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278話 三回目の進化でございます!

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「進化だよ、進化!!」
「わくわくが止まらないね!」


 ロモンちゃんとリンネちゃんが目をキラキラさせながらはしゃいでいる。
 昨日、私がギルドでガーベラさんと落ち合う前に実はお母さんに私とケル君の両方が進化するという報告をしてあって、今は屋敷の地下にいる。今回はおじいさんも一緒。忙しいのにこの国の王様に直談判して研究という名目で時間をもらったらしい。


【イイナァ、マタ シンカ スルノネ】
【ガーナもきっとオイラみたいに戦い好きになれば早く進化するんだゾ!】
【ワタシハ ユックリ シテルホウガ スキカナ……】


 ほとんどおじいさんは村に帰れない状況なので、最近はガーナさんをお留守番させるのはやめて連れてきてしまっている。私とケル君の進化報告を聞いて少し悔しそう。


【貯めるべき経験値は一緒じゃが、好戦的かそうでないかで進化の速さは違うからな。ガーナは気にしなくていいと思うぞ】
【ジーゼフ ガ ソウイウ ナラ】
【イイジャナイノサ、ワタシ ナンテ……】


 今度はお母さんが連れてきた幼体化したベスさんが喜んでいいのか、悲しんでいいのかよくわからないといった表情を浮かべながら話し始めた。要約すると、生まれてまだ二年も経っていない息子であるケル君がもう自分を追い抜いてしまいそうで嬉しいけど怖いとのこと。

 
「そうよねー、ベスもオルトロスに進化したのは三歳の半ば頃だったものね。そこからケルベロスになるには二年かかったっけ」
「それでも野生のケルベロスよりは倍以上早いんじゃがの」
【ねぇねぇ! そろそろ進化してもいいかゾ?】


 おじいさん達の話には混ざらず、ロモンちゃんとリンネちゃんと一緒に走り回ってはしゃいでいたケル君がしびれを切らしたようにおじいさんの膝元へ滑り込み、尻尾を振りながらそう言った。ベスさんの嘆きなどは聞いていなかったみたいね。


「おお、モタモタしていても意味ないしな。どれ、始めるか」
「ケルとアイリスちゃん、どっちから進化するのー?」
「するのー?」
【もっちろんオイラなんだゾ!!】
「私はいつでもいいですし、そうしましょうか」


 というわけでケル君から進化することになった。ケル君は今までトゥーンヘルドッグからヘヴンドッグになり、マグニフィセントヘヴンドッグとなっている。
 次はオルトロスとなることは確定なんだけれど、何オルトロスになるかが注目すべき点。どうせ新種だし。
 ロモンちゃんはケル君を目立つ場所に誘導し始めた。


「それじゃあケルは私たちの真ん中に立って……これから首が二つに増える気分はどう?」
【どうって聞かれても困るんだゾ。人やケルベロス系以外の魔物にとっては首が増えるって気持ち悪いことかもしれないけど、オイラ達にとっては喜ばしいことなんだゾ】
「そうだよね! ……それじゃあ」
【ゾ!!】


 いままで幼体化していたケル君はマグニフィセントヘヴンドッグ本来の姿になった。クマよりも大きいその巨体で伏せをし、目を閉じる。おそらく今はステータスに表示される進化先ルーレットから次どうなるかを選ばされている頃でしょう。
 やがてケル君は光に包まれた。そして前よりその時間が長い。ロモンちゃん達もそう感じているようでソワソワしだした。
 

「……ちょっと長くない?」
「大丈夫かな?」
「大丈夫ではあるはずだけど……」
「心配しなくてもいいのよ、ベスの時もこのくらいだったから」
「ドッグ系がオルトロスに進化するのは体の一部が著しく変化するからの、少し長めなんじゃよ」
「「そうなんだ!」」


 それを聞いて私も少し安心した。そして一分くらい経ってから光がはれ、新たなケル君の姿を確認することができた。


「おお……おおおお!」
「しゅごい……」


 新しいケル君……何という神々しい出で立ち。何だかとっても偉い身分の人を目の前にしているみたい。
 毛量が前段階より増え、フサフサ感が増したけどそのフサフサが逆立っていてとても攻撃的。マグニフィセントヘヴンドッグの時点でクマより半周りほど大きかった身体は一割り増しになったかなって程度でそう変わらないんだけれど、四肢がかなりガッチリして凶暴そうになっている。
 基本的な色は変わりなく、光る白と赤い模様。光の加減によって毛の照り方が違うのもそのまま。ただ毛が攻撃的になったことにより赤い模様も荒々しく見える。全体的に大人になった感じかしら。
 そして何よりも、頭が二つになっている。前々からわかってたけど本当に頭が二つになってしまった。大人の姿なので可愛いのが二つに増えたのではなく、強そうなのが二つに増えた。これぞ怪物って感じ。ちなみに分岐点は毛がフサフサで見にくい。


「……えーっと、ケル。調子はどう?」
「ケルって呼ぶべきなの? ケル達って呼ぶべきなの?」
「ベスのことは普通にベスって呼ぶでしょ、リンネ」
「そうだった」
「ね、ケル?」


  なかなか返事をしないケルに対し、ロモンちゃんは心配そうに近づいた。おじいさんもお母さんも止めないから危ないってことはないみたいね。
 ロモンちゃんが右側の頭に手を伸ばしたその時、その頭が急にロモンちゃんの方を振り向いてベロを出した。そして素早く、自身に向かって伸ばされた手をペロペロする。


「わわっ!」


 ケル君は驚くロモンちゃんをまるで逃さないかのように急に動き出し、そのツンツンとした毛を生やした巨体で丸め込んだ。そして右側の頭は続けてロモンちゃんの手を、左側の頭は足の脛あたりを舐め出した。


「わ、ちょっ……くすぐったいよケル!」
【ふむふむ……ほほう、両方の首を動かすのはこんな感じなんだね。何となくわかったんだゾ】
「ケル……! 無事に進化できたんだね!」
【見ての通りなんだゾ】


 知能が異様に高いから頭が二つになってことによって精神断裂が起こらないか個人的に心配してたけど、そんなことはなさそう。それに口調はいつも通り知的な割に子供っぽいケル君そのもの。よかった、問題は何もないみたいね。


「ちゃーんと首が増えてるね! ……毛も抱くと痛そう」
【そりゃあオルトロスだもの、当然なんだゾ! ちなみに毛の方は幼体化すればいい感じの触り心地に戻ると思うゾ】
「そっか、よかった! ところで気になることがあるんだけど」
「さっきから念話、その頭のどっちが喋ってるの?」
「あ、お姉ちゃん! 私聞こうと思ってたのに!」
「ごめんごめん」


 それは私も気になってた。いや、村でおじいさんの元にいた頃に勉強した内容では二つで一つであり、一つで二つらしいけど。つまり私たちでいう腕や足が2本ずつあるのと同じで頭が二つになっても特に感覚とか変わらない。
 ベスさんに聞いてもいいんだけど、やっぱりめちゃくちゃ頭のいいケル君だとまた違った結果になるんじゃないかとか思ってしまう。
 ケル君は二つの頭を同時に横に振りながら答えた。


【見ての通り普通なんだゾ、普通。口や目、脳みそはたしかに二つに増えてるけど意思そのものは一つなんだゾ。ただこうして別々に動かせるってだけ! 手足と変わらないゾ】
「じゃあ勉強した通りの内容なんだね?」
【そういうことだゾ】


 なるほど、頭の良さは関係ないのね。一体どっちの頭に意識があるのか気になるところだけど、それを追求するだけで私の進化する時間が押してしまいそうだから今は忘れることにする。


「で、進化した名前は?」
【おお、よく聞くんだゾ! オイラはマグニフィセントヘヴンドッグから……】
「ドッグから……?」
【エデンオルトロスになったんだゾ! 前の形態の正当な進化先っぽいんだゾ!】


 ヘヴンときてエデンね……なんだか神聖な感じがするわ。


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