者用の?」
「そうですね」
「ちょっと中入って見てみようかな」
「ええ、どうぞお好きに。私は外で待っているので」


 私は建物の横で立ち止まるの。
 それと一緒にグラブアさんも立ち止まる。


「一緒に入らないの?」
「こ…ここら辺は知り合いが多いんです。勘違いされてからかわれたりしたくないので」
「でももう俺たちは友達だろ?」
「いえ、知り合いですね」
「そ、そっか」


 ちょっとしょんぼりした様子で冒険者の店の中へ入って行くグラブアさん。
 それにしても私に断られてしょんぼりするなんてね。
 私なんてどうでもいいじゃないの、ね?
 しばらくして彼は戻ってくる。
 思っていたより早い。


「お、ちゃんと待っててくれた」
「当たり前ですよ。酷いことしません。それよりもうちょっと時間かけて見ても良かったのでは?」
「いや、君を待たせたら悪いからさ」


 まあ確かにそっちから誘っておいて待たせるのは良くないわよね、うん。
 

「では次はこの街の中心にある噴水でも見に行きましょうか」
「じゃあ案内頼むよ」


 その噴水までの間にいくらか寄り道をして、やっと辿り着いた。……しかし困ったことにカップルが多い多い。
 私達もその一端として見られてたら……あんまりいい気分じゃないな。
 ついさっきまでこの人のことあまり好きじゃなかったわけだし。今は…普通だけど。


「いやぁ、綺麗だね」
「ですが水が吹き出すなんて港町では珍しいことではないのでは?」
「いやいや、こういう街並みの中にあるからこそ良いんだよ」
「そんなもんですか」


 じーっと噴水を見ていると、なんだか癒されるのはわかる。一回だけここにサンドイッチ持って来て3人で食べたこともあったっけ。休みの日に。


「ところでアイリスちゃんは普段から何してる? 趣味とか」
「そうですね…趣味は…読書、と言ったらあまりにも普通すぎますよね」
「いや、いいと思うよ読書。なんだかアイリスちゃんの見た目からそんな感じがしていた。ちなみに俺は断然水に潜ることだね」


 たしかにインテリな感じとはたまに言われるから、読書が趣味は予想がつきやすかったかもしれない。
 実際はロモンちゃんとリンネちゃんになでなでしてもらうのが一番なんだけど、こんな赤の他人に、甘えてる話なんてしなくていいでしょ。


「田舎の方から来たの? それとも最初から王都住み?」
「田舎からですね。パーティーメンバーも全員同じところからです」
「へえ、じゃあ君のパーティメンバーはいわゆる幼馴染ってやつなのか」
「………そうなりますかねー」

 
 この人にはわざわざ私や正体は言わなくていい気がするから言わないけれど……ロモンちゃんとリンネちゃんと幼馴染か。
 それも悪くないな。
 ロモンちゃんとリンネちゃんの本当の幼馴染は2人にアタックして爆散したけどね。


「………おっと、こんな時間まで付き合わせて悪かったね」


 グラブアさんはこの噴水公園の時計を見た。
 たしかにもう一緒に行動してから3時間が経ちそう。


「案内してもらってる最中にめぼしい宿も見つけたし、今日は解散。ありがとね」
「いえ、私も…思ったより楽しかったですよ」
「ふふふ、そっか。……また会ったらこんどは食事しない?」
「前向きに検討しておきます」
「……よっし」


 軽くガッツポーズ…そんな喜ばなくてもいいのに。
 グラブアさんからしてみたら私からの自分の好感度が上がったって感じなのかしら。
 思わせぶりな答えしちゃった?
 ……まあいいか。


「それじゃあね」
「はいっ!」


 私とグラブアさんは別れたの。
 うん、やっぱり人とはじっくり話してみるものね。
 印象がだいぶ変わっちゃった。

 私も心配しているかもしれないロモンちゃんとリンネちゃんの待ってる宿屋に早く帰ったの。


◆◆◆


 ある一室にて、1人の男は笑っていた。


「……この調子だな」


 自らの計画がうまくいっていることに、笑みを耐えきれないようだ。
 

「……絶望を見せて欲しいなぁ」


 彼は上着を全て脱いだ。
 そして力む。瞬間に蟹のような甲殻に皮膚の一部…背中や肩が変化する。手は一本一本がカニのハサミの片方のようになっていた。


「魔王様復活の為………俺の場合、生贄は少なくていいんだ。しっかりとこなして……美味しくいただかなくてはな」

 

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