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293話 国王様のお願い事でございます!

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 自分達はオーニキスさんに騙されていた。彼は魔王軍にとって物事が有利に進むよう記憶や認識を有耶無耶にしてきていた。今より少し前にオーニキスさんも魔物なんじゃないかって話になったけど、そうなると彼は、認識を変える特有の魔法を持った魔王軍幹部の一人の亀の魔物の半魔半人ということになる。普通じゃこんな国規模で認識を変える魔法なんて高度すぎて扱えないものだけど、それに特化した特性を持ってるなら話は別。……国王様の中でも話はまとまったみたい。


「うーん、今までの話をまとめるとオーニキスは魔王軍幹部の一人だったかもしれないんだね。ねぇジーゼフ」
「はい、なんでしょう」
「よくわからず力を封印させて悪かったよ。七年間大変だったでしょ、ごめんね? なんか僕、今日は謝ってばかりだね」
「とんでもございません国王様……」
「それでね、ジーゼフとノアとコハークにお願いなんだけど、僕が話したい内容が終わって、この重圧も無くなったらさ、勇者が書いた著書の中から、魔王軍幹部に幻を見せたりする魔法が得意な亀の魔物が居なかったか調べてみてよ」
「承知しました」
【ゾ、国王様! オーニキスってここに勤めてた年数かなり長いんだゾ? それならもうすでに文献は全部処分されてるかもしれないゾ】
「あー、その可能性も考えなきゃね。でもとりあえず今のを二つ目のお願いってことにしよう」


 ケル君の言う通りすでにその魔物に関する情報は無くなってると考えた方がいいかも。これだけお城の中でやりたい放題しきてたんだもの。私だって同じ立場なら自分の弱点とか書かれてるものなんて消したいと思うし。


「とりあえずオーニキスのことは後にするとして……それで三つ目と四つ目のお願いなんだけど、探して欲しいものが二つあるんだよね。いや、明確に言えばその二つを探すために必要なものがたくさんあるんだけど……コハーク、説明して。あ、グライド、手伝ってあげて」


 どうやらその二つのあるものを探すっていうのが国王様が本当に要求したかったことのようね。魔王の重圧でよろよろしてるコハーク様をお父さんが支えて歩く形で二人とも預言者の部屋に消えていった。しばらくしていくつかの巻物を運んでくる。……あの巻物一つにつき必要な物一個だとするとそこそこの量になるわね。


「ご苦労様。求めているのは魔王を倒すに当たって必要なものなんだ。そう、つまり一方は勇者を見つける方法だよ」


 そっか、魔王を最終的には倒さなきゃいけないから今まで先人達が繰り返してきたように勇者を探して戦ってもらわなきゃいけないわけだ。単純に考えてSSランクの魔王種なんて最高峰の魔物を相手にするって想像するだけで恐ろしい。私が前世と互換がないことで勉強したのは魔法と魔物に関することだけだから、歴代の勇者がどうだったとかは童話や小説で伝えられてること以外知らないけど、相当大変だったに違いない。


「勇者の発見に取り掛かるのは、本当にできるだけ急いで欲しいんだ。まず勇者を見つけるためのアイテムを手に入れるのに最高十年はかかると思ってほしい。その上、見つけた勇者が戦えるほど強いとは限らない」
「「じゅ、十年!?」」」
「そうそう、十年。若いリンネちゃんとロモンちゃんにとっては相当長い時間だよね。まあ運が良ければかなり早く済むんだけど」


 その間に魔王の攻撃から耐えたりしなきゃいけないわけだ。この国には強い人たちがたくさんいるし、なんとかはなりそうだけど相当きつい戦いになるのは確か。
 やっぱり伝説となるかもしれない勇者となるとそれだけ見つけるのが大変なのね。


「それでなにを見つければ?」
「んーとね、そのアイテムを見つけるのにもさらに見つけ出さなきゃいけない人物がいるんだよ。……えーっと……うーんと……コハーク、後の説明お願い!」
「承知しましただの」


 勇者を見つけるのに必要なアイテムを見つけるのに必要な人物……相当面倒ねこれは。国王様も勇者の伝記ばかり学んできたわけじゃないだろうし、覚えてないのも仕方ない。
 コハーク様は巻物のうち一つを取り出して広げた。こっちに寄ってこいと手招きをしてくるのでそれに従う。どうやら額を合わせて見なきゃいけないっぽい。みんなが見やすいように子供の姿になっておく。
 巻物の内容は『別の世界からきた何者かについて』だった。みんな、私の方を振り向いた。


「まずはこれから話そう。知っていると思うが、たまに……三年に一回くらい別世界の記憶があるという人物が現れる。だいたいおぼろげにしかそのことは覚えてないようだがの。そんな珍しい奴らじゃないが、だいたいそういうのは何か新しい文化を持ち込んできたりするものなんだの」


 私がロモンちゃん達に始めてこの世界以外から来たかもしれないと告白した時のことを思い出す。あんまり驚かれなかったのはやっぱり、それなりに居るからなのね。反応が薄くてちょっとつまらなかった。


「例えばポテラン焼き。あれはその別世界から来たかもしれないと自称する人物が唯一作り方を覚えていたというお菓子を屋台で売り始めたのが誕生のきっかけなんだの。元の名前は『お焼き』というらしいが、シンプルすぎる名前で寂しかったからその相方として一緒に商売をした者がテキトーに名付け直したそうな。今ではもはや元の形とも違うらしいがな」


 あのお菓子にそんな背景があったんだ。私が想像してるより日常に別の世界の影響があるのね。……私もこの騒動が済んだらドーナツとかハンバーグとか屋台で売ってみようかな。かなり儲かりそう。 


「そう、勇者を見つけるにはまずこ奴らが必要なんだの。アッシらはこれを転生者と呼んでおる。そもそも勇者自体が転生者なんだの。ただ勇者を見つけるためのアイテムを入手できる転生者と勇者は別人でなければならないっと……」


 コハーク様は急に喋るのをやめ、私たちのことを不思議そうに見渡した。そしておじいさんの方を向き、その疑問を問いかける。


「……なぁ、ジーゼフ、もしかしてある程度転生者について知っとるんか? なんか全員反応が鈍いというか薄いというか、アッシが予測してない別のことに驚いてるというか」
「仕方ないの、何を隠そうこのアイリスがその転生者とやらじゃからな」
「……アイリス殿って間違いなく元は魔物だの?」
「え、ええ。そうですよ」
「国王様ぁ!」


 重圧で相当苦しいはずなのにコハーク様はすごく嬉しそうに国王様の方を振り向いた。コハーク様が自分のことを呼んだ意味がわかったのか、次第に国王様の顔も笑顔になる。……確かに元は魔物だけど本当の元を辿ると道端の小石……まあそれは言わなくていいかしら。ロモンちゃんにすら言ってないし。


「よかったぁ、第一関門突破だね!」
「私が必要なんですか?」
「その通り。もう少し詳しく説明するんだの」


 コハーク様はその説明を始めた。
 まず、魔王が誕生するか復活するかのどちらかが起こる十年くらい前から、転生者の登場はパタリと止まるらしい。そして本格的に魔王が現れる直前、だいたい二年前くらいになったらちょうど二人だけ転生者が現れる。……でも一方は魔物になる。そしてその魔物は亜種や超越種に絶対進化し、記憶の残り具合にもよるけど、総合的に見て念話もかなり流暢なためだいぶわかりやすいらしい。あと人に対して友好的。ズバリ私じゃないかしら。まあ私は極至種だけど似たようなものでしょう。
 なんでそんなことになるかはわからないけど、魔王としての力的な何かが影響した……みたいな曖昧な認識みたいね。


「それで、その別世界の人間の魂が宿った亜種以上の魔物、本人かそれと深い関わりのある人物のみがダンジョンから見つけられるモノが勇者の発見に必要なんだの」
「さっきオーニキスが言ったように別世界からきた人は、その記憶が曖昧だからね、魔物になっちゃった人みたいにわかりやすいわけじゃないし、それが必須なんだよ」
「なるほど。それで私が必要というわけですか。私でよければいくらでも協力しますよ」
「やったね! 本当にありがとうアイリスちゃん! 持つべきものは魔物使いの部下とその家族だね」
「それで何が必要なんですか?」
「この巻物の……このアイテムだの」


 コハーク様が広げた巻物には、見覚えのある植物が描かれていた。その名称は『真のユーカン草』。普通のユーカン草との違いは、十年に一度なる身の輝き具合でわかるらしい。そもそも条件が揃ってる時点でダンジョンのボスの部屋から見つかるのだとか。その真のユーカン草の実に勇者の力を秘めてる者が触れることで光だし、判別できるって。……あれ、これってもしかしなくても……。



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