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111話 観光するのでございます!

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「ふふー、楽しみだね」
「ぼく達が頑張った証だもんね!」


 観光用の船の乗り場の入場口近くで二人はニコニコしながらそう言った。
 ちなみに、二人のお腹はこの乗り場入り口付近に着くまで2回お花摘みに行き、結果、もう元に戻ってる。
 

「それにしても、大丈夫かな?」
「どうだろうね」


 私の銀鉄の手を握りながら、ロモンちゃんとリンネちゃんは顔を見合わせた。 
 私は今、ゴーレムの姿に戻っている。
 もしかしたら、ペット扱いされて、タダになるかもしれないからね。

 ほんの少し並んでいた行列が空き、私達の番になった。
 

「いらっしゃいませ。2名様ですか? 一名につき湖一周3時間30分、5500ストン。船内お飲物飲み放題となっておりますが」
「このチケットって使えますよね?」


 受付のお姉さんに、リンネちゃんはチケットを提示した。お姉さんはそのチケットを受け取る。


「はい、使用可能です」
「なら、2枚あるので、それで。あ、あとこの子なんですけれど一緒に乗れますか?」

 
 リンネちゃんが私を指差した。
 お姉さんは申し訳なさそうに首を振る。


「申し訳ございません、他のお客様のため、ペットの魔物や仲魔は船に乗ることを禁止しております。お手数ですが、封書などにお入れになられますよう…」


 封書。
 魔物使いのための、魔物を入れておく巻き物みたいな奴。
 普通の魔物使いはこれに魔物を入れて持ち運んでる。
 メインだったり、ペットだったりと一番可愛がっている魔物を外に出して連れ歩く人は多いけれど、それ以外の魔物は大抵、そこに入れられ、戦闘の時や家の中で解放されるんだ。
 私は知能が高く、そもそも私1匹しかロモンちゃんの仲魔は居ないため、封書に入ったことなんてないけどね。
 お母さんとかはやってるみたい。


「あー…仕方ないね」
「うん、じゃあアイリスちゃん、お金払おうか」
【そうですね】


 私は魔物から美少女(皆がそう言ってくれる)へ。
 後ろのお客さんや、目の前のお姉さんは目を丸くした。


「……あー、半魔半人…」
「これならよろしいですよね?」
「は、はい、まあ。……チケットはお持ちですか?」
「残念ながら。ですから普通に払います。6000ストンですよね」


 私は袋から6000ストンを取り出して、お姉さんに手渡した。
 お姉さんはそのお金を呆然とした表情のまま受け取り、私達を船乗り場内部へと通してくれた。


「いけると思ったんだけどなー。アイリスちゃん、割り勘しよっ」
「いえ、お二人は自力でチケットを入手なさいました。何もしてない私の分を割り勘というわけにはいきませんよ」
「はぁ…さすがアイリスちゃんだね。仕方ないね」


 もう私のそういうところには慣れてくれたのか、二人はその先割り勘については何も言わなかった。
 私達はここから船に乗り、出航するのを待つ。


◆◆◆


「出航しまーーす!」


 女の人の声が聞こえたと思ったら、船が動き出した。
 中は広めで、やっぱりアイテムの効果で広げたりしてるみたい。でも、乗客は結構多い。


「わぁ…! 船なんて初めてだよ!」
「船酔いしないと良いけど」


 双子はそう言いながら、広い湖を眺めてはしゃいでいる。
 私達3人の手元には飲み放題の紅茶が入ったマグカップが握られているんだけど、出航する前から飲み続けてたから、3人で通算して17杯目だったりする。

 ゆっくり…ではなく、とんでもなく広いこの湖を1周するには急がなければならないというのが伝わってくるようなスピードで船は進む。
 

「風が気持ちいいね!」
「ねー!」


 船の外廊下へと出た私達。
 この港町から吹く風も手伝って、二人の水色の髪は揺れていた。
 柵に頬杖をつきながら、片方の手で紅茶をすする。
 なんだか少し大人っぽく見える_______


「あ、見て、魚が跳ねたよ! 美味しそう!」
「塩焼きかな? バターソテーが良いかな?」


 前言撤回させていただこう。
 この子達はまだ食べる気でいるのか…。
 
 今いる場所がどうやら二人は気に入ったらしく、ニコニコして話し合いながら、紅茶のおかわりをする時以外は動かない。
 

「すいません、ちょっと私、この船全体をぐるっと見てきても宜しいでしょうか?」
「んー? いいよー」
「迷子にならないでねー」


 迷子になるほど広くないんだけど。
 とりあえず了承をもらったから、私は船の中を探検してみた。
 まあ、わかっていたけれどそんなに面白いものはない。
 ただ、スタッフであろう女の人がデッキ近くでこの湖と街の説明や解説…所謂バスガイドみたいなことをしていたから、そこが気になる。
 結局、その人の話を聞いている20人程度に混じる事にした。


「えーっ、この湖はおよそ○○○年前、とてつもなく巨大な魔物が争った痕にできたと言われておりまして_______」


 そうなのかな?
 この湖は地上からじゃ全貌を見渡せないから、どうなってるのかはわかりにくいけど…。
 争った痕なんて、そんな雑な形ではなかった気がする。
 

「そして、この街は今から200年以上前に、勇者と魔王の幹部が争った痕地に作られたのです。その魔王の幹部は硬い殻に覆われ、強力なハサミを持った蟹の魔物。勇者は四苦八苦した結果、敵の身体に亀裂を作り、そこに雷魔法を流すことでなんとか辛勝したと言われておりまして________」



 魔王の幹部ねぇ。
 ここにも居たのか。それにしても…蟹か。
 もしその魔物を見ても二人は美味しそうだな、としか思わないんじゃないかしらん。


「この街の名産は、言わずもがな魚介類でございましてですね________」


 街の自慢を始めたところで、そろそろ飽きてしまった私は、ロモンちゃんとリンネちゃんの元に戻ろうとした。でも、二人が見えたところで、私は足を止める。


「お嬢さん達________」


 どうやら、ロモンちゃんとリンネちゃんが、見知らぬ男の人2人と話をしてるみたいなんだ。
 ここは…盗み聞きするとしよう。


「お嬢さん達、二人だけかい?」
「今、暇なら俺らと観光しない?」


 おっと、どうやらただのナンパのようですね。
 一方は髪の毛がさっき食べた茹で蟹のように赤い、天パのさわやか風の青年、もう一方は金髪で耳にピアスとかをしてるチャラい青年。
 赤髪天パの方はそれなりにイケメンね。


「あ…あ、いえ、ぼく達は3人で来ています…」
「その、ごめんなさい。ゆっくりと風景を眺めてるので暇じゃなくて……」


 ちょっとロモンちゃん…。
 ゆっくりしてるなら暇じゃないでしょうよ。
 断るならもっとマシな答え方しないと。


「ゆっくりしてるじゃないか」
「ねぇねぇ、遊ばない?」


 二人の男の人のうちの一人、金髪ピアスの方が、すこし短絡的な言葉しか使ってないのが笑える。
 どれだけ遊ぶ事しか考えてないんだ…。
 ロモンちゃんとリンネちゃんは困った顔をして互いに見つめ合う。
 そろそろ助けてあげようかな。
 

「お姉ちゃーん! お姉ちゃーーんっ!」


 そう言いながら、私は二人にテテテ、と、駆けて行く。
 私が来た方を、四人は注目してきた。


「お姉ちゃん達探したんだよ! ほらー、行こっ! 行こっ! ねー、行こうよー!」
「えっ」
「あっ」


 私はロモンちゃんとリンネちゃんの手を素早く掴んで引っ張り、ナンパ組二人に顔も合わそうとせずにさっさとその場から退散した。


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