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258話 オーニキスさんのことを知るのでごさいます!
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オーニキスさんがいなくなったことは、次の日の正午前には国全体に広がっていた。お城の人たちは秘密裏に動こうとしていたけれど、兵士さんたちが慌ただしく働く様子を見て勘付いた人がいたらしい。
「すごい騒ぎだね」
「うん……」
そういえば私たちはオーニキスさんについて知らなさすぎた。知っていることといえば、国の重役であり、おじいさんの後輩であるということくらい。
どうやってその地位まで上り詰めたのだとか、魔物対策以外に普段なにをしているのかだとかは知ろうともしなかったの。
情報収集のために、宿の店主さん達に兵士さんがきたら引き止めるように頼んでからギルドへ来た私達は、お酒をチビチビ飲みながらしかめっ面をしているギルドマスターの前に立った。
「おはようございます、ギルドマスター」
「なんだ、アイリスちゃんと双子ちゃん達か。どうした?」
「今騒がれてることについてどう思います?」
「ああ、まあ、一大事だよな」
ギルドマスターはぐびりと一気に酒を飲み込んだ。そして自分のヒゲを撫で回し始める。
「結構よくつるんでただろ、あの人と。アイリスちゃん達はなにか知らないのか」
「いえ、私達も昨夜、オーニキスさんが居ないか私達の住んでる宿に探しにきた兵士さんに、あの人が突然行方不明なったと聞かされただけで、他の情報が一切ないのです」
「なるほどな」
「多分、ぼく達のお父さんもお母さんも、おじいちゃんも捜索に参加すると思うんです」
「そうなりゃ三人ともそのうち協力させられる可能性の方が高いわな」
協力することは別にいい。むしろ協力させて欲しいくらい。今日中に見つかれば必要ないのだろうけれど。
そろそろギルドマスターに訊きたかったことをきこうかしら。
「あの、ギルドマスターお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ、オーニキスさんについては俺はマジでなにも知らないぜ」
「いえ、あの人の重役としての仕事というか」
「どういうことだ?」
私はギルドマスターに、今まで一緒に仕事してきたオーニキスさんの詳細を気がつけばなにも知らなかったことを伝えた。彼は軽く頷いた。
「なるほどな。こんな時だからこそ相手をよく知ろうってのはいいことだ。気軽に質問できるあの二人もジーゼフさんも居ないから、俺のところに来たんだな」
「うん、ギルドマスターさんなら知ってると思って」
「ま、この仕事をして長いし、オーニキスさんは冒険者と割と密接な仕事を担当しているからもちろん知ってるぜ。いいぜ、教えてやるよ」
ギルドマスターはお酒を机の上にあるドンと置き、オーニキスさんのことについて話し始めた。
まず、オーニキスさんとギルドマスターの年齢は近い。まあ、それはなんとなくわかる。オーニキスさんは今から二十五年ほど前に、城へ城内の図書館司書として普通に雇われたらしい。
そしてオーニキスさんはものすごく魔物の知識が豊富だった。その豊富さはおじいさんと専門的な話をしてついて行けるほど。ある日、かなり高ランクの魔物が暴れまわった時、留守だったおじいさんの代わりに剣士部隊の知識役としてオーニキスさんが臨時で参加し功績をあげ、それが認められて昇進したらしい。それからはその知識と仕事っぷり順調にエリートコースを進んだようだ。
オーニキスさんの仕事は基本的に魔物対策。城や国に大きな打撃を与えうる魔物を分析し、それに見合った冒険者や兵士をあてがう仕事。その割には森の中に魔物部隊じゃなくて剣士部隊を送っちゃうようなミスしてるけど……でもミスくらいなら誰でもあるかしら?
あとは国の宰相の一人として政治に口を出す。彼のおかげで城下町内に設置されたギルドの数は五割り増しになり、武器や防具もいいものが流通するようになったのだとか。
そのほかにもあの人がしたことをいろいろ教えてもらったけれど、流石にあの重役についてるだけのことはある功績ばかりだった。両親が騎士団長だとはいえ、一介の冒険者に過ぎない私達への対応も良かったし本当に有能な人だったのね。
「ありがとうございます。仕事を一緒にしてきた仲なのに、ここまで知識不足だったとは……」
「普通は城の中の仕事なんて注目されないからな。仕方ないさ」
「でも、そんな重要なことしてた人が行方不明になるなんて……もし、最悪なことになってたらこれからどうするんだろ」
「そりゃあ、お前らのおじいさんが兼任するだろうよ。または母親か」
そうなると考えた方が妥当よね、やっぱり。うーん、なんにせよ早く見つかってくれるのが一番よね。どこに行ったのかしら。私達じゃ心当たりなんてどこもない。仕事仲間であるおじいさん達なら把握してるのだろうけど。つくづくこの件に関しては介入する余地がないんじゃないかと思っちゃうわ。
【あ、そういえば一つ思い出したことがあるんだゾ】
「お、チビちゃん、お前がかなり優秀なのは知ってるぜ。どうしたよ」
【あの人、亀の料理が大好物だって言ってたゾ。そういう話、聞いたことがあるかゾ?】
「亀料理!? んなこと、初耳なんだがな」
【でも確かに言ってたよね? オイラらあの人から亀のニオイがしたんだゾ】
「ええ、言ってましたね」
この世界の亀料理は精力増強目的としてよく食べられる。……精力がついて、そのあとやることといえば決まってるのだけれど。もしガーベラさんと結婚して子供が欲しいとなったら亀料理の頻度を増やしたりなんかして。
まってアイリス、何考えてるの? 今考えるべきなのはそこじゃないわよ。
「ぼく達、亀の料理なんて食べたことないけど美味しいのかな?」
「今度料理屋さんに行ってみようか。専門料理やさんがいいと思うよ」
「まて、それはいけない」
「「どうして?」」
「いけないからいけないんだ。亀専門の料理屋は大抵、大人の男しか入れないようなところにある」
いかがわしいお店は密集してるらしい。
オーニキスさん、ああ見えて案外そういう欲望が強いのかしら……? どうなんだろう。さっきの話では独身らしいし、お金持ちで国の重役だし、そういう趣味があるのはおかしくはないと思うんだけど。
「もしかしたらそこにいるんじゃない?」
「ぼく達じゃ入れないってことだよね? ……独自に調査するとしたら、ガーベラさんにお願い……」
「絶対ダメです!!」
「え、あ、そうなの? アイリスちゃんがそういうならわかったよ」
「ガハハハ、浮気になるからな」
ふーっ。そんなお店に行くくらいなら、行くくらいなら……私は何もしてあげられないから止める資格もないわね。ガーベラさんがいかがわしいお店に行くような趣味じゃないことを願うか、私がもっと積極的になるかしなきゃ。
「うーん、どうしようか」
「もし亀料理が好きで、風俗店も好きだって知られてんなら城のやつらがそこらも探すだろうし、気にする必要ないぜ」
「うん! それもそうですね」
「それにぶっちゃけ、俺はあの人のおもて面しか知らねーが、真面目だからいかがわしいこともしてないと思うぜ」
ああ、なんだかホッとした。でもこれでオーニキスさんのことはかなり知れたかしら。どこに行ったのか検討はつかないままだけれどね。
でもよくよく考えて、お父さんのスピードとお母さん、もといベスさんの嗅覚、おじいさんの探索能力を駆使して見つけられないなんてことあるのかな。お城には他にも優秀な人材はいるだろうし、それも加味するとちょっとあり得ないな。
「あ、今日は仕事してくのか?」
「いえ、騒ぎが収まるまでいつ呼び出させるかわからないのでおとなしくしていますよ」
「そうか。ガーベラは待たないのか? そろそろ来ると思うが」
「夜にまた会うので、今はいいです」
「そうか」
ギルドマスターに御礼をいってから私達は宿へと戻った。
#####
次の投稿は10/8です!
本日は2話投稿しました!
書籍化したばっかりに投稿頻度が減少して本当に申し訳ありません。しかしその分作業に費やしたので、よかったらLevelmakerをよろしくお願いしますね。
「すごい騒ぎだね」
「うん……」
そういえば私たちはオーニキスさんについて知らなさすぎた。知っていることといえば、国の重役であり、おじいさんの後輩であるということくらい。
どうやってその地位まで上り詰めたのだとか、魔物対策以外に普段なにをしているのかだとかは知ろうともしなかったの。
情報収集のために、宿の店主さん達に兵士さんがきたら引き止めるように頼んでからギルドへ来た私達は、お酒をチビチビ飲みながらしかめっ面をしているギルドマスターの前に立った。
「おはようございます、ギルドマスター」
「なんだ、アイリスちゃんと双子ちゃん達か。どうした?」
「今騒がれてることについてどう思います?」
「ああ、まあ、一大事だよな」
ギルドマスターはぐびりと一気に酒を飲み込んだ。そして自分のヒゲを撫で回し始める。
「結構よくつるんでただろ、あの人と。アイリスちゃん達はなにか知らないのか」
「いえ、私達も昨夜、オーニキスさんが居ないか私達の住んでる宿に探しにきた兵士さんに、あの人が突然行方不明なったと聞かされただけで、他の情報が一切ないのです」
「なるほどな」
「多分、ぼく達のお父さんもお母さんも、おじいちゃんも捜索に参加すると思うんです」
「そうなりゃ三人ともそのうち協力させられる可能性の方が高いわな」
協力することは別にいい。むしろ協力させて欲しいくらい。今日中に見つかれば必要ないのだろうけれど。
そろそろギルドマスターに訊きたかったことをきこうかしら。
「あの、ギルドマスターお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ、オーニキスさんについては俺はマジでなにも知らないぜ」
「いえ、あの人の重役としての仕事というか」
「どういうことだ?」
私はギルドマスターに、今まで一緒に仕事してきたオーニキスさんの詳細を気がつけばなにも知らなかったことを伝えた。彼は軽く頷いた。
「なるほどな。こんな時だからこそ相手をよく知ろうってのはいいことだ。気軽に質問できるあの二人もジーゼフさんも居ないから、俺のところに来たんだな」
「うん、ギルドマスターさんなら知ってると思って」
「ま、この仕事をして長いし、オーニキスさんは冒険者と割と密接な仕事を担当しているからもちろん知ってるぜ。いいぜ、教えてやるよ」
ギルドマスターはお酒を机の上にあるドンと置き、オーニキスさんのことについて話し始めた。
まず、オーニキスさんとギルドマスターの年齢は近い。まあ、それはなんとなくわかる。オーニキスさんは今から二十五年ほど前に、城へ城内の図書館司書として普通に雇われたらしい。
そしてオーニキスさんはものすごく魔物の知識が豊富だった。その豊富さはおじいさんと専門的な話をしてついて行けるほど。ある日、かなり高ランクの魔物が暴れまわった時、留守だったおじいさんの代わりに剣士部隊の知識役としてオーニキスさんが臨時で参加し功績をあげ、それが認められて昇進したらしい。それからはその知識と仕事っぷり順調にエリートコースを進んだようだ。
オーニキスさんの仕事は基本的に魔物対策。城や国に大きな打撃を与えうる魔物を分析し、それに見合った冒険者や兵士をあてがう仕事。その割には森の中に魔物部隊じゃなくて剣士部隊を送っちゃうようなミスしてるけど……でもミスくらいなら誰でもあるかしら?
あとは国の宰相の一人として政治に口を出す。彼のおかげで城下町内に設置されたギルドの数は五割り増しになり、武器や防具もいいものが流通するようになったのだとか。
そのほかにもあの人がしたことをいろいろ教えてもらったけれど、流石にあの重役についてるだけのことはある功績ばかりだった。両親が騎士団長だとはいえ、一介の冒険者に過ぎない私達への対応も良かったし本当に有能な人だったのね。
「ありがとうございます。仕事を一緒にしてきた仲なのに、ここまで知識不足だったとは……」
「普通は城の中の仕事なんて注目されないからな。仕方ないさ」
「でも、そんな重要なことしてた人が行方不明になるなんて……もし、最悪なことになってたらこれからどうするんだろ」
「そりゃあ、お前らのおじいさんが兼任するだろうよ。または母親か」
そうなると考えた方が妥当よね、やっぱり。うーん、なんにせよ早く見つかってくれるのが一番よね。どこに行ったのかしら。私達じゃ心当たりなんてどこもない。仕事仲間であるおじいさん達なら把握してるのだろうけど。つくづくこの件に関しては介入する余地がないんじゃないかと思っちゃうわ。
【あ、そういえば一つ思い出したことがあるんだゾ】
「お、チビちゃん、お前がかなり優秀なのは知ってるぜ。どうしたよ」
【あの人、亀の料理が大好物だって言ってたゾ。そういう話、聞いたことがあるかゾ?】
「亀料理!? んなこと、初耳なんだがな」
【でも確かに言ってたよね? オイラらあの人から亀のニオイがしたんだゾ】
「ええ、言ってましたね」
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まってアイリス、何考えてるの? 今考えるべきなのはそこじゃないわよ。
「ぼく達、亀の料理なんて食べたことないけど美味しいのかな?」
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「まて、それはいけない」
「「どうして?」」
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「ぼく達じゃ入れないってことだよね? ……独自に調査するとしたら、ガーベラさんにお願い……」
「絶対ダメです!!」
「え、あ、そうなの? アイリスちゃんがそういうならわかったよ」
「ガハハハ、浮気になるからな」
ふーっ。そんなお店に行くくらいなら、行くくらいなら……私は何もしてあげられないから止める資格もないわね。ガーベラさんがいかがわしいお店に行くような趣味じゃないことを願うか、私がもっと積極的になるかしなきゃ。
「うーん、どうしようか」
「もし亀料理が好きで、風俗店も好きだって知られてんなら城のやつらがそこらも探すだろうし、気にする必要ないぜ」
「うん! それもそうですね」
「それにぶっちゃけ、俺はあの人のおもて面しか知らねーが、真面目だからいかがわしいこともしてないと思うぜ」
ああ、なんだかホッとした。でもこれでオーニキスさんのことはかなり知れたかしら。どこに行ったのか検討はつかないままだけれどね。
でもよくよく考えて、お父さんのスピードとお母さん、もといベスさんの嗅覚、おじいさんの探索能力を駆使して見つけられないなんてことあるのかな。お城には他にも優秀な人材はいるだろうし、それも加味するとちょっとあり得ないな。
「あ、今日は仕事してくのか?」
「いえ、騒ぎが収まるまでいつ呼び出させるかわからないのでおとなしくしていますよ」
「そうか。ガーベラは待たないのか? そろそろ来ると思うが」
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