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348話 魔王を封印するのでございます!
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【な、なんだその本は……! か、身体が……身体が吸い込まれてゆくッ……!】
「なに、封書じゃよ。そういえば数百年前はまだ無かった代物じゃったかの? 原本はワシの祖父が晩年に開発したものじゃし」
封書っておじいさんの、さらにおじいさんが開発したものだったんだ。その頃から魔物使いの一族なのかしらね、ターコイズ家は。
しかしおじいさんの持っている封書は、私やケル君を入れるような普通のものとは見た目も性能も違うみたいだ。
【たしか契約した魔物を持ち運べるようにした本だったか……だが我は貴様なんぞと契約していないッ! 魔王は人間なんぞのシモベにはならん!】
「そんなこと言われんでもわかっとるわい。この封書は、どんな魔物も強制的に封じ込められるワシのお手製じゃ」
【そういうことか! クソっ……クソっ……! だ、だが人の子が作った本程度で我を完全に封じ込められるなどとは……】
たしかに魔王の言う通りだ。おじいさんの技術がどんなに優れていたとしても、封印専門のアーティファクトには敵わないだろう。でも一つだけはっきりしていることがある。それは、おじいさんがそんなことを計算に入れないわけがないということ。
「前々から準備してきたと言ったじゃろう? この本の中から永遠に出れないと思っていなさい。生きたまま、な」
【……! そ、そんなことをしたらどうなるかわかっているのか!?】
「十分にな」
【ふ……ふは、ふははははは! だがそんなことはできんぞ! これで我が諦めたと思ったら大間違__________は?】
まだ復活する算段があるようなそぶりを見せた魔王に、おじいさんは懐から取り出した本を見せつけた。その本は今現在、魔王を封印しようとしているお手製の封書と全く同じもののよう。
【ま、まさか……】
「お主の頼みの綱のオーニキスはこの中じゃよ?」
【お、おお……貴様……貴様ッ……貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!】
魔王は拳を振り上げ、おじいさんに向かって殴りかかろうとした。しかしそれとほぼ同時に本の中に肩まで吸い込まれてしまう。
……そして残った首と頭も、絶望した様子で叫びながらあっという間に封印されてしまった。
「さて、と」
「す、すごい……魔王があんな呆気なく……」
「ふふふ、オーニキスだけじゃなく魔王にも問題なく動作したね。流石、僕の親友だ」
「もちのろんじゃ。だがまだ全部が終わったわけじゃないぞ。皆に手伝って欲しいことがある」
おじいさんは自分のスペーカウの袋からさらに別のスペーカウの袋を取り出すと、その取り出し口を地面に向けた。大量のアイテムが出てくる。そしてその全部がただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「この場にいる者なら分かると思うが、こいつらは全部封印系のアーティファクトじゃ。幾つあるかはわからん。100個は下らんはずじゃ。ルビィ国王様を中心に大人数でこの時のためにかき集めたものなんじゃよ」
「おじいちゃん、まさかそれ全部使ってその魔王の封書を封印するの?」
「その通りじゃよ、リンネ」
ただでさえ、まず壊れることのないアーティファクト。封印性能も間違いなく格段に高い。それを何十個も重ねるとなると、何百年……何千年、下手をすれば何億年も封印が解かれることはないかもしれない。
「そういや王様、封印系のアーティファクトを見つけたら必ず手に入れてこいっつってたな。このためか。俺も6個くらい納めたな」
「あら~~、私は9個よ~? 私の勝ちね~~」
「タイガーアイ、お前は?」
「……15個」
「私は8個だぞ、ランスロット」
「私もパパと同じ8個ね」
「……マジかよ、団長の中で俺が一番……てかタイガーアイ多すぎじゃないか!?」
封印系アーティファクトだけでも、実力者ならそんなに手に入れられるものなのね? 王様の宝物庫に数え切れないくらいのアーティファクトがあったのも納得だわ。
「それじゃ、この場ですぐに初めようかの。確実に時間がかかるから、すまんが誰か代表して上にいる冒険者達に勝利したことの報告と帰還命令を出してくれんか。そうじゃな、ランスロットがいいかの」
「わかったぜ総団長」
「上へはクロに乗って行ってくれ」
クロさんとランスロットさんがこの場から離れ、私たちは封印という名の作業を始めることとなった。作業ならゴーレムより人間態の方がやりやすいので人の姿に戻る。
「ねー、おじいちゃん。その魔王の封書ってどういう効果なの? ただ封じ込めるだけじゃないんだよね?」
「おお、その通りじゃよ」
魔王の封書を一つ目のアーティファクトに詰めた終えた時、ロモンちゃんがおじいさんにそう質問をした。たしかに、私もどんなものか知りたかった。
「じゃあ、作業を進めながら教えてやろうかの」
おじいさんはテキパキと手を動かしながら答える。
まず、魔王の封書はスペーカウと同じように、中に入れたモノの時間を止められるらしい。故に中にいる魔王の傷はそのままだし、時間を止められているため意識も無い。ただ生きてはいる、そんな状態が延々と続く。
この生きているという状態が非常に重要らしい。魔王種は全世界で一匹しか同時に存在できないため、今回の封印は実質、魔王種の魔物がいつか現れるという現象そのものを封じ込めてしまったと言っても過言では無いようだ。だから封印される寸前、魔王はおじいさんに事実の確認をしていたのね。
おじいさんがそこまで話すと、私やガーベラさんと言った魔王の伝承についてあまりピンとこない人以外はみんな、目を見開いて驚いた。
「えっ……え! じゃあもう二度と人が魔王に怯えることはないの?」
「ないのぉ。ここにある封印系のアーティファクトだけでなく、帰ったらさらに別のアイテムで封印が解かれないよう手を施すつもりじゃからな。最悪でも1億年、最良だと本当に永遠に魔王は出てこないと思うぞい」
「ぼく達、そんなすごい現場に立ち会ってるんだね……!」
【あんまり実感がわかないゾ】
たしかに世界からまるっと一つ、何百年、何千年も続いてきた脅威を無くしたのだと考えると私たちはあまりにも偉大すぎることをしたと言える。ほとんどガーベラさんとおじいさんの力だけど。
……本当にこれで全部終わった。
終わってみれば呆気なかったようにも思える。結局私を賢者の石として使うことはなかったし、なんなら死傷者もいない。どんな傷を負おうが生きてさえいれば私が全回復させられるし……完全勝利といったところなのかしら。
勝ったということは……私は約束通りガーベラさんと結婚する。
結婚……そっか、結婚か。この私がウェディングドレスを着て、結婚式を挙げて……子供を作って……ガーベラさんのことをアナタ、なんて呼んだりして……ああ……なんかいざとなったら現実味が……。
「見て、お姉ちゃん。アイリスちゃんが大事な作業中なのにぼーっとしてるよ。ふふふ」
「仕方ないよ、ロモン。なにしろこのあとアイリスちゃんには結婚っていう大イベントが待ってるもんね、ふふふ」
【おー、そういえばそうだゾ。めでたいんだゾ】
「そうだ、たしかそうだったな! めでたいじゃねーか!」
「あら~~! あらあらあら、あら~~!」
「……結婚式には、行く」
「私がおばあちゃん、なんて言われる日も近いのかしらねっ!」
「ぐぬぬ……こ、これ! 皆、封印にちゃんと集中せんか!」
「そうだ、義父様の言う通りだ!」
いつのまにか戻ってきていたランスロットさんも交えて、みんなが囃し立ててくる。ふとガーベラさんの方に目をやると、口元を緩ませながら赤面していた。
「え、えーっとガーベラさん。全部終わったら、今後の話し合い、しましょう……ね?」
「う、うん。そうだね……!」
「……その必要はないよ」
作業を始めてから不自然なくらい発言を控えていたナイトさんが私達を否定する言葉を吐いた。今までの彼からは考えられない黒い言葉に、耳を疑う。
「必要ないって……どういう……?」
【あ、もしかしてまだアイリスのこと狙ってるゾ?】
「いや、それは……一割くらいはある……が、ただ妬みから二人の幸せを否定したわけじゃないさ、ちゃんと真っ当な理由がある」
それはそうか、ナイトさんはそういう酷い人じゃない。ならその真っ当な理由っていうのはなんなのかしら。
みんなが向けている不安げな目線に応えるよう、ナイトさんは話を続ける。
「忘れてないかい、みんな? 魔王を倒した、あるいは封印したあとの勇者が……アンデットになった僕含めて、誰一人まともに生還していないことを。たとえ、今回みたいに完璧な勝利をおさめたとしてもね」
#####
昨日は投稿しないと言いましたが、気が変わったので投稿してしまいました。
次の投稿は9/14の予定です。
「なに、封書じゃよ。そういえば数百年前はまだ無かった代物じゃったかの? 原本はワシの祖父が晩年に開発したものじゃし」
封書っておじいさんの、さらにおじいさんが開発したものだったんだ。その頃から魔物使いの一族なのかしらね、ターコイズ家は。
しかしおじいさんの持っている封書は、私やケル君を入れるような普通のものとは見た目も性能も違うみたいだ。
【たしか契約した魔物を持ち運べるようにした本だったか……だが我は貴様なんぞと契約していないッ! 魔王は人間なんぞのシモベにはならん!】
「そんなこと言われんでもわかっとるわい。この封書は、どんな魔物も強制的に封じ込められるワシのお手製じゃ」
【そういうことか! クソっ……クソっ……! だ、だが人の子が作った本程度で我を完全に封じ込められるなどとは……】
たしかに魔王の言う通りだ。おじいさんの技術がどんなに優れていたとしても、封印専門のアーティファクトには敵わないだろう。でも一つだけはっきりしていることがある。それは、おじいさんがそんなことを計算に入れないわけがないということ。
「前々から準備してきたと言ったじゃろう? この本の中から永遠に出れないと思っていなさい。生きたまま、な」
【……! そ、そんなことをしたらどうなるかわかっているのか!?】
「十分にな」
【ふ……ふは、ふははははは! だがそんなことはできんぞ! これで我が諦めたと思ったら大間違__________は?】
まだ復活する算段があるようなそぶりを見せた魔王に、おじいさんは懐から取り出した本を見せつけた。その本は今現在、魔王を封印しようとしているお手製の封書と全く同じもののよう。
【ま、まさか……】
「お主の頼みの綱のオーニキスはこの中じゃよ?」
【お、おお……貴様……貴様ッ……貴様ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!】
魔王は拳を振り上げ、おじいさんに向かって殴りかかろうとした。しかしそれとほぼ同時に本の中に肩まで吸い込まれてしまう。
……そして残った首と頭も、絶望した様子で叫びながらあっという間に封印されてしまった。
「さて、と」
「す、すごい……魔王があんな呆気なく……」
「ふふふ、オーニキスだけじゃなく魔王にも問題なく動作したね。流石、僕の親友だ」
「もちのろんじゃ。だがまだ全部が終わったわけじゃないぞ。皆に手伝って欲しいことがある」
おじいさんは自分のスペーカウの袋からさらに別のスペーカウの袋を取り出すと、その取り出し口を地面に向けた。大量のアイテムが出てくる。そしてその全部がただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「この場にいる者なら分かると思うが、こいつらは全部封印系のアーティファクトじゃ。幾つあるかはわからん。100個は下らんはずじゃ。ルビィ国王様を中心に大人数でこの時のためにかき集めたものなんじゃよ」
「おじいちゃん、まさかそれ全部使ってその魔王の封書を封印するの?」
「その通りじゃよ、リンネ」
ただでさえ、まず壊れることのないアーティファクト。封印性能も間違いなく格段に高い。それを何十個も重ねるとなると、何百年……何千年、下手をすれば何億年も封印が解かれることはないかもしれない。
「そういや王様、封印系のアーティファクトを見つけたら必ず手に入れてこいっつってたな。このためか。俺も6個くらい納めたな」
「あら~~、私は9個よ~? 私の勝ちね~~」
「タイガーアイ、お前は?」
「……15個」
「私は8個だぞ、ランスロット」
「私もパパと同じ8個ね」
「……マジかよ、団長の中で俺が一番……てかタイガーアイ多すぎじゃないか!?」
封印系アーティファクトだけでも、実力者ならそんなに手に入れられるものなのね? 王様の宝物庫に数え切れないくらいのアーティファクトがあったのも納得だわ。
「それじゃ、この場ですぐに初めようかの。確実に時間がかかるから、すまんが誰か代表して上にいる冒険者達に勝利したことの報告と帰還命令を出してくれんか。そうじゃな、ランスロットがいいかの」
「わかったぜ総団長」
「上へはクロに乗って行ってくれ」
クロさんとランスロットさんがこの場から離れ、私たちは封印という名の作業を始めることとなった。作業ならゴーレムより人間態の方がやりやすいので人の姿に戻る。
「ねー、おじいちゃん。その魔王の封書ってどういう効果なの? ただ封じ込めるだけじゃないんだよね?」
「おお、その通りじゃよ」
魔王の封書を一つ目のアーティファクトに詰めた終えた時、ロモンちゃんがおじいさんにそう質問をした。たしかに、私もどんなものか知りたかった。
「じゃあ、作業を進めながら教えてやろうかの」
おじいさんはテキパキと手を動かしながら答える。
まず、魔王の封書はスペーカウと同じように、中に入れたモノの時間を止められるらしい。故に中にいる魔王の傷はそのままだし、時間を止められているため意識も無い。ただ生きてはいる、そんな状態が延々と続く。
この生きているという状態が非常に重要らしい。魔王種は全世界で一匹しか同時に存在できないため、今回の封印は実質、魔王種の魔物がいつか現れるという現象そのものを封じ込めてしまったと言っても過言では無いようだ。だから封印される寸前、魔王はおじいさんに事実の確認をしていたのね。
おじいさんがそこまで話すと、私やガーベラさんと言った魔王の伝承についてあまりピンとこない人以外はみんな、目を見開いて驚いた。
「えっ……え! じゃあもう二度と人が魔王に怯えることはないの?」
「ないのぉ。ここにある封印系のアーティファクトだけでなく、帰ったらさらに別のアイテムで封印が解かれないよう手を施すつもりじゃからな。最悪でも1億年、最良だと本当に永遠に魔王は出てこないと思うぞい」
「ぼく達、そんなすごい現場に立ち会ってるんだね……!」
【あんまり実感がわかないゾ】
たしかに世界からまるっと一つ、何百年、何千年も続いてきた脅威を無くしたのだと考えると私たちはあまりにも偉大すぎることをしたと言える。ほとんどガーベラさんとおじいさんの力だけど。
……本当にこれで全部終わった。
終わってみれば呆気なかったようにも思える。結局私を賢者の石として使うことはなかったし、なんなら死傷者もいない。どんな傷を負おうが生きてさえいれば私が全回復させられるし……完全勝利といったところなのかしら。
勝ったということは……私は約束通りガーベラさんと結婚する。
結婚……そっか、結婚か。この私がウェディングドレスを着て、結婚式を挙げて……子供を作って……ガーベラさんのことをアナタ、なんて呼んだりして……ああ……なんかいざとなったら現実味が……。
「見て、お姉ちゃん。アイリスちゃんが大事な作業中なのにぼーっとしてるよ。ふふふ」
「仕方ないよ、ロモン。なにしろこのあとアイリスちゃんには結婚っていう大イベントが待ってるもんね、ふふふ」
【おー、そういえばそうだゾ。めでたいんだゾ】
「そうだ、たしかそうだったな! めでたいじゃねーか!」
「あら~~! あらあらあら、あら~~!」
「……結婚式には、行く」
「私がおばあちゃん、なんて言われる日も近いのかしらねっ!」
「ぐぬぬ……こ、これ! 皆、封印にちゃんと集中せんか!」
「そうだ、義父様の言う通りだ!」
いつのまにか戻ってきていたランスロットさんも交えて、みんなが囃し立ててくる。ふとガーベラさんの方に目をやると、口元を緩ませながら赤面していた。
「え、えーっとガーベラさん。全部終わったら、今後の話し合い、しましょう……ね?」
「う、うん。そうだね……!」
「……その必要はないよ」
作業を始めてから不自然なくらい発言を控えていたナイトさんが私達を否定する言葉を吐いた。今までの彼からは考えられない黒い言葉に、耳を疑う。
「必要ないって……どういう……?」
【あ、もしかしてまだアイリスのこと狙ってるゾ?】
「いや、それは……一割くらいはある……が、ただ妬みから二人の幸せを否定したわけじゃないさ、ちゃんと真っ当な理由がある」
それはそうか、ナイトさんはそういう酷い人じゃない。ならその真っ当な理由っていうのはなんなのかしら。
みんなが向けている不安げな目線に応えるよう、ナイトさんは話を続ける。
「忘れてないかい、みんな? 魔王を倒した、あるいは封印したあとの勇者が……アンデットになった僕含めて、誰一人まともに生還していないことを。たとえ、今回みたいに完璧な勝利をおさめたとしてもね」
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