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284話 彼氏に長髪のお披露目でございます!

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「あれ、アイリスちゃんどっか変わった?」
「わかります?」


 夜のギルド。さっそく知り合いにそう尋ねられる。ちなみにまだ髪の毛は伸ばしてない。胸元と背中の痣も分かるわけないし、きっとあれで判断したのね。


「たしかに若干変わってるねぇ」
「アイリスさんの頭の上にあるやつの形が少し変わったのね」
「ああほんとだ、よく気がついたなジエダ」


 ……変じゃないかしらこの輪っか。私は可もなく不可もなくって感じだと思うのだけれど。果物のヘタみたいに全体がギザギザしてるんじゃなくて、四方向にちょこんと突起がついているだけのシンプルなものだもの。
 

「アイリスさん、なにがあったんですか? イメージチェンジってわけじゃなさそうだけど」
「進化したんですよ、今日」
「本当かい!? どれ、ちょっと新しい姿見せてよ」


 ギルドの天井を確認した。ここは確か2階建だったはず。おそらくこのままドミニオンゴーレムになれば2階の床を突き破るわね。


「すいません、今回はかなり大きくなっちゃって、今ここで進化した姿をお披露目すると上まで突き破ってしまいます」
「構わん、俺は構わん!」
「気にせず変化しちゃいなよ!」
「俺が良くないわ! アイリス、やめてくれよ?」
「ええ」

 
 ギルドマスターの慌てている様子。みんなはまだみたいって騒いでるけど、お酒の酔いと冗談とノリで言ってるだけでしょう。


「そういえば半魔半人って魔物として進化するたびに人としても若干成長するって聞いてるんだが、アイリスちゃん頭のヤツ以外変わってるか?」
「いえ、この人間態でできることは増えましたが成長はしませんでした。おそらく年齢もそのままです」
「できることってなに増えたの?」
「……見ます?」


 みんなはウンウンと頷いた。私としても是非披露したい。髪っていうのはやっぱり一番のイメージチェンジ要素だと思うから、どれだけ変わったのか見ててほしいもの。やっぱり身内の評価だけじゃね。


「では見ててくださいね」


 私は一瞬身を光につつんで髪を伸ばした。銀色が過ぎる銀髪が腰あたりまで伸びる。ここに来る前にちょっと串でといてみたんだけど、かなりサラサラしてて枝毛とかもない感じで、自画自賛になるけどすごく綺麗な髪だと認識している。


「どうです? 髪を今までのとこちらとで2パターンに変えられるようになったんです。まあこれだけなんですが」
「おお……!」
「普通に羨ましいわね、便利よ、便利」


 髪を揺らしたりしてみる。やっぱり動く分には邪魔くさいのよね。でもこの今集まってる冒険者達の中にも女性で長髪で槍使いって人もいるんだけど。慣れなのかしら。
 

「もちろん、アイツには見せるんでしょ?」
「ええ、もちろん」
「お、噂をすれば来たんじゃねーのか?」


 男性冒険者によって指がさされた通りの方を向くと、今まさにガーベラさんがこのギルドの門を開けたところだった。いつもと同じように何気ない様子で顔を覗かせる。今日も変わらずカッコいい。
 屋内に入ってきたガーベラさんは私をみるなりニコリと微笑んだんだけど、すぐに顔が驚愕したようなものに変わった。


「あ、アイリス……?」
「はい、ガーベラさん」
「髪があの……ロモンちゃんと同じくらいになってるけど?」
「ふふふ、進化したんです! どうです? ……今までのがお好きですか?」


 そうたずねると、ガーベラさんは一瞬言葉を詰まらせた。でもすぐにまた微笑んみながら私の問いに答えてくれる。


「髪の短いアイリスも今のアイリスも好きだよ。……でもやっぱり結構印象ちがうね」
「……えへへへ。そ、そうですかぁ……」
「なんだかサラサラしててすごく綺麗だ」
「触ってみます?」
「いいの?」
「もちろん、ガーベラさんなら」
「ほらほら、みんな、アイリスとガーベラが惚気始めたから散った散った!」
「二人も、こんな酒場の真ん中でイチャコラするんじゃなくて、隅の方に行ってくれよな」

 
 なんだか気を遣わせちゃって悪いわ、みんな。私たちはいつも二人でお話しする時の定位置に着いた。
 ちょっと私自身驚いてるのが、自分で髪を触っていいなんて許可したことね。まさかそこまで気を許せる相手になるなんて。結構付き合い始めた時から頭は撫でられてたような気がするけど、髪を触らせるのと頭を撫でるのとじゃだいぶ違う。


「改めて間近でみると、とても新鮮だ……」
「明日は三つ編みにでもしてきましょうか。もっと新鮮だと思いますよ」
「それは楽しみだな」
「それと自由自在に短髪、長髪の切り替えが可能でして普段は動き辛いのでいつもの短髪にしようと思っているんです。長髪は気分転換程度にしようかなと。……では、どうぞ」


 私は髪を1束差し出した。そんな潔癖にしなくていいのに、ガーベラさんはハンカチで自分の手を拭いてからそれを手に乗せ手前に引く。ちゃんと彼の指が私の髪を触れているのがわかる。


「すご、こういう質のいい銀色の糸の束を触ってるみたいだ」
「そうでしょう? たしかに短髪の時から髪質は良いと自信があったのですがそれがそのまま長くなるとこうもサラサラになるなんて」


 ガーベラさんは私の髪をもうひと撫ですると、手から離した。じゃあそろそろ今日あった出来事を彼に話しましょうかね。Sランク、いえ、実質SSランクになったことを報告しましょう。


「ちょっと今までの髪に戻りますね。……やっぱりこっちの方が落ち着きますね」
「そうだね」
「それで、進化した件についてですが。魔物の方に関しては実はSランクに上がりまして」
「!? 先を越された……だと……」
「ふふふ、さらに種族も加味すると実質SSランクだそうで」
「すごいなそれは」


 進化することによって得た能力と、どんな容姿になったかを紙に書いて説明した。


「本格的にロボットみたいになったなぁ……」
「……ろぼっと?」
「あ、いや、気にしないで。能力も見た目もSランクに恥じないものになってるね」
「ええ、これでもう単独でも魔王軍幹部を撃破できることでしょう。ガーベラさんにも負けませんよ!」


 実際勝てるかどうかはわからないけど。んー、前の私じゃ勝てなかったけど今の私なら七割くらいの確率でガーベラさんに勝てるかもね。まあガーベラさんが私を攻撃するなんてことないはずだからそんなこと推測したった無駄なのだけれど。


「たしかに今の俺じゃアイリスには敵わないかもね。それで人間態の方は髪の毛が伸ばせるようになっただけなの? それ以外は天使の輪っかに飾りがついたくらいでほとんど変わらないように見えるけど」
「いえ、胸元のハート型の痣が二重になりました」
「ああ……そっか……」


 ガーベラさんが私の谷間を見たのは暴漢に襲われてる時。心当たりはあるけど正直には答えられない難しい空気を作ってしまった。彼氏だからと正確に答えたけど、彼にも隠しておいたほうがよかったかしらね。


「ご、ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「いえ、その、微妙な空気になるようなこと答えてしまったので」
「アイリスはなにも悪くないよ、だいじょうぶ」
「は、はいっ……」


 今日の私は少しおかしいわ。たくさんガーベラさんに惚気ちゃう。今のフォローの言葉にもドキリとしたし、私の意向を把握して痣を見せろとも言ってこない。やっぱり結婚するならこの人しかないわ。……Sランクになったらプロポーズしてくるっぽいし。
 となるとむしろ今のままでいいのかしら。私ってばまだキスすらしてないし、真正面からのハグだってしてないもの。そろそろガーベラさんに対して完全に心を許し切って、いろんな覚悟をする頃じゃないかしら。
 どうしよう、ちょっとここで行動を起こしてみても……。いや、やっぱりまだ心の準備が……うぅ……こうなったらあれね、一旦別の話題に変えて心を入れ替えましょう。



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