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閑話 バレンタインでございます……!
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「これでよし」
バレンタインとかいう、私やお嬢様と違って普通に青春を送っている男女が色めき立つ謎のイベント。それに私はなぜか毎年、片足だけ突っ込んで参加している。なぜなら義理チョコというこれまた謎の文化があるためだ。
普段お世話になっている男性に、女性から感謝の印を渡さなければならない。なんなら、こちらが世話している立場でも渡さなければならない。強制ではないものの、その方が良いとされている。
……ともかく、私は今年の分を用意し終えた。なまじ私はお菓子作りも得意なためにこうして自作する。清潔感さえ保っていればの話だが、その方が喜ばれる。
「ばぁや、今年もチョコレート作ってるんだ」
「ああ、お嬢様! お呼びいただければ私から参りましたのに」
「いいの、私、ばぁやがお菓子作りしてるところ見に来たから」
「左様でございますか。しかし申し訳ありません、たった今、包装まで終わってしまったところで……」
「いいのいいの」
うーむ、お嬢様の目的がわからない。私がお菓子を作っているところを見に来た筈なのに、この方はおそらく私が作り終わるタイミングを見計らってやってきた。もしかして自分の分があるかどうか聞きに来たのだろうか。
「お嬢様の分ももちろんございますよ、例年のように」
「そのようだね。そこにある一際大きなやつ」
「ええ、毎年楽しみになさっているので、今年は特別大きめに作らせていただきました」
女性から女性に渡すのは友チョコと呼ばれており、わたしも友人と呼べる間柄の女子の級友のために、義理とは別でいくつか用意した。
しかしお嬢様が相手の場合は何チョコと言うべきなのだろう。女性同士の主従関係であり、友ではない。家族のように親しいけれど、あくまでお嬢様は私の主だ。……ここまで深く考える必要はないのかもしれない。ただ、渡せばいいだけなのだから。
「もう食べていい?」
「なりません、明日、きちんとお渡ししますので」
「ふふ。そうだよね、明日が本番だよね!」
ちなみにお嬢様自身は私や主人様以外の方にチョコレートを渡したりしない。ネットで一つ10万ほどするものを自身で食べる分合わせて3つだけ頼んで、それでおしまい。
将来、お嬢様とご結婚なさる方をご主人様が決められるとはいえ、今は自由なはず。でもこの方に中学生らしい色恋話は無いらしい。
同級生にナンパされてる様子を何度か見かけたことはあるんだけど……本人に興味がないなら今のままでいいのかな。それとも、私がいるから十分とか。それならすごく嬉しいのだけれど。
「それで他に何十個もあるチョコレート、誰に渡すの?」
「まず道場の皆さんに。皆様にはもれなくお世話になっていますので、日頃の感謝を込めて。あとは女性の級友です。なのでこの九割ほどが道場用ですね」
「そっかそっか」
しかし、そんなこと聞いてどうするのだろう。去年も似たような質問をされて、似たような答えを返した記憶がある。
お嬢様は一際大きいお嬢様用チョコレートの隣にある、それよりひとまわり小さいチョコを指して話を続けた。顔がにやけている。
「じゃあ、これはー? この、私のチョコの次に大きいのは誰のかなぁ? 私のとこれだけ、他のと違うよね」
「それは……」
「うん?」
「し、勝負君用です……」
「つまり本命かぁ」
「ち……違います!」
今やっとわかった。お嬢様がわざわざチョコレートが完成してからここに来た理由。私をおちょくりに来たのだ。お嬢様はごく稀にこういう遊びをなさる。しかも普段より楽しそうに。非常に厄介極まりない。私が狼狽えてる姿を見て何が楽しいのだろう。
「じゃ、なんで他のより大きいの?」
「それは、彼には友人の枠では収まらないくらいにはお世話になっていますゆえ。他の方よりチョコレートを多くするくらいはしても良いかなと」
「でも、それ道場で渡すんでしょ? 他の人のより明らかに大きいから渡す時にみんなに勘違いされると思うな! かと言ってあの人だけに裏でこっそり渡したらそれこそ本人に本命だと思われるかも」
「それは、まあ、そうなるでしょうけど……理由を説明しながらならば、大丈夫かと」
ぐぬぬ……ほんと、なんてタチの悪い遊びなのだろう。しかし、こうして問い詰めてくる小悪魔的な笑みを浮かべているお嬢様も、非常に可愛らしいから中々怒れない。
だめね、愛理。ほんとお嬢様に甘いわ、まるでチョコレートのように。……上手いこと言った気がする。
「ふふふー、可愛いなぁ、ばぁや。勝負さんのお話をして照れてる時、ただでさえ美人なのにもっと可愛くなるんだもん。ついつい意地悪したくなっちゃう」
「そんなこと言われたら照れますよ、お嬢様。それと同時に、あまりしつこいとこのチョコレートの量を減らしますからね」
「私、ばぁやの作ったチョコレート好きだからそれは困る。仕方ないからここで切り上げよう。それじゃね、ばぁや。明日がんばってね」
「そ、そんなんじゃないですって……!」
「おやおやー、みんなに配るの頑張ってねって意味だったんだけど……ね。ふふふふふ」
このお嬢様からの弄りが中々応えた私は翌日、勝負君に普通の他の人と同じチョコを渡しつつ、こっそり匿名で大きいチョコを下駄箱経由で渡した。そこそこ騒ぎになったけれど致し方ない。あんなこと言われて堂々と渡せる度胸は私にはない。
でも何だろう、こっそり渡すのってすごくドキドキするというか……。むしろ逆に本当に彼のことが好きみたいになっちゃったというか……あ、あまり深く考えないようにしよう。私はあくまで、お嬢様に忠実なメイドなのだから。
◆◆◆
この記憶って見せられる必要、本当にあったのかしら……? そんなに重要な内容じゃない気がするけれど。
それにしても私ってば、こっちではロモンちゃんとリンネちゃんから、地球ではお嬢様からガーベラさんとの関係について弄られていたのね。そんなに、彼に対して好意をむき出しにしてた覚えはないのだけど……。
#####
バレンタインデーなので書きたくなって書きました。愛理目線は今しかできませんしね、いわゆる特別編です。
本編は前話で記載した予定通りに公開します。
バレンタインとかいう、私やお嬢様と違って普通に青春を送っている男女が色めき立つ謎のイベント。それに私はなぜか毎年、片足だけ突っ込んで参加している。なぜなら義理チョコというこれまた謎の文化があるためだ。
普段お世話になっている男性に、女性から感謝の印を渡さなければならない。なんなら、こちらが世話している立場でも渡さなければならない。強制ではないものの、その方が良いとされている。
……ともかく、私は今年の分を用意し終えた。なまじ私はお菓子作りも得意なためにこうして自作する。清潔感さえ保っていればの話だが、その方が喜ばれる。
「ばぁや、今年もチョコレート作ってるんだ」
「ああ、お嬢様! お呼びいただければ私から参りましたのに」
「いいの、私、ばぁやがお菓子作りしてるところ見に来たから」
「左様でございますか。しかし申し訳ありません、たった今、包装まで終わってしまったところで……」
「いいのいいの」
うーむ、お嬢様の目的がわからない。私がお菓子を作っているところを見に来た筈なのに、この方はおそらく私が作り終わるタイミングを見計らってやってきた。もしかして自分の分があるかどうか聞きに来たのだろうか。
「お嬢様の分ももちろんございますよ、例年のように」
「そのようだね。そこにある一際大きなやつ」
「ええ、毎年楽しみになさっているので、今年は特別大きめに作らせていただきました」
女性から女性に渡すのは友チョコと呼ばれており、わたしも友人と呼べる間柄の女子の級友のために、義理とは別でいくつか用意した。
しかしお嬢様が相手の場合は何チョコと言うべきなのだろう。女性同士の主従関係であり、友ではない。家族のように親しいけれど、あくまでお嬢様は私の主だ。……ここまで深く考える必要はないのかもしれない。ただ、渡せばいいだけなのだから。
「もう食べていい?」
「なりません、明日、きちんとお渡ししますので」
「ふふ。そうだよね、明日が本番だよね!」
ちなみにお嬢様自身は私や主人様以外の方にチョコレートを渡したりしない。ネットで一つ10万ほどするものを自身で食べる分合わせて3つだけ頼んで、それでおしまい。
将来、お嬢様とご結婚なさる方をご主人様が決められるとはいえ、今は自由なはず。でもこの方に中学生らしい色恋話は無いらしい。
同級生にナンパされてる様子を何度か見かけたことはあるんだけど……本人に興味がないなら今のままでいいのかな。それとも、私がいるから十分とか。それならすごく嬉しいのだけれど。
「それで他に何十個もあるチョコレート、誰に渡すの?」
「まず道場の皆さんに。皆様にはもれなくお世話になっていますので、日頃の感謝を込めて。あとは女性の級友です。なのでこの九割ほどが道場用ですね」
「そっかそっか」
しかし、そんなこと聞いてどうするのだろう。去年も似たような質問をされて、似たような答えを返した記憶がある。
お嬢様は一際大きいお嬢様用チョコレートの隣にある、それよりひとまわり小さいチョコを指して話を続けた。顔がにやけている。
「じゃあ、これはー? この、私のチョコの次に大きいのは誰のかなぁ? 私のとこれだけ、他のと違うよね」
「それは……」
「うん?」
「し、勝負君用です……」
「つまり本命かぁ」
「ち……違います!」
今やっとわかった。お嬢様がわざわざチョコレートが完成してからここに来た理由。私をおちょくりに来たのだ。お嬢様はごく稀にこういう遊びをなさる。しかも普段より楽しそうに。非常に厄介極まりない。私が狼狽えてる姿を見て何が楽しいのだろう。
「じゃ、なんで他のより大きいの?」
「それは、彼には友人の枠では収まらないくらいにはお世話になっていますゆえ。他の方よりチョコレートを多くするくらいはしても良いかなと」
「でも、それ道場で渡すんでしょ? 他の人のより明らかに大きいから渡す時にみんなに勘違いされると思うな! かと言ってあの人だけに裏でこっそり渡したらそれこそ本人に本命だと思われるかも」
「それは、まあ、そうなるでしょうけど……理由を説明しながらならば、大丈夫かと」
ぐぬぬ……ほんと、なんてタチの悪い遊びなのだろう。しかし、こうして問い詰めてくる小悪魔的な笑みを浮かべているお嬢様も、非常に可愛らしいから中々怒れない。
だめね、愛理。ほんとお嬢様に甘いわ、まるでチョコレートのように。……上手いこと言った気がする。
「ふふふー、可愛いなぁ、ばぁや。勝負さんのお話をして照れてる時、ただでさえ美人なのにもっと可愛くなるんだもん。ついつい意地悪したくなっちゃう」
「そんなこと言われたら照れますよ、お嬢様。それと同時に、あまりしつこいとこのチョコレートの量を減らしますからね」
「私、ばぁやの作ったチョコレート好きだからそれは困る。仕方ないからここで切り上げよう。それじゃね、ばぁや。明日がんばってね」
「そ、そんなんじゃないですって……!」
「おやおやー、みんなに配るの頑張ってねって意味だったんだけど……ね。ふふふふふ」
このお嬢様からの弄りが中々応えた私は翌日、勝負君に普通の他の人と同じチョコを渡しつつ、こっそり匿名で大きいチョコを下駄箱経由で渡した。そこそこ騒ぎになったけれど致し方ない。あんなこと言われて堂々と渡せる度胸は私にはない。
でも何だろう、こっそり渡すのってすごくドキドキするというか……。むしろ逆に本当に彼のことが好きみたいになっちゃったというか……あ、あまり深く考えないようにしよう。私はあくまで、お嬢様に忠実なメイドなのだから。
◆◆◆
この記憶って見せられる必要、本当にあったのかしら……? そんなに重要な内容じゃない気がするけれど。
それにしても私ってば、こっちではロモンちゃんとリンネちゃんから、地球ではお嬢様からガーベラさんとの関係について弄られていたのね。そんなに、彼に対して好意をむき出しにしてた覚えはないのだけど……。
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バレンタインデーなので書きたくなって書きました。愛理目線は今しかできませんしね、いわゆる特別編です。
本編は前話で記載した予定通りに公開します。
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