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335話 グラブアの本気でございます!

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「前の勇者にみせることができなかった、俺の奥の手だ。発動条件が厳しくてね。Sランク以上の魔物を一体、生贄にしないと発動することができないんだ」
「グランド・レイ!」
「おっと。やっぱりお前にはこれが何かわかってるのかな」


 どうやらあの手に持っている赤黒い泡が厄介な様子。ガーベラさんがひどく焦っている。
 その泡を狙って放った、ガーベラさんの技の中でも火力が高めの一撃。しかしグラブアはそれを、奴の所有物であったアーティファクトの盾剣で防いでしまう。
 あの盾剣は私が回収してオーニキスさんに管理してもらっていたはず。やっぱり持ち出されてたのね。


「くっ……」
「な、なんなんですかアレは……?」
「おそらく、あいつの仲間が死ぬ瞬間に魔力だけを取り出してあの泡に詰めたんだ。グラブアはそういう特技を持っているんだと思う。つまりあれは超越種Sランクの魔物一匹分の魔力の塊……そしてそれを取り込むことで急激にパワーアップできる」
「あっ。アイリスちゃんには俺から説明したかったのに。まあいい。そういうわけだ。……すぅぅ」


 グラブアはそのアルケニスの魔力の塊を口から吸い込み、取り込んだ。Sランクの超越種の魔物が、位だけなら同等の存在の魔力を吸収するだなんて前代未聞。
 そもそも超越種以上は何かしら特殊な力を持っている。今までグラブアのそれに該当するものは、強力な泡攻撃だけだと思ってたけど、そんなことはなかったのね。


「ごくん。はぁああ……何年振りだろうこの感覚。魔王様の部下になる前に、彼に挑んだ時以来か」
「……まずいぞ」
「既にSランクだった俺は、当時の友、サソリの魔物を取り込んで……懐かしいな」


 グラブアの身体の様子がおかしい。背中から蟹の足が生え、片手が巨大なハサミになり、身体のあちこちが堅牢な赤い甲羅で覆われ始めた。顔も人間と蟹の特徴を半分ずつ反映させたものになっている。
 どう見ても魔物の形態だけどサイズも形自体も人間態のまま。
 ……やがて変身が終了したのか、グラブアはハサミにならなかった方の手で盾剣を構え直す。


「これが俺の完成した姿。本当の意味での半魔半人。今の俺は、魔物であり人間だ。……早い話、グランルインクラブのパワーを人間大の大きさで発揮できるようになったんだよ。膨大な魔力を摂取しないとこれを全身に反映させることができなくてね」


 なるほど、要するにグラブアは今まで私が見てきたように、人間態のまま一部魔物化できる能力を所有していて、それを全身に施したのが今の姿ってわけね。
 私もゴーレムの硬さ・パワーと人間態の速さを両立できれば強そうだなと考えたことはあるけれど、まさか実践できる魔物が存在したなんて。おじいさんが見たらなんて言うかしら。


「これなら、君たち2人を同時に相手しても負けはしない。今の僕は確実に、ステータスだけでなく全てにおいて魔王軍幹部最強。……実際は最強なんて称号どうでもいいんだけどね」
「アイリス、左に跳んで!」
「は、はいっ!」


 ガーベラさんに言われた通り、慌てて私は横にとんだ。彼自身も同じ方向に駆ける。その瞬間グラブアが盾剣を振り下ろし、その衝撃波が地面を抉りながらこちらまで襲いかかってきた。
 ガーベラさんの判断のおかげでギリギリ回避することができたけれど、直撃していたら……。


「……へぇ、この盾剣は魔王軍幹部になってから魔王様に貰ったものだから、この状態で使うのは初めてだけど……こうなるのか。いいね。それじゃあ無心で振り回すだけで勝てちゃうんじゃないかな?」


 そう言ってグラブアは盾剣を高く構え再び振り下ろしてきた。私たちもまた回避する。間髪入れずに宣言した通りグラブアはすぐに次の斬撃を放ち、それも回避。
 ……こうなったら一気に距離を詰めるか魔法で攻撃しないとダメね。
 グルブアの放つ斬撃は広範囲かつ高火力だから、ゴーレムの状態になると被弾しやすくなることも考えてこのまま行動しなきゃいけない。とは言え、人間態のままだと一撃でこの補助魔法を重ね掛けしてる状態でも致命傷に至る。
 どっちの方がいいかしら。今の私で魔法がどれだけ効くか、それを確かめてみてから決めましょう。


「リスゴロゴラムっ!」
「嬉しいよアイリスちゃん。俺の好みを覚えていてくれて。……無意味だけど」


 この私の雷撃を喰らってもグラブアはピンピンしている。悲鳴を上げるほど嫌いだったはずの雷魔法を避けることなく受けて。
 魔法に特化した極至種Sランクの魔法攻撃を受けてもダメージが見えないとなると、補正がのる光魔法でまともに攻撃した方が良さそう。


「リスシャイラム!」
「そう、アイリスちゃんはそれが得意だったね。受けよう」


 グラブアは剣を振るうのをやめ、棒立ちで私の光魔法を諸に食らった。光が晴れた後、その場にいた本当の意味での半魔半人のグラブアは……先ほど同様、やはり無傷。
 つまり私ができる最高火力の一撃でもダメージを与えることはできなかった。あと私にできることは、今のを連発させるだけだもの。
 明らかにグランルインクラブよりも魔法に対する抵抗力が強まっている。おそらくはゴーレムの時の私並み。


「どういう事ですか? 私の魔法に対して無傷だなんて、到底あり得る話ではありませんが……」
「うん、あの頃よりよく成長していて気持ちのいい一撃だったよ。魔王様以外じゃひとたまりもない。魔王軍幹部でも半数以上が三発以内に沈むだろうね」
「まさかその能力、グランルインクラブの強さを人間大で発揮するのではなく、人間大まで圧縮するというのが正しいのか?」


 ガーベラさんのその考察が正しいとなると大変なことになる。
 グランルインクラブは高さが小さめの城一つ分ほどあり、おそらく二十メートルは超えていた。グラブアが仮に180センチほどだと仮定すると、魔物態は人間態の大きさの11倍強。
 あんまり賢い計算ではないけど、つまり今の圧縮されたグラブアはそのまま本来の11倍の強さがあるってことかしら?


「圧縮……ね。学者じゃないから数字の計算とかよくわかんないけど、ステータスは一桁多くなってるよ。おそらく今は魔王様より数値が高い」
「やはりガーベラさんの考えてあっていそうですね」
「ああ……」


 だとすれば、どうすればいいのだろう。私からできることは何もない。
 防御も魔法に対する抵抗も、ステータス自体が膨れ上がってると言うことは攻撃力も魔法を打つ際の威力も何十倍になってると考えたほうがいい。
 もしかして本当に魔王より強いんじゃ……?


「……仕方ない、アレを使うしかないかな」
「まさか、二つある奥の手のうちの一つですか!?」
「うん。たぶんもう、それしかアイツを倒せる方法はない」
「お、相談かな? 一応言っておくと、俺のこの状態は一日しか持たない。まぁ、一日耐えれたら勝機があるんじゃない? 大サービスでもう一つ教えてあげると、魔王様でも今の俺には耐えることでしか勝てなかった。前の勇者はそもそも今の俺と対決していない。さ、どうしよっか?」
 

 サービスで自分のことを教えてくれてるというよりは、おそらく自慢している。今の情報が付け加えられたところで、私になすすべがないことは変わらない。


「アイリス、今からは自分の身を守りつつ支援に徹してほしい。基本的には俺が一人でアイツと戦う」
「……だ、大丈夫なんですか!?」
「うん、それがベストだ」
「今代の勇者は彼女連れなだけあって、カッコつけるねぇ。でも安心して欲しい。二人とも今は殺さない。生け捕りしたあと、お前の前でアイリスちゃんを犯す。そして嬲る。そして拷問する。女であることを後悔するくらいに。……あの日できなかったことを彼氏である君の目の前でやってあげよう。いや、それ以上を! ……勇者、お前がただのアイリスちゃんの助っ人でしかなかったあの頃に味わえなかった絶望を、今味体験させてあげよう」


 すっかり強気でより饒舌になってるグラブアの、悪寒がし体が震えてしまうほどの気持ち悪い発言に対し、ガーベラさんは答えることなく、ただ、ただ、槍を構え、その切っ先を向けている。
 その表情は殺意に満ちていた。



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